狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
207 / 528
5章 東の地

第206話 押し付け合い

しおりを挟む


案内された部屋で休んでいると扉がノックされる。
俺が誰何するとカザン君が返事をしてきた。
どうやらお爺さん達との話し合いが終わったみたいだね。
俺が部屋に招き入れるとカザン君が真剣な面持ちで告げてくる。

「お待たせしましてすみません、ケイさん。お爺様とエルファン卿の話し合いが終わりました。それで、今後の事ををお話ししたいのですが、今よろしいでしょうか?」

「うん、大丈夫......というか来てくれて助かったよ。」

「助かった......?何か問題でもありましたか?」

「うん、実はね。ノーラちゃんが玄関ホールで紹介してくれた時の件で、お母さんが後ほど話を聞かせて欲しいって言っていたから......いつ来るかひやひやしてたんだ。」

「......なるほど、そうでした。では私はレギさん達に声を掛けてきますので、ケイさんはここを絶対に動かないでください。」

「ちょっと、待とうか?カザン君?」

踵を返して部屋を出て行こうとするカザン君の肩を掴んで動きを止める。

「け、ケイさん!離してください!ここは危険地帯です!私の手には負えません!」

「そんな危険地帯に俺を一人で放置するのはこれから領主を目指すものとしてどうなのかな!?」

「領主だって人です!出来ることと出来ないことがあるんです!これは出来ないことに分類されます!」

「寧ろカザン君が説明するべきだよね!?口にしたノーラちゃんは妹さんで、問い詰めてくるレーアさんはお母さんでしょ!?」

「こういう問題はさっきも言ったように、第三者からやんわりと逸らして伝えてもらった方がいいじゃないですか!」

「いや、言ってはないよね!?」

目で伝えてきたけど......ってか、かなり正確に伝わっていたみたいだ。

「でも伝わっていたじゃないですか!お願いしますよ!」

「俺には荷が重すぎる......やはり家族間でじっくりと話し合うべきじゃないかな?」

俺がそう言うとカザン君が苦虫を嚙み潰したような顔になる。
まぁ、お母さんに女装してセンザの街に潜入しましたとは言いにくい......よね?

「......しかし......。」

「それに......ネネアさんはカルナさんに会っているんだから、遅かれ早かれバレると思うよ?」

俺がそういうとカザン君が膝をつく。

「そう言えば、口止めも何もしていない......。」

「事情を話してちゃんとカザン君の口から言う方が、お母さんとしてもいいんじゃないかな?」

カザン君がショックを受けている間に畳み掛けてしまおう。

「それも早い方がいいと思うな。うっかりとノーラちゃんが口を滑らしそうだしね。」

「た......確かに。私から言う方が余計な誤解を生まないですね......。」

「うん。そもそも、手配書が出回っているから安全の為に普段とはかけ離れた格好をしていただけなんだ。別にカザン君の趣味ってわけじゃない。どちらかと言えば、うちの女性陣の悪ノリって感じなんだから、カザン君に悪い点はないよ。」

だからお母さんにはカザン君からしっかり説明しておいてください。

「そ......そうですよね?仕方のないことでしたし......あの時はあれが最適な行動だったはずです。」

......他の変装でも良かったのではないかと思うけど......まぁ、そういう風に自分を納得させておいてもらった方がいいね。
若干現実逃避を始めたカザン君をさらに乗せるべく口を開こうとした瞬間、扉がノックされた。

「はい?どちら様でしょうか?」

「お休み中の所申し訳ありません、ケイ様。レーアです。今よろしいでしょうか?」

「「......。」」

しまった!
お母さんが来てしまった!
カザン君はそれなりに前向きになり始めてはくれたが......まだ少し早い......というかここで話をするのはやめて頂きたい!

「......はい、どうしましたか?今、開けますね。」

俺がドアを開けると優しい微笑みを湛えたレーアさんが扉の前に立っていた。

「申し訳ありません、ケイ様。実は、先ほどの......あら?カザン貴方も来ていたのですね。」

「はい、母様。皆さんをお呼びしている最中でして......。」

「そうだったのね。ではケイさんも......?」

「はい、これからお爺様と話をしていただくつもりですので。」

「......それでは仕方ありませんね。ケイ様、カザン、後ほどお話しを聞かせてもらえますか?この家を離れてからどうしていたのかを。」

「承知いたしました。お爺様との話は少し長引くかもしれないので......明日になるかもしれませんが。」

「えぇ、大丈夫ですよ。それはまでは......ノーラと話でもしていることにします。」

「「......。」」

それは色々と拙い気がする......。

「では私はノーラの所に行こうと思います。カザンも皆様をお爺様の所にご案内しなければならないのでしょう?」

「は、はい。」

「ケイ様、お疲れだとは思いますが何卒宜しくお願い致します。それでは、失礼します。」

そう言ってレーアさんは部屋から出て行く。
残された俺達の間に静寂が広がる......。

「......いや、それはまずくない?」

「非常にまずいですね......しかし、ノーラには母と一緒にいてもらいたいのも事実......。」

「......ナレアさん達に一緒にいてもらうのはどうかな?お爺さん......セラン卿との話は俺とレギさんが行けば大丈夫じゃないかな?」

......まぁ俺よりもナレアさんとかリィリさんが行った方がいいかもしれないけど......ノーラちゃんとレーアさんの傍にいるなら女性である二人の方がいいだろう。
というか俺が行くのは藪蛇だ。

「そうですね......その方がノーラも喜ぶと思いますし、ノーラが色々と口を滑らしそうになっても上手く誘導してくれそうですね。」

「うん、でも......問題はあるんだ。」

「問題ですか......?」

「俺と......カザン君には深刻な問題だよ......。」

「それは一体......?」

「あの二人は......間違いなく悪ノリする。」

「......。」

「その結果は......うん、悲惨な結果にはならないだろうけど......酷い目には合うだろうね......。」

見える......俺とカザン君が冷や汗をだらだらと流す向こうで、にやにやとこちらを見ている悪魔が二人......。

「それ......根本的に解決しないじゃないですか!?」

「そうかもしれないけど......調整はしてくれるはずだから......取り返しのつかない事態にはならないはずだよ......。」

即死は避けてられるはずだ......致命傷ぎりぎりくらいまでは追い込まれるかもしれないけど......ノーラちゃん一人だと即死させられる可能性があるからね......。

「わ......わかりました。ナレアさんとリィリさんにノーラの事をお願いしてきます。お爺様の所に向かうのはレギさんとケイさんにお願いしたいと思います。」

「了解、じゃぁ俺はレギさんの所に行って話を通しておくよ。ナレアさん達に話をしたら迎えに来てくれるかな?」

「承知しました。それではまた後程。」

カザン君と別れてレギさんの部屋へと向かう。
と言ってもレギさんの部屋は俺の隣なので向かうと言うほどの距離でもないのだけど。
俺は扉の前に立ちノックをすると、すぐにレギさんから返事があった。

「ケイです。レギさん今大丈夫ですか?」

「あぁ、入ってくれ。」

レギさんの招きに応じて俺は扉を開けて部屋に入る。
俺が用意してもらった部屋と寸分の違いもない部屋は、客間としては立派過ぎると思うのだけど......貴族の屋敷と言うのはこういう物なのだろうか?

「レギさん。今カザン君が来まして、お爺さんとの話が終わったそうです。」

「そうか。」

「次は僕達と話がしたいそうなので、後でカザン君が迎えに来ます。」

「了解だ。今後どうなるかは......セラン卿次第って感じか?」

レギさんは少し思案するように顎に手を添える。

「僕としてはカザン君の力になってあげるつもりですが......。」

「そうだな、俺も中途半端な感じにはしたくないと思っているが......関われるかどうかは、わからんな。」

一応エルファン卿と話をする前は俺達の事を頼りにしているって話はしてくれていたけど、当初俺達が考えていたものとは状況が結構違う。
カザン君の味方になる人が結構いる......というか組織だっている感じなので俺達の助けは必要ないかもしれない。
そのこと自体は喜ばしいことだけど、この先俺達がどう動くかは、セラン卿と......カザン君次第って感じかな。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...