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5章 東の地

第201話 エルファン卿との会合

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ネランさんを乗せた馬車が近づいてくる。
今俺達がいるのはセンザの街まで馬車で半日と言った距離の......特に特徴のない街道脇だ。
ネランさんに渡した手紙にはこの辺りの位置で会いたいと言うことを伝えてある。
今回の相手には礼を失することは出来ないので、カザン君が応対することになっているし、勿論女装はしていない。
マナスによって仕掛けられた魔道具のお陰で魔道具によって監視している人がいないことは確認出来ているし、シャルやグルフの警戒網に引っかかるような相手も今のところは皆無だ。

「あの馬車ですか?」

「うん、あの馬車だね。向こうのマナスが馬車の上で弾んでいるし。」

馬車の上で跳ねているマナスと俺の肩の上でぷるぷるしているマナス。
どちらも同じマナスだと思うけど別口で褒めてあげた方がいいのだろうか?
非常に悩ましいな。
まぁ、悩むくらいなら二人とも褒めてあげればいいか。
とりあえず俺達は近づいてくる馬車には気のない振りをして会話を続ける。
目印となる赤い布と青い布をテントに括り付けているので向こうから声を掛けてくるはずだ。
こっちとしてはマナスが自己主張しているので近づいてくる馬車が目当ての馬車であることは分かっているのだが、向こうはそんなこと知らないからね。
因みにカザン君はテントの中から話しているので外からは俺とレギさんの二人でテントを張っているように見えているはずだ。

「すみません、少し道を聞きたいのですが......。」

そう言いながら御者の方が御者台から降りて近づいてくる。
若干身構えているようだ......腰に差している剣を意識している感じだね。

「どこに向かうのですか?」

この会話は本人確認の暗号のようなものだ。
俺の質問に御者の方が立ち止まり応じる。

「センザに向かう所なのですが、この道は初めてで......確かここから二日程だと聞いているのですが......。」

「センザまで二日?それは誰に教えてもらったか知らないが、かなり適当に見積もっているぞ。」

レギさんがそう言うと、御者が一礼してかぶっていた帽子を脱ぐ。

「貴方達が使いの者ですね。どのようにして馬車の中に手紙を置いたのか等聞きたいことはいくつかあるのですが......お二人ともご無事なのですか?」

「えぇ、私も妹も無事ですよ。エルファン卿。」

カザン君がテントから出てきて御者の方......どうやらこの人がネランさん......に声を掛ける。

「よくぞご無事で!」

ネランさん......いやエルファン卿って呼んだ方が良さそうだな......エルファン卿が感極まったといった声を出しながら片膝をつく。
領主の息子って言うのはここまで傅かれるような立場なのか......。
かなり気軽に......レギさん達よりも気安い言葉遣いで接していたけど大丈夫かな......。

「ありがとう、エルファン卿。だが、折角段取りをして秘密裏に会う手はずを整えたのに、そのようにされては色々台無しじゃないか?」

傅かれているカザン君が苦笑している。

「はっ!申し訳ありません!」

慌てて立ち上がるネルファン卿。

「この辺りは我々の手の者が監視しているから問題ないと思うがな。」

そう言って悪戯に成功したように笑うカザン君。
思っていた以上に気安い関係なのだろうか?

「カザン様、どのようにしてそのような人をお集めになられたのですか?」

「ははっ、ただの偶然......本当にあり得ない程の幸運に見舞われただけだ。」

何故か苦笑するように笑いながらカザン君が言う。

「偶然......幸運ですか?」

「この方々......レギ殿にケイ殿、そして今妹を守ってくれているリィリ殿にナレア殿と出会えたという幸運だ。」

「こちらの方々は......?傭兵......でしょうか?」

「いや、傭兵ではない。龍王国より西よりやってきた冒険者だ。」

「西の......冒険者ですか。話には聞いたことがありましたが、お会いするのは初めてです。確かダンジョンの攻略を主な仕事にしている方々だと......。」

仕事の一つではあるけど、それを主とはしてないかな?
あまり正確に西の情報は収集出来ているわけではなさそうだね。

「ケイ殿達に私と妹は命を救われたのだ。あのままであれば間違いなく命を落としていた。」

カザン君が神妙な顔をしながら言う。

「一体何があったのですか?」

「兵士に見つかって追われてな。」

「グラニダの兵......内乱を起こした軍でしょうか?」

「いや、反乱を起こした軍とは別......懸賞金目当てだと言っていたな。」

「懸賞金というと......あの手配書の......?あれは確か生け捕りが条件だったかと......。」

「そうらしいが......ちゃんと手配書の内容を見ていなかったようでな、首だけを取るつもりだったようだ。」

「グラニダの兵がそのようなことを?」

「本人たちはグラニダの......センザ駐在の兵を名乗っていたが......巡回兵とも言っていたな。」

「領都外の兵の質がそこまで落ちているとは......。」

エルファン卿が頭を抱えている。
手配書の内容を理解していなかったことを嘆いているのか、仕えるべき相手を殺してまでお金を得ようとし事を嘆いているのか......両方かな?
領都に所属する兵の練度やモラルは非常に高いものがあるみたいだけど、地方に駐在している軍はそこまででもないのだろうか?

「地方軍の中には反乱に加わった軍もあったそうだからな。父が直接指揮を執っていた領都軍とは違うのだろうな。」

「近年は戦もありませんでしたから......規律が緩んでいたのでしょうか。」

......規律が緩んでいるくらいで軍が反乱を起こすものだろうか?
反乱に参加って......相当リスクが高いと思う。
軍人は命令に従うものって聞くけど......上の人間が反乱に加わると判断したら付き従うものなのかな......?
というか上官命令が絶対だとしたら規律は緩んでいないってことになる......のか?

「まぁ、その件も話し合う必要はあると思うが......まずは領都の状況を教えてくれないか?」

「そうですね、申し訳ありません。ですが......。」

そう言ってエルファン卿は俺達の方に視線を向ける。
それを見たカザン君が首を横に振る。

「まだ短い付き合いではあるが、私は彼らに全幅の信頼を置いている。そうでなければ妹を預けたりはしない。私と同じようにエルファン卿も彼らの事を信頼しろとは言わないが、情報共有だけは許してほしい。」

「......そうでしたか......申し訳ありません。出来る限りお二方にもお話しさせていただきたいと思います。」

「ありがとう、エルファン卿。まず、領都にて粛清が行われていると言うのは本当だろうか?」

「そう、ですね。確かに少なくない数の者が罷免されています。粛清と言えなくはないですね。」

「不正な証拠で取り締まっているとも聞いているが。」

「......不正な証拠......と言うのは確かにそうですね。ですがそれが無罪であると言うことではありません。」

なるほど......元々何か不正をしていたが証拠が足りないなどの理由があって裁けなかった者たちを強引に......ってことかな?

「それをアザル兵士長がやっていると?」

「いえ、アザル兵士長ではありません。彼は確かに権力を持っているように見えますが......実権はコルキス卿が握っています。」

「コルキス卿が?彼は父に対する反対勢力の筆頭だったと......。」

「はい。それが彼の仕事です。まぁ周りも誤解していたと思いますね。カラリト様のすることを全て否定しておりましたから。」

「あぁ、だから私も父とコルキス卿は仲が悪いと思っていたのだが......。」

カラリト様ってカザン君のお父さんの名前か。
そういえばご両親の名前を聞いていなかったな......今度聞いておこう。
俺が名前に気を取られている間にも二人の会話は進む。

「そんなことはありません。その役割から領主代行となることは出来ませんでしたが、恐らくカラリト様の信任が一番厚い人物はコルキス卿だと思います。」

「そうだったのか......。」

カザン君が驚いたような感心したような表情で呟く。
反対勢力の筆頭が最大の味方か......カザン君のお父さんはなかなか厭らしい手も使えるみたいだね......。
いや、これが清濁併せ吞むってのことなのかな?

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