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5章 東の地
第187話 ノーラの想い
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グルフの背に乗ってはしゃいでいるノーラはとても楽しそうじゃ。
両親を亡くし、兄と共に命を狙われたばかりとは思えぬが......決して気にしていないというわけではなく、兄の為にも元気にしておる感じはするのう。
まぁ無理をして明るく振舞っているわけでは無いところが凄い所じゃがのう。
「グルフさん!跳んでください!」
ノーラの頼みを聞いてグルフが大きく跳ねる。
あやつも結構付き合いがいいのう。
普段は一番下っ端と言うか......シャルに厳しく指導されておるからのう。
守らなければならない存在というのはグルフにとっては珍しいのじゃろうか......?
何故か下っ端的な扱いじゃが......本人は相当強いはずじゃがのう......魔法が使えなかったら、間違いなく妾では勝てないじゃろうしな。
まぁ、穏やかというか気のいいやつなのは間違いないのう。
そんなことを考えていたら跳ねたグルフの背からノーラが跳び上がり空中に飛び出した。
ぎょっとした様子を見せたグルフが慌ててノーラの落下地点に滑り込み優しく受け止め、さらに肩に乗っていたマナスがしっかりと支える。
グルフは余程慌てたのか、蹴った地面が少し抉れておるな。
「こーらノーラちゃん!危ないことしたらダメだよ!」
「ごめんなさい、リィリ姉様、グルフさん、マナスさん。」
リィリは親戚のお姉さんって感じでノーラを叱っておるな。
まぁ気持ちはよく分かるのじゃ。
今まで色々な呼び方をされてきたが、姉と呼ばれたのは妾も初めてじゃ。
リィリも今まで妹分ということだったので初めてなのじゃろうな......嬉しさが滲み出ておるのじゃ。
それにしても......先ほど薪拾いから帰ってきたケイ達は......なにやら真面目な話をしておるようじゃな。
妾がケイ達の方をみるとカザンが真剣な表情でケイの話を聞いておる。
レギ殿ではなくケイが話をしておるのか......。
なんとなくじゃが、ケイはケイでカザンの事を弟分のように感じておるのかも知れぬのう。
言葉遣いも妾達に対するものとは違い、最初から砕けているような感じであったしのう。
というか、あやつはなんで未だに妾達に向かって敬語で喋るのじゃ?
妾ですら数か月、レギ殿に至っては一年ほどの付き合いになるのではないのかの?
いい加減遠慮せずとも良いと思うのじゃが......いや、世話になっているという思いからの礼儀ということかの?
ケイが砕けた喋り方をするのは......カザン達と......シャル達か。
......シャル達にだって十分世話になっていると思うが......何が違うのじゃろうな?
人だから、眷属だからと分けて考えるような奴ではないと思うのじゃが......。
なんとなく気に食わないのう......今度リィリを巻き込んでケイに改めさせるかの?
しかしそれはそれでなにやらもやっとするのじゃ。
もう少しあやつ自身から距離を詰めて来てもいいじゃろうに......。
そんなことを考えていると、リィリとノーラが手を繋ぎながらこちらに向かってきていた。
「もういいのかの?」
「はい!とても楽しかったです。グルフさんは大きくて速くてとても凄いです!」
「それは良かったのじゃ。グルフもその体の大きさ故、妾達が街に行ってしまうと一人で留守番じゃからな。存分に楽しんだことじゃろう。」
妾がグルフの方を見ると嬉しそうに尻尾を振っていた。
「そうだったのですね。これから皆さんが街に行くときは私がグルフさんと一緒にいますよ!」
「ふむ、それもいいかもしれぬのう。」
ノーラやカザンは手配書が回っておるらしいからのう。
どのくらいの範囲に手配書が回っているかは定かではないが、少なくともグラニダの領内には手が回っておるじゃろう。
ならば端から人里には連れて行かず、グルフの傍に置いておく方が確実に安全を確保出来るじゃろうな。
「兄様は......随分と真剣にお話をされているようです。」
「......そうじゃな。」
ノーラがケイ達の方を見ながら呟く。
カザンはなかなか苦しそうじゃな。
ファラからどんな話を聞いたかはなんとなく想像は出来るが......。
「兄様は私を置いてグラニダに帰るつもりでしょうか?」
「......かもしれぬのう。」
「......あぁ、それでケイ君が。」
ケイはあまり人の事情に首を突っ込んでいく人間ではないが......今回は全力で首を突っ込んでいくつもりのようじゃな。
軽く笑みを湛えたまま何やらカザンに諭しているように見える。
「兄様は父様と母様の守りたかったものを、一つ忘れてしまっているのだと思います。」
「ノーラはちゃんと全て覚えておるのじゃな。」
「当然です!兄様は真面目で、責任感が強いからこそ自分の事を忘れている......いえ、見えていないのです!」
ノーラが拳を振り上げるようにして言う。
カザンよ、妹にも完璧に見透かされている様じゃぞ......。
「ノーラはこれからどうしたいのじゃ?」
「私は、兄様を守りたいです。勿論、父様が慈しんできた領民の事も気になりますが......でもそれは二番目以降です。」
「「......。」」
妾達が考えていた以上にノーラはしっかりした娘の様じゃ。
強い娘だとは思っていたがこれほどまでとは......。
「父様から聞いたことがあります。為政者は民の為に一番大事なものを捨てる決断をしないといけない時が必ずあると......だからそうなる前に父様は私達を逃がしました。兄様が為政者としての父様の意志を継ごうというのであれば、私は家族としての父様の意志を継ぎたいのです!」
「見事な気迫じゃノーラ。お主の想い、妾達が力になろう。」
「うん、私達がノーラちゃんの一番を守ってみせるよ。」
「ありがとうございます!ナレア姉様、リィリ姉様!」
嬉しそうに微笑みながらお礼を言うノーラは年相応の天真爛漫な感じだが、その奥に感じられる意志の強さはとても子供の物とは思えないのう。
一つは自分を犠牲にしてでも意志を貫こうとする強さ。
一つは意志を貫くために全てを犠牲にする強さ。
最終的にたどり着くのは同じ場所、同じ結果かもしれないがのう......。
「いざとなったら兄様を張り倒してでも守るつもりですので、よろしくお願いします!」
中々過激で妾達好みのやり方じゃな。
「うむ、任せるがよい。なんなら足の一本や二本折っておくかの?」
「それは凄いですナレア姉様!足が両方折れていたらその間は大人しくしているでしょうし、お世話をしている間は安全ですね!」
......いや、先に過激なことを言ったのは妾じゃが......何かちょっと危険な感じがしたのう。
まぁ......気のせいじゃな。
ノーラもこんなに明るく笑っておるしのう。
リィリもカラカラと笑っておる。
「でも、多分だけど......カザン君の足は折らなくても大丈夫じゃないかな?」
リィリがケイ達の方を見ながらのんびりと言う。
「え?」
リィリの言葉を聞きキョトンした表情を見せたノーラが、ケイ達の方をみて一気に破顔する。
妾達の視線の先で晴れ晴れとした表情で笑うカザンと、どこかやってやった感を滲ませるケイが握手をしていた。
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