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5章 東の地
第182話 カザンの尋問
しおりを挟む昨晩、俺とレギさんはノーラちゃんに中々自己紹介が出来なかったのだが......レギさんが温めたシチューをノーラちゃんに渡したこ所でようやく二人の妹萌えが落ち着いた。
食事をしながら自己紹介をして......ケイ兄様と呼ばれた時、少しだけ......ほんの少しだけ二人の気持ちが分かった気もするが......大丈夫、二人のように暴走したりはしていない。
シチューを食べた後はお風呂に入り......いや、魔法を見せない様に自重するとは言ったもののそこは我慢できなかった......まぁ、西方の魔道具ですと言い張ったが。
二人はお風呂に随分と驚いていた......まぁ水辺も近くにないのにあれだけ大量の湯を用意したのだから無理もないとは思うけど......。
レギさんはともかく、ナレアさんやリィリさんもお風呂に入りたそうにしていたしね。
その後は夜の見張りをしながら休んだ交代で休んだ。
そして今、朝食を終えた俺たちはカザン君達にグルフの事を紹介していた。
怯えさせない様にかなり遠くからゆっくりと近づかせて、ある程度近くに来た時点でリィリさんがグルフの背中に乗って一緒に無害アピールをしてくれた。
そのおかげかノーラちゃんは怯えることなくグルフへと近づき、カザン君も緊張した面持ちではあったがグルフの事を受け入れてくれたようだった。
「す、凄いです!グルフさん凄いです!」
リィリさんとノーラちゃんを背中に乗せたグルフが少し離れた場所で走っている。
ノーラちゃんは大興奮だ。
「そういえば、レギさん、ナレアさん。すっかり忘れていましたけど、一晩転がしっぱなしにした追手はどうしますか?」
「あー、そうだな......解放するのもまずいが......。」
「追手と言うと私達を追ってきた者達ですか?生きているのでしょうか?」
「えぇ。全員生け捕りにしました。ですが昨日から拘束して転がしっぱなしなので......。」
身動きが殆ど出来ない状態で一晩放置って......相当な拷問じゃないかな......?
水もあげた覚えがないし......。
「そろそろ水くらいやらんといかんかのう。」
ナレアさんが水袋を用意しながら言う。
「私もその者たちの所に行ってもいいでしょうか?」
「あー、そりゃ構わねぇが......大丈夫か?」
レギさんが少し困ったように頭を掻きながらカザン君に問いかける。
「はい、話が聞きたいだけですので。命令を受けただけの兵に復讐しようなどとは考えません。」
「......そうか。じゃぁ水を持って行くか。ナレアはここであいつらを見ててくれ、何かあったら呼ぶからその時は頼む。」
「任されたのじゃ。そちらも気をつけてな。」
「あぁ。」
レギさんとナレアさんがお互いに頷き合う。
俺はナレアさんから受け取った水袋を片手にカザン君に声を掛ける。
「じゃぁ、いこうか。と言ってもすぐそこだけどね?手足を拘束してその辺に転がしているんだ。」
「......それは......大丈夫なのですか?」
「逃げたりは出来ないと思うよ。」
岩を使って作った手枷と足枷だ、いくら魔力が使えるこの世界の人でも早々簡単には壊せないだろう。
というか相当重いし......体起こすことも出来ていなかったもんな。
「あー聞きたかったのはそっちではなかったのですが......。」
追手の身体の事とか心配したのかな?
元とは言え自分の家の兵士だからだろうか?
「......すっかり忘れていたから......体調とかはどうだろうね......流石に一晩じゃ最悪の事態にはなっていないと思うけど。」
「な、なるほど......。」
何処となくカザン君に引かれてしまった気がするけど......確かにすっかり忘れていたのは不味かったと思う。
何かフォローした方がいいだろうかと考えている間に、追手を転がしておいた辺りについてしまった。
「えっと......この辺だな。あぁ、いたいた。」
草むらに転がっている兵士は......うん、全員生きてるね......よかった。
拘束して放置して死なれてたら罪悪感が半端ない......。
「み......みずを......。」
「手枷は外してあげるから自分で飲んでね。」
そう言って手を拘束している枷を一人ずつ外していく。
手枷を外された兵士は水袋をひったくるように俺から奪い水を飲んでいく......非常に申し訳なく思うが......いや、彼らはカザン君達を殺そうとしていたのだ。
もしカザン君の父親である領主が悪政を敷いて、その結果反乱が起きたのであったとしても子供を追い回して殺そうとするのは......少なくとも俺の中では無しだ。
っていうか......今ノーラちゃんを殺そうとしたら......確実に殺されるだろうな。
俺は遠くから聞こえてくるノーラちゃんとリィリさんの声を聞きながら、出会う順番が逆で良かったなと必死で水を飲んでいる兵士を見ながら思う。
「話を聞きたいのだが。」
「......。」
水を飲んで一息ついた兵士達の前に立ちカザン君が声を掛ける。
「お前たちは何処に配属されていた兵だ?」
「......。」
俺達と話していた時とは雰囲気が一変して威圧感のある立ち居振る舞いをするカザン君。
人の上に立つということを理解して実践している。
カザン君は普段はどちらかと言えば穏やかなタイプだと思うのだけど。
しかし、そんなカザン君の問いには答えず兵士は目線をそらすだけだ。
その様子を見たカザン君は腰に差していた剣を抜く。
......大丈夫だろうか?
俺とレギさんの緊張が少し高まる。
「もう一度聞く。お前たちの所属は?」
抜いた剣は構えず、しかし剣を握る手に力を籠めつつもう一度問いかける。
「......センザの守備兵だ。」
......あれ?
グラニダの兵士って言ってなかったっけ......?
......グラニダの兵士でセンザって場所の守備兵ってことか?
センザと聞いた瞬間カザン君は歯を食いしばり、剣を持つ手が震える。
「センザはどうなった?」
「......。」
再び問いかけられた兵士は目を瞑り下を向く。
「......そうか......。」
そう呟いたカザン君の剣を持つ腕がゆっくりと動き......剣を鞘に納める。
そして空を仰ぎながらゆっくりと深呼吸をしたカザン君は別の問いを発する。
「私達に懸賞金を掛けたのは誰だ?」
「......知らねぇ。領都から早馬が来て手配書が張り出されたということくらいしか。」
「グラニダがどうなっているかは分かるか?」
「知らねぇ。」
「私達を見つけたのはお前たちだけか?」
「そうだ。」
「どうやって見つけた?」
「偶々だ......巡回任務中に偶々見つけただけだ。以前お前たちの事を見たことがあったからな。」
「......。」
そこまで聞いたカザン君が振り返る。
「ありがとうございます。レギ様、ケイ様。もう大丈夫です。」
「こいつらはどうする?」
「......彼らを捕らえたのはレギ様達ですから。」
「好きにしていいのか?」
「......意見を言わせていただけるなら......解放してあげてもらえますか?」
「いいのか?」
「えぇ。これから私達はレギ様達と行動を共にさせてもらいます。まともな神経の持ち主なら......もう一度私達を狙うよりも二度と関わらないようにすると思いますね。」
カザン君は柔らかく笑いながら答える。
しかしその笑顔は少し無理をしているようにも見えた。
何か......彼らから聞いた話の中に何かがあったのだろう......。
恐らくはセンザって所の話だとは思うけど......。
もしかしたら、カザン君達のお母さん達のいる場所なのかもしれないな。
遠くからノーラちゃん達の声が聞こえてくる。
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