上 下
183 / 528
5章 東の地

第182話 カザンの尋問

しおりを挟む


昨晩、俺とレギさんはノーラちゃんに中々自己紹介が出来なかったのだが......レギさんが温めたシチューをノーラちゃんに渡したこ所でようやく二人の妹萌えが落ち着いた。
食事をしながら自己紹介をして......ケイ兄様と呼ばれた時、少しだけ......ほんの少しだけ二人の気持ちが分かった気もするが......大丈夫、二人のように暴走したりはしていない。
シチューを食べた後はお風呂に入り......いや、魔法を見せない様に自重するとは言ったもののそこは我慢できなかった......まぁ、西方の魔道具ですと言い張ったが。
二人はお風呂に随分と驚いていた......まぁ水辺も近くにないのにあれだけ大量の湯を用意したのだから無理もないとは思うけど......。
レギさんはともかく、ナレアさんやリィリさんもお風呂に入りたそうにしていたしね。
その後は夜の見張りをしながら休んだ交代で休んだ。
そして今、朝食を終えた俺たちはカザン君達にグルフの事を紹介していた。
怯えさせない様にかなり遠くからゆっくりと近づかせて、ある程度近くに来た時点でリィリさんがグルフの背中に乗って一緒に無害アピールをしてくれた。
そのおかげかノーラちゃんは怯えることなくグルフへと近づき、カザン君も緊張した面持ちではあったがグルフの事を受け入れてくれたようだった。

「す、凄いです!グルフさん凄いです!」

リィリさんとノーラちゃんを背中に乗せたグルフが少し離れた場所で走っている。
ノーラちゃんは大興奮だ。

「そういえば、レギさん、ナレアさん。すっかり忘れていましたけど、一晩転がしっぱなしにした追手はどうしますか?」

「あー、そうだな......解放するのもまずいが......。」

「追手と言うと私達を追ってきた者達ですか?生きているのでしょうか?」

「えぇ。全員生け捕りにしました。ですが昨日から拘束して転がしっぱなしなので......。」

身動きが殆ど出来ない状態で一晩放置って......相当な拷問じゃないかな......?
水もあげた覚えがないし......。

「そろそろ水くらいやらんといかんかのう。」

ナレアさんが水袋を用意しながら言う。

「私もその者たちの所に行ってもいいでしょうか?」

「あー、そりゃ構わねぇが......大丈夫か?」

レギさんが少し困ったように頭を掻きながらカザン君に問いかける。

「はい、話が聞きたいだけですので。命令を受けただけの兵に復讐しようなどとは考えません。」

「......そうか。じゃぁ水を持って行くか。ナレアはここであいつらを見ててくれ、何かあったら呼ぶからその時は頼む。」

「任されたのじゃ。そちらも気をつけてな。」

「あぁ。」

レギさんとナレアさんがお互いに頷き合う。
俺はナレアさんから受け取った水袋を片手にカザン君に声を掛ける。

「じゃぁ、いこうか。と言ってもすぐそこだけどね?手足を拘束してその辺に転がしているんだ。」

「......それは......大丈夫なのですか?」

「逃げたりは出来ないと思うよ。」

岩を使って作った手枷と足枷だ、いくら魔力が使えるこの世界の人でも早々簡単には壊せないだろう。
というか相当重いし......体起こすことも出来ていなかったもんな。

「あー聞きたかったのはそっちではなかったのですが......。」

追手の身体の事とか心配したのかな?
元とは言え自分の家の兵士だからだろうか?

「......すっかり忘れていたから......体調とかはどうだろうね......流石に一晩じゃ最悪の事態にはなっていないと思うけど。」

「な、なるほど......。」

何処となくカザン君に引かれてしまった気がするけど......確かにすっかり忘れていたのは不味かったと思う。
何かフォローした方がいいだろうかと考えている間に、追手を転がしておいた辺りについてしまった。

「えっと......この辺だな。あぁ、いたいた。」

草むらに転がっている兵士は......うん、全員生きてるね......よかった。
拘束して放置して死なれてたら罪悪感が半端ない......。

「み......みずを......。」

「手枷は外してあげるから自分で飲んでね。」

そう言って手を拘束している枷を一人ずつ外していく。
手枷を外された兵士は水袋をひったくるように俺から奪い水を飲んでいく......非常に申し訳なく思うが......いや、彼らはカザン君達を殺そうとしていたのだ。
もしカザン君の父親である領主が悪政を敷いて、その結果反乱が起きたのであったとしても子供を追い回して殺そうとするのは......少なくとも俺の中では無しだ。
っていうか......今ノーラちゃんを殺そうとしたら......確実に殺されるだろうな。
俺は遠くから聞こえてくるノーラちゃんとリィリさんの声を聞きながら、出会う順番が逆で良かったなと必死で水を飲んでいる兵士を見ながら思う。

「話を聞きたいのだが。」

「......。」

水を飲んで一息ついた兵士達の前に立ちカザン君が声を掛ける。

「お前たちは何処に配属されていた兵だ?」

「......。」

俺達と話していた時とは雰囲気が一変して威圧感のある立ち居振る舞いをするカザン君。
人の上に立つということを理解して実践している。
カザン君は普段はどちらかと言えば穏やかなタイプだと思うのだけど。
しかし、そんなカザン君の問いには答えず兵士は目線をそらすだけだ。
その様子を見たカザン君は腰に差していた剣を抜く。
......大丈夫だろうか?
俺とレギさんの緊張が少し高まる。

「もう一度聞く。お前たちの所属は?」

抜いた剣は構えず、しかし剣を握る手に力を籠めつつもう一度問いかける。

「......センザの守備兵だ。」

......あれ?
グラニダの兵士って言ってなかったっけ......?
......グラニダの兵士でセンザって場所の守備兵ってことか?
センザと聞いた瞬間カザン君は歯を食いしばり、剣を持つ手が震える。

「センザはどうなった?」

「......。」

再び問いかけられた兵士は目を瞑り下を向く。

「......そうか......。」

そう呟いたカザン君の剣を持つ腕がゆっくりと動き......剣を鞘に納める。
そして空を仰ぎながらゆっくりと深呼吸をしたカザン君は別の問いを発する。

「私達に懸賞金を掛けたのは誰だ?」

「......知らねぇ。領都から早馬が来て手配書が張り出されたということくらいしか。」

「グラニダがどうなっているかは分かるか?」

「知らねぇ。」

「私達を見つけたのはお前たちだけか?」

「そうだ。」

「どうやって見つけた?」

「偶々だ......巡回任務中に偶々見つけただけだ。以前お前たちの事を見たことがあったからな。」

「......。」

そこまで聞いたカザン君が振り返る。

「ありがとうございます。レギ様、ケイ様。もう大丈夫です。」

「こいつらはどうする?」

「......彼らを捕らえたのはレギ様達ですから。」

「好きにしていいのか?」

「......意見を言わせていただけるなら......解放してあげてもらえますか?」

「いいのか?」

「えぇ。これから私達はレギ様達と行動を共にさせてもらいます。まともな神経の持ち主なら......もう一度私達を狙うよりも二度と関わらないようにすると思いますね。」

カザン君は柔らかく笑いながら答える。
しかしその笑顔は少し無理をしているようにも見えた。
何か......彼らから聞いた話の中に何かがあったのだろう......。
恐らくはセンザって所の話だとは思うけど......。
もしかしたら、カザン君達のお母さん達のいる場所なのかもしれないな。
遠くからノーラちゃん達の声が聞こえてくる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...