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5章 東の地
第177話 最初に飛び出したのは......
しおりを挟む俺とナレアさん、そしてシャルが警戒する中、森から飛び出してきたのは......二人の人物。
一人は年の頃十五、六といった所だろうか?
長めの黒髪をポニーテールのように後ろに束ねているが......男だ。
中々のイケメンさんだが......それよりも目を引かれるのは肩に刺さっている矢だ。
服には血が滲む......と言うよりも血で染まっていて非常に痛そうだが、彼の表情は苦痛と言うよりも焦燥を感じさせるものだ。
そんな少年に手を引かれるようにしてして走るのは少女。
少年よりも一回り程幼い感じで......おそらく十歳くらいだろうか?
同じく黒髪でこれまた非常に整った顔立ちをしている。
腰に届くほどの髪も相まってお人形さんみたいだ。
どことなく雰囲気が似ているから兄妹といった所だろうか?
とりあえずそんな二人が息を切らせながら森から飛び出してくる。
「「......。」」
今にも飛び出しそうな自分を抑えつつ状況を見守る。
少年の肩に矢が刺さっている時点で間違いなくただ事ではないと思うのだが......彼らが極悪人という可能性は......零ではない。
少年は後ろを気にしながら女の子の手を引いているようだが......女の子の方がもう限界のようだな。
少年も女の子の限界を感じたのか一度立ち止まると二、三声をかけた後、女の子を抱き上げて再び走り出す。
俺もナレアさんもその様子を一声も発することなくその様子を盗み見ている。
......非常に人でなしになった気分がするな。
少年たちが再び移動を始めてすぐに森から武装した五人が飛び出してくる。
あまりいい雰囲気とは言えないな......。
兵士......だろうか?
統一された鎧に各々が剣を携えている。
その内の一人だけが弓を持っているが......流石に走りながら弓は撃てないだろう、剣を持つ四人の少し後方を走っている。
そこで強化した俺の耳に女の子の息も絶え絶えな言葉が聞こえてきた。
「......に、兄様......どうか......私を、捨て置いてください......兄様だけでも......。」
......。
ナレアさんにも聞こえたのだろう、表情が硬くなっている。
しかしすぐ傍でその言葉を聞いたであろう少年は唇を噛み締めながら走り続ける。
俺が飛び出そうと腰を浮かしたその時、後ろを走る男たちの言葉が聞こえてきた。
「絶対に逃がすな!首を持ち帰れば暫く遊んで暮らせ......!」
先に飛び出したのは俺だっただろうか?
それともナレアさんだっただろうか?
とりあえず俺が蹴り飛ばした奴以外にも吹き飛んでいる男がいるので、どちらが先に飛び出したかは......少し後方を走っていた、弓を持った男の背中の上でお座りをしているシャルに聞いてみよう。
もしくは男の関節を変な方向に極めながら、相手を窒息させているマナスでもいいかもしれない。
「な、なんだ貴様らは!俺たちをどこの......!」
「知りません。」
一瞬で仲間を制圧された最後の一人が何やら喚きだしたので、最後まで喋らせずに俺が顎を撃ち抜いたのだが......何故か男の鳩尾にナレアさんの拳がねじ込まれている。
まぁ特に同情はしないけど......少年たちの方を見ると肩で息をしながら立ち止まりこちらを呆けたように見ていた。
事情は......とりあえず彼らから聞いて......こいつらが起きたらこいつらからも聞いてみますか。
......おそらく先に飛び出したのはナレアさんだから怒られないよね?
とりあえず手枷と足枷を岩で作って拘束し、男たちはこの辺に転がしておく。
少年達のほうにはナレアさんが向かった。
まぁこういう場合は女性の方が相手も安心できるだろうしね。
「大丈夫かの?傷を見ようと思うのじゃが......近づいてもいいかの?」
少年は限界だったのか膝をついて顔を伏せている。
ナレアさんが声を掛けるも返事をする余裕はないようだ。
「す、すみません!お手......お手をおかけしますが!兄様の傷を見て頂けますか!?お願いします!」
「うむ、勿論じゃ。任せるがよい。」
女の子が叫ぶように言いナレアさんが二人に近づいていく。
少年の方も抵抗する意志はないようで、顔を上げたが敵意はないように感じる。
ただその顔色が非常に悪い、血の気が失せて真っ白と言った様子なのだ。
ナレアさんは少年の状態を調べた後俺の事を呼ぶ。
「容体はどうですか?」
「......血が足りておらぬな......そこは恐らく何とかなると思うが......。」
ナレアさんが少し言いにくそうに少女の方に視線をやる。
確かにこの子には聞かせない方がいいかもしれないな。
「少しこの者と話すので待っていてくれ。必ず助けると約束するのじゃ。」
「シャル、少し二人の傍にいてくれるかな?」
『承知いたしました。』
シャルでは女の子の不安は紛れないかもしれないけれど......少しはマシかもしれないしね。
少し離れた位置に移動した俺とナレアさんは声を落として話をする。
「おなごの方は疲労はあるが恐らく問題ないのじゃ。少年はさっきも言ったように血が足りぬ、早めに処置をする必要があるのじゃが、肩に刺さっておる矢の鏃が肉に埋もれておる。取り出すには切り開かねばならぬが......。」
う......聞いただけで下半身がキュッとなるというか......。
「流石に意識がある状態でやるのもな......ケイの魔法で意識を奪えぬかの?」
「恐らく大丈夫だと思います。後、痛覚も鈍らせることが出来るので、寝かせてその間に処置してあげるのがいいと思いますが......女の子の方も寝かせた方がいいかもしれませんね。お兄さんのそんな状態を見せるのもちょっと酷だと思いますし。」
「そうじゃな、その方がいいじゃろう。ではケイに任せるのじゃ。よろしく頼む。」
母さんの加護で使える魔法は俺の方がナレアさんよりも上手だからな......俺がやるしかないけど......鏃を取り出すのも俺がやるのかな......で、出来るだろうか?
「なるほどな......それで、なんで治療した側のケイがそんなに顔色を悪くしているんだ?」
森で食料を集めてきたレギさんが色々な感情と戦っている俺を見ながら聞いてくる。
俺の顔色が悪い原因は......まぁ言うまでもない。
兄妹を魔法で眠らせた俺は、少年の肩に火で炙って消毒したナイフで切り裂き鏃を取り出したのだ。
骨の隙間に刺さっていたので思いのほか深く矢が刺さっていたのだが......うぅ、骨とかなんか色々見えてしまった......。
鏃を取り出した後は一気に傷を治療しようとしたのだが......ナレアさんに止められてしまった。
とりあえず体の内側は魔法で癒し、比較的浅い位置はまだ血が出る程度に傷が残っている。
治癒力向上もかけているし、内部の方は完全に治療して増血もしてあるから大丈夫だとは思うのだけれど......。
縫合も......裁縫用の道具でしてあるが......個人的には魔法で全て癒してしまいたかったな。
まぁナレアさんが俺の事を心配してくれているのは分かるのだけど......。
「人の血をあれだけ見たのは......久しぶりです。」
いや、明るい場所で見たのは初めてだと思う。
倉庫警備の時は夜だったし、レギさんの時......ダンジョンはそもそも薄暗かった。
まぁ暗視はばっちりだったけど......。
「血なんか獲物を解体する時に結構見るだろう?」
「いや......ケイ君は解体してないよね?」
リィリさんの指摘にレギさんが考え込む。
......まずい、今までなるべく解体現場から離れていたのがリィリさんばれている。
「なるほど......じゃぁ、ウサギから始めるか。教えてやろう。」
レギさんが掴めてきたウサギを手渡してくる。
「あー、大丈夫ですよ?一応か、母さんからやり方は習っていますもん?」
「いますもん?」
動揺のあまり謎の語尾になってしまった。
「お?そうなのか。じゃぁ血抜きして捌いて寝かせておいてくれ。」
そう言ってレギさんが書いた用のナイフを渡してくる。
俺はきょろきょろと辺りを見渡し......シャルと目が合う。
「あーシャル。口出しはいいが、手を貸すのは無しだぞ。これもケイの為だ。」
レギさんがシャルに釘を刺す。
『......私はケイ様の傍に常におります。ケイ様がお手を煩わす必要はないと思います。』
そんなレギさんの言葉を完全にスルーするシャル。
......非常にシャルに甘えてしまいたいところだけど。
「ありがとう、シャル。でも少し慣れておいた方がいいと思うんだ。やり方だけ見ておいてもらっていいかな?」
『承知いたしました。ケイ様がそうおっしゃられるのであれば。』
俺はウサギを持ってキャンプから離れた位置に移動する。
シャルとマナスが付いて来てくれたが......マナスも教えてくれるつもりなのだろうか?
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