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5章 東の地
第173話 東方冒険者事情
しおりを挟む「情報を扱う奴がこの程度の情報しかもっていないってか?しかも本人は字が書けないと来たもんだ。馬鹿にするにも程があるってもんだろ。」
まぁ......字が書けない情報屋って相当頼りないというか......どうやって仕事するのって感じだね。
「つまり情報を扱っているというのは出まかせと言うことですか?」
「どうだろうな。もしかしたら昔そんな感じの事をやっていたのかも知れないな。だが龍王国に近いこの辺は近年争いが殆どないと聞いている。そんな場所の情報をわざわざ金を出して買うか?」
「以前やっていたからこそ、とっさに出まかせとして口に出したと?」
「俺はそう感じたな......この地図は、まぁ位置関係くらいは合ってそうだが、そんなもんだろ。」
そういってレギさんはため息をつく。
「自分達の集落は伏せているのですよね?」
「そうだな。まぁ、さっきはあぁ言ったが伏せるのは当然だろうな。得体がしれない上に圧倒的な武力を持っている......しかも自分から喧嘩を売った相手だからな。馬鹿正直に教える方がどうかしている。」
まぁ、確かにそれはそうだな。
いくらなんでも外で会ったよく知らない、たちの悪い集団に自分の家を教えるはずがない。
「まぁ、適当に嘘の場所でも言えば良かったと思うんだがな。」
「レギさんが脅しまくったから嘘は言えず、黙っておく位しか手がないって思ったんじゃないですか?」
あの状態のレギさんに対して嘘つく勇気はあの人には無さそうだったしな......。
いや、俺にもないけど......。
「それは、どう考えてもあいつらが悪いだろ。」
「まぁ、そうですけどね......そう言えば、彼らが話したかった事って何ですかね?」
「食料が欲しいとか、そんな所だろ。」
「そういえば......あまり食べて無さそうでしたね。」
「あの感じだと、断ったら襲い掛かってきただろうねぇ。」
機嫌が直ったのか、いつもの調子に戻ったリィリさんがスープを作りながら言う。
「東方に入っていきなりこれじゃとこの先が思いやられるのう。」
「確かに、幸先がいいとは言い難いですね。」
ナレアさんの言葉に俺が相槌を打つ。
「いや、俺としてはいい出だしだと思うぞ?ケイはしっかり認識できただろ?」
「......まぁ、そうですね。」
東方の不穏な雰囲気はしっかりと感じられたと思う。
それに、気を引き締められたというか......状況に流されずにちゃんと真意を測る必要があるってことを認識させられた。
いや......当然の事だとは思うけど。
俺が想像していた危険とはちょっと違った気がするな......いきなり矢が飛んでくるとかあちこちで戦闘が起きているような場所を想像していたのだけど......。
顔を上げて辺りを見渡し、特に殺伐としているわけでもない風景も見ながら俺は気を引き締めた。
「結構大きな街ですね。」
「そうだな......どうする?」
龍王国を出て東に進むこと数日、基本的に人里を避けてきた俺たちだったが現在大きな外壁に囲まれた街を遠巻きに見ている所だ。
襲撃のようなものを受けたあの日以降、誰とも遭遇していないのだが......そろそろ食料を補充したい頃合いでなんとか街の中に入りたい所なのだが......。
「食材の補充はしたい所だけど......。」
「どうやって壁の中に入るかが問題じゃな。」
リィリさんの言葉にナレアさんが続ける。
冒険者登録証は使えない。
こっそり忍び込むのは......出来ないことはないだろうけど......夜に空を飛んでしまえばいいだけだからね。
「夜の内にこっそり空から忍び込むのは難しくないと思いますが。」
「中に入った後問題になりそうだな。」
「食材を買うだけなら大丈夫じゃないですか?」
「共通貨を換金する必要があるだろう?その時に改めて身分証明が必要になるはずだ。」
あぁ......そうか、この付近で使われているお金がないのか。
「想像していたよりかなり厄介ですね。」
「下手なことをしたら捕まりそうだしな。」
「人里を避けてきたからのう。情報が不足しておるのじゃ。」
何が危険でどうしたらいいかって情報がないからな......。
「とりあえず、いざという時飛んで逃げられる僕とナレアさんで情報収集にいきますか?」
「それがいいかのう。」
「まぁナレアちゃんが一緒だったら大丈夫かな?」
「そうだな、ナレアが一緒に行くなら問題ないだろう。」
......信用ないなぁ。
『ケイ様。ファラの配下の者が来ています。』
俺が少ししょんぼりしているとシャルが声をかけてくる。
「ファラの......?」
『はい、あの街に関する情報を持ってきているようなので少々お待ちいただけますか?』
「うん、それは助かるよ。ファラの所のネズミ君が来ているようなので少し情報を聞いてからどうするか決めましょう。」
「そりゃ助かるが......相変わらずアイツの手際は恐ろしいな......別れてから数日、移動の時間も考えると.....計算が合わなくないか?どうせこの街にファラはもういないんだろ?」
「そうでしょうね......後どうやって僕たちがここに来るって分かったのでしょうか?」
確かにファラの能力には疑問しかないけど......ホントどうなっているのだろう?
「情報を手中に収めた手際は流石に分からんが......ここに来ることはある程度予想できたのではないかの?妾達が寄るならある程度情報が集まりそうな街じゃろ?」
「......なるほど、それもそうですね。」
ファラだって無限に情報を集められるわけじゃない。
俺たちの動きを予測して優先度を設定しながら動いているはずだ。
そしてこの街はナレアさんの言うように優先度が高いだろう。
俺はファラの事を考えながら門らしき場所に目を向ける。
「門には人が結構見えますね。結構活気がある感じですか?」
「そうだな。まぁ戦時中であっても食わなきゃ生きていけないからな。」
「なるほど......商人とかそんな感じですかね。」
「都市国家みたいに冒険者や旅行客ってわけじゃなさそうだな。」
レギさんと並んで街を見ていてふと思い出したことがある。
「......冒険者といえば、少し気になったのですが、冒険者ギルドがないのにダンジョンってどう処理しているのですかね?」
「あぁ、冒険者ギルドがないのは表向きだからな。一応東方にはダンジョンの監視という名目でギルドから派遣されている奴らがいるぞ。」
「表に出たら消されるともっぱらの噂じゃ。」
消されるの!?
「ダンジョンは魔晶石が掘れるからな。領地にダンジョンがあれば資金としても魔道具を武器にするという意味でも非常に有効だ。それにダンジョンの出来る場所によっては軍事訓練にも使えるしな。国からしてみたら冒険者ギルドに利権を取られるわけにはいかないんだよ。」
「別に冒険者ギルドがダンジョンを独占するわけではないのじゃがのう。」
レギさんの言葉にナレアさんがため息をつく。
「自由に国境を越えて動こうとする冒険者なんか、敵国の間者にしか思えないだろうな。」
「ギルドがないとレギにぃは下水掃除が出来なくて困るよねぇ。」
「困らねぇよ!」
下水掃除はともかく......仕事が出来ないのはレギさんにとっては苦痛......なのだろうか?
「まぁ、レギ殿が仕事を受注出来ずに悶々とする程、街には滞在しないのじゃ。」
街で休むと何故か仕事を受けてくるからな、レギさんは。
「俺の話はいいだろ......まぁ、そんなわけで冒険者ギルドは防諜と利権から東方では大っぴらに活動できないってわけだ。となれば当然ダンジョンはその土地を支配する国が処理するわけだが......。」
レギさんが咳払いをしながら話を戻す。
「ダンジョンが出来た直後だと大した量の魔晶石は採れないのじゃ。年月を経たダンジョンを攻略すれば良質な魔晶石が大量に採れるがのう。国としてはいいタイミングでダンジョンを攻略したいわけじゃ。」
「放置し過ぎると周囲の魔力を吸収しだして大変なことに。だからと言ってすぐ処理してしまうと旨みがない......別に魔神の厭らしさってわけじゃないと思いますけど、人の欲を刺激していますね。」
「確かに。魔神の話を聞くと......なんかダンジョンの悪意を感じる気がするな。」
「しかも国がダンジョンを攻略するということは、そこに兵力を投入しないといけないということじゃ。それなら攻略した後にその国に攻め込んだ方が楽じゃろ?」
「より戦争を誘発しやすい......そしてそんなダンジョンの情報を横の繋がりで他国に流す冒険者ギルドは......ってことになるのですね。」
ダンジョンは処理しないといけないものだけど莫大な利権が発生する場所でもある......。
龍王国以西は比較的平和だからダンジョンについても問題が無さそうな感じで処理されていたみたいだけど、こっちではダンジョンの情報自体が国家機密レベルなんだな......。
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