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5章 東の地

第171話 どうしたい?

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「人がこちらに向かってきているみたいです。七人って結構多いですよね。」

「森の方からか?」

『森とは反対です。おそらくもうすぐ見えると思います。』

レギさんの問いに答え、シャルが前足を指すように前に伸ばす。
前足の動きがひょこひょこしていて可愛い。
って今はそれどころじゃないな。
俺たちがさり気なくシャルの指す方向を見ると確かに俺達から隠れるように動いている人影が見える。

「これって強化魔法掛けているから相手の動きがはっきり見えているってことですよね?」

「まぁ流石にこの距離から向こうははっきりとは見えないだろうな。人がいるっての位はわかるだろうが。」

「こそこそ隠れて近づいてきているみたいだし、こっちの事は認識しているだろうね。」

「隠れながら近づいてくるのじゃ。害意はあるじゃろうな。」

「どうします?」

俺たちは怪しい一団から視線を外しどう対応するかを相談する。

「襲い掛かってくるなら倒しちゃえば?」

「それは当然だな。」

リィリさんの言葉にレギさんが賛同する。
まぁ俺もその意見には賛成だけど。

「情報収集も兼ねて生け捕りでどうですか?」

「全員か?」

俺の提案にレギさんが聞いてくる。

「そうですね......情報が正しいのか確認する必要もありますし、出来る限り全員捕まえたほうがいいと思います。」

生き残りが一人だと嘘つかれても分からないしね。

「......情報についてはそうかもしれねぇが、その後はどうするんだ?」

「その後ですか?」

レギさんの言っている意味が分からなくて問い返す。

「いきなり襲い掛かってくるような奴らだぞ?堅気とは考えにくいな。」

「それはまぁ......。」

「無罪放免で開放ってわけにもいかねぇだろ?間違いなく俺たち以外の、もっと力のない物たちが襲われるぞ?」

「......。」

「だからと言って国に突き出すってのも難しい。この辺の統治機構がどの辺にあるのか分からないしな、適当に見つけた村なんかに引き渡してもいい迷惑だろう?それに相手は七人だ、そんな人数引き連れてどれだけ移動すればいい?」

「......。」

「縛ってその辺に放置すれば、まぁ遠からず死ぬだろうな。街道沿いに放置すれば運が良ければ助かるかもしれんが......碌なことにはならないだろうな。」

「殺すべきってことですか?」

「そうは言わねぇが、それも考慮に入れるべきだとは思う。そもそも盗賊は他人から奪うことを生業としてやがる、命も含めてだ。奪われたとしても文句は言えねぇだろ。」

レギさんの言うことは分かるけど......直接人に手を掛けるというのは......。
以前襲撃犯をとらえた時よりも遥かに重い......。

『私が処理してきます。』

俺が悩んでいるのを見たシャルが、駆け出そうとする。

「まって!シャル。ごめん、大丈夫だよ。」

慌ててシャルを止めて謝る。

「大丈夫です、レギさん。以前ナレアさんと同じような話をしました。抵抗がないとは言えませんが......。」

「そうか。分かっているならいい。」

戦うこと自体は問題ないけど......大丈夫だろうか。

「よし、じゃぁ全員捕獲するぞ。」

「はーい。」

「了解じゃ。」

......あれ?

「意外そうな顔をするなよ。元々情報を得るために尋問するって話だっただろ?その後は、まぁ身ぐるみ剥いでその辺に転がしておけばいいだろ。それに奴らが盗賊とは限らないしな。」

レギさんがにやりと笑いながら俺に言ってくる......。
確かにレギさんは殺すべきとは言ってないな......俺が言っただけで肯定してはいない。

「別に揶揄ったわけじゃない、ここは物騒な土地だからな。いざって時が来ないとは限らない。ケイとまともに戦える奴はそういないだろうが、考えてはおくべきだ。」

言われるまでこういうことを考えていなかったな......戦乱の地に行くって言うのにどこか他人事に考えていたと思う。
戦闘に巻き込まれることもないとは言えないもんな......。

「そうですね、ありがとうございます。」

俺がお礼を言うとレギさんが頭を掻く。
その姿を見ながらリィリさんがにやにやしているが......。

「じゃぁ、相手が来るまでもう少しかかりそうだし作戦会議でもするのじゃ。」

「そうだねー。とりあえず相手を逃がさないように気づかない振りして近くに誘い込もうか。」

「誘い込んだ後は......相手の狙いも分かりませんし、敵意を向けてきたらすぐに制圧でいいですかね?」

「まぁ作戦と言ってもそんなもんだろうな。」

「応龍の魔法を実践で試したいところじゃが......。」

「あまり派手なことはするなよ?」

ナレアさんも分かっているのか少し残念そうだ。
遺跡でも殆ど出番はなかったし、試してみたいのだろうけど......。
落とし穴くらいならありかもしれないけど......それは魔道具で以前からやっていたっぽいしな。

「地味目に試すとするかのう。」

何やらナレアさんがやろうとしているな......まぁナレアさんなら問題ないだろうけど。
ワクワクしているナレアさんを見ながら俺はレギさんの起こした火に水を入れた鍋を掛ける。
水は魔法で出したものだが飲んでも問題ないのは既に試している。

「こそこそ回り込んで来てるねー。」

リィリさんが顔は向けずに辺りに隠れながら回り込んでくる奴らに注意を向けている

「三人程隠れずにまっすぐこちらに向かってきていますね。」

「多分友好的に声かけてくるつもりだろうな。注意を牽いておいて襲い掛かってくるつもりか?」

レギさんが相手の行動を分析しているが......。

「奇襲をするには回り込んでいる奴らの動きがぎこちなさ過ぎじゃな。正直気づかない振りをする方がしんどいくらいじゃ。」

そうなのですよね......こそこそと隠れながら動いているつもりなのだろうけど......すごい丸見えで......気づいていない振りをするこちらの動きまでぎこちなくなってしまう。

「そろそろ近づいてくる奴らに気づいた振りをしておくか。一応ばればれの四人以外に隠れている奴がいないか警戒は怠らないようにな。」

「「了解。」」

俺たちが返事をすると同時にレギさんが立ち上がり、近づいてくる三人の方を向く。
俺たちも遅れてそちらに顔を向ける。
近づいてくる三人は緊張した面持ちだったが、やがて引き攣ったような笑顔を見せると手を振りながら歩みを進めてくる。
身なりはかなりみすぼらしい......腰に下げている武器も......剣とかじゃなくてこん棒というか......太めの木の枝って感じだ。
こんな盗賊っているのかな?
身体もかなりがりがりだし、顔色もいいとは言えない。
少なくとも儲かっている盗賊ではなさそうだな......ある程度近づいてきた三人はリィリさん、ナレアさんの事を見て少しだけ緊張が減ったような感じがした。
まぁ......レギさんは何処からどう見ても......盗賊風だしな。

「旅の方々、迷惑でなければ話をさせてもらいたいのだがよろしいだろうか?」

三人の中で一番年配の人が声をかけてくる。
何と言うか......盗賊っぽい感じはしないな。
相変わらず俺たちの事を囲んではいるようだけど......。

「貴方たちの言う話と言うのが、暴力的な手段を用いないと言うのであれば聞きましょう。」

そう言ってレギさんは周りを囲んでいる人を顎で指す。

「貴方達は腕が立ちそうだ。我々としても安全を確保しておきたいのです。お許しいただきたい。」

「一方的にそんな理不尽なことを言っている相手と会話をするとでも?」

レギさんが不機嫌さを前面に出しながら話を続ける。
当然の対応ではあるけど、レギさんがそういった態度を仲間内以外に見せながら対応するのは珍しいな。

「貴方の怒りはもっともだと思います。しかし臆病で卑怯でなければ生きてはいけないのだ。私たちは備え、貴方達は油断した。それだけのことなのです。」

油断する方が悪いって理屈のようだけど......。

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