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5章 東の地
第164話 召喚魔法
しおりを挟む『この短い間に、随分と沢山の経験をしてきたのですね。貴方が楽しそうで本当に良かった。皆様も聞いていた以上にお世話になっているようですね。本当にありがとうございます。』
母さんは終始俺の話を嬉しそうに聞いていたが最後の遺跡での話を終えるとレギさんたちに向かって頭を下げた。
「いえ、セレウス様。彼は自分を過小評価しがちです。自らが前に出て事を収めることはあまりしませんが、それでも彼がいなければこうも上手く事が運ばなかったであろうことは想像に難くありません。ダンジョンでも、龍王国でも、遺跡でも彼がいてくれたからこそ、最良の結果になったと私たちは思っています。」
過分にレギさんからお世辞をもらってしまうと......物凄くくすぐったいと言うか......身悶えするというか......。
しかしレギさんの言葉にリィリさんもナレアさんも頷いている。
『ケイ、随分と皆さんに信頼してもらえているようですね。外の世界に送り出した時は本当に心配でしたが、良い知人と経験に恵まれたようですね。』
「はい。これは母さんの事も含めてですが、僕は本当に出会いに恵まれたと思います。」
母さんが嬉しそうに尻尾揺らす。
『安心しました。これでしたら今後も大丈夫そうですね。皆さん、これからも是非、ケイの事をよろしくお願いします。』
「こちらこそ。面白い経験が出来て日々楽しくやらせてもらっていますから。」
母さんの言葉にレギさんたちが笑顔で答える。
なかなか面映ゆい感じがするな。
一瞬ナレアさんと目が合ったような感じがしたが、いつものように揶揄うような感じはなくとても優しい表情をしていたように思う。
『それと応龍はそのように言っていましたか......。』
「あ、はい。応龍様からこちらを預かっています。」
母さんが応龍様の事を言ったので俺はカバンに入れていた魔道具を母さんに渡す。
以前母さんから手紙として受け取り、応龍様に渡したものと同じものだろう。
暫く目を閉じていた母さんは応龍様の伝言を聞き終わったのか目を開けて立ち上がる。
『少し移動しながら話をしましょう。神域の事、そしてケイがなぜこの世界に来てしまったのかを......。』
「それは私たちが聞いてもいいのでしょうか?」
『えぇ。あなた方はケイの事情もご存じですし、知っておいてもらっていた方がいいと思います。神域の事、遥か数千年前の過去に起きた話なので大仰に感じるかもしれませんが......今を生きる貴方たちにとっては全て歴史の一部でしかありません。勿論貴方たちが世界に仇成すつもりであるなら話は別かもしれませんが。』
そのようなつもりはないでしょう?と母さんが皆を見る。
レギさんたちが頷くのを見て母さんは歩き出す。
『神域の事は外の世界では認知されていないのですか?』
「そうですね。ケイに会うまで知りませんでした。」
「龍王国でも神域の事は上層部であっても知ってはいなかったのじゃ。」
『大国の上層部でも知らないとなると一般的にはまず間違いなく忘れられているようですね......一度ここに侵入者達が来たのでまだ知れ渡っているのかと思っていましたが。』
......あの時ここに襲撃を仕掛けてきた奴らの事は今の所足取りが掴めていない。
ただ母さんの言葉を聞いて一つ思い出したことがある。
龍王国で神殿に襲撃をかけてきた奴らの事だ。
彼らは一般には知れ渡っていない聖域を明確に目指してきたと思う。
神獣や聖域......神域と言った存在を彼らはどこで知ったのかはもう調べることが出来ない。
だがほぼ同じ行動をとっていた二組の襲撃者を別の組織とは考えにくいだろう。
まぁ正直あの時はそんなことに思い至っていなかったけどね......。
「侵入者と言うと、ケイが崖から落ちたという時の話かの?」
「えぇ。その時の侵入者ですが、もしかして龍王国の時の奴らと繋がりがあるのではないでしょうか?」
「確かに知っているものが殆どいないであろう神域を襲ったというのは大きな共通点じゃが......それだけでは少し繋げて考えるには弱い気がするのう。」
「......そうですか。手がかりになるようなものは残っていないですし......調べるのは難しいですね。」
『神域への侵入者に関してはあまり気にしていません。私の魔力を少し奪っただけで満足していたようですしね。』
前も聞いたけど、本当に母さんは侵入者の事を気にしていないね......。
『......神域と呼ばれるこの場所を作るきっかけは四千年以上前にあります。』
ゆっくりと歩を進めながら母さんは遥か昔の話を始める。
神域と俺に関係があると応龍様は言っていた。
どんな話が聞けるのだろうか......。
『当時、私達神獣は自由に過ごしていて、加護も多くの人間に与えていました。まぁ私の加護はあまり多くの人間には与えていませんでしたが。』
「何か理由があったのですか?」
『えっと......あまり人間の事を好きでなかったと言いますか......。』
母さんが言いにくそうにしている......応龍様が母さんの事を頑固娘とか色々言っていた気がするけど......その辺の話かな。
『まぁそれは特に今回は関係ありません。ただ、ほかの神獣の加護を受けて人々が魔法を使うのは普通の時代でした。』
魔法がありふれていた時代か......道行く人が何かしらの魔法を使える......正直恐ろしすぎる。
銃以上に簡単に人が殺せるからな......誰もがそれを行使できるのだ。
その時代を見てきた母さんだからこそ神域の外に出る俺に色々と教えて、細心の注意を払うように言ったのだろう。
『当然、魔法を使った争いもありましたが......神獣たちはそれも人の営みと加護を与えることにを特にやめることはありませんでしたね。その加護を与えていた神獣の中に、今はもういませんが......鳳凰と言うものがいました。』
鳳凰......鳥の神獣様か......。
『彼の加護で使えるようになる魔法は召喚魔法でした。離れた位置にいるものを呼び寄せる魔法です。まぁ妖猫の加護によって使えるようになる空間魔法でも同じことが出来ますし、空間魔法であれば他にも色々なことが出来たので鳳凰の加護は......あまり人間たちに好まれていないようでした。』
それはなんていうか......随分とひどい話にも聞こえるけど......妖猫様の空間魔法にときめきを感じまくっている俺が非難できることじゃないな......。
『多くの国で魔法の研究が行われて、人々はどんどん豊かになっていきました。まぁそれだけでしたら良かったのですがね。高度な魔法を使えるようになると同時に争いの規模や被害もどんどん大きくなりました。そして争いに勝つためにより高度な魔法を求めていき......後はその繰り返しですね。』
ある意味で必然とも言えるけど......当時は神獣様達に対する信仰みたいなものはなかったのかな......?
龍王国みたいな感じだったら応龍様が一声掛ければ戦争を思い留まりそうだけど......いや、そんな簡単なものじゃないか......。
『そんな中、とある国が鳳凰の召喚魔法の今までにはない領域にたどり着きました。召喚魔法というのは元々、よく知る人物や物を遠くから近くに呼び寄せるだけの魔法だったのですがその国では自分たちの知らない物や人物をこことは異なる世界から呼び出すことに成功しました。』
......それってつまり......俺がこの世界に来たのはその国が関係している?
でも四千年以上前の話だよね?
『召喚魔法によって得た物はその国を大陸で最大の版図を得るまでに成長させました。一度の召喚に大量の魔力を消費するので使用した回数はそこまで多くなかったのですがそれでも効果は絶大だったようです。まぁ、どのようなものが呼び出されたかは詳しく知らないのですが......ただ、少なくとも最低二つ、召喚魔法によってこの世界を滅ぼしかねないものが呼び出されました。』
母さんは淀みなく歩いていく。
俺たちは言葉もなくその後ろをついていった。
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