上 下
135 / 528
3章 龍王国

第134話 かみはしんだ

しおりを挟む


ナレアさんに言われて、自分の台詞を反芻してみる。
......確かに!?

「あ!いやっ!ちがっ!」

「吐いた唾は吞めぬのじゃ。さてどうしようかのう。ここまで情熱的に求められてしまってはのう。」

ほほほと実に楽しそうに笑うナレアさん。

「待った!待ってください!そうじゃないです!」

「んー?どうしたのじゃ?いつもとは随分と様子が違うではないか?」

「そうだねぇ、どうしたんだろうねぇ。随分余裕がないみたいだねぇ。」

「ぐ......。」

落ち着こう。
そういうつもりはなかったが、最近色々と考えることがあったせいで妙に熱の入った言い回しになっただけだ。
決してそんなつもりはなかったはずだ。

「ふぅ。いえ、確かに誤解を招くような言い回しでした。ですが、僕の偽らざる想いです。ナレアさん僕達と一緒に来てくれませんか?」

「......う、うむ。分かったのじゃ。」

ナレアさんが俺から視線を逸らしつつ返事をくれた。

「ナレアちゃんそれでいいの?」

「ま、まぁ今日の所はこのくらいでよかろう......。」

ナレアさんとリィリさんが謎の会話をしているが......了承してくれたので良しとしよう。

「ありがとうございます。ナレアさん。改めてよろしくお願いします。」

「......うむ。よろしく頼むじゃ。」

「まぁ、いっか......ナレアちゃんこれからもよろしくね。」

「よろしくな。」

リィリさんとレギさんがナレアさんに挨拶をする。
さらに肩に掴まっていたシャルが飛び降りてナレアさんと視線を合わせる。
シャルも挨拶しているみたいだね。
マナスは俺の肩に残ってリズミカルに揺れている、ナレアさんと一緒に旅が出来ることが嬉しいのか機嫌が良さそうだね。

「ところでレギさん。」

「ん?なんだ?」

「レギさん達は応龍様の加護をもらわなくていいのですか?応龍様に話をすればきっと受けてくれると思いますが。」

「俺は魔力が少ないからな。普通の魔道具を使うので精一杯だ。それとリィリはな......。」

「あはは、ケイ君。私は加護を貰わないほうがいいみたいなんだ。」

ナレアさんの傍にいたリィリさんがいつの間にか場所を変えてレギさんの傍にいた。

「加護を貰わないほうが良いっていうのはどういうことですか?」

「実はね、この体になってからシャルちゃんに色々と相談に乗ってもらっていたんだ。それで魔物としての進化についても話を聞いていたんだけど、加護を貰うと高確率で進化が起こる可能性があるんだって。特に加護を貰った場合種族がその加護をくれた神獣に近くなることが多いみたいで......さすがに今の姿から変わっちゃうのはねぇ。」

なるほど......それは絶対に加護を受けるわけにはいかないね......。

「ってわけだから私達の事は気にしなくていいよ。」

「......分かりました。」

リィリさんの事も母さんや応龍様に聞いてみよう......ナレアさんもいれば俺よりも詳しく話をしてくれるはずだ。

「そう言えばケイよ。一緒に来て欲しいとは言っておったが、妾の方の用事にも付き合ってくれるのかの?」

シャルと話をしていたナレアさんがこちらを見ながら問いかけてくる。

「えぇ、それは勿論ですよ。」

「それは良かった。実はヘネイから一つ頼まれておってのう。」

「ヘネイさんからですか?」

「うむ。以前魔導士ギルドの件について相談したいと言っておったのを覚えておるかの?」

「えぇ、魔導士ギルドが現在の人手不足に陥ったことについて、依頼が終わった後に相談をしたいと言っていましたね。」

「うむ、あの時のあやつ、妙に怪しい雰囲気をしておると思ったら......魔術師ギルドの人手不足は遺跡が関係しておったようでな。道理で言いにくそうにしておった訳じゃ。」

そういえばヘネイさんの様子がこの話題の時に少し妙だったっけ。

「なんで遺跡が関係していると言いにくいのですか?確かナレアさんは遺跡専門の冒険者って言っていましたよね?相談するには打って付けだと思いますが......。」

いや、一応相談はしているから問題はないのか?
でも言いにくそうにしていたのはなんでだろう?

「どうせ遺跡の話を妾にしたら応龍の依頼をそっちのけにして遺跡に向かうとか邪推したのじゃろう。まったく失礼な奴じゃ。」

「そうですね......いくらなんでも依頼を放り出してまで遺跡を優先したりしないですよね?」

「う......うむ。全くじゃ。全くもってそのとーりじゃ!」

何か突然口調が怪しくなったような......。
目線を逸らしたナレアさんはなかなかどうして遺跡を優先しないとは言い切れなさそうだ。

「おい、ケイ。」

レギさんが肩を叩いて耳に口を寄せてくる。

「こんな話をギルドで仕入れた。」

「ギルドで?」

「上級冒険者ナレアの二つ名は遺跡狂いだ。」

......いせきぐるい?

「遺跡狂いですか?」

思わず大きめの声が出てしまった。
当然ナレアさんにも聞こえていたようで逸らしていた顔をこちらに向ける。
その顔は何とも言い難い笑みを浮かべていた。

「ほう、遺跡狂いとな?中々面白そうな話をしておるではないか。」

「いや、レギさんが言いだしたことで僕には一体何のことやら?」

全力で保身を図ることにした。
あの笑顔はどこからどう見ても良くない笑顔だ。

「あ、おい!ケイ!てめぇ!」

「レギどのぉ、面白そうな話じゃ......是非妾にも聞かせてくれんかのう?何、時間は取らせぬのじゃ。少しあちらで話そうか......。」

レギさんが俺を捕まえようと腕を伸ばした瞬間、その腕を取って引きずってドアから出て行くナレアさん。
ありがとうレギさん。
後レギさんから助けてくれてありがとう、ナレアさん。

「いや、ケイ君。全然助かってないからね?」

物凄く楽しそうな笑顔でこちらを見ながらリィリさんが言う。

「どう考えても戻ってきた二人にぼこぼこにされる未来しか見えないよ。」

......よし、逃げよう。

「......用事を思い出しました。ちょっと出かけてきますね。」

「あまり遅くならないようにねって言いたいところだけど......。」

そう言ってドアの方に目を向けるリィリさん。
ドアから出るのは厳しいな......。
となると窓か......幸いここは二階だし大した高さではない。
下に誰も歩いていないことを確認してから飛び降りれば問題は何もないだろう。
ここから離れて何処に行くかって問題もあるが......まぁ久しぶりにグルフに会いに行こう。
ずっとほったらかしで寂しがっているだろうしね。
うん、これは大事な事だ。
グルフの為にも急いで行動に移そう。

「それではリィリさん。何となく窓から飛び出したい気分なので失礼しますね。もし誰かが僕の事を探していたら......やむを得ない事情で旅に出たので探さないでください、とお伝えください。」

「まぁ伝えておいてあげるのは問題ないけど......。」

何やら含みのあるリィリさんの台詞だが、今は聞き返している暇はない。
すぐにこのデッドゾーンから離脱しなくては......!
窓を開け放ち下を覗き込む、慌てていたとしても安全確認は大事だ。
しかしそこにあったのは絶望。
俺の目に映ったのは満面の笑みでこちらに手を振る禿の姿。
表情に絶望を浮かべる俺に青筋を浮かべる角も髪もない鬼。
とりあえず窓は駄目だ!
今が夜なら窓から一気に隣の建物に飛び移るというアクロバットな動きも出来るが......残念ながら今は真っ昼間。
そんな目立つことは出来ない。
すぐに踵を返してドアへと向かう。
しかしここまでくれば流石の俺でも分かる、このドアを開けた向こうにどんな光景が広がっているか。
だが、考えてみて欲しい。
このドアの向こうで待っている人に対して俺は何かしただろうか?
レギさんから不意に聞かされた二つ名を呟いただけだ。
何故そう呼ばれているのかすら知らないのだ。
今俺に落ち度があるだろうか?
いや、ない!
俺の特に信じていない神も言っている、汝の全てを許すと。
よし堂々とドアを開けて外に出よう。
深呼吸を一つして、ゆっくりと扉を開いたそこには......。
笑みを浮かべ腕を組んで仁王立ちをする、遺跡狂いと最強の下級冒険者がいた。
いや、想像以上の光景でした、全然分かっていませんでしたね。
......かみはしんだ。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...