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3章 龍王国
第128話 報酬の話をしよう
しおりを挟むナレアさんによって開発された魔道具は龍王国の魔術師によって次々と数を増やしていったようだ。
そして量産された魔道具が各地に送られるのと同時に王都に騎士団が戻ってきていた。
これで王都......というか近衛の負担もかなり軽くなるだろう。
そして当然、俺たちの神殿警備も終わりを迎えた。
ワイアードさんはまだ王都に戻ってきていないらしいが近々帰還予定らしい。
神殿で暇と戦っていた俺達とは違い、ワイアードさん達騎士団の方々は命を懸けて国を守っていたのだ。
いや、俺達じゃなくって俺だけか。
ナレアさんは魔道具を調べ、対抗策となる魔道具を作った。
今回の事件を解決に導いた中核をなしていると言ってもいいだろう。
俺は......へこんで、慰められて......後はぼーっとしていただけか......恥ずかしい......。
まぁ散々シャル達に甘えたことだし気持ちを切り替えて行こう。
折角神殿を離れたわけだしね。
「皆さま、御足労頂きありがとうございました。」
今俺たちは全員でヘネイさんの家に来ている。
久しぶりに四人が揃ったわけだが、今日はこれから依頼の完了報告と言った感じだ。
「うむ。さて、早速ではあるが魔道具の量産は順調と聞いておる。今の所、特に問題はなさそうかの?」
「はい。今の所、問題は起きていません。この調子であれば、時間はかかりますが全ての集落に対して魔道具を配置できると思います。」
「それは良かった。そうなると逆に魔物にあの魔道具を飲み込ませた方が魔物による被害が無くなるかもしれぬな!」
「それは流石に龍王国の国庫が空になりますね。」
ヘネイさんがにこやかに答える。
今回の件で色々と心労が重なっていたのだろうが、終わりが見えて本当に安心出来たのだろう。
「騎士団も徐々に王都に戻ってきておるようじゃな。被害がないわけではないだろうが、これからは保証や復興に集中できるようになるわけじゃ。商人達の方はどうじゃ?」
「一時物価が高騰しそうな気配がありましたが、そうなる前に商人への援助を厚くしていたので影響は最小限で抑えることが出来ました。同時に商人ギルドに魔物被害の心配はないという噂を流してもらいました。おかげで商機と見た商人がこぞって他国から流れてきたようで普段より活気があるくらいですね。」
「それは結構なことじゃな。」
「消耗した軍需品も国の方で買い上げているのでしばらくはこの活気が続きそうです。国としては少し懐が心もとないかもしれませんが......。」
騎士団を各地に派遣するだけでも多額のお金が必要だし、装備等の消耗品の補充も必要だろう。
更にナレアさんの作った魔道具の量産や、被害が出た騎士団員への見舞金や集落への復興費用。
国庫へのダメージはかなりの物なのだろう......。
「龍王国の懐事情は置いておくとして、これで今回は依頼完了じゃな。」
「はい、本当に長い間ありがとうございました。皆さまのお蔭で大事なく今日を迎えることが出来ました。」
「ほほ、正直肩透かしという感じじゃな。大規模な仕掛けの割に何をしたかったのかがさっぱりわからぬ。」
「そうですね......今後も引き続き警戒はしますが......っとこれはこちらの問題ですね。今回ご足労願ったのは報酬をお渡しさせて頂こうと思いまして。」
そう言ったヘネイさんはテーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。
ドアがノックされてカートを押す侍女の方が入ってくる。
中々デカい袋が積まれているな......。
「こちらが皆様への報酬となります。金額については......申し訳ありません。応龍様が直接ナレア様への依頼をしたので金銭での報酬の取り決めをしておりませんでした。」
確かにお金に関しては何も決めていなかったよね......。
レギさんも今回は全部ナレアさんに任せていたみたいだし。
「ほほ。妾は応龍に借りを返すくらいの気持ちじゃったからな。報酬がなかったとしてもレギ殿達には妾から支払うつもりであったのじゃ。」
なるほど、ナレアさんは最初からそういうつもりだったのか。
「ナレア様のお考えは分かりますが......国としても報酬を支払わない訳にはいきません。こちらを納め下さい。」
テーブルの上にいくつかの袋が載せられる。
これが全部金貨だとしたらかなりの金額だな......銅貨ってことはないよね?
「ほほ、これはまた随分と沢山くれるのう。」
「長期間の仕事でしたし仕事の内容も内容ですから......それとナレア様には魔術式の開発費用として追加でこちらを......。」
「開発費用じゃと?」
「えぇ、神殿の警備用の魔道具と魔物の対策用の魔道具です。」
「ふむ、魔物の対策用の魔道具はともかく、警備用の物は趣味で作ったものじゃからのう。そこは金はいらんのじゃ。」
「いえ、そういう訳には......。」
「魔術式を提供したわけでも無いし、完全に使いきりじゃ。開発費を貰うわけにはいかんのじゃよ。」
ナレアさんが二つの魔道具の開発費を固辞している。
矜持の様なものだろうか?
「......魔物の対策分は受け取って頂けますか?」
「うむ、そちらは頂こう。」
「ありがとうございます。」
報酬を渡す側が受け取ってくれたことにお礼を言っている。
少し不思議な図式になっているが......なんとなくしっくりくるな。
「国から報酬が出たおかげでレギ殿達への支払いは楽に済みそうじゃ。妾の取り分は必要ないから三人で分けて欲しいのじゃ。」
そしてナレアさんが飛んでもないことをいいだした。
「それは......。」
レギさんが難しい表情をしている。
色々と言いたいことはあるのだろうが、場所が場所なだけにレギさんは口に出しにくいのだろう。
「ナレアさん、報酬の分け方については後で話しましょう。」
「む......それもそうじゃな。すまぬ、不躾であった。」
ナレアさんがこちらに頭を下げる。
報酬の話で揉めることは多いかもしれないが、要らないと均等に分けるべきがぶつかり合うのは珍しいだろうな......。
いや、レギさんの性格からしてナレアさんの取り分を多く言うはずだ......この後の打ち上げは荒れそうだな。
リィリさんの方を見ると困ったような笑みを浮かべる。
穏便にいってもらいたい所だけれど二人とも頑固だからな......。
「ナレア様、応龍様の所にもすぐ行かれますか?」
「そうじゃな。この後の事もあるし早めに話をしておくとするかの。」
「承知いたしました。応龍様はいつでも来ていいとおっしゃられているのでナレア様が良ければ。」
「うむ......では、すまぬが先に宿に戻っておいてくれるかの?」
「分かりました。」
「今夜は打ち上げだからおいしい物いっぱい用意して待ってるよ。」
「楽しみにしておくのじゃ......あ、すまぬがケイは一緒に来てくれるか?」
「僕もですか?」
「うむ、ケイがいる方が話が早いのじゃ。」
よく分からないけど別に断る理由はない。
「分かりました。じゃぁレギさん、リィリさん。応龍様の所に行ってくるので後はお願いします。」
「おう、また後でな。」
神殿の警備を止めてすぐ神殿に戻るのか......解放された感じが全くしないね。
三度聖域をを訪れたが、今回の俺は完全におまけだ。
ナレアさんが個人的にクレイドラゴンさんから報酬を貰うのについて来ただけだからね。
『ナレアリス、今回は世話になったな。』
......ヘネイさんの言う威厳や貫禄っていうのはこんな感じなのかな。
クレイドラゴンさんの受け答えには重みを感じる。
俺と話す時はアレだけど......。
「うむ、無事終息出来て一安心じゃな。お主が懸念しておったことも杞憂だったようでこちらとしても安心出来たのじゃ。」
『うむ、騒がせたようですまなかったな。』
「なに、あのような話を聞けばお主が懸念するというのも当然というものじゃ。」
『今の時代の子供等があのような苦しみを味わう必要はない......酒も呑めなくなるしな。』
その言葉が聞こえた瞬間、目を閉じて横に控えていたヘネイさんの目が薄く開けられる。
アレは間違いなくクレイドラゴンさんを睨んでいるな......。
「ほどほどにせぬとヘネイが暴れるのじゃ。」
『うむ。さて、今回の礼をせねばな。未発見とされている遺跡だが......。』
「応龍よ、待って欲しいのじゃ。今回は少し違った形で礼を貰いたいのじゃ。」
『ほう?珍しいな......何を望むのだ?』
「うむ、失礼なことを言っているかも知れぬのじゃが......妾に、加護をくれぬか?」
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