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3章 龍王国
第124話 生か死か
しおりを挟むナレアさんが魔道具を神殿に設置してから幾日が経過した。
何事も起こらず、ただただ暇な時間を過ごしている。
そう言えば以前レギさんが警備や護衛はしんどいって話していたっけな......倉庫警備をした時だったかな?
「もう一月くらいここにおるかのう......。」
「多分そのくらいになりますね。」
正直今どのくらい経っているのかが曖昧になってきた。
ナレアさんが監視用の魔道具を作ってから偶に街に戻ってレギさん達に会ったりしているのだが変化がなさ過ぎて辛い。
ヘネイさんに聞いたところでは衛兵はシフトを通常に戻したそうだ。
流石に近衛はまだ頑張ってもらっているらしいけど。
「そろそろ進展が欲しい所じゃな。ハヌエラの方はそろそろ結果が届いても良さそうじゃが......。」
「そうですね......そういえば騎士団からの報告はかなり数が減ってきているみたいですね。」
「うむ、これは新たに魔道具を使っていないという可能性が高そうじゃな。」
「ばら撒いた分を騎士団が狩りつくしたってことですか?」
「恐らくのう。相手の規模が分からぬが、魔道具作成には金がかかるのじゃ。無限に造れるというわけではないし、あの魔道具は使い捨てじゃしな。効果も劇的というわけではない、追加で作ってはいないのではないかと思うのじゃ。」
「なんであんな魔道具作ったのでしょうね?」
「恐らくじゃが......魔物を完全に操る魔道具を作ろうとしたのではないかのう。」
「その為の実験だったってことですか?」
「いや、前にも言ったが実験ではないと思う。魔道具としてはアレで完成じゃ。目的はこの騒動の方で間違いないとは思うのじゃが......詰めが微妙じゃのう。」
「だからこそ、僕たちはこうして神殿の警備をしているのですけどね......正直何か動きを起こして欲しいって気持ちでいっぱいです。」
「ほほ、事件が起こって欲しいとはひどい話じゃ。」
「そう言われると心が痛みますね......。」
「まぁ気持ちは分かるのじゃ。あのファラですら何も情報を掴めておらぬ以上、街で何かを企んでいるものはおらぬ気がするのう。」
「最近は近隣の村や町の情報も多少時間はかかるみたいですけど把握できるようになってきたらしいです。」
「最強の密偵じゃな......ファラを雇えば国の密偵は皆首に出来るな。」
この世界だと物理的に首になりそうで怖いな......特に密偵って色々な情報とかを握ってそうだし......。
「会話を出来るのがファラだけなので厳しいと思います。」
「それは大きな問題じゃな......しかしその内ファラは配下に念話を叩きこみそうではないか?」
ファラならやりそうで怖いな......。
「ファラの働きっぷりを見ていると否定しづらいですね......情報といえば、捕まえた人達から何か情報は聞き出せていないのですかね?捕まえてからかなり時間が経っていますが。」
「......うむ、あやつらは......。」
なんだかナレアさんが珍しく言いにくそうにしている。
これはもしかすると......。
「......すまぬな、想像の通りじゃ。襲撃犯は全員死亡した。死因は毒のようじゃが......全員がほぼ同時に死んだらしい。口封じなのか自決なのかは分からなかったそうじゃ。」
......やっぱりか。
俺に知らせなかったのはそれを聞いて落ち込むと思ったからかな。
まぁ正直ショックを受けていないといったら嘘になるけど......国に引き渡した時点である程度は覚悟していたはずだ......。
だからこの足の震えは気のせいだろう。
心臓がきゅっとなる様な......胃の中がひっくり返りそうなこの感覚も気のせいのはずだ。
「ケイ、落ち着くのじゃ。」
ナレアさんが俺の手を取り両手で包む。
『ケイ様。』
いつの間にか体を大きくしたシャルが俺の背中に寄り添ってくれている。
「気にするなとは言わぬのじゃ。妾達が奴らを捕らえたことで死に至ったのは事実じゃからな。あやつらが犯罪者であるとか、魔物に街を襲わせて被害を出したとかそんなことで自分をごまかす必要はない。」
ナレアさんの言葉が耳に入ってくる。
大丈夫、ちゃんと理解できている......。
「直接手を下したわけではない、結果としてそうなってしまったが......間違いなくやつらは法に照らされて極刑じゃ。前にも言ったがここを侵すことは反逆罪じゃからな。」
そう、それは俺も聞いていたし理解していた筈だ。
「覚悟が足りなかったのでしょうか......。」
「......妾は覚悟というのは足りるとか足りないとかいうものではないと思うのじゃ。足りなかったのは想像じゃろうな。」
「想像......ですか?」
「うむ、相手を捕まえた後の事は何となく考えておったのじゃろ?」
「......はい。」
そう、ちゃんと考えた筈だ。
「では逆は考えたのかの?」
「逆というと......?」
「彼らを捕らえなかった場合、妾達が負けた場合じゃ。」
「それは......。」
「考えるまでもなかったはずじゃな。ほぼ間違いなく妾とケイは殺されて......魔道具は持ち去られたかのう?奴らの魔力量で聖域に行けたとは思えぬしな。その後の事は......色々と想像出来るがそれは置いておこう。」
きっとそうだろう、襲撃者にとって俺たちは邪魔な存在だ。
生かしておく必要はない。
「妾達を制圧出来るかどうかは別じゃがな......さて、ありきたりな事を言わせてもらうが。ケイは死にたかったのかの?妾が殺された方が良かったかの?」
「そんなことはありません。」
考えるまでもない事だ。
「そうじゃろ?当然のこと過ぎて考えるにも及ばないことじゃ。」
ナレアさんが俺を真正面から見ながら続ける。
「悩むことが悪いとは言わぬ。望むと望まざるにせよ人の世で生きていく以上避けられない事柄じゃしな。」
......俺は人を殺すつもりは欠片もない。
あくまで今の俺は......だけど。
......今更ながらナレアさんの手の温かさ、背中に寄り添ってくれているシャルの温かさを感じる。
それと頬に身体を押し付けてくるマナスを。
言葉の上では理解していたつもりだった、この世界は俺がいた場所に比べて遥かに死が近い......。
きっとこの悩みは今後もついて回るのだろう。
ナレアさんの言うようにこの世界で生きていく以上こういったことは避けられない。
どうしても避けたければ旅をやめ、神域にでも引き籠るしかない。
でも俺にはやりたいことがある。
少なくともその目的は人を殺してまで成し遂げたい事ではないが......皆を守る為なら分からない......いや、そういう状況にもしなったら恐らく手加減なんて考えないだろう。
......うん、利己的だろうがなんだろうがそれは間違いない。
「多分このことに関してこれからも割り切れないと思います。」
「うむ。」
「でもそのせいで皆に危険が及ぶくらいであればという思いもあります。」
「うむ。」
「自分勝手だとは思いますが、僕にとって命の価値は等価ではありません。」
「一個人であれば当然じゃ。」
「大事なものは決まっています......。」
「......あまり思いつめないことじゃ。自分の中でどう折り合いをつけるかは本人にしか決められないからのう。まぁ、相談があるならいつでも聞くのじゃ。優しく手ほどきしてやろう。」
先程までの優しげな雰囲気から一変、ナレアさんが意地の悪い笑みを浮かべる。
真面目な時間は終わりってことですね。
「......その時は相談に乗ってもらいます。」
一瞬目を丸くしたナレアさんが今度は嬉しそうな笑みを浮かべた。
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