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3章 龍王国
第120話 言ってはいない
しおりを挟む「本当にありがとうございます。国からも報酬といった形でお礼をさせて頂きたいと思います。」
「ふむ......どうするケイ?国から報酬がでるそうじゃが。」
「どうするって......どういうことですか?」
報酬が貰えるなら貰っておけばいいと思うけれど......。
「国難と言える程の事件じゃからな。報酬だけ渡されておしまいとはいかんぞ?登城して謁見の間で仰々しくやるじゃろうな。ギルドを通していない直接の依頼、しかもこの国でも最高位の権力者の一人である龍の巫女からの依頼じゃ。それ即ち応龍からの依頼ということは全ての者が理解する所じゃな。」
意識していなかったけど......ヘネイさんはこの国では並ぶ者がいない存在で、本来であればこうして一つの部屋に一緒にいられるような相手じゃないんだよな......。
そしてそんな相手に依頼されて、国の信仰を汚すような相手を敵に立ちまわっているんだ......。
「まぁ、ケイはダンジョン攻略者として一部では有名じゃしな。龍王国で一旗揚げても問題は無かろう。下級冒険者とは思えぬ功績じゃ、というか上級冒険者であってもそうそう成し遂げられるものではないのう。」
......正直、お金はあるに越したことはないけど......そういうのは遠慮したい。
ダンジョンの時はやむを得なかったけど......今回は......。
「えっと......それ辞退出来ませんかね......?」
「辞退ですか?」
ヘネイさんの表情が少し曇る。
「僕はこれから他の神獣様の所にも行かなければならないのです。その際にあまり有名になっていると動きが制限される可能性がありますし......神獣様達にも迷惑がかかる可能性があります。」
「応龍様や天狼様以外の神獣様の元に!?」
ヘネイさんが驚いた後に一気に青ざめる。
「はい。ですので、我儘を言って申し訳ありませんが......。」
「いえ!こちらこそ大変失礼いたしました!ケイ様の御事情も考えずに勝手なことを!」
「頭を上げてください、ヘネイさん。こちらの事情は話していませんでしたから、申し訳ないのはこちらの方ですよ。」
このままだと以前のようにヘネイさんが平伏しそうだったので慌てて顔を上げてもらう。
まだヘネイさんは顔色が悪かったがとりあえず落ち着てくれた。
「そういう訳ですみません、ナレアさん。」
「ふむ、まぁケイの事情を考えれば仕方ないであろうな。」
「もしナレアさん達が国からの報酬を受けられるようでしたら、是非行ってきて下さい。僕の事はお気になさらず。」
「いや、妾はそういう堅苦しいのは嫌いじゃ。レギ殿達も......断りそうじゃな。」
「出来ればナレア様達だけでも受けて頂けると有難いのですが......。」
「そうは言ってもな、ケイと一緒に動く以上妾達もあまり目立つわけにはいくまい。ケイが辞退した意味が無くなってしまうじゃろ?」
「それは......はい、その通りです。申し訳ありません、軽率でした。」
ヘネイさんがまた落ち込んでしまった......。
「まぁ追加報酬だけでも貰えれば嬉しいがのう。」
......ナレアさん、それは図々しくないですかね?
「そうですね......そのくらいなら秘密裏になんとか出来るかと。」
「いいのですか?」
「えぇ、せめてそのくらいはさせて頂きたいと思います。」
「ありがとうございます。とても助かります。」
ヘネイさんの要望に応えられないのは心苦しいけど......報酬は貰っておこう。
何となく意地汚い気もするけれど、お金に罪はない。
まぁ今の所お金に困ってはいないけど......この先何があるか分からないからな。
「まぁその件についてはヘネイにうまくやってもらおう。それで今後の事じゃが......。」
「今は神殿の有る森を近衛の方々に守ってもらっているのですよね?」
「えぇ、森への立ち入りは出来ないので周りで守ってもらっています。」
「あまり大きい森ではないとは言え、完璧に守るのは難しいですよね。」
「そうじゃな。神殿への出入りを許可されている妾達が詰めるほうがよかろう。」
「そうですね。それに神殿への襲撃は囮で、王城を狙ってくると言う可能性もないとは言い切れないですし、僕たちは早めに神殿に戻って近衛の方々には王城警護に専念してもらった方がいいかもしれません。」
「昨日の今日でとは思いますが......そういう気の緩みこそ狙われるのかもしれませんね。分かりました、お二人には御負担をおかけしますが......宜しくお願い致します。」
「うむ、それでは早速神殿に向かうとするかの。」
「レギ様達へ先に連絡しなくて大丈夫でしょうか?」
椅子から立ち上がろうとした俺達にヘネイさんから待ったがかかる。
「ヘネイの方から伝えておいて欲しいのじゃ。以降の連絡はまた手を貸してもらう事になるが、すまんのう。」
「いえ、そのくらいしか私には出来ませんので。」
「お主も狙われる可能性は十分あるのじゃから警備はいつもより厚めにしておくのじゃ。レギ殿達へは使いを走らせてくれればよい。」
「承知いたしました......今だけはこの身が不便で仕方ありません。」
「仕方なかろう。巫女は誰でもなれるわけではない......と言うよりもなれるものは圧倒的に少ないじゃろ。」
「何か条件があるのですか?」
「......応龍様にお仕えするには、神殿の魔道具を起動出来ないといけませんから......。」
条件って魔力量か......。
でも魔術式がないタイプの......魔法を込められた魔道具を起動するにはかなりの魔力量が必要ってナレアさんが言っていたな。
生来魔力の多い魔族にも殆どいないらしいし......だがヘネイさんは人族なのに魔道具を動かせるだけの魔力を持っているってことだ。
相当貴重な人材に違いない。
「なるほど......もしかして巫女様は常にいるわけではないのですか?」
そう簡単にそれだけの魔力量を持った人が見つかるとは思えない......。
「そうですね......巫女がいない時代も少なくは無いようです。私は先代からお役目を引き継ぐことが出来ましたが、先々代の巫女は引き継げなかったと聞いています。先代の巫女は相当な高齢だったこともあり、私に引き継げたことを心から喜んでくださいました。次代の巫女は常に探している状態ですが、簡単に見つかることはないでしょうね。」
後継者問題か......条件が厳しすぎて大変そうだな......。
「跡継ぎと言うのは中々難しい問題じゃからのう。」
「......。」
何かを言いたそうにヘネイさんがナレアさんを見ている。
これは......ナレアさんに巫女になって欲しいってことかな?
でもナレアさんの方が年上だよね?
まぁナレアさんは魔族で長命だし、魔力も十分過ぎるほどあるのだろうけど......。
ナレアさんが誰かに仕えるっていうのはちょっと想像できないな......。
「ケイ......お主いい度胸をしておるな。」
ナレアさんから底知れぬ冷気を感じる......。
しまった......これは完全に何考えていたかバレているやつだ。
「ケイ様......流石に女性の年齢の事を言うのは無作法が過ぎるかと。」
鎮痛な面持ちで告げてくるヘネイさん。
これ以上ないくらい正確に二人にバレているらしい。
俺は死を覚悟した。
......でも一言だけ......言ってないよね?
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