上 下
120 / 528
3章 龍王国

第119話 コロスシカナイ

しおりを挟む


「はぁ!?ケイに!?」

「うむ、昨日も熱い夜を過ごしたばかりじゃ。おかげで寝不足でのう。」

「色々あったってそういう事っスか!とんでもない裏切りっス!ケイ死ねっス!」

ナチュラルに死ねって言われました。
生まれて初めての経験ですね......ちっとも嬉しくないけど......。
ってかナレアさんも無茶苦茶言っていますね!

「ほほ、妾も罪な女じゃ。争いを生んでしまうとは......。」

罪があるのは間違いないですけど、ちょっとニュアンスが違いますね......。

「ケイ酷いっス!あの夜あんなに激しい夜を共に過ごしたのにっス!」

「何とんでもない事言い出しているんですか!?」

「おや、ケイはそっちも行ける口じゃったか。まぁ妾は気にせんのじゃ。」

ほほほと笑いながら身を寄せてくるナレアさん。
詰め寄ってくるクルストさん。
この人達は天下の往来でなにをやってくれているんですかね!?

「そろそろ他の人の迷惑になるので冗談はやめてもらえませんかね?」

「「冷たいのぅ(っス)」」

何で俺の周りの人達は俺の事を揶揄うのが好きなんですかね......?
とりあえず今は周りの人の視線が痛い。

「まぁ冗談はさておき、そうっスかーナレアさんはケイとそんな関係だったっスか......死ねばいいっス。」

一周してそこに戻るのか......。

「まぁそんなわけじゃから、今度皆で食事をするくらいで納得してもらえんかの?」

「まぁ、それで我慢するっス。それにしてもレギさんと言いケイと言い世の中不公平っス!俺も愛が欲しいっス!」

リィリさんはともかくナレアさんのは愛じゃないと思います......。

「クルストさんはしっかりしていますし、かっこいいから凄くモテそうですけど......。」

クルストさんは背も高いし、体も引き締まっている。
顔は言うまでもなく美形で短く整えた黒髪は爽やかな印象を受ける。
粗野なタイプの多い冒険者の中で爽やかイケメンは珍しい。
口調が下っ端っぽいけど......。

「あー!またそれっス!モテそう!よく言われるっス!でも実際そんなことねーっス!生まれてこの方一度もねーっス!無責任っス!責任取って死ねっス!」

もう何を言っても死ねとしか言われないな......。

「落ち着くのじゃ。なんなら妾がおなごを紹介してやるのじゃ。」

「あざーッス!」

ナレアさんに対して直角にお辞儀をするクルストさん。
こんなに女性に飢えている人だったのか......?
いや、それよりも......。

「ナレアさん。その女性ってヘネイさんじゃないですよね?」

「そうじゃが?何かあるのかの?」

心底分からないと言った表情を見せるナレアさん。

「問題しかないじゃないですか!?」

「何が問題なのじゃ?まさかケイはヘネイを狙っておったのか?」

「な、ナレアさんと言う者がありながら......ふざけるなっス!死ねっス!」

もう放っておいてもいい気がしてきた......でもヘネイさんに迷惑がかかるし......。
いや、そうとも限らないのか?
巫女だからって男の人と付き合っちゃいけないとは聞いていないしな。

「すみません、僕の早とちりだったかもしれませんね。ヘネイさんは別に結婚したらいけないわけじゃないのですよね?」

「そうじゃな、そんなことを縛る様な奴に仕えてはおるまい。まぁ本人は誰とも添い遂げるつもりはないと言っておるがのう。」

「そんな人を紹介するって鬼ですか!?」

「クルストならそんな心を解きほぐせるかもしれないじゃろ?」

「期待掛け過ぎですよ!?もう少し難易度低い人から始めるべきだと思います!」

「そう言われてものう、この街で紹介出来るような者は他におらんのじゃが......まぁ、ケイがそう言うなら紹介するのはやめておくのじゃ。」

とりあえずクルストさんが振られるのは阻止できたようだ。
いや、ナレアさんが言うようにヘネイさんがクルストさんに惚れると言う可能性もなくはないけど......クルストさんに紹介するならもう少し軽いノリの方がいいと思うんだよね......。

「け、ケイが俺の邪魔をするっス......も、もう、こ、コロスシカナイッス......。」

いや......もう振られてもいいからヘネイさん紹介してもらおうかな......?
クルストさんは振られても死にはしないだろうけど、俺は殺されるかもしれない......。
目の光を失くしたクルストさんがカタカタ笑い出したのを見て俺とナレアさんはいそいそとその場を後にした。



「昨日はありがとうございました。お二人の......いえ、お二人と、レギ様、リィリ様のお蔭でこちらに被害なく賊を捕らえることが出来ました。」

ヘネイさんは少し疲れた顔をしているが、それでもはっきりとした意思をもってお礼を言ってくる。

「うむ......じゃが、想定していた襲撃犯とは別に最低でもあと一人は街に潜伏しておる者がおるはずじゃ。それも妾達の警戒網に引っかからないような相手がじゃ。」

ヘネイさんにファラの事は伝えていないから理解出来ないだろうけど......はっきり言ってファラ達の警戒網を抜けて何かを企むことはほぼ不可能だと思う。
恐らくこの相手は今回の襲撃に関して完全にノータッチなのだと思う。
指揮官の視界を覗き見ていただけで、成功しても失敗しても何も行動を起こさないつもりだったのだろう。
いや、昨日の失敗を受けて今朝の開門以降悠々と街を離れた可能性が高いか?
もし失敗したからと、次の作戦や何かしらの動きを見せていればファラに補足されているはずだ。
そういう意味でもある程度の安全は確保できたと考えてもいいのではないだろうか?
まぁあくまでファラの存在を知っていて、その能力に絶対の自信があるから言えるだけなのだけどね。

「街の事は今も衛兵たちに探ってもらっています。騎士団が戻ってくるまでが向こうとしては勝負だと思うので、警戒を緩めないようにしていますが......やはり人手不足は否めません。」

「それが相手の狙いじゃった筈じゃからのう......そういえば騎士団の方はどうじゃ?遠方の部隊はともかく近隣の部隊には通達は行っておるのではないか?」

「はい、予定では近隣の部隊にはほぼ連絡が行き渡っているはずです。それと後数日でワイアード様の部隊に伝令が到着するはずですので、遅くとも十日程で何かしらの情報を得られるのではないかと。」

「ふむ、待ちに待った話じゃな。ハヌエラが上手くやれば何とか事態を収拾できそうじゃな。」

ナレアさんが少しほっとした表情を見せる。

「そうですね。ワイアード様はともかく副官のヘイズモット様は優秀ですので。」

ヘネイさんも表情を柔らかくするが......言葉が辛辣過ぎる。
ヘイズモットさんの事は褒めているし、ワイアードさんにのみキツイ感じなのかな......。
もし声をかけてきた男性を振る時もこんな感じだったら......クルストさん立ち直れなかったかもしれない。

「とは言え、まだ時間はかかるじゃろう。それまでの間王都の守りをどうするかが問題じゃな。今は近衛や衛兵も頑張ってくれておるが、疲労はどうしようもない。無理をして疲労が溜まった所に本命の襲撃があれば......。」

確かに......ここまで色々と暗躍していた割に最後の詰めが甘すぎる。
王都の人員不足から来る疲労の事を考えて次の襲撃が本命と言う可能性は低くないように思える。
しかし王都の警戒レベルは一度襲撃があれば跳ね上がる......秘密裏に事を進めるつもりがないとしてもリスクの方が高いような......。
その場合、指揮官の視界を共有していた奴の狙いは戦力の把握?

「申し訳ありません。ナレア様、ケイ様。もうしばらくお力をお借りしてもいいでしょうか?」

「うむ、勿論じゃ。事態はまだ何も解決しておらぬ。今しばらくは手を貸させて貰うとも。」

ナレアさんがヘネイさんに快諾する。
勿論俺だけじゃなく、この場にいないレギさんもリィリさんもまだ仕事を完遂出来たとは考えていない。
今も二人は街で情報を集めてくれているしね。
まだしばらくは気の抜けない日が続きそうだ。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...