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3章 龍王国
第119話 コロスシカナイ
しおりを挟む「はぁ!?ケイに!?」
「うむ、昨日も熱い夜を過ごしたばかりじゃ。おかげで寝不足でのう。」
「色々あったってそういう事っスか!とんでもない裏切りっス!ケイ死ねっス!」
ナチュラルに死ねって言われました。
生まれて初めての経験ですね......ちっとも嬉しくないけど......。
ってかナレアさんも無茶苦茶言っていますね!
「ほほ、妾も罪な女じゃ。争いを生んでしまうとは......。」
罪があるのは間違いないですけど、ちょっとニュアンスが違いますね......。
「ケイ酷いっス!あの夜あんなに激しい夜を共に過ごしたのにっス!」
「何とんでもない事言い出しているんですか!?」
「おや、ケイはそっちも行ける口じゃったか。まぁ妾は気にせんのじゃ。」
ほほほと笑いながら身を寄せてくるナレアさん。
詰め寄ってくるクルストさん。
この人達は天下の往来でなにをやってくれているんですかね!?
「そろそろ他の人の迷惑になるので冗談はやめてもらえませんかね?」
「「冷たいのぅ(っス)」」
何で俺の周りの人達は俺の事を揶揄うのが好きなんですかね......?
とりあえず今は周りの人の視線が痛い。
「まぁ冗談はさておき、そうっスかーナレアさんはケイとそんな関係だったっスか......死ねばいいっス。」
一周してそこに戻るのか......。
「まぁそんなわけじゃから、今度皆で食事をするくらいで納得してもらえんかの?」
「まぁ、それで我慢するっス。それにしてもレギさんと言いケイと言い世の中不公平っス!俺も愛が欲しいっス!」
リィリさんはともかくナレアさんのは愛じゃないと思います......。
「クルストさんはしっかりしていますし、かっこいいから凄くモテそうですけど......。」
クルストさんは背も高いし、体も引き締まっている。
顔は言うまでもなく美形で短く整えた黒髪は爽やかな印象を受ける。
粗野なタイプの多い冒険者の中で爽やかイケメンは珍しい。
口調が下っ端っぽいけど......。
「あー!またそれっス!モテそう!よく言われるっス!でも実際そんなことねーっス!生まれてこの方一度もねーっス!無責任っス!責任取って死ねっス!」
もう何を言っても死ねとしか言われないな......。
「落ち着くのじゃ。なんなら妾がおなごを紹介してやるのじゃ。」
「あざーッス!」
ナレアさんに対して直角にお辞儀をするクルストさん。
こんなに女性に飢えている人だったのか......?
いや、それよりも......。
「ナレアさん。その女性ってヘネイさんじゃないですよね?」
「そうじゃが?何かあるのかの?」
心底分からないと言った表情を見せるナレアさん。
「問題しかないじゃないですか!?」
「何が問題なのじゃ?まさかケイはヘネイを狙っておったのか?」
「な、ナレアさんと言う者がありながら......ふざけるなっス!死ねっス!」
もう放っておいてもいい気がしてきた......でもヘネイさんに迷惑がかかるし......。
いや、そうとも限らないのか?
巫女だからって男の人と付き合っちゃいけないとは聞いていないしな。
「すみません、僕の早とちりだったかもしれませんね。ヘネイさんは別に結婚したらいけないわけじゃないのですよね?」
「そうじゃな、そんなことを縛る様な奴に仕えてはおるまい。まぁ本人は誰とも添い遂げるつもりはないと言っておるがのう。」
「そんな人を紹介するって鬼ですか!?」
「クルストならそんな心を解きほぐせるかもしれないじゃろ?」
「期待掛け過ぎですよ!?もう少し難易度低い人から始めるべきだと思います!」
「そう言われてものう、この街で紹介出来るような者は他におらんのじゃが......まぁ、ケイがそう言うなら紹介するのはやめておくのじゃ。」
とりあえずクルストさんが振られるのは阻止できたようだ。
いや、ナレアさんが言うようにヘネイさんがクルストさんに惚れると言う可能性もなくはないけど......クルストさんに紹介するならもう少し軽いノリの方がいいと思うんだよね......。
「け、ケイが俺の邪魔をするっス......も、もう、こ、コロスシカナイッス......。」
いや......もう振られてもいいからヘネイさん紹介してもらおうかな......?
クルストさんは振られても死にはしないだろうけど、俺は殺されるかもしれない......。
目の光を失くしたクルストさんがカタカタ笑い出したのを見て俺とナレアさんはいそいそとその場を後にした。
「昨日はありがとうございました。お二人の......いえ、お二人と、レギ様、リィリ様のお蔭でこちらに被害なく賊を捕らえることが出来ました。」
ヘネイさんは少し疲れた顔をしているが、それでもはっきりとした意思をもってお礼を言ってくる。
「うむ......じゃが、想定していた襲撃犯とは別に最低でもあと一人は街に潜伏しておる者がおるはずじゃ。それも妾達の警戒網に引っかからないような相手がじゃ。」
ヘネイさんにファラの事は伝えていないから理解出来ないだろうけど......はっきり言ってファラ達の警戒網を抜けて何かを企むことはほぼ不可能だと思う。
恐らくこの相手は今回の襲撃に関して完全にノータッチなのだと思う。
指揮官の視界を覗き見ていただけで、成功しても失敗しても何も行動を起こさないつもりだったのだろう。
いや、昨日の失敗を受けて今朝の開門以降悠々と街を離れた可能性が高いか?
もし失敗したからと、次の作戦や何かしらの動きを見せていればファラに補足されているはずだ。
そういう意味でもある程度の安全は確保できたと考えてもいいのではないだろうか?
まぁあくまでファラの存在を知っていて、その能力に絶対の自信があるから言えるだけなのだけどね。
「街の事は今も衛兵たちに探ってもらっています。騎士団が戻ってくるまでが向こうとしては勝負だと思うので、警戒を緩めないようにしていますが......やはり人手不足は否めません。」
「それが相手の狙いじゃった筈じゃからのう......そういえば騎士団の方はどうじゃ?遠方の部隊はともかく近隣の部隊には通達は行っておるのではないか?」
「はい、予定では近隣の部隊にはほぼ連絡が行き渡っているはずです。それと後数日でワイアード様の部隊に伝令が到着するはずですので、遅くとも十日程で何かしらの情報を得られるのではないかと。」
「ふむ、待ちに待った話じゃな。ハヌエラが上手くやれば何とか事態を収拾できそうじゃな。」
ナレアさんが少しほっとした表情を見せる。
「そうですね。ワイアード様はともかく副官のヘイズモット様は優秀ですので。」
ヘネイさんも表情を柔らかくするが......言葉が辛辣過ぎる。
ヘイズモットさんの事は褒めているし、ワイアードさんにのみキツイ感じなのかな......。
もし声をかけてきた男性を振る時もこんな感じだったら......クルストさん立ち直れなかったかもしれない。
「とは言え、まだ時間はかかるじゃろう。それまでの間王都の守りをどうするかが問題じゃな。今は近衛や衛兵も頑張ってくれておるが、疲労はどうしようもない。無理をして疲労が溜まった所に本命の襲撃があれば......。」
確かに......ここまで色々と暗躍していた割に最後の詰めが甘すぎる。
王都の人員不足から来る疲労の事を考えて次の襲撃が本命と言う可能性は低くないように思える。
しかし王都の警戒レベルは一度襲撃があれば跳ね上がる......秘密裏に事を進めるつもりがないとしてもリスクの方が高いような......。
その場合、指揮官の視界を共有していた奴の狙いは戦力の把握?
「申し訳ありません。ナレア様、ケイ様。もうしばらくお力をお借りしてもいいでしょうか?」
「うむ、勿論じゃ。事態はまだ何も解決しておらぬ。今しばらくは手を貸させて貰うとも。」
ナレアさんがヘネイさんに快諾する。
勿論俺だけじゃなく、この場にいないレギさんもリィリさんもまだ仕事を完遂出来たとは考えていない。
今も二人は街で情報を集めてくれているしね。
まだしばらくは気の抜けない日が続きそうだ。
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