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3章 龍王国
第117話 街での戦い
しおりを挟む狭い神殿の中に十一人の襲撃者が転がっている。
二人はマナスに取り押さえられて身動きが取れず、三人は弱体魔法で身動きが取れない。
とりあえず残りの六人から用意しておいた縄で縛っていこう。
「ナレアさん、そっちで伸びている人たちを縛ってもらえますか?」
「了解じゃ。」
さてこちらも縛っていくか。
気絶している奴を優先して後ろ手に腕と足を縛っていく。
抵抗はないので早々に気絶している連中を縛り上げて次はマナスが押さえている奴に取り掛かる。
体積を増やしたマナスが押さえつけているだけだと思っていたが、二人ともきっちり気絶しているようだった。
体を起こして縛ろうとすると懐から何かが零れ落ちてくる。
「これは......魔道具?光っている感じからして動作しているみたいだけど......。」
とりあえず、手早くこいつを縛り上げよう。
確か指揮官だったはず......?
しっかり縛れたことを確認して指揮官の懐から落ちた魔道具をナレアさんの所へ持っていく。
「ナレアさん、指揮官の懐から魔道具が出てきました。起動しているみたいですけど。」
「貸してみるのじゃ。」
ナレアさんに魔道具を渡すと真剣な表情をして魔道具を調べ始めた。
俺はまだ縛っていない襲撃犯を縛り上げ、他にも魔道具や武器を隠している奴がいないかボディチェックをしていく。
「うーん、凄い数の武器......暗器ってやつかな?」
調べれば出てくる出てくる。
物凄く小さなクロスボウのような物や釘の様な武器、人差し指くらいのサイズのナイフや靴の先から飛び出すナイフ。
口の中に含み針を仕込んでいる奴もいた。
正直全部の武器を回収できた自信はない。
これは早い所国に引き渡して監視下に置いてもらわないと面倒なことになりそうだ。
近衛であっても森にすら入ることは出来ないらしいので森の外まで運ばないといけないのが面倒だね。
その辺も考えておくべきだったな。
逃がさずに倒すことだけに集中していたから、後の事を全く考えていなかった。
ちなみに魔道具もいろいろ見つかったが、指揮官が持っていた物のように起動状態のものは無かった。
「ケイ、この魔道具はちと厄介じゃぞ。」
魔道具を調べていたナレアさんが顔を上げて声をかけてくる。
「どんな効果か分かったのですか?」
「うむ、この魔道具は視界共有の魔道具じゃ。この魔道具と対を成す魔道具があって、こちらの魔道具を持っている人間の視界をもう一方の魔道具を持っている相手が見ることが出来るという代物じゃ。かなり高度な魔術式で簡単に作れるようなものではないのう。」
「魔物をおかしくした魔道具といい、その視覚共有の魔道具といい黒幕は随分と魔道具を作る能力に長けているようですね。」
「そのようじゃな......先ほどのケイの視界と妾の視界も一瞬見られたかもしれぬが。まぁ大したものは見ておらぬじゃろ?」
「そうですね。この部屋の中くらいでしょうか。」
「妾の事を盗み見ておったのは後で覗いている奴にもバレたのう。」
「いや、そんなことしていませんよ......。」
「つれないのぅ。」
ナレアさんが不満そうだがとりあえず捨て置こう。
「レギさん達も上手くいきましたかね?」
「レギ殿達なら心配なかろう。ファラのお蔭で情報も十分過ぎるほどある。向こうは取り押さえさえすればすぐに衛兵に引き渡せるようにしてあるしのう。」
「問題は僕達の方ですね。運ぶことまで考えていませんでした。」
「とりあえず引きずっていくしかないが、ここに見張りも残さないといけないしのう。」
「ナレアさん残ってもらっていいですか?僕が運びます。」
「まぁ力仕事は任せるとするのじゃ。」
「マナスの片方には残ってもらうので何かあったらすぐに戻ります。」
「うむ、頼りにしておるぞ。マナス。」
ナレアさんの肩の上にいるマナスが任せろと言わんばかりに跳ねる。
頼りにされているのはマナスなのか......。
まぁ確かにマナスは頼りになるけどね......?
どことなく釈然としない思いを感じながら襲撃犯を引きずっていく。
森から少し離れた位置に近衛の方々とヘネイさんが待機しているのでそこまで運ぶのは俺の仕事だ。
View of レギ
俺の肩に乗っていたマナスが突然跳ねた。
どうやらケイ達は上手くやったようだ。
俺は反対側の路地に潜んでいる賊に目を向ける。
この場にいる賊は二人。
王城......というか神殿か......から逃げ出した賊に追手がかかっていた場合、かく乱するのが奴らの目的だ。
後はスラムの入り口に待機しているのが二人、外壁の外に出る為の井戸の所に一人。
スラムの入り口はリィリが井戸の確保をしている奴はファラが対応する。
タイミングを合わせて一気に制圧する為、全員の所に分裂したマナスが配置されているのだが......こいつはどのくらいの数まで分裂できるんだろうな......?
まぁそれはいいか。
次にマナスが跳ねたタイミングで一気に賊を制圧する。
自分より多い人数を逃がさずに一気に制圧か......我ながら無茶を言っているとは思うがケイから貰っている強化魔法のお蔭で問題なくやれるだろう。
しかしケイと別れた後が怖いな......今のノリで動いていたらあっという間に命を落としそうだ。
余計なことを考えるのは後にして準備を始めるか......俺は懐に入れていた酒を頭から被る。
それから路地に積まれた荷物を派手にひっくり返す。
「んあー、おぉ。すまねぇ......なぁ。」
そのまま千鳥足で路地を進んで道を横断、賊が待機している路地に近づいていく。
「......。」
賊を盗み見ると一瞬めんどくさそうな様子を見せたが気を引き締めてこちらを警戒してくる。
俺は路地の近くでうつ伏せに倒れいびきをかき始める。
距離は微妙に開いていて一息に詰めるには難しい距離といったところを保っている。
暫くこちらを警戒していたがやがて問題ないと判断したのか視線が外れる。
まぁこの距離なら多少警戒を緩めても十分対応できるだろうし、その気持ちは分かる。
本当はもっと距離を詰めたかったのだが、かなり警戒がきつかったので急遽作戦変更したのだが......酒を被る必要がなかったな......べたべたして気持ち悪い。
そんなことを考えていたら視界の隅でマナスの合図が見えた。
次の瞬間一気に飛び起き、距離を詰めた俺は賊の顎と鳩尾にそれぞれ掌と肘を叩きこむ!
突然動き出したというよりも目の前に現れた俺に対処することも出来ず、それぞれ急所に一撃を叩きこまれた賊は悶絶して倒れこむ。
地面に崩れた二人の膝を踏み砕く。
陶器の破片を踏んだような感触が足に伝わり、相手の足があらぬ方向を向いた。
これで近衛に引き渡せば大丈夫だろう。
隠しておいたロープで相手の腕を縛りながら自分が一気に詰めた距離を確認する。
いや、この距離を寝ている状態から詰められるわけないって思うよな......普通はありえねぇ......。
我ながら無茶苦茶だとは思う。
こりゃ本格的にケイと別れた場合......いや、例え一緒にいたとしても何らかの理由で強化魔法が受けられない時の事を考えないとまずいかもしれないな......。
リィリ達の方は......まぁ心配するだけ無駄だな。
衛兵がこいつらを受け取りに来たら向こうに合流しないとな......流石にファラの事は龍王国には秘密だから井戸を確保している賊はリィリが倒したことにして引き渡す予定だ。
っと衛兵が来たな......酒を被っちまったが......酔っ払いと間違われないよな......?
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