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3章 龍王国
第111話 推察してみよう
しおりを挟む「口を挟んですみません。それで、今の状況が目的と言うのはどういう事ですか?」
「うむ、現在龍王国の各地に騎士団は散らばっておる。このままいけば龍王国内はどんどん混乱していくじゃろう。いや、地方の方は既にかなり混乱しておるやもしれぬ。」
「龍王国を混乱させることが目的だと?」
「分からぬ。じゃが各所の混乱、国防力の低下、経済の麻痺、応龍への求心力の低下。すぐに思いつくだけでもこれだけの効果が考えられるのじゃ。龍王国は政治的にも経済的にも安定した期間が長かった。何が狙いであっても効果は大きいじゃろうな。これが東側の国の仕業じゃとしたら攻め込む為の準備といった感じじゃが......。」
「龍王国の東の方は小国が戦争を繰り広げているのでしたっけ?」
「うむ、じゃが流石に龍王国に隣接している国は大国に喧嘩を売れるような国力はなかったはずじゃ。たとえ今回の件で龍王国が多少疲弊したところで相手にならぬじゃろうな。」
「なるほど......だとすると黒幕とは考えにくいですね。」
「まぁ、どこの国にも考えが足りぬ阿呆はいるからのう。絶対とは言い切れぬのじゃ。」
現時点では情報が無さ過ぎて狙いは絞れないか......。
「妾から言い出したことじゃが、これ以上は分からぬじゃろうな。」
「そうですね......魔道具を魔物に埋め込んでる所を捕まえたり出来ればいいのですけど。」
「騎士団が見回りを強化しておるし、警戒は十分しておるじゃろうから簡単にはいかぬじゃろうな。」
現場を見られたら一発アウトだもんね......そりゃ警戒は凄くしているだろうな......。
「この後はどうしますか?」
「ハヌエラたちとは別れて一度王都に戻るのがいいと思うのじゃが、どうじゃろうか?」
「闇雲に魔物の群れを追うよりは情報の集まる王都にいるほうがいいかもしれないな。他の地方に散っている騎士団の情報も貰えるしな。」
「そうですね。僕もそれがいいと思います。」
「じゃぁ明日は王都に戻る感じだね。」
「そうじゃな。しかし、今更ながら王都に行くときに遭遇した魔物の群れは勿体ないことをしたのう。」
確かに、あの時遭遇した魔物を調べられていれば話はもっと早かったかもしれないけど......まぁ依頼を受ける前だったから仕方ない......。
「探すと見つからないってのはお約束だよねぇ。」
「噂をしたら来るってお約束もありますよ。」
「それは来てほしくない時のお約束じゃないか?」
まぁ確かに望んでいることと逆の事が起こるというのは多々ある事だけど......。
それにしても魔物の情報か......いくらファラの情報収集能力が高くても街の外や離れた場所の情報を瞬時に手に入れるなんてのは無理な話だからな......。
そう簡単にはいい方法は思いつかないな......移動速度に限界があるしな......そういえばクレイドラゴンさんはどうやって聖域から王都にいるヘネイさんに連絡をとるのだろうか?
今度聞いてみよう。
もし俺達にもできる方法ならファラの仕事がやりやすくなるかもしれないしね。
「往々にして望んでないことが起こってしまうのが人生というものじゃな。とりあえず、妾からはこれくらいじゃが、何か気になる事はあるかの?」
「この魔物への対抗策ってありそうですか?僕達みたいに魔物と戦えるなら問題ないんですけど......。」
「そうじゃな......確かに龍王国のあちこちで問題が起きている以上何かしら戦う術のない民でも対抗できる手段があるとよいのじゃろうが......そもそも力を持たぬものでは普通の魔物の対処も出来ぬからのう......魔道具の効果だけを無効化したとしても遭遇している時点で危険には変わりないのじゃ。」
「......なるほど。」
遭遇した時点でアウトなのか......。
「そういえば、魔物避けみたいな魔物が近寄って来ないようにする魔道具ってないのですか?」
「研究しているという話は聞いたことあるが、実用化されたとは聞いたことがないのう。」
これだけ魔物が沢山いる世界だったらそういう技術は必要な気がするけどな......この世界が結構長い歴史があるのにあまり文明が進んでないのは魔物のせいで生存圏や流通が広げにくいのが原因なのかな......?
「魔物は生態がそれぞれ異なるからのう。魔物と一括りに言ってはおるがそれぞれが全く異なる生き物じゃ。すべての魔物に効くような仕掛けは難しいじゃろうな......。」
なるほど......毒とかで殺すのならともかく寄せ付けないようにするって言うのは難しいのか。
「逆に誘引するってのはどうだ?」
「それもやはり同じじゃな。肉食がいれば草食もいる。嗅覚を頼りにする奴もいれば聴覚を頼りにする奴もいる。嗜好も使う感覚器官も違う者達を一纏めにするのは難しかろう?」
レギさんの案にやはり多様な生態のある魔物全般に対応するのは難しいと首を振るナレアさん。
......ん?
何か引っかかるな......多様な生態......?
「......ナレアさん。今暴れている魔物に関してですが、どうやって知覚しているかはそれぞれ違うかもしれませんが狙いは同じじゃないですか?」
「......確か、街道を移動する馬車を無視して村に向かっていったとか言っておったな。」
「それと、普通の魔物であればシャルやグルフの接近に気づいたらこちらから逃げるように動くのですが、あの魔物たちはシャル達を無視して村に向かっているようでした。」
「自分たちが襲われない限り目標に向かうってことか?」
俺があの時感じた違和感を話すとレギさんが後を継いでくれる。
「その目標って言うのが分かればうまく誘引できるかもしれません......そういえば、今まで被害ってどのくらい出ているのでしょう?」
「被害というと襲われた村のか?」
「えぇ、襲われた村の......村人の死傷者数です。」
「ヘネイに貰った資料にあった気がするのじゃ......。」
俺達は手分けしてヘネイさんから貰った資料を調べる。
もし俺の予想が正しかったら......。
「あったよ。騎士団が間に合わなくて既に魔物が村の中まで侵入しちゃってた村の被害報告書。」
「こっちにもあったぜ。」
リィリさんとレギさんが見つけた資料を皆でのぞき込む。
「建物の被害は結構あるみたいですけど......怪我人や死者は少なくありませんか?」
「言われてみればそうだな。普通魔物に襲撃された村はこんな被害じゃ済まないはずだ。」
「こっちも夜に村を襲われているのに被害はあまりないね。」
「龍王国に入る前にスラッジリザードに襲われていた村では比較的早い段階で僕たちが魔物を排除しましたが、それでも結構被害は出ていました。あのスラッジリザードはこちらから攻撃をしなくても人を襲っていましたし恐らく通常の魔物の襲撃だったと思います。」
「あの時の魔物は騎士団が回収していた。ワイアード殿に聞けば魔晶石があったかどうかわかるかもしれないな。」
スラッジリザードの件はあの村の人達にとっては運が悪かったとしか言いようがないけど、恐らく偶然起こってしまった襲撃だと思う。
数日前から魔物の影があったから救援を要請したと言っていたし、おかしくなった魔物であればすぐに襲撃を受けていたはずだ。
「あのスラッジリザードが今回の件に関係ないとすれば、おかしくなった魔物の狙いは人ではないと思います。」
「つまりおかしくなった魔物を誘引する要因が村に配置されているかもしれないということじゃな?」
「その可能性が考えられますね。」
「ふむ......これは騎士団の協力が必要じゃな。明日出る前にハヌエラにはこの件については話しておこう。後は王都に戻りヘネイから国に報告してもらうのがいいじゃろうな。」
あまり頭越しに情報をやり取りするのは良くないのだろうけど、魔物を誘引する要因の調査は早ければ早い方がいい。
ワイアードさんの部隊だけでも動いてもらうのは悪くないと思う。
「今日の所はこの辺までじゃな。明日は王都に向けて早めに出るとするのじゃ。」
ナレアさんの言葉に頷く俺達。
色々と判明したような気もするが、ナレアさんが調べた魔道具の効果以外はあくまで推察だ。
どこまで合っているかは分からないけれど魔物の動きに関しては悪くない線をいっている気がする。
後は今回の件を引き起こした奴の狙いだけど、そこが分からないのは非常に不安を覚えるね......。
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なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
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