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3章 龍王国
第108話 愛ゆえに
しおりを挟む「ところで何の魔物を捕獲したのじゃ?」
ナレアさんの言葉に全員が隊列の後方で運ばれている布に覆われたものを見る。
まぁ間違いなくあれが魔物の入っている檻だろう。
「捕獲した魔物は、蛇とクモです。」
う......クモ......。
俺が嫌そうな顔をしたのを見逃さなかったナレアさんがにやにやしている。
「なるほど......蛇とクモ......クモのう......。」
「クモが何か?」
「いや、何でもないのじゃ。ところでケイ、捕獲した魔物を確認してこんかの?」
「......今はワイアード様の話を聞く方が大事かと思います。捕獲されている魔物については、後程全員で確認に行くのがいいかと。」
「ふむ?しかし手分けして情報収集した方が良くないかの?情報は後で打ち合わせをするときに纏めるから問題なかろう?」
くっ!?
正論で攻めてきた!
「それは確かにそうかもしれませんが......。」
「というわけでここは妾とレギ殿とリィリに任せてケイは魔物の方を頼むのじゃ。」
三対一!?
暴論で責めてきた!
「そこはせめて二人ずつに分かれるべきじゃないですかね?それに、魔道具の事を考えるとナレアさんが魔物を確認したほうがいいと思います。」
「それもそうじゃな。ケイがそこまで妾と離れたくないというのであれば、妾もそちらに行くのじゃ。」
「おや、ナレア様とケイ殿はそういう御関係でしたか。」
ワイアードさんが驚いた表情で言ってきた。
いや、そういう関係じゃないです。
「うむ、ただならぬ関係じゃな。」
「なんと!それは、おめでとうございます!私も負けていられませんね!」
何故だかワイアードさんが興奮している。
後、何一つ勝ってないです。
「いや、お主はそのまま負けておいた方がいいと思うのじゃ。」
「いえ、決めました。王都に戻り次第想いを告げようと思います。」
唐突にワイアードさんが告白を決意したようだ......。
何故この流れで......?
それより情報収集は......?
「想いを告げるも何も、お主ふられ続けておるじゃろ。」
「照れているだけですよ。それに幼き頃、ちゃんと結婚の約束をしていますので問題ありません。」
「年々当りがきつくなっているじゃろうが。」
「愛ゆえにかと。」
「......約束しておるなら想いを告げる必要はないのではないか?」
「思っているだけで相手に伝わると考えるのは傲慢です。きちんと相手に伝えることが重要だと考えます。」
「......。」
おぉ、ナレアさんが押されている。
いや、ナレアさんから引いているのか......?
ワイアードさんから少しだけ危険な感じがしてきましたね......。
「おっと、申し訳ありません。今は仕事中でした。続きをとは思いますが、私から伝えられることはもうありません。何かお聞きしたいことはありますか?」
「......あーレギ殿、ここは任せてもいいかの?妾は捕獲された魔物の方を見てくるのじゃ。」
そう言ってナレアさんはそそくさと隊列の後方に移動していく。
「お、おう。」
ナレアさんが逃げた......。
まぁ、レギさんも微妙な表情をしているけど。
とりあえずどうしたものか......。
「ケイ君もナレアちゃんについて行ったら?ここは私達だけでいいよ。」
断る理由が思いつかない......非常に行きたくないけど......二人ずつって言ったのは俺だしな......。
それにここに残るのもちょっとな......。
「分かりました。お願いします。ワイアード様、私も魔物の方に行こうと思うので失礼します。」
「承知しました。宜しくお願いします。」
そう言って頭を下げるワイアードさんは先程の雰囲気を微塵も感じさせない真面目な騎士だった。
「あぁ、来たかケイ。」
「元々僕が指名されていましたからね......。」
隊列の後方に下がったナレアさんに追いつくと、丁度魔物の檻が乗っている荷台の上に登った所だった。
「苦手じゃろうに、律儀なやつじゃ。」
ナレアさんが荷台の上から手を伸ばしてくる。
「ありがとうございます。」
ナレアさんの手を掴んで荷台の上へと上がる。
「さて、とりあえず見てみるとするかの。」
ナレアさんが檻を覆っている布を外すと、中にはデカい蛇の魔物が入っていた。
よし!蛇なら平気だ。
「......なんじゃ、外れか。」
そう言ってもう一つの荷台に移動しようとするナレアさん。
「いやいやいや。外れとかないですよ。この子でいいじゃないですか。」
とぐろを巻いているので何メートルくらいあるのかは分からないけれど、全長は五メートルくらいあるんじゃないだろうか?
格子が網目状になっているの出てくることは出来ないだろうけど、こっちからも調べるのは難しそうだ。
毒液とか飛ばしたりしないよね......?
「そうか?もう一匹のほうが良さそうな気がしたんじゃが......。」
「どちらも似たようなものじゃないですかね?」
「しかし、この格子では調べようにも調べられぬではないか。」
布を外されて暴れ出した蛇を見ながらナレアさんが言う。
この暴れようだと調べるのは難しそうだ......。
「この感じだともう一つの檻も暴れまくって調べられないんじゃないですかね?」
「......それもそうじゃな......移動中に調べるのは諦めるか。」
ナレアさんはため息をつくと手に持っていた布を元に戻す。
「それにしても先程のワイアードさんは様子がいつもと違いましたね。」
「ふむ、妾の知っているハヌエラは昔からあんな感じじゃ。基本人の話は聞かぬし、聞いても曲解するのじゃ。」
「前面白いって言っていませんでした?」
「傍から見る分には面白いのじゃ。直接かかわるのは......ちょっと面倒じゃな。」
「面倒ってまた......しかしワイアードさんは貴族ですよね?お相手がいらっしゃったんですね。」
「ワイアードはいい歳じゃからな。跡継ぎじゃし本来であれば既に子を儲けておかねばならん頃合いじゃが......。」
「結婚したい相手がいるからって所ですか?」
真面目な騎士かと思っていたけど、意外と情熱的な人のようだ。
さっき聞いた感じだと少し行き過ぎている気もするけど......。
「まぁそんな感じじゃのう......相手にされておらぬが。」
「そんな感じの事を言っていましたね。」
「まぁ一緒に王都に戻るからな。相手にも会う機会があるじゃろ。十中八九どころか十中十ふられるがな。」
「そんなに脈のない相手を追いかけているんですか?」
「......そうじゃな。妾としては間違いなく無理じゃと思っておるが......本人は諦める気はないのじゃろうな。添い遂げられぬようなら一生独身も辞さないと言っておるが......それは周りが許さぬじゃろうな。」
「貴族の跡取りなんですよね......?確かにそれは難しそうですね。」
俺のふわっとした知識でも、流石に貴族の跡取りが結婚せずに子供を作らないのは非常にまずいと思う......。
「まぁ、他人が口を挟むことじゃないがのう。まぁそれはそうと、奴のふられっぷりは見ていて非常に面白いのでお勧めじゃ。」
「それは趣味が悪いですよ......。」
「流石に他人がふられるのを見るのが楽しいと言っているわけではないのじゃ。とは言え、ハヌエラのあれはな......まぁ、見れば分かるのじゃ。」
「僕としてはうまくいって欲しいと思いますが。ワイアードさんはいい人そうですし。」
「いい奴には違いないのじゃ。じゃがそれとこれは別問題じゃからな、いい奴が必ず報われるとは限らんのじゃ。こと恋愛においては特にのう。」
「ワイアードさんもてそうですけど......。」
「それこそ全くの別問題じゃな。振り向いて欲しい相手は一人じゃろ?」
「まぁ、それはそうですね。」
「貴族の結婚に恋愛は不要じゃ。今はまだ大目に見てもらっておるが、時間の問題じゃろうのう。」
やっぱりそんな感じなのか......。
まぁ好きな相手がいるわけじゃないし、俺が貴族なわけでも無いけど......やっぱりそういうのは聞くだけでも切ない感じがするなぁ......ワイアードさん......うまくいくといいのだけど......。
切ない気持ちになりながら、ワイアードさんの想いが届くように祈った。
......この場合、まだ見ぬ応龍様に祈るべきなのかな......?
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