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3章 龍王国
第106話 意外な再会
しおりを挟む魔術師ギルドで魔道具を購入した帰りに冒険者ギルドに向かうことにした。
思ったよりもすんなり購入することが出来たので時間がかなり余ったのだ。
それにしても代金を渡した時に大興奮するかと思っていたら、声もなく涙を流した時はどうなる事かと思った......。
すぐに落ち着いてくれて本当に良かったと思う。
しかしファラから現状は聞いていたけど、もしかしたら彼女以外の職員はいないのかもしれないな。
今回俺が購入した魔道具位じゃ大した足しにはならないだろうけど......いや、とりあえず魔術師ギルドの事は置いておこう。
気分を切り替えようと街に目を向ける。
昨日も聞いていたけど街に住む人達に混乱はないようだ。
まぁ国内であっても距離的にかなり離れている場所の話だからこんなものなのかな?
街の外を移動しなきゃいけない商人からしたら他人事ではないんだろうけど......流通が滞るようになったらかなりの大問題だよね。
まだその段階ではないみたいだけど、誰だって命は惜しい......早い所解決しないとそうなってしまうのも時間の問題だろう。
「あれ?そこにいるのはケイじゃないっスか!?」
少し暗澹としている所に声をかけられる。
あれ?この喋り方は......。
振り返ってみると見知った顔がこちらを見ながら驚いていた。
「クルストさん!」
「やっぱりケイだったっスね。こんなところで会うなんて偶然なんてもんじゃないっスよ!」
「本当ですね!お久しぶりです!あの街を出る時に挨拶出来なくて気になっていたんですよ。」
「ケイは律儀っスね。ダンジョン攻略の祭りの頃に、俺はもう仕事であの街を出ていたから仕方ないっスよ。」
そう言ってクルストさんは笑う。
懐かしい顔に会えたお蔭で先程までの気分が嘘のように晴れているが、我ながら現金なものだとつくづく思う。
「そう言ってもらえると。クルストさんは仕事であの街を離れているって聞いていましたけど龍王国まで来ていたんですね。」
「元々はここまで来るつもりはなかったっスよ。報告ついでに割のいい依頼を受けていたら気付いたらここまで来ていたんスよ。遠くまで来たもんっス。」
「それは何というか......凄い計画性ですね。」
「龍王国内はあまり詳しくないからここを最後に引き返そうと思っていたっスよ。ケイは仕事っスか?」
「そうですね。こっちに来てから受けたんですけど......そういえばクルストさん道中大丈夫でしたか?」
「大丈夫って何がっスか?」
「魔物の群れとか見ませんでした?」
「そんな恐ろしい物見てないっスよ!」
まぁ、クルストさんは一人旅みたいだし見かけていたら大変なことになっているか......。
「そうですか、良かったです。最近龍王国のあちこちで魔物の群れが暴れているって話じゃないですか。」
「そんな事になっているっスか?」
クルストさんが目を丸くしている。
「あれ?クルストさんにしては情報が遅いですね?」
「あぁ、王都には今日着いたところなんスよ。最近はギルドがないような場所を回ってたから色々と疎くなっているっスね。暫くは情報収集する必要があるっス。」
そう言ってクルストさんは考え込むようなそぶりを見せる。
まぁ、街中なら比較的安全かな?
「今夜はちょっと依頼を片付けないといけないので無理なんスけど、明日の夜とかメシとかどうっスか?奢るっスよ!ついでに話を聞かせてくれると嬉しいっス。」
「あー、明日は僕達依頼の関係で王都を出る可能性が高いんですよ。」
「それはタイミングが悪かったっスね。」
クルストさんが残念そうな表情で頭を掻いている。
まぁでもこのタイミングじゃないと会えなかったかもしれないからタイミングは良かったんじゃないですかね?
「日帰りってわけじゃないですけど王都には戻ってくるのでその時お願いします。」
「了解っス。ところで僕達ってことは他にも仲間がいるっスか?」
「えぇ、レギさんとリィリさん、あと一人一緒にいます。」
「あの二人も一緒だったっスか。それにしても四人組とはケイもいつの間にやら立派な冒険者っスねー。」
「四人が冒険者の基本なんですか?」
「いや、そんなことはないんじゃないっスかね?でも複数人で組むのは普通だと思うっス。ケイみたいに二人でダンジョンを攻略したりするのは狂気の沙汰っス。」
「......それ、昨日も言われましたよ。」
「みんな思ってる事っス。」
「......クルストさんはギルドに向かう途中ですか?」
「相変わらず物凄い強引な話題の変え方っス。まぁいいっスけど......そうっスよ。とりあえず報告と地理を調べないといけないっス。」
「僕もギルドに行くところなんで一緒に行きましょう。レギさん達もいるはずですよ。」
「あの禿頭を見るのも久しぶりっスねー。」
どう考えても制裁フラグを立てているとしか思えないクルストさんの台詞に苦笑いしながらギルドに向かうことにした。
まぁレギさんのセンサーがどのくらいまで届くのか知るいい機会かもしれない。
クルストさんには生贄になってもらおう。
「よぉ、こんなところで会うなんて奇遇だな。元気してたか?」
レギさんが爽やかに挨拶するのは力なく宙づりになっているクルストさん。
けして元気とは言えない姿だ。
「......な......んで......?」
ひとしきり藻掻いた後ぐったりとしてしまったクルストさんから当然の疑問が上がる。
レギさんは力を失ったクルストさんを地面に捨てると事もなさげに語る。
「そりゃぁ、クルストが俺に対して事実無根な中傷をしたとケイが言っていたからな。」
その言葉を聞いた瞬間クルストさんが飛び起きて俺に詰め寄ってきた。
前より復活が早くなってる......強くなったんですね......。
「ケイ!あんたなんてこと言うっスか!酷い裏切りっス!冗談じゃないっス!こっちは屠殺される家畜みたいに吊るされたっス!」
逆さまじゃないだけマシ......いや頭掴んで吊るされる方が辛いかな......?
それはともかく俺は何も言ってないんだけど......。
「いや、クルストさん落ち着いて下さい。一緒に冒険者ギルドに来てクルストさんが挨拶した直後に吊るされたんですよ?いつ僕が密告する暇があったんですか......。」
「......それもそうっスね。」
「まぁ、ケイ君に伝える意図が無くても全身からにじみ出てくるからねぇ。」
「そうだったっス!ケイを見れば一目瞭然だったっス!やっぱりケイがチクったようなもんっス!」
えぇ?......酷い言いがかりっス。
こいつ悪口言ってましたよ的な雰囲気を出した覚えはないのですけど......。
「冗談はさておき。まさか龍王国の王都出会うとは思わなかったぜ。」
レギさんが話題を変えてクルストさんに話しかける。
微妙に俺はもやっとしてるんですが......まぁいいか......。
「それはこっちもっス。まさかレギさんがあの街を離れて仕事するとは思ってなかったスよ。」
「まぁ、ケイの手伝いみたいなもんだ。それより今夜どうだ?ここまでの話を聞かせてくれよ。」
「あーすんません。ケイにも言ったっスけど、今日の夜は仕事があるんスよ。明日以降も暫く王都にいるつもりなんでその内お願いするっス。」
「そうか、なら仕方ないな。その時を楽しみにしとくぜ。」
「クルスト君は王都に来たばっかり?」
「そっスよ、今日着いた所っス。」
「そっかー、宿決めてないならお勧めのところあるよ。」
「リィリさんのお勧めならメシが期待出来そうっス。教えてもらってもいいっスか?」
「うん、今度会う時感想聞かせてね。」
「了解っス!」
それから暫く四人で他愛のない会話をした後、クルストさんはギルドの受付に報告に向かっていった。
相変わらずクルストさんはフットワークが軽そうだ。
「そういえばもうケイの用事は済んだのか?」
クルストさんを見送った後レギさんが話しかけてきた。
「えぇ、目的の魔道具を購入出来ました。これでまた勉強が進みます。」
「そうか。どんな魔道具を作っているのか知らないが、出来たら見せてくれよ。」
「えぇ、近いうちに。」
まだ今作っている魔道具の事はみんなに秘密にしてある。
驚いてくれるといいけど......。
まぁ、とりあえずこれでマナスに協力してもらえば確実にちゃんと動作する魔道具を作ることが出来る。
レギさんに渡す魔道具の選定もしないとな......というかこれはレギさんに選んでもらった方がいいかな。
俺が使ってみせて、気になったやつを試してもらうって流れでいけるね。
ついでにリィリさんとナレアさんにも使いたい道具がないか見てもらうのもいいな。
これから魔物と戦う機会も多そうだし、近いうちにみんなに魔道具を見てもらう事にしよう。
レギさんには前見てもらっていたっけ?
まぁあの時、レギさんは起動できなかったから改めて見てもらった方がいいよね。
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