上 下
81 / 528
3章 龍王国

第80話 弄られるのは分かってました

しおりを挟む


「妾はナレアじゃ。冒険者をやっておる。今日はケイにナンパされてきたのじゃ。」

晩御飯を食べる約束をしていた店にナレアさんを連れて来てレギさん達にナレアさんを紹介した後、ナレアさんが発した第一声がこれだ。

「「......。」」

レギさんもリィリさんも固まってしまっている。
これはそろそろナレアさんの頭に一発入れたほうがいいのではないだろうか?
そんなことを考えていたら二人が再起動する。

「俺はレギだ。ケイの仲間で冒険者をやっている。」

「私はリィリ、同じくケイ君の仲間よ。よろしくね、ナレアちゃん。」

二人はナレアさんの台詞をスルーしてくれるようだ。

「うむ、よろしく頼むのじゃ。」

「しかし......そうか、ケイの好みはこういう感じなのか......。」

「うーん、ケイ君は女の子に興味がないのかと思っていたからお姉さんは嬉しいなぁ。」

全然スルーしてくれてなかった。
それどころか全力で乗っていくスタイルだ。

「しかし、ケイの保護者としてこれはどうするべきなんだ?褒めるべきか?注意するべきか?」

「少しくらいは若いうちに女の子に慣れておいた方がいいんじゃないかな?」

「うむ、妾もそう思うぞ。若い内に慣れておかんと歳を取ってから変な女に引っかかったりするのじゃ。」

皆さん仲が良さそうで何よりですね。
でもそろそろ口を挟ませてもらいたいですね?

「確かに、ケイはいい歳の割に女と全然接そうとしなかったからな。リィリとデリータくらいじゃねぇか?会話したことあるの。」

「後はギルドの受付とかお店の人とか......。」

「仄暗い人生を歩んでおるのう。」

なんか哀れまれだした......。
色々と忙しくてそういうことまで頭が回らなかっただけですよ?
それとレギさんだって似たようなものだと思います。
うん、ここはレギさんに話題をすり替えよう。

「そういうレギさんはどうなんですか?」

「ナンパの経験はねぇなぁ。」

「僕もナンパをした覚えはないんですが......。」

「確か......俺はあなたにもう一度逢いたい、そして次にもし出会うことが出来たのなら、ディナーを共にしてくれませんか?的なことを以前、別れ際に言われたのう。」

「んん!?相当脚色されてませんかねえ!?それ!」

「あぁ、前にナンパしたのはナレアちゃんの事だったの!それはそれは......。」

「めちゃくちゃ狙ってんじゃねぇか!」

頬に手を当て顔を赤らめるナレアさんににやにやしているレギさんとリィリさん。
あ、そうですか。
今日はもうそういう感じでいくんですね。

「あれほど情熱的に誘われてはのう。無下にするのも難しいわい。」

「ケイ君、思っていたよりも積極的だったんだね!」

レギさんに話を逸らそうとしたけど秒で軌道修正されてしまった。
ナレアさんが手ごわい......。
本当に財布を見失って慌てていた人と同一人物か?

「......そういえばナレアさん。持ってきたお酒はどうしたんですか?」

「ふむ......まぁ、とりあえずいいじゃろう。これはお近づきの印に持ってきたのじゃが、皆でどうじゃ?運よく故郷の酒を見つけることが出来たのでな。」

「こりゃわざわざ悪いな、ありがたく受けさせて頂くぜ。」

「ありがとうナレアちゃん。故郷のお酒か......どんなお酒なのかな?」

「ブドウから作るワインなのじゃが、普通のワインとは違ってのう。実を潰して発酵させるのじゃが途中で皮を取り除くのじゃ。そうすることで濃い赤ではなく薄いピンクと言った色合いの酒になるらしいのじゃ。まぁ詳しいことは知らんが、皮の渋みが出ないからか柔らかい口当たりの酒じゃ。」

「へぇ、面白そうな酒だな。ワインっていうと魔道国の方で有名な酒だな。前向こうに行った時に呑んだことあるが一口目は渋いが、呑んだ後の鼻に抜ける香りが良かった覚えがあるな。」

「私は呑んだことが無いから楽しみだな。」

「僕もワインは初めてです。」

ワインって高そうなイメージがあるけど......この世界だと西の方で作られているみたいだな。

「店に持ち込みの許可は貰ってあるからの。遠慮せずに呑むとよい。」

そういってナレアさんは皆のコップにワインを注いでいく。
ワインっていうとワイングラスってイメージがあるけど、ガラス製品ってあまり見たことがないな......。
ガラスも貴重なのかな......?
確か珪砂から作れるんだっけ......でもなんか他にも混ぜないといけなかった気がする......。
まぁ......作るのは無理だな......やっぱり俺の知識って全てが中途半端だな......。
もう少し理科とか化学とか勉強しっかりしておけば良かったかな......?

「じゃぁ、新しい出会いに。」

「うむ、乾杯じゃ!」

リィリさんが音頭を取り、ナレアさんと乾杯する。
口に含むとスッキリした味わいに仄かにブドウの香りが広がる。

「ほんとだ、いい香り。でもレギにぃが言っていたみたいに渋くはないね?」

「そうだな。俺が前に呑んだ奴とは口当たりが全然違うな。スッキリしているというか......。」

「妾はこのスッキリした感じが好きでのう。濃い赤のワインはちと苦手なのじゃ。」

「このワイン美味しいです。僕はあまりお酒は呑めないのですけど、このワインは結構呑めそうです。」

「酒精は弱くないでな。調子に乗って呑むと一気に来るのじゃ。」

うん、調子に乗らないようにしておこう。
前後不覚に陥ったら何を言われるか分からない......。
今日は特に不味い気がする。

「ダンジョン攻略者とこうして縁を結べたのは喜ばしい限りじゃ。ケイ達は仕事で龍王国にきたのかの?」

「仕事ではなく、僕の用事に付き合ってもらっている感じですね。知人に手紙を持っていくところですが、とりあえず首都の方を目指しています。」

「ほう、首都に行くのか。奇遇じゃな、妾は知り合いに呼ばれて首都を目指している所だったのじゃ。」

そういうとナレアさんはグラスを傾ける。

「ここから首都方面に向かうと次はここより少し大きな街があるみたいだな。」

「うむ、妾は何度か行ったことがあるが結構賑やかな街じゃな。馬車で行くと二、三日といったところかの。」

「二、三日ですか、首都まではここからだとどのくらいなんですか?」

「馬車だと一月くらいかかるらしいな。」

「そんなに遠いんですか?」

「龍王国は山が多いからのう。馬車だと通りにくい道も多いし、山を迂回しないと進めないからのう。」

レギさんの言葉にナレアさんが説明をしてくれる。

「なるほど......確かに山が多いと馬車での移動は厳しいですね。」

「そういえば、山を越えてきたということはケイ達は馬車ではないのじゃろ?」

「えぇ、そうですよ。」

「ふむ......首都まで一緒に行くのも面白いかもしれぬが......お主ら出発はいつの予定じゃ?」

「僕はこの街での用事は終わりましたけど、レギさん達はどうですか?」

「俺はいつでも出られるぜ。」

「私も、行きたかった店はここで最後だからいつでもいいよ。」

レギさんもリィリさんもいつでも良さそうだ。
ナレアさんと一緒に首都まで行くのは面白そうだけど、俺たちの場合移動手段がな......。

「ならば明日の朝この街を発つのじゃ。それで、次の街にどちらが先に到着するか勝負せぬか?」

「勝負ですか?」

「うむ。単純にどちらが先に着くかの勝負じゃ。勝った方は一つだけ好きなことをお願いできるという事でどうじゃ?」

「うーん、別に構わないですけど......僕たちは馬車で移動するよりかなり早いと思いますよ?」

「ほう、それは楽しみなのじゃ。妾も馬車よりかなり早く移動できるからな......では指定の宿で落ち合うというのでどうじゃ?其方は初めての街なのじゃろ?」

「そうですね。僕たちは龍王国自体が初めてなので。」

「ではいい宿を紹介しよう。ほれあの時の祭りで料理大会をやっておったろ?アレに出場していた宿じゃ。」

「それは最高だね!是非そこをゴールにするべきだよ!」

ナレアさんの言葉にリィリさんが食いつく。
競争することは決まってしまったようだ......。

「うむ、では後で宿の位置は教えよう。ほほ、楽しみなのじゃ。何をさせようかのう。」

ナレアさん相当自信があるみたいだな。
でもこっちはシャル達だからな......そうそう負けるとは思えないけど......。
レギさんとリィリさんはニヤニヤしながらこちらを見ている。
勝っても負けても俺がダメージ受けそうな気がしてきたな。
上機嫌にワインを呑むナレアさんを見て何となくそう思った。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...