上 下
72 / 528
3章 龍王国

第71話 スラッジリザードとの戦い

しおりを挟む


「うわあああああああ!!」

腰が抜けたのか悲鳴を上げるだけで逃げようとしない男の人に飛びかかるトカゲ。
横合いから飛び込んだ俺は今度はトカゲを真上に蹴り上げる。
家を壊すのは良くないよね。
さっきよりもその辺を気にする余裕が俺にも生まれているようだ。
ナイフを抜いてトカゲに狙いを定める。

『ケイ様!その魔物の腹を斬るのは避けてください!』

珍しくシャルから戦闘中にアドバイスが飛んでくる。
逆らう意味はない。
落ちて来るトカゲの首をナイフで切り裂くと血が噴き出した。
あ......ダンジョンの魔物じゃないんだから魔力に還らないじゃん......。
血がかからないようにとっさに後ろに逃げる。
首を裂かれ地面に叩きつけられたトカゲは少しの間じたばたと手足を動かしていたがやがて動かなくなる。

「大丈夫ですか?立てますか?」

「う、あ......あ、あぁ。た、立てる。」

「安全な場所までいけますか?大丈夫なら僕は他の場所を助けに行きますが。」

「あ......あぁ、多分大丈夫だ......。すまない、村の皆を助けてくれ。」

俺は頷くと三度屋根の上に飛び上がる。
それにしてもこの村の人たちは中々勇敢だね......俺が同じ立場だったら縋り付いてでも助けを求めそうだけどな......。
そんなことを考えながら辺りを見渡すがこの付近にトカゲはいないようだ。
村の奥の方で火の手が上がっているのでそちらの方に移動してみよう。
俺は屋根から飛び降りて駆け出した。

「シャル、このトカゲってどんな魔物か分かる?」

『はい、これはスラッジリザードです。体の中で可燃性のガスを生成してそれを吐き出すことが出来ますがスラッジリザード自身は火に強いわけでも無く、火を吹けるわけでもありません。』

「じゃぁあそこが燃えているのは......何かに引火したって感じかな?怪我をしている人がいないといいけど......。」

『スラッジリザードの吐くガスはかなりの異臭がするのでお気をつけください。それだけで獲物を昏倒させるほどです......。』

シャルが少し嫌そうにしている。
恐らく嗅覚が強いから俺には感じ取れないスラッジリザードの匂いを感じているのだろう......。

「大丈夫?シャル。辛かったら離れていていいんだよ?」

『問題ありません!ご心配頂きありがとうございます、ですが御側に控えられないほうが辛くありますので。』

「うん、ありがとうシャル。」

『それと伝えるのが遅れて申し訳ありません。ガスは腹の部分に貯めているのでその部分を斬るのは避けた方がいいと思います。』

「あぁ、それでさっき腹を避けてって......了解。」

俺は基本的に首とか手足を狙うことが多いけど、さっきナイフを構えた時にシャルが慌てて注意してきたのはあの位置でガスを浴びたら大変なことになるからか......。

『ケイ様、その建物の向こうに魔物が二匹います。あと、恐らく死体も......。』

「......了解。」

近づくと血の匂いを感じる。
非常に見たくはないが仕方がない......意を決して陰から飛び出す。
シャルが言うように魔物......スラッジリザードが二匹。
何かを食べるのをやめてこちらに向かってくるトカゲ共......スラッジリザードは口の周りを血で汚しその顔を赤黒く染めている。
特に連携するわけでも無くまっすぐ突っ込んでくるスラッジリザード。
中々好戦的だね......。
俺は構えたナイフに魔力を流し刀身を伸ばし、すれ違うように相手の側面へ走りこむ。
目標を失ったスラッジリザードが追いかけるように首を巡らせ俺の方に向きなおろうとする瞬間、首にナイフを叩きこむ。
相手の体が大きく一撃で首を刎ね飛ばせなかったが、首を半分以上断ち切ることが出来た。
そのままスラッジリザードの頭を蹴りつけると千切れた頭が飛んでいく。
残ったもう一匹に目を向けると喉が異常に膨らんでいるのが見えた。

『ケイ様!ガスです!』

シャルの警告と同時に俺は全力で地面を蹴り相手の側面へと飛び込みそのまま相手の後方へ駆け抜ける。
次の瞬間ガスを吐き出したスラッジリザードの方から物凄い臭い漂ってくる。
こ......これはきつい!
下水を煮詰めているような......むわっとした臭いの塊のようなものを感じる......下水を煮詰めたことないけど......下水道に掃除に行ったときの数倍は酷い臭いだ。

『......ぅぐ......。』

シャルがうめき声を漏らす。
俺でさえこれだけきついのだ、シャルの受けた衝撃はこんなものじゃないだろう......。

「シャル!離れて!」

俺は風上に移動しながらシャルに下がるように言う。
あぁ、今初めて遠距離攻撃が欲しいと思っている。
そういえば前にレギさんからパチンコ......スリングショットを進められたっけ......。
でも俺が普通に強化掛けて引っ張ったら千切れそうだよね......威力も普通の武器としてしか出ないだろうし......投げナイフとか練習してみようかな......。
とにかくスラッジリザードに近寄りたくない俺は何か遠距離で攻撃する方法を考えるが、今の所いい手段は持ち合わせていない......。
石を投げるという手もあるけど......その辺の石で魔物にダメージを与えられるかな......?
逡巡しているとスラッジリザードがこちらに向きなおる。
体内で生成されるガスならそんな連発は出来ないと思うけど......いや、魔力的なよく分からない何かですぐに生成される可能性もあるか......。
でもさっきと同じ回避の仕方は無理だ。
今は風上にいるから感じないがスラッジリザードに近づけば先ほど吐いた悪臭にやられる。
......うーん、今までで一番やりにくい戦闘だ......。
でもこいつにあまり時間をかけるのもよくない......後どのくらい魔物がこの村に入り込んでいるか分からないけどまだ村の半分も確認出来ていないと思う。
山から見た時、結構広い範囲で煙が上がっていた。
その付近に魔物がいるのだとすれば、まだ少なくない数の魔物がいてもおかしくはないだろう。
......悩むより先にとりあえず石をぶつけてみるか......。
落ちていた石を拾いスラッジリザードに向かってサイドスローで投げつける。
右手にナイフを持っているから左手で投げることになったが、俺は右利きだ。
ぎこちないフォームから投げた石は相手の右目に命中。
身体強化の恩恵だね......目に当たった割にあまりダメージは無さそうだが、片目を潰すことには成功したようだ。
もう少し大きな石を全力で投げたらいいダメージになりそうだけど近くには見当たらない......覚悟を決めよう。
息を止めてスラッジリザードの正面に一気に接近......って痛っ!
目に何か突き刺さるような刺激が!
予想外の痛みに驚いたものの予定通り相手の攻撃を誘発することに成功する。
首を伸ばして俺の足にかみつこうとするスラッジリザードの攻撃を相手の右側に回り込むことで回避、相手の目は潰しているから完全に死角になっているだろう。
先程の一匹と同じように首目掛けて斬りつけてから頭を蹴り飛ばす。
スラッジリザードを仕留めることは出来たが思考を加速しているせいか、とにかく目の痛みが耐えがたい。
踏み込んだ時以上の速度で離脱すると目に手を当てる。
こういう時ってこするとまずいのかな?

「っうぅ!いったぃ......。」

『ケイ様!大丈夫ですか!?』

シャルが慌てて近づいてくるのがわかるけど、目が開けられない。
回復魔法を掛けてみるがよくなる感じがしない、異物が目に入っているからか......?

『水を探してきます!少しだけ辛抱ください!』

シャルが遠ざかるのを感じる。
神域の外に出て最大のダメージだ......やっぱり最近ちょっと油断しすぎなのかな......。
あぁ、痛い......。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...