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2章 ダンジョン
第63話 お別れ
しおりを挟む街に戻って準備を始めようとしたところで衝撃の事実が判明した。
祭りに行っている間にファラが龍王国に向けて出発してしまっていたのだ。
先に乗り込んで情報収集を進めてくれるらしい。
その心は凄く嬉しいのだけどファットラット一匹で龍王国までの旅路は大丈夫なのだろうか?
馬車でも二週間程の道程だというのに......。
心配をシャルに告げると、ファラは中々優秀なので心配せずとも大丈夫です、との事だった。
そう言われてもなぁ......。
とりあえず準備を早く終わらせてファラを追いかけよう......。
今日はレギさん達とは別行動、ギルドへの報告とデリータさんへの挨拶だ。
デリータさんの所にはレギさん達と一緒に行った方がいいような気がしたけど既に終わらせているとのことで一人で行くことになった。
ギルドへ挨拶に行ったついでにクルストさんの所在を訪ねてみたが暫く仕事で街を離れているとの事だった。
直接挨拶が出来ないのは残念だったが一応ギルドに伝言だけ頼んでおいた。
この前偶然会った時に言っておけばよかったな......今度この街に来た時に謝らせてもらおう......。
そんな感じでギルドを後にして、今はデリータさんの店に来ていた。
「なるほど、龍王国にいくのね。」
「はい、デリータさんには本当にお世話になりました。」
「それはいいのよ、ちゃんとお礼も貰っていることだしね。」
デリータさんはブローチにはめられている魔晶石を見せてくる。
恐らくそれがお礼に渡した魔晶石なのだろう。
魔晶石の中でデリータさんの組み立てた魔術式がほんのり光っている。
「それでもとてもお世話になりましたから、ありがとうございます。」
デリータさんのお蔭で魔力操作、ひいては魔法が使えるようになったのだ。
今日までの出来事、そのいずれも魔法が使えなかったら成し遂げることは出来なかっただろう。
「律儀ねぇ......じゃぁ一つ、旅の安全を祈願して魔道具を作ってあげるわ。これは私から、色々と興味深い体験をさせてもらったお礼よ。魔晶石はあるかしら?」
「ありがとうございます。えっと......これでいいですか?」
懐に入れていた革袋から魔晶石を取り出しデリータさんに渡す。
「えぇ、ありがとう。実は魔術式は既に用意してあるのよ。」
そういってデリータさんはカウンターの下から一つの羊皮紙を取り出す。
「新しく開発した魔術式よ。」
そう言っていつもの機材をセットして魔晶石の中に魔術式を転写する。
デリータさんは魔晶石を手に取り転写された魔術式の状態を確認した後、俺に渡してくる。
「その魔道具......一回限りの使い捨てで効果は、自身の宿る魔晶石の魔力を側にある魔晶石に流し込む。それだけの効果よ。」
「えっ?出来たんですか?以前頼んでいたやつですよね?」
「えぇ、旅立つ前に完成して良かったわ。こっちが魔術式よ。」
そう言ってデリータさんは羊皮紙を手渡してくる。
これはダンジョンに行く前にデリータさんに相談していた代物だ。
レギさんの魔力では俺の持っていた魔道具を発動させることが出来なかったので魔晶石から代わりの魔力を取り出すことが出来ないかと考えたのだ。
現代の魔術は魔術式を起動する時にのみ、術者自身の魔力を必要とする。
魔術自体の効果を発動させるのに必要な魔力は魔晶石に内包された魔力を使うのだ。
なので魔力の少ない人たちでもある程度の魔道具を使用することが出来る。
勿論、起動に多くの魔力を必要とする魔術もあるのだが、それでも魔術の効果に比すれば少ない量の魔力で済む。
だけど、俺の持っている魔道具では魔晶石の魔力はあくまで込められた魔法をその場に維持するためだけに使われていて、その効果を発動させるためには使用者自身の魔力を消費する必要がある。
なので魔力量の少ないレギさんでは俺の持つ魔道具を使用することが出来なかった。
ならば魔晶石に自身の魔力の肩代わりをしてもらえばいいと考えたのだ。
魔晶石を電池のように使えば、レギさんでも俺の持つ魔道具を使えるようになるのではないかと。
そこでデリータさんに相談してみたのだが、今までにない使い方なので少し開発に時間がかかると言われていたのだ。
「ありがとうございます!これで色々とやりたい事が試せるようになります!」
「時間がかかってごめんなさい。本当はダンジョンに行く前に欲しかったのだと思うけれど。」
「いえ、無理を言ったのはこちらですから。それにこれからの旅でとても有効に使えると思うので、このタイミングでいただけたのはとても助かります。」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。それと、こっちは転写に使う機材ね。」
「え?いいんですか?」
「えぇ、使い捨てになってしまう魔術式ですからね。必要になると思って準備しておいたわ。もちろんお代は頂くわよ?」
そう言ってデリータさんは微笑む。
最後の最後までお世話になりっぱなしで頭が上がらない思いです......。
「はい!えっとお代ですが、現金と魔晶石どちらがいいですか?」
「そうね、あなたが旅立ってしまうなら魔晶石の方が嬉しいんだけど......新しい魔術式の開発費用を合わせたとしても貰いすぎになってしまうわね。」
「あはは、わかりました。じゃぁ魔晶石で支払いさせてください。」
そう言って先ほど魔晶石を取り出した革袋をカウンターの上に置く。
「これでお願いします。」
置かれた革袋の中身を確認してデリータさんがため息をつく。
あ、これ小言を言われるパターンだ。
「だからいつも言っているでしょう?これは貰いすぎよ。あなた、この店どころかこの街を住人付きで買うつもりなのかしら?」
それはいくら何でも言いすぎじゃないですかね......?
この街の全てって......。
「言い過ぎじゃないわよ?」
心が読まれた!?
「......読んでないわよ。」
再び!?
「全く......結局、初めて会った時とやっていることが変わってないじゃない......。」
「いえ、流石に価値は理解しているつもりですよ。デリータさんには本当にお世話になりましたし、この魔術式は本当にこれだけの価値があると思っていますので。」
「それでも貰いすぎだと思うのだけれど......それにまだ完成とは言い切れないわ。起動と停止の切り替えや流し込む魔力の量の調整なんかが出来ればよかったのだけれど......今のままだと魔晶石の使い捨て......一度起動したら魔力が無くなるまで放出してしまって燃費も悪いわ。」
「なるほど......確かにその辺の機能は欲しいところですね......。」
「魔力量を数値化したり計算したりというやり方は今までされてこなかったことなのよね......それも研究したら面白いかもしれないわ......。まぁとりあえずこの魔術式の改良はまだ続けるつもりだから偶には連絡しなさい。こっちに来る機会があったら必ず顔を出しなさい。」
「分かりました、約束します。宜しくお願いします。それじゃぁこの魔晶石は今後の開発費も込みということで......。」
「はぁ......分かったわよ......任せて。とは言え、あなたもちゃんと勉強するのよ?」
「はい、折角デリータさんに教わったのですから勉強は続けます。とりあえず今回頂いた魔術式を理解出来るようにはなりたいですし。複製できないと話にならないですしね......。」
「がんばりなさい。出来れば次に会う時はオリジナルの魔術式を見せてもらえたら嬉しいわね。」
「が、がんばります。」
オリジナルの魔術式......あこがれるけど......難しいなぁ......。
「その時はちゃんとマナスも連れて来るのよ。」
デリータさんの目に怪しい光が灯る。
肩にいたマナスはその視線から逃げるように俺の背中へと回り込む。
「あはは、許してあげてください。」
不満そうな表情になるデリータさんに謝る。
「酷いわねぇ......そんなに危険なことはしてないつもりなのだけど......?」
その辺は生理的な恐怖なんだと思いますよ?
言いませんけど。
「また何か失礼なこと考えているわね。」
なんでこの世界の人たちはナチュラルに心を読んでくるのかな......?
「まぁいいわ......それで出発はいつなのかしら?」
「僕の方はもう準備が終わったので後はレギさん達次第ですけど、早ければ明日、遅くとも明後日には出ると思います。」
「そう......なんだかんだで、危険なことは多いと思うわ、十二分に気を付けて行くのよ。」
「はい、細心の注意を払っていきます。」
「あなた達の旅路に幸多からんことを。」
「ありがとうございます。デリータさんもお達者で!」
俺はデリータさんの店を後にする。
暫くは会えないだろうけど、機会があったら必ずここにまた顔を出そう。
旅をするって言うことはこうしてこれからも、出会いと別れを繰り返すことになるんだろうなぁ。
そんなことを考えて、少しだけしんみりとしながら宿への道を歩いた。
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