狼の子 ～教えてもらった常識はかなり古い!?～

2章 ダンジョン

第58話 軟派か硬派か

「ほう、ナンパしていたのか。」

「いや、ナンパじゃないですよ。」

屋台を一通り見学した後丁度いい時間になったので宿に向かいレギさん達と合流してからハーネルさんおすすめの店に食事にきた。
そこで合流するまで何をしていたかを話していたのだが、レギさんのこの言い様だ。

「いや、それはナンパよ。」

リィリさんまで......。

「困っている女の子を助けて、お礼をしてもらうのを口実に屋台巡り。別れ際に今日のお礼をしたいからまた会いたいと言った。うん、ナンパ以外の何物でもないわね。」

「違いますって！そういう感じじゃなくって！」

「可愛かったんだろ？」

「可愛かったですけど......。」

「ナンパだな。」

「ナンパね。」

「......もうそれでいいですよ......。」

何故か畳みかけてくるように連携してくるレギさんとリィリさん。

「いや、ケイはそういう事に興味ないのかと思っていたから良かったぜ。獣たちに囲まれていれば満足なのかと心配していたんだ。」

「なんでそんな心配を......。」

「そういった感じが全くなかったからな......健全な男ならそういった話の一つや二つあるだろ？」

「そういうものですかね......？」

「あぁ、だからケイがナンパしたと聞いて嬉しくてなぁ。」

「......ナンパ。」

『随分手慣れた様子でした。見事な手練手管だったと言えますね。』

「シャルまでそんなことを！」

いつもは味方してくれるシャルが何故か辛辣！
というかちょっとご機嫌斜め？

「お、様子を一部始終見ていたシャルが言っているならまちげぇねぇな！何言ったのかはわかんねぇが。」

膝の上に座っているシャルを両手でわしゃわしゃする。

『......！』

何か反応している気がするけどいつものような反応はしてくれないシャル。
何か怒らせるようなことしたかなぁ......。

「まぁ、とりあえず僕の方はそんな感じでしたが......そちらはどうでした？」

「こちらは特に問題なかったわね。通りで屋台の設営をしていただけよ。」

「屋台の設営していたんですか。」

「えぇ、ハーネルさんも言っていたけれどやっぱり祭り関係の仕事が多いみたいね。明日も適当に仕事を受けるつもりよ。」

「明日も仕事を受けるんですか？」

「えぇ、祭りのお蔭で簡単な仕事が多いからね。この感じなら祭りの前までに下級冒険者になれると思うわ。」

さっきの仕返しに、折角のお祭りですし二人でゆっくりデートしてきたらどうですか？とか言えたらいいのだけれど......。
それを言ったらリィリさんに倍返し以上の反撃を受けそうな気がする......。
まぁ仕返し云々は置いておいて、提案くらいはしておこうかな......仕事ばっかりじゃもったいないしね。

「そういえば、話は変わるんですがお二人はわたあめってご存じですか？」

「わたあめ？いや聞いたことないな。」

「私もないわ。何かしら？」

二人も知らないか......そういえばナレアさんにも確認しておけばよかったな。

「お二人も御存じなかったですか......。いえ、僕の田舎のお菓子なんですが、シャルが見たことがないみたいなので見せてあげたかったんですよ。お祭りの時の屋台とかでよく見たんですけど......。」

膝の上にいるシャルがぴくんと反応する。

「ほう、どんなものなんだ？」

「溶かした砂糖を糸状にして、それを棒で絡めとって雲みたいにしたお菓子です。」

「雲みたいな菓子か......あまりこの辺では見ないな。」

「そうですか。残念です。」

「でもお祭りだし遠方から商人が来ていてもおかしくはないわね。」

「それもそうだな。」

「今日は南門付近の屋台を見て回ったんですけど賑やかで見ているだけでも面白かったですよ？お二人も折角だから気分転換に見て回ってみたらどうですか？ついでにわたあめも探してくれると嬉しいですが。」

そう言いながらリィリさんをちらっと見てみる。
何かを察した様子でリィリさんが慌てて捲し立てる。

「そ、そうね。確かにこんな機会はめったにないだろうし、仕事の合間に少しくらい息抜きに街を回ってもいいんじゃないかな？」

「いいのか？この機会に一気に下級になっておいた方がいいんじゃないか？」

「後三件こなせば下級になれる所まで来ているから......す、少しは休憩を入れてもいいんじゃないかしら？」

「そうか？なら明日は休みにするか。」

「えぇ、そうしましょう！」

レギさんの誘導成功にリィリさんが嬉しそうに微笑む。

「じゃぁ明日は三人で街を回るか？ケイもあまりこの街に詳しくないんだろ？」

「......。」

リィリさんの表情が固まる。
なるほど......確かにレギさんは色々足りてない気がしますね......。

「あー、すみません。明日は僕......ちょっとギルドに行こうと思ってたいので。」

「そうなのか？だったら付き合うぜ？」

ダメだこの人！
リィリさん笑顔のままちょっと涙目になってるじゃん！
鈍感系主人公ですか！？

「......いや、折角のお休みですしこの際仕事からは完全に離れたほうがいいですよ。レギさんはいつも仕事をしているイメージがありますし。ゆっくりすることも大事だと思いますよ。」

「いや、しかしな......。」

「ダンジョンから戻ってきてからも殆ど休みなく働いていますよね？」

「ま、まぁな？」

「休む時は休まないといざって時に困ったことになりますよ？油断は良くないってレギさんはいつも言っているじゃないですか、しっかり休んで備えることも大事だと思います。」

「......。」

「とはいえ、放っておいたらレギさんは仕事を始めそうですし......リィリさん、レギさんを見張っていてもらっていいですか？適当にのんびりさせてあげてください。」

「そ、そうね。監視は必要よね。レギにぃ、そういう事で明日は私が見張っているから一日のんびりしましょう。」

「......ケイ、お前なんか最近口がうまくなってきてねぇか？」

レギさんの訝しげな、それとリィリさんの感謝の視線が俺に向けられる。

「そうですか？まぁレギさんの後ろで色々勉強しているからですかね？」

「......お前のはなんかあくどさを感じる。」

そんなことないと思うんですけど......。
とりあえず、ギルドに行くって話をしちゃったから明日はギルドにいかないとな......。
後は......話の間ずっと撫でていたけど未だぷるぷる震えているシャルだな......。

「ところでシャル。」

『っ！？な、なんでしょうか？』

「えっと......なんか怒ってる？」

『......怒ってなどいませんが？』

「本当に？」

『......怒っていません。』

「そ、そう？ならいいんだけど......何か気になるようなことがあったかな？」

『......そ、そのようなことは......ありません......。』

物凄くシャルの歯切れが悪い......。
なんだろう？
あ！あれかな？

「あー、シャル。もしかしてわたあめが気になっていたのかな？」

『そ、そうです！それです！わたあめです！わたあめが気になって気も漫ろになっていました！申し訳ありません！』

「そっか、うん。また屋台を探してみよう。もし見つからなかったら、その内作ってみるよ。多分作れると思う......。」

『ありがとうございます！それは楽しみです！』

そんなにわたあめが気になっていたのか。
もう少し真面目に探さないとな......後は見つからなかった時の為に材料か......。
シャルには日ごろお世話になっているのだから何としてでも見せてあげたい......材料が見つからない様だったらギルドに取り寄せの依頼を出してみようかな？