上 下
52 / 528
2章 ダンジョン

第51話 二人の想い

しおりを挟む


「さて、じゃぁ私が首落とすわね。」

「おう。」

あっけらかんとリィリさんが宣言してレギさんもそれを受け入れる。
ここに来る前に既に話は済んでいたのだろう。
俺は少し離れた位置から二人を見守る。

「レギにぃ、言わなくても大丈夫だと思うけど......二人は一緒に、私は二人の側にお願いね。」

「......あぁ。」

「宜しくね。」

そう言うとあっさりとリィリさんは剣を振りテラーナイトの首を刎ねる。
弱点を貫いたわけじゃないからか、すぐに魔力へと還らないようだ。

「んー、じらされている感じがするわね......すぱっと終わりたかったのだけれど......。」

「......空気の読めねぇ奴だな。」

「......まぁこの魔物もレギにぃには言われたくないでしょうね。」

「口の減らねぇ......。」

「......それにしても、予想以上に楽勝だったわ。もう少し苦戦するかと思っていたのだけれど。」

「強化魔法の効果や初っ端に武器を奪っておいたってのもあるが......人型が複数の相手に囲まれたらこんなものじゃないか?」

「......それもそうね......仲間と戦うのなんて久しぶりだったから......。」

「......ヘイルの剣もちゃんと取り戻せてよかった。」

「そうだね......。」

二人が俺の手に持つヘイルさんの剣を見つめている。
俺が持っているよりも二人に渡しておいた方がいいだろう。
レギさんに近づき剣を手渡した。

「ありがとう、ケイ。」

そう言いながらレギさんは懐から腕輪を取り出す。
アレは確かエリアさんのものだったはず。

「......これで、四人揃ったな。」

「......そうだね。待たせてごめんなさい、ヘイルにぃ、エリアねぇ。」

俺は二人、いや四人からゆっくりと離れる。
胸の奥がざらざらする感じがする......分かっている、これはもう過ぎてしまったことなのだ。
今から過去を変えることなんて、母さんにだって出来ない事だろう......。

「そういえば、ヘイルにぃ達結婚するって言ってたな......指輪はまだみたいだったけど......あればよかったのにな。」

「......だから、なんであいつらはいっつも俺に秘密にするんだよ。」

「ヘイルにぃは恥ずかしがり屋だしね。エリアねぇは呆れ気味だったけど......気付かないレギにぃも私はどうかと思うけど......。」

「だからってなぁ......。」

「流石に結婚のことは言うつもりだったみたいだけどね。私は雰囲気でなんとなく気付いて......エリアねぇに聞いてみたから知ってただけだし。」

「ちっ!原因はおめぇかよ......。」

ヘイルさんの剣に向かってぼやくレギさん。
その顔は懐かしそうであり寂しそうであり、苦笑しているようでもあった。

「そろそろみたいだね......。」

少し離れた位置に倒れていたテラーナイトが体を維持することが出来なくなったのか、ついに魔力へと還る。
それと同時にダンジョン全体が震えたように感じた。
これがダンジョンを攻略したってことなのかな。
二人に目線を戻すとリィリさんが魔力の霧に包まれるところだった。

「リィリ!」

レギさんの声が酷く遠く感じられる。

「レギにぃ!私達の分まで沢山面白いこと経験してね!」

「あぁ!!」

「ヘイルにぃとエリアねぇに先に会いに行くけど!レギにぃは暫く来たらダメだからね!」

「あぁ!二人に!よろしく頼む!」

「ケイ君!」

おもむろにリィリさんに名前を呼ばれた。

「はい!」

「レギにぃの事、お願いします!普段は慎重だけど、抜けている所も多いから!迷惑かけると思うけど、ごめんなさい!」

「大丈夫です!まだ僕じゃ頼りないと思いますけど!レギさんの背中を守れるようになりますから!」

魔力の霧が濃くなり、リィリさんの姿は殆ど見えなくなってきた。
その向こうからマントに包まれた剣がレギさんの元に投げられる。

「ありがとう!ケイ君!よろしくお願いします!それと、レギにぃ!先に渡しておくね!手入れはしてあるから使ってくれてもいいけど......好きにしてくれていいから!」

「分かった!好きにさせてもらう!」

「美少女の持ち物だからって変なことに使わないでね!」

「呪われてそうで銅貨一枚でだって売れそうにねぇよ!」

「......そんなことないと思うけどー......なんか暖かくなってきたなー。」

「リィリ!」

「来ないで!レギにぃ!」

レギさんが足を踏み出そうとした瞬間リィリさんから静止がかかる。

「......だが!」

「いいの、そこにいてレギにぃ......んっ......なんか......きもちよく......なってきた......かも......?」

熱に浮かされたようなリィリさんの声と薄れていくダンジョンの魔力を感じる。

「あは......こんなふうに......しぬなら......わるくない......よ......。」

「リィリ!」

「レギにぃ......迎えに来てくれて......本当に......嬉しかった......ありがとう......。」

霧の向こうに薄っすら見えるリィリさんの体が光っているように見える。

「俺も!お前に!お前たちに会いたかった!会えてよかった!ありがとう!」

ダンジョンの魔力が急激に薄れていく......これで恐らく、ダンジョンが終わる。

「さようなら......レギにぃ......ありがとう......大好きだよ!」

「俺も!お前の事が......!」

そして魔力が霧散する......次いで時が停止したような静寂が訪れる。
ダンジョンに蔓延していたピリピリとするような魔力は消え失せた。
薄暗かったダンジョンとは違い魔力を失った洞窟は完全なる闇が降りている。
しかし俺達の目は強化魔法により闇を見通すことが出来る......。
リィリさんを包んでいた魔力の霧も全て消え、その場残されていたのは......目を閉じた全裸の女の人だった......。
俺の視界には色が抜け落ちた表情を見せるレギさんの姿、そしてゆっくりと目を開いていく女性......。
自分の姿を確認して、次いでレギさんの方を見るその女性......。
二人は目を合わせ......。

「「あーーーーーー!!」」

時間が動き出した。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

処理中です...