50 / 528
2章 ダンジョン
第49話 状況把握
しおりを挟む「さて!次は私の方の話ね!といっても、私自身についてはよく分からないわ!」
少しだけ暗くなった空気を振り払うように、リィリさんが快活に声を上げる。
「......そうだな、色々聞かせてくれ。」
「りょーかい!とりあえず、私自身の話からだけど......レギにぃと別れた時の崩落で怪我しちゃったのよね、そのまま暫くダンジョンを彷徨っていたんだけど、力尽きちゃって暫く座り込んだの。」
「......。」
レギさんの表情が硬い。
慙愧の念に堪えかねているのだろうが......。
「レギにぃ、いちいち気にしなくていいの。偶々崩落があって偶々レギにぃは出口の方に、私は遠ざかった。それだけの話よ。」
「あぁ、分かっている......。」
マントの下で肩をすくめたのか身じろぎするリィリさん。
骨の体で肩をすくめるってどんな動きになるのか少し興味はあるが......変態って叫ばれそうだから確認するのはやめておこう......。
「とにかく、それで動けなかったわけだけど、その間ずっとヘイルにぃとエリアねぇを迎えに行かないと、レギにぃと合流しないとって考えていたのよね。どのくらいそこで休んでいたのか分からないけど、そんなことばかり考えていたわ。気付いたら体が動くようになったからダンジョンの探索に戻ったのだけど......その時にはこの体になっていたわ。」
なんでその体になってしまったのかは全く分からないのか......原因の様なものもなく、気付いたら......か。
「正直その辺は時間の感覚も曖昧でね......レギにぃ達と会うまでどのくらい時間が立っていたのか分からなかったのよ。」
「なるほどな......それで三十年とか言っていたってわけだ......。」
「いや、それはレギにぃのせいでしょ......そんなおじさんになってたらそのくらい経ってると思うわよ。」
「......。」
レギさんの頭に青筋が浮かぶが何かをこらえるように大きく息を吐いた。
「でも、この体結構使い勝手が良くてね。全然疲れないし、眠くもならないのよ。でも明らかに街に行けるような風貌じゃないし......多分、ダンジョンから出られないと思うし......。それでとりあえず、ここを攻略しようと思ったのよ。攻略してしまえばヘイルにぃ達の遺品を街に返してもらえると思ったから。」
「なるほどな......じゃぁお前が魔物を殺していたのは。」
「えぇ、ダンジョン攻略のついで修練を兼ねて。最近アンデッドを一撃で倒せるようになってね?なんか弱点みたいなものが見えるようになったの。」
「あぁ、魔力核だな。」
「魔力核?」
「アンデッドには必ず魔力核があってそこを攻撃すれば一撃で魔力に還すことが出来るんだ。」
「レギにぃ達も分かるの?」
「あぁ、さっき話したケイの魔法のお蔭でな。例えば......リィリの魔力核は下腹部にあるな。」
次の瞬間マントの下から突き出された剣がレギさんの頬を掠める。
うん、今のは弁護のしようもないくらいレギさんが悪いと思いますよ。
「レギにぃ、その年になってまだデリカシーのデの字すら覚えていないの?私は悲しいよ......。」
突き出された剣がゆっくりとレギさんの首へと近づいていく。
「す......すまん。」
一つため息をつくとリィリさんは剣を納める。
ため息......どうやって......?
「でも、魔力核が見えているならこのダンジョンで敵なしなんじゃないですか?」
気を取りなすように俺から話題を逸らしてみる。
「いえ、下層部に一匹だけ倒せない相手がいるのよ。恐らくそれがこのダンジョンのボスね......フルプレートの鎧を着ていて弱点が狙えないし力押しのタイプでちょっと苦手なのよ......。」
「ボスと戦う必要はないだろ?こっちはヘイルとエリアの遺品の回収が目的だ。」
「......そいつがヘイルにぃの剣を持っているの。」
「......あ?」
底冷えするような怒気が二人から湧き上がってくる。
大切な仲間の形見を魔物に奪われているのだ、その怒りは到底計り知れるものではないだろう。
「それはケジメが必要だが......。」
怒りを飲み込んでレギさんが言葉を発する、だがその言葉は歯切れが悪い......。
「レギにぃがやらなくても、私がやるわ。」
「......だが、ダンジョンのボスを倒せば......。」
ダンジョンのボスを倒す、ダンジョンを攻略するというのは魔力だまりを払うという事。
魔力だまりが払われればそのダンジョンで生み出された魔物は全て魔力へと還る。
つまり、スケルトンであるリィリさんは......。
「何も問題ないわ。自覚はなかったけど私は十年も前に死んでいるの。約束を、誓いを果たすために私はこのダンジョンを攻略する。」
「......分かった。」
レギさんは苦しそうな顔をしている。
魔物になってしまっているとは言え、折角再会できたリィリさんをまた失えと言われているのだ。
すんなりと受け入れられる話じゃないだろう。
「とはいえ、今の私じゃまだ勝てないのよね......。」
「そういえば、さっき魔物を倒すのは修練を兼ねてって言っていたが......相手が動く前に弱点を一撃で貫いていたら練習にならなくないか?」
それもそうだ、魔物同士は基本的に襲い掛かって来ないらしいしアンデッドは動きが緩慢なやつが多いので鍛えるという意味では微妙ではないだろうか?
「あぁ、確かに修練としてはそうなのだけど......なんかね?魔物を倒すとちょっとだけ体が強くなるというか......力が湧いてくる感じがするのよ。」
「力が湧いてくる?どういうことだ?」
「私もよく分からないんだけど......一匹程度じゃ殆ど変わらないのだけど、数をこなすと確実に強くなっていると思うわ。」
魔物を倒して強くなる......レベルが上がるみたいなことはないはずだけど......。
『恐らく、魔物を倒したときに霧散していく魔力を吸収しているのだと思います。それにより保有する魔力が多くなり強さが増しているのだと......。人間と違って魔物は保有する魔力量が強さに直結するので。』
「なるほど、魔力を吸収して......。」
「何かわかったのか?ケイ。」
「えぇ、今シャルが教えてくれました。リィリさんは倒した魔物の魔力を吸収して力を増しているそうですよ。」
「ほぉ、そんなことが出来るのか。」
「えぇ、まぁリィリさんだからこそでしょうが......。」
「本当にその子と意思の疎通が出来ているの......?」
「はい、と言っても僕の力じゃなくてシャルの力ですが。」
「へぇ、凄いわね......今の話もその子が?」
「えぇ、教えてくれました。」
表情が動かないから分からないけれど、恐らく興味深げにシャルと俺をリィリさんが見てくる。
「自分の事だけどあまりよく分からなかったから......教えてくれてありがとう。」
シャルに向かってお礼を言うリィリさんとそれに頷くシャル。
「それで中層に魔物がいなかったのか......。」
「あー、下層も全滅しているわよ。」
「......やりすぎだろ。」
休む必要がないアンデッドだからこそずっと狩り続けて一人でダンジョン内を一掃したのか......。
「入り口付近は冒険者もいるからこの辺から下の階層に掛けて狩っていたのよ。それでもまだボスには勝てないわ。」
「俺たちがいれば......どうだ?」
レギさんの質問にリィリさんが俺たちを見回す。
「そちらの、ケイ君の実力は分からないけれど......私とレギにぃならいい勝負が出来ると思う......。」
「なら問題ない......ケイの腕は確かだ。ボスについて情報はあるか?」
「さっきも言ったけど、鎧を着てヘイルにぃの剣を持っている。速さよりも力で押してくるタイプね。多少鎧の隙間を縫って斬りつけたとしても動きが鈍ることはない......まぁその辺はアンデッドってことね。」
「鎧を着ているアンデッドか......面倒な相手だな。」
「私じゃ多少斬りつけたところでダメージを与えられなかったけれど、レギにぃの武器なら手足を斬り飛ばせるはず。弱点は胸の中心、完全に鎧に包まれているから直接貫くのは無理だと思う。」
「それは確かにリィリじゃ相手が悪いな。」
「だからこそ、魔物を狩り続けて少しでも力を蓄えていたのよ......。」
リィリさんの目的はボスを倒してヘイルさんの武器を取り戻すこと......だからこそ自らを強くするために魔物を狩り続けたのだ。
本人も覚えていないからどれほどの年月かは分からない。
だが日々生み出される魔物を一人で全滅させているのだ。
それはどれほどの執念なのだろう......そしてそれはレギさんも同じだ......。
この二人の思いを......誓いを必ず成し遂げさせたい。
たとえその結果、リィリさんがいなくなってしまうとしても......。
3
お気に入りに追加
1,733
あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる