39 / 528
1章 初級冒険者
第38話 帰り道にて
しおりを挟むのんびりとした風景とは裏腹に御者台に座る俺は緊張に包まれていた。
手綱を握る手は固く腰は鈍痛を訴えてくる。
「いや、いい加減そろそろ慣れろよ。」
「操車はそこそこ慣れてきたと思うんですけど......この振動がきついんですよね......。」
「あぁ、そっちか。そっちは慣れるにはもう少し時間がかかるかもなぁ。」
「はぁ......そうですよね......。」
「よし、操車を代わろう。」
「いいんですか?」
「あぁ、その代わりと言っちゃなんだが......少し話をしたいことがあるんだ。」
レギさんの表情が少し硬くなる。
何となくこちらも緊張しちゃうな......。
「何でしょうか?」
「聞きたいことがいくつか、それとは別に聞いてもらいたいことと、それに頼みが一つ......。」
「分かりました。どの話から......。」
「そうだな。聞きたい事から話そうと思うが、これはあくまで好奇心からだ。言いたくない、言えないような事であれば答えなくていい。」
「分かりました。」
「......俺がダンジョンで倒れた時、あれは間違いなく致命傷だった。助けてもらった身でこんなことを言ってもいいものかとは思うが......一体何をしたんだ?」
「あぁ、それだったら回復魔法ですよ?」
「......回復、魔法?」
「えぇ、魔力操作を覚えてから魔法が使えるようになったのでずっと練習していたんですよ。あそこまでの大怪我を治すのは初めてだったんですけどうまくいって良かったです。」
「......そうか。っていや、まて。ここで納得した感じにしてスルーしたら今までと同じだ。話しても問題ないって言うなら徹底的に言聞くぞ?」
レギさんからの質問タイムが始まった。
それに対して俺は話せる範囲で答えていく。
流石に母さんや加護の事は話すつもりはないけど、俺に関することはほとんど話してしまってもいいと思っている。
まぁこの世界とは別の世界の人間です、っていうのはちょっと理解のキャパシティーオーバーだろうから今回は言わない。
「遺跡で発見された魔道具を使ったのかと思っていたんだが......魔法......か。いやにーちゃんを信じないわけじゃないが......しかし......魔法......。」
思った以上にレギさんが大混乱している......。
この世界にちゃんと存在したものだから通じると思ったんだけどな......。
そういえばデリータさんもおとぎ話って言ってたか......。
そう考えると、日本で魔法で明かり点けていますって言うのと大して変わらない話かな......。
「すまない、大丈夫だ。その......魔法は俺でも使えたりするか......?」
「すみません、レギさんでは魔法を使うための条件が満たせないので無理だと思います。」
「そうか......残念だ。」
『恐らくこの者では加護を授かったとしても魔法は使えないと思います。保有している魔力が少なすぎるので。』
おっと、母さんから加護を貰えればって思っていたけど、魔力量という問題もあるのか......。
「じゃぁ、次の質問だ。にーちゃんは、動物の言葉が分かったりするのか?」
「え?動物の言葉ですか?いえ、分かりませんけど。」
「あ?そうなのか?それにしちゃぁそこのシャルとかマナスとかと意思の疎通が完璧すぎると思うんだが......。」
「あぁ、そういう事ですか......。」
これは俺の話じゃなくってシャルの事だからな......。
念話の事は言わずに意思疎通が出来るって感じにしておくか。
「マナスとは無理ですが、シャルとならかなり正確なやりとりが出来ます。マナスの方は......勘ですね。こちらの話は理解しているようですけど。後今はいませんがグルフの考えも何となくって感じですね。ファラも似たような感じですが、みんな賢いのでこちらの言うことはちゃんと理解していますね。」
「グルフもある程度って感じなのか。ん?ファラってのは?」
「ファラは最近仲間になったファットラットです。街で情報収集してくれています。」
「ファットラット......?あぁそれでファラか。相変わらずだな。情報収集って言うのは?」
「街で色々な噂とかを集めてくれているんです。まぁ僕はファラと会話が出来るわけじゃないのでシャルが情報は管理してくれているんですが。」
「それはすげぇな......ってことはシャルが仲介すればほぼ話せるって感じになるのか......。」
「はい、そうなりますね。みんな賢くてとても頼りになる仲間です。」
「にーちゃんの周りは動物ばっかりだな。なんかそういうのに好かれる匂いでも出してるのか?」
「そういうわけじゃないと思いますけど......。多分。」
絶対にないとは言い切れないけど......。
なんかいい匂いしてるのかな......。
『ケイ様はとてもいい匂いがしますが、ケイ様の元に我々が集うのはケイ様が素晴らしい主だからです!』
いい匂いしてるのか......。
それに素晴らしい主っていうけど......グルフとファラはシャルが配下として従わせたんだし、シャルは母さんから命じられてだよね......。
俺の事を気に入ってくれてついて来てくれたのはマナスだけじゃ......。
気に入った理由も......魔力がおいしかったとか、そんな感じなんじゃ......。
そう考えるとちょっぴり切なくなった。
とりあえず肩にいるマナスを撫でておこう......。
「なるほどなぁ、まぁ動物に妙に好かれる人間ってのはいるからな。じゃぁ次の質問......もしかするとこれは答えを既に聞いてるかもしれないな......。もしかして魔法って言うのは傷を治したりする以外にも使えたりするのか?具体的に言うとにーちゃんが戦闘する時に何か魔法を使っていたりするのか?」
「えぇ、使っていますよ。身体能力を強化魔法で上げています。」
「初めて森で手合わせした時と比べて速さが段違いだったからな......なるほど、あの理不尽な頑丈さも魔法のお蔭か。」
理不尽って......あぁ、イノシシの時のアレか。
まぁ確かにあれは理不尽の塊だったか......。
「しかし、聞いたのは俺だが、なんでもぼろぼろ話しすぎじゃないか?正直殆ど秘密にされると思っていたんだが......。」
「秘密にするほどのものじゃないと思いますけど......。」
「にーちゃん、最近は慎重になってきたのかと思っていたがやっぱりまだ駄目だな......。俺の反応から分かってるとは思うが、魔法なんてのはあり得ない代物だ。まだ遺跡で発見された魔道具の効果って言う方が現実味がある。まぁどちらにしても傷を治す......致命傷を治す魔道具なんてあの魔晶石どころの騒ぎじゃないぞ?冗談抜きで暗殺者が送り込まれるレベルだな。これはそんな魔道具があればって話だがにーちゃんの場合はそれを魔法でやっちまうんだろ?回数制限とかあるのか?」
「いえ、特にないですけど。まぁ流石に連続して使いまくったら魔力が切れちゃいますけど」
「......それはもう際限なく使えるに等しいよな?休憩すれば使えるってことだろ?治療に引っ張りだこならマシな話で、下手すりゃ国を挙げてにーちゃんの争奪戦が起きてもおかしく無いぞ?いやだろ?自分をめぐって各国が戦争だ。」
「......ぞっとします。」
俺の事......というか魔法を巡って戦争が起きる......俺のうかつな行動が原因で......。
シャレにならないな......。
「にーちゃんからすれば大したことじゃないのかもしれない。でもその価値は計り知れないんだ、もう少し自覚したほうがいい。」
「......わかりました......ところで、この話罠だったりしました?」
「いや、知りたかったのは事実なんだがな。あまりに無防備なもんで説教が出てきちまったんだよ。」
「......すみません。」
「まぁ聞いたのは俺だがよ......。」
「聞いてきたのがレギさんだったので。さすがに信頼してない人にはほいほい話さないですよ。」
「......そうか。」
レギさんはバツが悪そうに頭を掻いている。
レギさんの事は信頼しているしこのくらいは話してもいいと思ったのだ、まぁ全てを話したわけじゃないけど。
少し話が途切れる。
馬車が動く音は結構大きいので静寂には程遠い。
「......聞きたいことはこんなところなんだが......。」
「はい。」
レギさんがどこか話しにくそうにしている。
俺への質問はついで、というか本題はこっちなのだろう......。
「......まぁ、ダンジョンで不甲斐ない所を見せちまったからな......情けない話だとは思うんだが......にーちゃんに聞いてもらいてぇんだ。」
「はい、聞かせてください。」
「にーちゃんは冒険者の二つ名って知ってるか?」
「えっと、異名とか勇名とかそういったものですよね?」
「あぁそれで間違いない。んでよ、俺にもあるんだ、二つ名がよ。」
そういえば以前、確かクルストさんに聞いたことがある様な......レギさんは二つ名持ちと。
「正式な二つ名ってのは偉業を成し遂げた奴がギルドや国から与えられたりするものなんだが、冒険者たちの間で噂になって自然と呼ばれるようになる奴もいるんだ。俺は後者だな。」
勲章の様な扱いのものと通称みたいなものってことか、レギさんの二つ名は通称と。
「俺の二つ名は『最強の下級冒険者』だ。」
最強の下級冒険者......これは褒めてるわけじゃ......ないよね?
2
お気に入りに追加
1,707
あなたにおすすめの小説
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる