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1章 初級冒険者

第25話 ケイの実戦

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「ったく、この人数相手だとあまり手加減はできねぇぞ?死んでも恨むなよ?」

下からめんどくさそうに襲撃者に話しかけるレギさんの声が聞こえてくる。
その声に緊張は感じられない。
クルストさんの方は大丈夫だろうか......?
流石に聞いてみるわけにもいかないので息を殺して下の様子をうかがう。
レギさんの言葉に反応することもなく襲撃者は包囲を狭めていく。

「仕方ねぇなっ!」

レギさんの掛け声とともにドンッという音が鳴り響く。
それはレギさんの踏み込みの音なのか、それとも振りぬいた剣が相手に叩きつけられた音なのか、はたまた吹き飛んだ相手が壁に叩きつけられた音なのか。
いずれにしても、レギさんのその一撃により戦端は開かれた。

「ちっ、一度に掛かれ!そちらの禿は手練れだが相手は二人だ!数で押し切れ!」

あ、指示出してる奴死んだな......それは禁句です。
リーダー格の生死は不明だけどにわかに下は騒がしくなり武器を打ち合う音が聞こえる。
二人は倉庫を背に相手の攻撃を防いでいる、これ以上待つ必要はない。
もう一度だけ深く息を吐き、襲撃者の背後を取るように空中に身を翻した!
地面までは一瞬、攻撃に参加できずやや後ろに下がっている襲撃者の肩に落下の勢いのまま肘を叩きこむ。
流石にナイフを突き立てる気にはなれない。
衝撃に耐えきれず地面に崩れ落ちる襲撃者の鳩尾につま先をねじ込んで悶絶させる。
まずは一人、視界も思考もクリア、何も問題はない。
一瞬のことでまだ襲撃者は後ろを取った俺のことに気づいていない、背を向けている襲撃者の膝裏を蹴り膝カックンの要領で体勢を崩す。
これ靭帯損傷するからやっちゃいけないって小学生の頃言われた気がするなー。
そんなことを考えながら体勢を崩した襲撃者のこめかみに短剣の柄頭を叩きこむ。
白目を剥いて倒れる仲間に驚いた一人が後ろを振り返り俺の存在に気づく。
これで二人、俺の事はバレたけどまだ奇襲の効果は切れていない!

「後ろにも誰かいやがるぞ!」

俺に気づいた襲撃者が声を上げながら剣を振るってくる。
しかし体勢が十分とは言えず、全く速さがない。
手にしたナイフで受け流しながら武器を持つ手を狙ってナイフを滑り込ませる。
抵抗を感じることなく相手の親指を切りつける。
心にざわっとしたものを感じるが、ぐっと抑え込む、今それを気にしている暇はない。
武器を落とし、痛みにしゃがみこんだ襲撃者の脇腹に蹴りを叩きこみ三人目を無力化する。
俺に気づき、驚いて振り返った所をクルストさんに斬られて四人、レギさんの周りに二人倒れていて六人、少し離れた位置に倒れているのは最初にレギさんに吹っ飛ばされたやつかな?
それで七人。
残るは突然の事態に理解が追い付いていないのか、武器を構えて目を見開いているのが一人だけ。

「さて、武器を捨てて投降するって言うなら痛い目を見なくて済むぜ?」

「......。」

既に逆転の目はないと思うが、それでも最後の一人は武器を手放すことはない。

「......そういえばにーちゃん、全部で10人って言ってなかったか?」

ぴくりと襲撃者が反応している。

『マナスから報告が来ています。両名とも制圧済み、命に別状はありません。』

仕事が早いね、マナス。
ありがとう。

「えぇ、後二人道の向こうで伸びてます。」

「既に制圧済みか。いつそんな暇があったんだ?」

「やったのはマナスですよ。」

「......マジか?」

一瞬レギさんが気の抜けたような表情になる。
まぁ気持ちは分からないでもないですけど。

「くそがっ!」

突然叫びながら俺に向かって突進してくる最後の襲撃者。
しかし特に身構える必要もなく、横あいから仕掛けたクルストさんの一撃に倒される。

「なんで降参しないんスかねー?」

三人に囲まれている状態で何とかなるとは相手も思っていなかったと思うけど......。

「なんか理由があるのかもしれねーが、俺たちには関係ないな。とりあえず縛り上げるぞ。手当てが必要な奴にはしてやってくれ。」

あ、手を切った人の治療をしないと......。
親指完全に斬り飛ばしてないよな......?
手を真っ赤に染めながら倒れている人を調べると、辛うじて指は付いているという様な状態だった。
これはまずいね......でもまぁこちらを襲撃してきたんだからある程度は仕方ないよね......?
でもとても痛々しいし、回復魔法の練習台になってもらおう。

「......。」

手をかざし回復魔法をかける。
見た目だけじゃなく、骨や神経、血管とかもちゃんと治ってね......。
回復魔法は無事発動し、少なくとも見た目だけはちゃんと治っている。
機能もちゃんと戻っているかどうかは本人が気絶しているから分からないけど、まぁそこまで面倒を見るつもりはない。
後はクルストさんが背中を斬った人がいたな、完全に治療する必要はないだろうけど、止血くらいはしておこうかな。
顔を上げると丁度クルストさんが止血をしているところだった。
魔法の練習がてら代わってもらおう。

「クルストさん、その人の止血代わってもらえますか?」

「結構深く斬っちまったっスけど、出来るっスか?」

「えぇ、任せてください。転がっている奴らの捕縛をお願いできますか?」

「了解っス。申し訳ないけど宜しく頼むっス。」

そういうとクルストさんは近くに倒れている人を縛っていく。
さて、こっちはばっさりやられた人の確認をしてみますか。
怪我の具合を確かめると、確かにこれは結構深い傷のようだ。
放っておいたら恐らく助からないと思う。
とりあえず完全に癒しはしないが、ある程度傷は塞ぎ血も止める。
うん、大丈夫そうだ。
回復魔法って便利だね......。

「こっちの手当ては終わりました。向こうで伸びてる奴回収しに行ってきます。」

「おう、反対側も頼んでいいか?ここに二人は残っておきたい。」

「了解です。とりあえず連れてくるので捕縛はお願いします。」

「了解っス、連れてきてくれたら縛るっス。」

じゃぁとりあえず回収してきますか。
道すがらマナスがどうやって待機していた奴を倒したのか聞いてみようかな。



「なるほど......屋根から飛び降りて、そのまま顔に張り付いて気道を塞いで昏倒させたと......。」

えぐいな......マナス......。
首根っこを掴んで気絶した後ろ備え1号を引きずりながらマナスの武勇伝をシャル経由で聞く。
当の本人は1号の頭の上に乗っている、恐らく目を覚ましたらまた気道を塞ぐつもりだろう。
うん、是非1号は目を覚まさないことをお勧めするね......。

「そういえば、さっきの戦闘はどうだったかな?シャル。」

『素晴らしい動きでした。ほぼ相手に何もさせることなく制圧されていましたし、身体強化魔法も適切な魔力量で運用されていました。弱点を的確に打ち抜いていたので無駄な動きもほとんどなく一人一人を確実に仕留めていました。相手の数が多いにもかかわらず同時に複数を相手どらない立ち回りも意識せずにできているように感じました。』

確か戦闘前に採点は厳しくするって言っていたような......激甘じゃない?

『私が手を出すような状況は起こり得ないと確信できる立ち回りでした。』

「う、うん、ありがとう。実戦でもちゃんと動けることが分かったのは良かったよ。動き始めるまでは凄い緊張していたんだけどね。ところでシャルから見て直したほうがいい所はなかったかな?」

『そうですね......やはり魔法の使用に関してはまだぎこちなさがありますね。魔法を使う、という意識がまだ強いのだと思います。魔力と同様に魔法もまた自然に、己に根ざした機能の一つとして扱えるようになる必要がありますね。今は予め魔法を使用してから戦闘に臨んでいますが、それでは突発的な戦闘や戦闘中の対応に問題が生じると思います。』

「なるほど......魔力と同じように、か。どうしても特別なものっていう風に考えちゃってるけど自然に使えるようにならないといけないんだよね。魔力の時も同じこと言われていたのに......学習しないなぁ......。」

『ケイ様にとってはどちらも未知のものだったわけですから、使いながら慣れていくしかないと思います。』

「うん、やっぱり練習あるのみだね。」

襲撃者を引きずりながら魔法への思いを新たにする。
まぁそれはそれとして、今はまだ絶賛仕事中だ。
ひとまずこいつをレギさん達に預けてもう一人を回収したら、こいつらをどうするか相談かな?

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