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序章 狼の森
第5話 新しい旅の仲間はもふも......ごわごわでした
しおりを挟む森を抜けた後、俺たちの旅に加わった灰色の狼、そのままグレーウルフというらしいが彼から外の世界の情報を聞いた俺たちは進路を少し真東から南寄りに変更した。
森に棲んでいる狼なのでそこまで情報は期待していたわけではなかったのだけど、意外にも人が多く住んでいる場所を知っているという。
こちらとしては街道の位置でもわかれば儲けものだったのだが値千金の情報だった。
『......というわけで先々代の族長が群れの半分を率いて先ほどの森に移住したらしいです。』
「なるほど、それは中々すごい族長だったんだね。」
街の近くの森に居を構えていたらしいのだが群れが増えすぎて食料不足が危ぶまれたらしい。
元々そんな大きな森でもなくたまに来る人間が最大の敵だったらしいが増えるペースの方がはるかに早かったようだ。
食料が不足したから移住したのではなく先を見据えてってそんな決断できるんだ、すごいなグレーウルフの族長。
動物的な本能でそういうことができたのかな......?
まぁそれは今はどうでもいいか。
「それで街、かどうかは分からないけど人里の位置が分かると。いや助かったね。」
『偶然ではありましたがいい相手に絡まれたようです。丁寧に話をしたかいがありました。』
......丁寧......俺が知ってるのとはちょっと違う......いや、でも殴り合って分かり合うって話もあるし、もしかしたらこの世界では交渉術として頭を丁寧に踏み砕くって表現があるのかも......。
いや、さすがにそれはないだろ!?
相手死んじゃってるもん、死人に口なしだよ!?
いや、でも一発ぶん殴ってから始まる交渉術はあるのかも......怖すぎるな......。
『ちなみに移住を率いた先々代の子が先代の族長、その子が今ついてきている者だそうです。』
「ちなみにその先代ってのは......。」
『私が殺したのが先代だそうです。』
それはシャルが親の仇ってことじゃないですかね......?
『私の事をボスと呼んでいますが......ふぅ、別に群れを率いるつもりはないんですがね......。』
あ、強い奴がボスって感じなのか......。
「でも影狼とグレーウルフって種族違うんじゃ......?」
『そうですね。私たち影狼は天狼様の眷属ですから神域の外の狼とは完全に別の生き物といっても過言ではありませんが、姿は似ていますから彼らが勘違いするのも無理はありません。』
「なるほどねぇ......ってシャルちょっとまって、ついてきた子がすっごいばててるよ!」
ふと後ろを振り返ると、舌を出して若干白目をむいているグレーウルフが今にも倒れそうなばらばらのフォームでついてきていた。
『この程度の速度で5時間程走っただけで疲れるとはだらしない。申し訳ありませんケイ様、後で教育いたします。』
「まってシャル!今言ってたじゃない、完全に別の生き物だって。彼らはこんなに速く長時間走ることが出来ないんだよ、そろそろ日も暮れ始める頃だし今日はここまでにしよう!」
『承知いたしました、ケイ様。現在、街道は避けて進んでいますが、このペースでいけば後6時間も走れば人里までたどり着けるようです。』
「そっか、楽しみだな。あの子にもお礼を言っておいて。」
『畏まりました。』
シャルが走る速度を緩め後ろを振り返るとなんか死にそうな顔をしていたグレーウルフが倒れこむように横たわった。
あぁ、気付くのが遅れたのが本当に申し訳なくなる姿だ。
水とか上げて大丈夫かな......?
シャルに持ってもらっている荷物から水袋をだし、器にいれてグレーウルフの前に置いてみる。
なんかものすごい勢いでがっふがっふ言いながら水を飲んでいる......。
ほんと申し訳ない......。
ちなみにシャルが俺のことを上位者と言い含めているため俺に襲い掛かることは絶対にないそうだ。
水を飲み終えたグレーウルフはへそ天の状態でぜひぜひ言っている、その姿に野生は感じられない......。
色々貴重な情報をくれた子だ、労わってあげたいけど、マッサージとかできないしな......。
とりあえず犬はお腹を撫でられるのが好きって聞いたことがあるけど、狼もそうなのかな......?
感謝の気持ちを込めてお腹を撫でてみる。
シャルのさらさらした毛とは違ってごわごわしているな......そうか野生の獣なのだからそういうものか......シャンプーとかしてブラシいれたらさらさらになるかな......?
お腹を撫でながらそんなことを考えていると、グレーウルフの目がうっとりしたように細くなっていく、手のひらに伝わる鼓動は弾けんばかりにどっくどっくしているけど、これは気持ちよくなってくれているのかな?
次の瞬間飛び起きたグレーウルフは仰向けから反転、伏せの状態になり地面にめり込まんばかりに自らの顔を押し付けた。
びっくりした俺が少し離れた位置にいたシャルの方をみると、シャルはグレーウルフのことをじっと見ていた。
「......?シャルどうかした?」
『いえ!なにもございません!今日はここで野宿ということでよろしいでしょうか?』
「そうだね、今日はここまでにしよう。明日早めに出発したら休憩を挟みながらでも昼過ぎには人里にいけるみたいだし早めに休むとしよう。」
明日の予定を考えつつシャルに近づき、シャルの頭をなで、耳の後ろを指で揉むようにほぐす。
「シャルもお疲れ様。もう少しで最初の目的地にたどり着けそうだね。ここまでありがとう。」
『もったいないお言葉です!』
そういいながらシャルはぶんぶんと嬉しそうに尻尾を振っていた。
しばらくシャルを撫でた後、街に着いた後の事を話し合う。
「さて、明日街に着いてからのことだけど、まずどうしようかな?」
『そうですね、まずその街の情報が欲しいところですね。さすがにグレーウルフでは街のことや人の事などはわからないので。』
「うん、そうだね。......そういえばグレーウルフの個体名はないのかな?」
『はい、彼らも個別の名はもっていないようです。』
「そっか、つけてあげても大丈夫かな......?」
『......はい、命名していただけるなら是非と言っております。』
グレーウルフの方をみるとお座りの状態で尻尾をちぎれんばかりに振りつつこちらをキラキラした目で見ている。
「そっか、じゃぁ......グルフ、でどうかな?」
考えた名前を告げるとグルフは伏せの状態に移行した。
これはどういうことなんだろう?
『ありがとうございます、改めて忠誠を誓わせていただきます。とのことです。』
「どういたしまして。って忠誠......?」
『はい、グルフはケイ様のお立場のことも既に知っておりますので。』
「あぁ、そうなんだ。こちらこそ、よろしくね。グルフ。」
そういいながらグルフの頭を軽く撫でる。
「よし、じゃぁ話を戻そう。街に着いてから情報収集か。こういう場合の定番といえば酒場とか、もしあるのなら冒険者ギルドとかかな......。」
『酒場か冒険者ギルドですか......酒場はわかりますが、冒険者ギルドとはなんでしょうか?』
「うーん、俺もよくわかんないけど......まぁ何かしら情報が集まりやすい場所ってこところかな......?」
『なるほど......そのような場所があるのですね。では街に着いたら行ってみましょう。』
いやごめん、酒場はさすがにあると思うけど、冒険者ギルドは適当に言いました。
母さんから教えてもらったのは4000年も昔の話で、その頃は似たようなものがあったみたいだけど、さすがに時間が経ちすぎているしな......。
「次に生活基盤を築くことだけど......、これはすぐになんとかなるものでもないだろうしな......母さんから貰ったお金が使えるようなら問題はないけど、まぁこれは望み薄だね。となると使えるお金に貰った金貨とかを換金できればいいんだけど。金としての価値は同じはずだからいけるはず......。金暴落してないよな......ま、まぁ一先ずそれをあてにさせてもらうか......。最悪森にでて野宿しながら小銭稼ぎかな......。」
『近くの森には獲物がそれなりにいたようですし狩りをすれば食料はなんとかなりそうですね。』
「その時はお世話になります。街に入るときはどうする?グルフは無理だよね?」
『はい、グルフは体の大きさを変えたりは出来ないので森に待機させます。私は30センチ程まで小さくなることが出来ますが、その場合荷物をどうするかが問題ですね......。』
「荷物はグルフに任せよう。金貨と魔晶石、後は換金できそうな薬草を少々持って......水袋も必要かな。」
基本的に換金に使えそうなものをメインにもっていけばいいかな、母さんから渡されている道具関係は魔力操作が出来ないと使えないから置いていくとして、旅をしてきているんだから携帯食料は持ってないと不自然かな......?
『体は小さくしますが、護衛は確実に務めさせていただきますのでご安心ください。』
「頼りにしてるよ。でも基本的に街中ではあまり過剰に人に攻撃しないようにね。」
『ですがケイ様に不敬をなそうとするものに手心を加えるなど......。』
「ごめんね、シャル。人の世界で過ごすには色々と面倒なんだ。俺に直接被害が出そうなとき以外は極力抑えてくれるかな?」
『......承知いたしました。ケイ様がそうおっしゃられるなら従わせていただきます。』
不承不承といった感じはあったけどシャルは承諾してくれた。
今この世界がどのくらいの文明度かわからない、魔法と科学が融合して青い猫のロボットとかいるかもしれない。
法整備が進んでいるようであれば一挙一動に注意する必要もある。
鞄を地面に置いただけで逮捕される可能性だってあるんだ。
前を横切っただけで無礼打ちされることだってありうる......。
あ、街に行くの怖くなってきた。
事前情報が無いってのは不安すぎるな......。
「うん、お願いするよ。人の世界に関する情報がまったくないんだ、慎重に慎重を重ねていくぐらいじゃないと危険だと思うんだ。」
『はい、肝に銘じておきます。』
今度は打てば響くような返事をシャルは返してくれる。
俺の危機感のようなものが伝わったのだと思う。
「グルフも荷物の守りを任せちゃうことになるけど、よろしく頼むよ。」
グルフは頭を下げる。
ちゃんと言葉通じてるんだよな......すごいな。
シャルの方を見てみると問題ないというように頷いてくれる。
「よし、じゃぁ打合せはこのくらいにして野営の準備をして明日に備えよう!」
俺が言った次の瞬間シャルとグルフは一気に野営の準備を整え俺は何一つやらせてもらう事が出来なかった。
もう少し俺にもやらせてくれてもいいんじゃよ......?
とりあえず、毛布を広げることだけはやりました。
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