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序章 狼の森

第3話 狼と魔法と狼と......

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「............。」

『圭祐、魔力の感覚は掴めましたか?』

「すみません。まだ何も感じ取れません。」

体の傷もすっかり癒え、左半身も黒くなくなった頃から俺は母さんに魔法を習っているのだが......。

『そうですか、やはり元々持っていなかった物を後天的に手に入れてもなかなか難しいようですね......。私が上手に教えることが出来ればよかったのですが......。』

「それは仕方ないですよ。俺も右手の動かし方を教えてほしいって言われても説明できませんし......。」

『そう、ですね。何か特殊な技術というわけでもないので......動かす感覚を掴めればそこから先の訓練等は教えられるのですが......。』

「魔法......是非とも使えるようになってみたいですね......。」

『圭祐の魔力保有量はかなりの物です。魔力を扱えるようになれば上級魔法使いも圧倒できるかもしれませんね。使う魔法も攻撃、防御、回復とバランスのいい天狼魔法ですしね。』

この世界には神獣と呼ばれる方々がいて、それぞれの加護を得ることで魔法が使えるようになるらしい。
母さんも天狼の加護を与える神獣であるそうで、当然母さんの神子である俺が使う......使えるようになるはずの魔法も天狼魔法だ。
分かりやすく言うなら身体強化、弱体、回復魔法もあるよって感じのようだ。
それを聞いたときほんの少し、ほんの少しだけだけど、火や雷とか操る魔法が良かったなぁとか思ってしまい、しかもそれが母さんに筒抜けで、数日間ものすごく拗ねられたことがある。
なのでそんな不遜なことは二度と思わないと心に誓っている。
魔力も加護もあるけど使い方がわからないので残念ながら魔法の行使には至っていない。
ただ母さんが言うには魔力の使い方さえわかれば魔法の行使は問題ないそうだ。
頑張って練習しよう......。

魔法だけじゃない、この世界についての知識、生きていく為の技能、現状俺は何もできない、何も知らない。
幸い母さんは色々なことを教えてくれる。
勉強するには事欠かない環境だ。
なるべく早く両親に連絡を取りたいところだが、焦っても仕方ない......少しずつ前に進もう。



さらに一年が経過した。
念願の魔法は使えるように......なりませんでした。
大丈夫......まだ手段は残されている......。
必ず使えるようになりますとも......。
......使いたい。
とまぁ、どんよりするのはここまでにしよう。
今日はここ、母さんの『神域』から旅立つ日だ。
俺の目的であるまほ......両親に連絡を取るためにも外に出なくてはならないのだ。
母さんから頼まれたお使いもある。
他の神域を回り言伝を頼まれているのだ。
お使い以外にも神域を訪問する必要はある、各神域の神獣様たちに加護を授かりたいのだ。
現時点で魔法が使えない俺だが元の世界に連絡を取るために母さん以外の神獣様から加護を貰って色々な魔法を使えるようにするのは必須だろう。
決してとにかく魔法が使いたいという理由ではない。
......そんな理由ではないのだよ?
どのような神獣様がいてそれぞれの魔法についても教えてもらっている、絶対に必要だと思うのは妖猫様の空間魔法ってやつだ。
後、これは完全に別件だが、あの金髪にーちゃんだ。
母さんから奪っていった魔力、母さんはほんの少しだけだから大したことは出来ないとは言っていたが、なんかちょっとイラっとするし、探してやりたいと思っている。
主な目的はこんなところだ。
目的ははっきりしているものの、問題は結構ある。
この世界はどうやら結構危険なところで、魔物が跳梁跋扈し生存圏をかけた争いが絶えないらしい。
母さんから鍛えてもらったとはいえ、魔力も扱えない貧弱な俺では1日と持たずに死んでしまうだろうとのこと......。
いや、危険すぎるね。
因みに母さんは神域から離れることが出来ないので、当然ついてきてもらう事は出来ない。
そもそも母さんについてきてもらうお使いっておかしいよね。

『うーん、やはり心配です。』

「まぁ、不安がないと言ったら嘘になりますけど。一人で外に出るわけではないので......。」

そう、一人であれば即デッドエンドだが俺には心強い仲間がいた。

『圭祐の事、お願いしますね。』

『はい!我が命に代えても神子様には決して危険を及ばせぬようにいたします!』

母さんに俺のことを頼まれているのは、体長二メートル程の黒い狼。
この神域に住む母さんの眷属、影狼の一族で族長の子だそうだ。
その戦闘力は母さんの折り紙付きで、俺が百人いても五秒持たないそうだ。
百人で五秒って、この世界怖すぎるんだけど......味方でよかった。

「助けてくれるのは嬉しいけど、命は大事にね。」

『はい!ありがとうございます!全身全霊をもってお守りさせていただきます!』

うん、いまいち伝わってない気もするけど、とても心強い。

「よろしくね。それと、何て呼べばいいかな?」

『私たちに固有名はないので、影狼と呼んでいただければ。』

え?名前ないの?不便じゃない?

『そうですね......では圭祐。この子に名をつけてあげてください。』

『っ!よろしいのですか?』

『えぇ、これから神域の外に出るにあたって名を持たないのは色々と不便が生じるでしょう。』

「えっと、俺がつけちゃっていいのかな?」

『ありがとうございます!光栄にございます!』

むむ、唐突に命名権を貰ってしまったが、どうしよう......。
そういうのやったことないんだよな......うーん、黒い狼、影狼......。

「......シャル、でどうかな?」

『素敵な響きですね、とてもいいと思います。』

『ありがとうございます!このシャル、神子様に一生お仕えさせていただきます!』

母さんは俺に対してかなり採点が甘いので、あまり信用できないのだけど、シャルも気に入ってくれたってことかな......?
尻尾凄い振ってくれているし......可愛いな。
思わず頭を撫でてしまったが、シャルは気持ちよさそうに目を細めている。
よかったよかった、仲良くやれそうだ。

『名づけで思い出しましたが、圭祐は名前をどうするのですか?』

「はい、やはり名前は変えようと思います。」

この世界において、俺の名前はやはり珍しい響きのようで、世界に紛れ込むためにも別の名前を名乗ったほうがいいと判断したのだ。
俺のことをこの世界に引き込んだ奴の事もある。
出来れば相手に気づかれる前にこちらから見つけたいと思っている。

『そうですね、私もそのほうがいいと思います。それで名前の方は......?』

「うーん、母さん。つけてくれませんか?」

きょとんとした表情で母さんがこちらを見つめてくる、ほのかにうれしそうな雰囲気が滲み出ている。

『私でいいのですか?』

「はい、この世界で俺は母さんの子です。なら俺の名づけはやはり母さんにしてもらうべきだと思います。」

はっきりと尻尾をパタパタさせている母さんは可愛いが、さすがに頭を撫でるのは失礼な気がするので隣にいるシャルを撫でる。

『ケイ=セレウス、あなたは今日からケイ=セレウスです。』

少し考えるそぶりを見せた母さんはこちらを見ながら俺にこの世界での名前を与えてくれた。

『元の名前はこの世界でも違和感がない程度に残しておきました。ファミリーネームには昔私が呼ばれていた名を。』

「昔呼ばれていた名前ですか?」

『えぇ、四千年程前。まだ神域が無かった頃のことです。』

母さんは四千年程神域に籠っているけど、外の世界で過ごしていたらしい。
その時に得た知識や道具なんかを旅立つにあたって譲ってもらっている。
お金の類も一応あるけど四千年前の通貨はさすがに使えないよな......。
万が一ってこともあるから一応貰っていくけど。
後は言葉や文字だ。
これはほんと頑張って覚えたので通じてくださいと心の底から願っている。
四千年......いや、ほんとお願いしますよ?

「ありがとうございます。これからケイ=セレウスを名乗ります。」

母さんは嬉しそうな雰囲気でこちらを見つめている。
俺は母さんに近づくと、軽く母さんに抱き着く。

「本当にありがとうございます。この世界に来てからの2年で頂いたもの、全てを大事にさせて頂きます。」

『私の方こそ色々なものをケイから貰っています。生を受けてこの方これ程喜びに満ちた時間はありませんでした。外は危険が多いので気を付けてください。ケイが戻ってきてお話を聞かせてくれるのを楽しみにしていますよ。』

「はい、母さんの知らない今の世界を広く見てきます。沢山土産話を持って帰ってくるので期待しておいてください!」

こうして俺はこの世界にきて二年、初めて母さんの庇護下から離れて旅立つことになった。

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