召喚魔法の正しいつかいかた

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4章 召喚魔法使い、立つ

第160話 サーチ&デストロイ

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 ミナヅキによって投げ捨てられた蜘蛛の糸を大事そうに抱えながら、ルデルゼンはミナヅキに問いかける。

「さっきも言いましたが、この糸はかなり高価なものですよ!?何故捨ててしまったのですか!?」

「え?あー、いつもの癖で」

「癖!?」

 普通の家庭の一か月分以上の稼ぎをあっさりと捨てたミナヅキを、信じられない物を見るような目で見るルデルゼン。

「あー、ルデルゼン。ミナヅキが素材を捨てたのはセンの指示にゃ」

「セン殿の?」

 ルデルゼンは首を傾げつつ、先日正式に雇用契約を結んだ相手との会話を思い出す。

(セン殿が私達に求めているのはダンジョンや魔物の調査。その調査という点で魔物の落とす素材と言うのは無視出来ないのではないか?それとも素材を持ち帰らないことに何か意味が……)

 先日のセンとの会合を中断した後、ルデルゼンは『陽光』のラグに契約通り面会を希望する書類を送り、ラグと再び会った。
 以前完全にやり込まれていながらも、さして時間も置かずにラグがルデルゼンの要請を受けたのは、契約を交わしているとは言え明確な弱みをルデルゼンに握られているからだ。
 ラグ自身、契約についてはそこまで絶対視していない。それは若いうちから探索者として順調に歩んで来ているラグにとって、契約というのは商人が交わすものであり、精々口約束よりは拘束力がありそうだなくらいの認識だったからだ。
 そんなラグとルデルゼンは再び面会をして……開口一番、今までの自分の態度を謝罪した。
 ラグからすれば一体何の話だといった所ではあったが、ルデルゼンはセンにも言った通り、自己満足の為にラグに謝ったのだ。
 とは言え、そんな感傷に付き合わせるお詫びとして、ルデルゼンは、前回の探索の撤退時に拠点へと置いて来た消耗品や道具……その半額に相当する金額をラグへと渡した。
 即物的な考え方をするラグはその金に即座に飛びついた、そのお陰で色々と燻ぶっていたルデルゼンの罪悪感も綺麗に拭われ……ルデルゼンはその足でセンとの再び面会をして……センに協力することを申し出た。
 その時にルデルゼンは、センから基本的にニャルサーナル達と協力してダンジョンの探索をするように頼まれている。

「……確認させて下さい。セン殿が魔物の落とした素材は捨てる様に言ったのですか?」

「えっと……正確には持って帰ってこなくていいだったかな?あ、見た事無い素材は必ず持って帰らないといけないんだけど、同じ物が二個出たら別に二つ目は要らないって」

「そうにゃ。荷物が増えて危険が増すくらいなら必要ないって言われたにゃ。でもセンが欲しいって言った素材は持って帰らないといけないにゃ。超我儘にゃ」

「……なるほど。そういうことですか……基本的に荷物に関しては私が運びますし、その糸は大した荷物にはならないのでもって帰りましょう。私達はセン殿から給金を貰い、別途経費もいただいていますが……少しでもセン殿に還元出来る素材を持って帰るのは悪くないでしょう」

 そう言ってルデルゼンは下ろしていたカバンの中に糸を入れる。

「ルデルゼンは真面目だにゃー。センはアホみたいにお金持ってるから、気を使う必要ないと思うにゃ」

 相変わらずお気楽な口調でニャルサーナルは言うが、ルデルゼンは苦笑しながらカバンを背負い直す。

「そう言えばセンって皆にお給料払ってるけど……どれだけお金持ってるんだろ?」

「どうだろうにゃー?っていうか、どうやってお金稼いでいるにゃ?ずっと家にいて忙しそうにしてるけど、アレは仕事なのかにゃ?」

「うーん……そう言えば謎だね」

「もしかして……ラーニャ達に働かせて生活しているにゃ?」

「あはは、それは無いよー。あれじゃない?ライオネルさんとなんか色々売ってるし、それで儲かっているんじゃない?」

「あー、プレイカードとかだにゃ?」

 まるで街で食べ歩きでもしているかのような気楽な雰囲気で後ろを歩く二人の様子に、ルデルゼンは苦笑しながら先頭を歩く。
 『陽光』のメンバーは若手ではあったが実力のある探索者チームである。そんな彼らでもダンジョンの探索中にここまで自然体では無かった。
 張りつめていたという程ではなかったが、それでも街で過ごしている時とは緊張感が違ったし、警戒しながら探索を進るのが普通……いや、どの探索者チームであってもそれが常識だ。
 勿論、気楽な雰囲気と言っても、彼女たちがダンジョンを舐めて油断しているわけでは無い。

「今度は二匹くるにゃ。多分蟻だにゃ。一匹は天井を歩いてくるからそっちはミナヅキに任せるにゃ。下の一匹はニャルがやるにゃ」

「了解―」

 ニャルサーナルの警告に、素早く隊列を入れ替え魔物を迎撃する二人の実力は、今までルデルゼンが見て来た探索者とは一線を画す。
 ニャルサーナルの索敵能力の高さにミナヅキの魔法……どちらも探索者のチームにとって非常に得難い物だ。

「よっと……虫の魔物はしぶといから面倒だにゃ」

 その台詞とは裏腹に、一メートル程もある蟻の魔物の足を一瞬で腰に差していたナイフで切り落としてしまう。目にも止まらぬ速さと言っても決して過言ではない動きである。

(お二人ともとんでもない強さですね。『陽光』の全員で戦ったとしても、彼女達には勝てない……というか、攻撃する間もなくやられそうですね。ニャルさんもミナヅキさんも速すぎる)

 物理的に目にも止まらぬ速さで動くニャルサーナルと、いつ魔法を使ったのか分からない程の魔法発動速度を誇るミナヅキ。もしこの二人に勝とうとしたら不意を打つくらいしかルデルゼンには策が思いつかなかったが、その不意打ちにしてもニャルサーナルの感知能力を凌駕しなくてはならない。
 しかし、暗闇とは言え、先頭を歩くルデルゼンが視認するよりも早く魔物の接近に気付くニャルサーナルの索敵を躱す方法は全く思いつかなかった。

「……お二人とも、非常識な程強いですね」

 二匹の蟻の魔物が一瞬にして二人の少女に光の粒へと変えられ、辺りに静寂が戻ったのを確認してから、ルデルゼンは二人に声を掛ける。

「魔法には結構自信があるからねー」

「まぁ、ニャルはサイキョームテキだからにゃー」

 戦闘を終えた直後であっても何ら変化を見せない二人に代わり、再び隊列の先頭に移動したルデルゼンは周囲の様子に視線を配りながら話を続ける。

「お二人であれば、二十階層も難なく攻略出来そうですね」

「二十階層かーまだ先は長そうだけどねー」

「まずは十二階層リベンジにゃ!ルデルゼンが罠とか得意みたいだから超期待してるにゃ!」

 ニャルサーナルの言葉に、少し鼻息荒くミナヅキも同意する。二人は十二階層までの攻略を、全て一日で難なく終わらせていたにも拘らず、十二階層から本格的に危険度を増してきた罠に阻まれ、攻略が思う様に出来なくなったことにプライドを傷つけられていた。
 そんな二人の内心に気付いたルデルゼンは、苦笑しながら口を開く。

「えぇ、お任せください。十二階層以降は罠に造詣の深い者が欠かせませんからね。今日の探索ではあまりぱっとしませんが……次回からは私の本領発揮といった所です」

 先日のニャルサーナルの指摘もあり、意識して強い言葉を使う。それでも、先程の二人の様に自信満々と言った感じは無かったが……意識的に自分の在り方を変えようとしている姿にニャルサーナルは破顔した。

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