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4章 召喚魔法使い、立つ
第158話 理想と現実
しおりを挟む「はぁ……」
いつものように酒を飲みながら仕事の話……ほぼ雑談の様な物をセンとレイフェットがしていると、レイフェットが唐突にため息をついた。
しかもこれが初めてではなく、今日何度目になるか分からないため息だ。
「どうした?心配事か?」
「……いや、すまねぇな。明日からラーリッシュとの会合だろ?これがとにかく憂鬱でな」
「そんなに厄介なのか?」
「厄介というか……この前も言ったと思うが、とにかく話が通じねぇんだよ」
げんなりとした表情でレイフェットは言うが、センは少し考え込むようなそぶりを見せた後……よく分からないといった表情を浮かべる。
「まぁ、分らんよな……そうだな。隣接領の領主はラグレイ、これはこの前も話したと思うが……こいつは結構最近領主になった奴でな。あー、五年くらい前だったか?先代領主の父親からの代替わりだったんだが……元々隣接領とは関係が悪くて十年前までは良く小競り合いをしていたんだ」
「ふむ?今の領主とは戦争はしていないんだな?」
「あぁ。先代はとにかく殴りつけて言う事を聞かせるってタイプでな。晩年は流石に兵を率いて攻めてくることも無くなっていたが……今代になってからは直接的な戦闘は起こっていない」
「そこだけ聞くなら良い事のように聞こえるが……」
それだけじゃないんだよな?と言う様な視線をレイフェットに向けるセン。
「そうだな……例えば、隣接領で雨が降らず干ばつが起きた事があった。当然ではあるが自然の営みの結果だ、誰が悪いって訳じゃない。まぁ、悪い奴を上げるとすれば、自らが管理する土地で災害が起こった時、それに適切に対応出来なかった領主が悪いって感じだな」
「そりゃそうだな。そういう時の為に税をとっているんだからな。勿論水不足って言うのはそんな簡単な問題でないことも確かだが……」
当然の話だと言う様にセンは頷く。
「そうなんだけどな……ラグレイの野郎は……シアレンの街のせいにして賠償金を請求してきやがった」
「……意味が分からん」
眉を顰めながらセンが呟くと、レイフェットが勢いよく肩を落としながら口を開く。
「奴の話では……あー、シアレンのある山のせいで、雲が領地に流れてこなかったのが干ばつの原因だと」
「……なるほど、斬新な考え方だ。百歩譲って山のせいだとしてもシアレンの街は関係ないな」
「そうだよな。正直斬新すぎてその手紙を読んだ時破り捨てそうになったからな」
「良く堪えたな。尊敬に値する精神力だ」
センが皮肉気に言うと、レイフェットは鼻で笑いながら言葉を続ける。
「全くだぜ。他には……百年くらい前の戦争の賠償金を請求してきたこともあったな。後は……あぁ、向こうの領内で疫病が発生した時は、うちの街の探索者が向こうに行って病気をばら撒いたとか言って来たな。その疫病はうちの街では誰も罹患しなかったが。因みにその時も賠償金を請求して来た」
「……好きだな賠償金。払ったのか?」
「そんな訳ねぇだろ。とりあえず何でもいいから難癖付けて、金を貰えたらラッキーくらいに考えてるんじゃねぇか?」
「……どこにでもそう言う考えの奴はいるんだな」
センが呆れた様な声を出しながら遠い目をする。
「お前の故郷にもいたのか?」
「……さてな」
レイフェットの問いに肩を竦めたセンは、ソファの背もたれに体を預けながら疲れたように言う。
「その手の連中は自分達の話しか興味がないからな。一方的に騒ぎ立てるだけでこちらの話は一切聞かない……聞く気がないって感じだろ?」
「あぁ、そんな感じだな。どういう精神構造をしていたら、あんなわけの分からない主張が出来るのか全く分らん。頭花畑どころじゃないぞ?頭に麻薬でも咲いているんじゃないかって感じだ。しかも恐ろしい事にな……そんな抗議文だか要求だか恐喝だかなんだか分からない代物に、王印が入っていたんだぞ?」
「王印って……王の認可がその文章には降りていたってことか?ラーリッシュとんでもないな……」
「今の王とそこの領主は学生時代の同期らしくてな……」
「頭の痛い話だ……暗君という情報は聞いていたが……よくそれで国が残っているな。このご時世すぐに攻め込まれそうなもんだが」
「トップが馬鹿だからと言って、下に優秀な人間がいない訳じゃないからな。まぁ、何にしても……俺がどれだけ憂鬱か、少しは分かってくれたか?」
げんなりと通り過ぎ、ややげっそりした様子で話すレイフェットに、センは憐れみの視線を向ける。
「あぁ。正直、今までで一番同情している」
「なら外交官として同行して……」
「それは断る。どう考えてもまともな交渉になるとは思えない。話の通じない相手は苦手だ」
センがそう言うと、この話を始めてから初めてレイフェットは笑みを浮かべる。
「お前でもやり込めない相手が居たな。とは言え……味方には絶対に要らないが」
「気が滅入るな……そういう連中とも手を取り合って行かなければいけないんだが……」
「だからこそ、今回向こうに訪問する訳だが……相手の出方が全く読めねぇ。まぁ、会談は三日間……最終日以外は夜こっちに戻るから相談させてくれ」
表情を真剣なものに変えたレイフェットがセンに言う。
「あぁ」
「場合によっては……外交官の話、本気で頼むことになるかも知れん」
「……最悪覚悟はしておく。だが、本当に政治の話は分からんぞ?」
口元に手を当て、少し考え込むようにしながらセンは言う。
「大丈夫だろ。国同士の政治なんてのは、結局妥協点の探り合いだ。相手のカードとこちらのカードの中からどれを譲り、どれを譲ってもらうかでしかない。お互いが同価値と認めた時点で決着だ。いつもお前がやっている事と何も変わらないだろ?」
レイフェットが肩を竦めて言った台詞に、センは非常に嫌そうな顔をしながら応える。
「それは基本であって理想だ。現実的に考えて……より腕力のある奴が多くを持って行く。個人同士の交渉も国同士の交渉もそれは変わらない。ゲームと違ってルールに縛られていないからな。だからこそ武力で奪い取る戦争ってのが主流なんだろ?」
「まぁ、そうだな。口がいくら上手かろうと死んじまえばそこまでだ」
「身も蓋もない言葉だが、その通りだな。戦争ってのは外交手段の一つではあるが、それだけに頼るのは健全とは言い難い。だからこそ、俺はこの世界全てにルールを求めたい」
「ルール?」
センの発言にレイフェットは首を傾げる。センの言葉はいつも突拍子のない物とレイフェットは認識しているが、今回の話はいつも以上に途方もない話に聞こえる。
「そう、ルールだ。強制力と言ってもいい。国同士の付き合いにはルールが必要だ。暗黙のルールなどではなく、きっちりと明文化された……世界共通のルールだ」
「そんなもん、出来るわけないだろ?誰が守らせるんだよ。国内の法律を守らせるのにはその国の兵力が必要だ。国には民を従わせられるだけの力がある、だから国内のルールを守る。だが国にルールを守らせるってことは、国を従わせられるだけの力が必要になる。そんな力……どこにも存在しないだろ?」
「いや、ある。というか既に存在している。国を従わせられるのは他の国々だ」
「……従わない国は他の国々が協力してぶっ潰すってことか?足並みがそろう訳ないだろ?」
「そうだな……現状では夢物語ですらない。だが、いつかそこに辿り着きたいとは思っている」
センの宣言を聞き、レイフェットは目を一瞬目を丸くするが、その後苦笑しながら口を開いた。
「お前ならなんか妙な手を使って成し遂げちまいそうで怖いが……隣国の一地方領主如きに頭を悩ませている現状では、お前の言う通り夢物語にすらなってないな」
「ふん……強固なルールが出来れば、そんな馬鹿は淘汰されていくさ」
センの言葉に、少しだけレイフェットが遠くを見るような目になる。
「想像も出来ねぇが……お前の言うルールが出来上がった世界はどんなものなんだろうな?」
若干の憧憬の様な物を滲ませながらレイフェットが言う。
「あまり代わり映えはしない世界だろうな。結局戦争以外の方法で国は争う」
「戦争以外の方法ね……口喧嘩とかか?」
冗談めかしながらレイフェットは言うが、センは至極真面目な表情で概ねそんな感じだと頷いた。
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