召喚魔法の正しいつかいかた

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4章 召喚魔法使い、立つ

第152話 領主館での攻防

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 ニャルサーナルとルデルゼンが探索者ギルドでラグに契約を迫っている頃、ダンジョンに関する報告を終えたセンは、ゆっくりと酒を飲みながらレイフェットと会話を続けていた。

「そう言えば、この前の商業ギルドの件はどうだったんだ?」

「あぁ、まだ最初の一回だからな。大したことは話し合ってねぇよ」

 相変わらず、センとは比べ物にならないサイズの器で酒を飲みながら、レイフェットは肩を竦める。

「だがまぁ、とりあえず代表……ギルド長を決めるって話になってな。全員がライオネル殿を推した」

「……それは……気持ちは分からないでもないが、ライオネル殿は駄目だろ。一応以前から小規模の買い取りをやっていたとは言え、本格的に店を開いたのはここ数か月の事だし、何よりこの街に腰を据えている訳じゃない。この街の商人の為の互助組織の長に据えるにはかなり無理がある」

「まぁ、それはそうなんだがな。だがライオネル殿以上に商業ギルドを取り仕切るに相応しい人物がいないのも確かだ。良くも悪くも身内だけで商売をやってきた連中だからな、今更自分達の利権を守る為に外部の商人達と折衝する必要があると言われても……中々な」

 そう言ってレイフェットは、少し困ったような表情を見せる。
 今まで街を開いていくことをせず、現状維持だけで満足していたという引け目の様な物を感じているのだろう。

「気持ちは分からないでもないが……商人がそれでいいのかって気もするな」

「その辺りに関しては俺のせいでもあるからな……耳がいてぇ」

 そう言ってレイフェットは酒を呷る。

「一応ライオネル殿はシアレンに移住してくるつもりではいるらしいが……」

「……そうなのか?」

「あぁ。俺もこの前の会合の時に聞いたんだがな」

「……まぁ、大型店舗もあるし、出来なくはないかもしれないが……」

「現状ではこれ以上この街に店を開くつもりは無いらしいがな。ただ、本部の機能をこっちに移動させるって事だそうだ。それと、大通りの店は完全に素材の買い取り専門店にするらしい」

「あぁ、それは俺も以前聞いていた。販売は大型店舗で一手にやるとな」

 大通りにあるエミリの店は、立地的には一等地ではあるが、集客力では大型店舗には遠く及ばないし、そもそも大型店舗がオープンするまでのつなぎや輸入商品のお試しといった意味合いで開いていたに過ぎない。
 大型店舗がオープンした今、役目を果たし終え、別の使い方をする方が良いだろう。
 しかし、飲食をやるには店舗が狭すぎるし、輸入品以外の販売となると元々ある店との兼ね合いがある為、素材の買い取り規模拡充の為の店舗となることになったのだ。

「それにあれだろ?お前の近くにいた方が色々と便利だからな」

「ライオネル殿はお前みたいな言い方はしないだろうが……まぁ、俺がいればハルキアの王都や他の支店にもすぐに行けるのは確かだな」

 センがそう言うとレイフェットは大きくため息をつく。

「移動だけの問題じゃないと思うがな。お前の出すアイディアは俺達の常識から外れたものが多い。細かく説明を聞けば納得も出来るが……唐突に言われても首を傾げることが多いからな。そんな突拍子もない話を聞くにも、普段からなるべく近くにいた方がって気持ちは分からないでもない」

「突拍子の無い話って言うのには心当たりがないが……ライオネル殿が近くに来てくれるのは色々助かるな」

「ライオネル殿がこの街に来るのであれば、商業ギルドを纏めて貰いたいと思っている。ただ、この街に住むとは言え、国を跨いで商会を広げているからな……その辺との兼ね合いが問題になりそうだな」

 そう言ってセンの方をじっと見つめるレイフェット。その瞳は何かを期待するような色を見せており、それに気づいたセンは小さくため息をつきながら口を開いた。

「つい先日も言ったが……そうホイホイ良い考えは浮かばないぞ?そもそも商業ギルドってのがどんなことをするのか詳しく知らないしな」

「そうなのか?お前のいた所には商業ギルドは無かったのか?」

「……恐らく同じ物はないな」

(商工会はあったが……アレは互助組織って程でもないからな。どちらかと言うと、事業や地域発展のために色々と取り組みをするっ組織って感じだったか?一度商工会議所に行った事はあるが……いや、今それはどうでもいいな)

 センは少し考える様に口元に手を当てる。

「問題は……他国にも店を持つライオネル殿にとって利益相反が出る可能性だよな。ギルド長という立場でそれはマズい。勿論シアレンの街を第一とするならば問題は無いのかもしれないが……傍から見て公平な立場とは言い難いな」

「一つの商会を率いる以上、従業員達を守る責任ってものがあるからな。ライオネル殿自身がどれだけ信用に値するかは関係ないだろうな」

「それが分かっているなら、なんでライオネル殿を推すんだよ……」

 レイフェットの言葉に呆れた様な声を出すセン。そんなセンに苦笑しながら仕方ないだろと言葉を続けるレイフェットは、珍しく力ない笑みを浮かべている。

「一番のやり手だからな……それにどう考えても他の奴等じゃ荷が重い。商人達の為の互助組織が迷走すれば……下手したら街が沈むだろ?」

「確かにそれはそうだが……ライオネル殿は何と言っているんだ?」

 レイフェットの言葉はもっともな物だと思いながらも、センは尋ねる。

「流石にギルド長は無理だと言っていたな」

「そりゃそうだよな……」

 センは当然だろうとばかりに頷くが……レイフェットは、まぁ待てと言う様に掌をセンに向ける。

「確かに、自分の商会の利益を追求する会頭という立場と、この街全体の利益を考えなければならないギルド長という立場……兼任するのは難しいと言える。だが、商人達の互助組織である以上誰かが泥をかぶらなければならない。そうだろう?」

「……そうだな」

「そして、俺が言うのもなんだが……この街はこれから間違いなく発展していく。ギルド長という立場……かなりの利権が見込める立場であることは言うまでも無いよな?」

 ほんの数秒前の力ない笑みとは違い、力と熱の籠った言葉を発するレイフェット。

「……」

(レイフェットの言う事は一つも間違っていない……間違ってはいないんだが……なんか妙な雰囲気があるな)

 胡散臭いと感じながらもセンはレイフェットの言葉を聞く。そんなセンを見ながら一泊間を置いたレイフェットだったが、続ける言葉に籠っている熱は些かも衰えを見せていない。

「まぁ、正直……相当忙しいだろうけどな。だがそれに見合っただけの利益も確保出来るだろ?」

「どうだろうな……少なくとも、ライオネル殿は面倒ごとの方が勝つと考えたんだろ?甘い汁が無いとは言わないが……それを甘く感じる余裕があるかどうかは微妙な所じゃないか?」

「人は蟻以上に甘い汁に群がる物じゃないか?」

 レイフェットは笑みを浮かべながら言うが……その胡散臭い笑みをセンは鼻で笑い飛ばす。

「お前は好きみたいだな……俺は全く欲しくないが」

「……ライオネル殿がギルド長になってくれれば話は丸く収まると思わないか?」

「そうだな。ライオネル殿以外は丸く収まりそうだな」

「そうだ、そこが問題だ。流石にライオネル殿一人に、泥を被せるわけにもいかない……」

「つい今しがた誰かが泥をかぶるべきだと言ってなかったか?因みに言っておくが俺は被らないからな?」

「……まだ何も言ってねぇだろ?」

「……それもそうだな。まだと言っている時点でどうかと思うが……」

 センは酒の入っている器をテーブルに置くと立ち上がる。

「まぁ、待てよ商業ギルド長」

「やるわけないだろ?寝言は寝て言え」

「待て待て、分かった、冗談だ」

 そう言ってセンがテーブルに置いた器に酒を継ぎ足すレイフェットを見て、センはため息をつきつつソファに腰を下ろした。

「この前も探索者ギルドで言ったが、俺は商人でも何でもない。それなのに、会合に顔を出すどころかギルド長に推そうとするとはどういう了見だ?」

「お前ならやれるだろ?」

「無理だ。多少は口が回ると思うが……いくらなんでも海千山千の商人相手に、先頭に立って立ち回れるほどじゃない。街ごと食い物にされるぞ」

「お前がそんなタマかよ……まぁ、冗談はさておき、ギルド長については早い所決める必要があるが……これも頭のいてぇ問題だな……」

「出来る限り力にはなるつもりだが……人事は流石に俺ではな……」

 商人でもなければライオネル一家以外との商人と繋がりの無いセンでは、誰かを推薦する事さえ出来ず、良い代案もすぐには浮かびそうにない。
 シアレンの街の商業ギルドの発足は前途多難のようだ。

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