召喚魔法の正しいつかいかた

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4章 召喚魔法使い、立つ

第151話 口裂三寸

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「途中結構イライラしたにゃ」

「付き合わせてしまってすみません……」

 契約書にサインをしたラグが去ったのを確認して、ニャルサーナルが伸びをしながら口を開く。

「仕方ないにゃ。センの頼みだったし、これからチームを組む仲間の為でもあるしにゃ」

 そういって笑みを見せるニャルサーナル。
 ニャルサーナルの言う通り、ルデルゼンはこれからニャルサーナル達とチームを組むことになっている。
 勿論その提案をしたのはセンであり、『陽光』との契約を解除した今、ルデルゼンはセンと契約を結ぶつもりでいる。とはいえ、センの提案では雇われでは無くチームの一員として活動してはどうだろうかという話だったのだが、ルデルゼンは実力不足を理由に雇用契約という形を希望した。
 因みに、ニャルサーナルもミナヅキもルデルゼンとは個人面談をしており、二人ともルデルゼンであればチームを組むのに問題ないと判断している。

「足を引っ張らない様に頑張ります。流石にお二人だけで十二階層まで無傷のまま攻略出来るような方々には足元にも及ばないですが……しっかりサポートさせていただきます」

 ルデルゼンは体格や見た目の割に戦闘力にはあまり自信が無く、他の探索者……『陽光』のメンバーから軽んじられていた。
 しかし、ダンジョンに挑むための色々な知識や技術は確かなもので、特に罠に関する技術は素晴らしく……これらがあったからこそ『陽光』のメンバーはルデルゼンとの契約を続けていたのだ。
 今後『陽光』は今までの様に順調に活動するというのは難しくなる。だからこそラグは強気な態度に出て、最終的にルデルゼンをチームに残す様な方向に持って行きたかったのだ。

「頼りにしているのにゃ。ニャルたちは戦うのは得意だけど、ちょっと細かいことが苦手だからにゃ。ルデルゼンが色々やってくれると助かるにゃ……あ、勿論手伝いはするにゃ?」

「えぇ、お願いしますね。今日はこれから宿や色々な場所に挨拶に行かなければなりませんし……後日、打ち合わせをしましょう」

「了解にゃ。ところでルデルゼンは何階層まで行けるにゃ?」

「えっと……実は私が自力で行けるのは十階層までなんですよ。十一階層を攻略することなく雇われて、他の階層に挑んでいたので……十一階層と十二階層は入ったことがありません」

 ルデルゼンは最初の貴族との契約時に、十階層までは順番に攻略することが出来ていた。しかし、その時点で契約を打ち切られた為、それ以降の階層を順番に攻略する事が出来なくなったのだ。
 ルデルゼン自身の戦闘力があまり高くなく、十階層以降で前線に立って戦うことが出来ないというのがチームを組むことが出来なかった主な原因となるが、反面、罠に関する造詣が深い事もあり、臨時に雇われる探索者として十二階層以降の探索に参加する事が多かったのだ。
 特に十一階層は取れる素材の人気が高く、罠と呼べるようなものもない。そんな場所にわざわざ金を払って雇った人員を連れて行くはずがないのだ。
 そして、最近はずっと『陽光』に雇われていたが、彼らに雇われたのも十四階層からであった。

「なるほどにゃ……じゃぁ、今度三人で十一階層に行くにゃ。連携の確認も必要だからにゃ」

「良いのですか?ニャルさん達のチームは既に十二階層の攻略を始めているのですよね?二度手間じゃないですか?」

「問題ないにゃ。十一階層なら一日で攻略出来るし、十二階層も罠が多いのを確認したくらいで特に攻略中って程でもないからにゃ。十一階層は人気があって入るのが面倒だけど、ニャルたちは三人だし多分大丈夫にゃ」

 探索者は基本的にチームを組んで探索をするのだが、殆どのチームが五人から七人で一つのチームとなっている。人数が多ければそれだけ危険も減らせるし、持ち帰ることが出来る素材も多くなるので当然だろう。
 しかし、ダンジョンには入場制限があり、人気のある階層ではチームの全員が入場できない場合がある。
 その場合、戦力的な不安よりも稼ぎの差が生まれるという観点から、チームは入り口で引き返すのが通例となっている。金による揉め事を極力避けるための暗黙のルールだ。
 つまり、ニャルサーナル達の人数が少ない事は、そういった入場制限の隙間に滑り込みやすいという点で有利と言えた。

「……分かりました。お言葉に甘えさせて頂きたいと思います」

「にゃはは!ルデルゼンは堅いにゃ。ニャルたちは仲間なんだからにゃ。もっと気楽に付き合うにゃ」

「……努力します」

 生真面目なルデルゼンはすぐに砕けた態度を取ることが出来ず、苦笑しながら頷く。そんなルデルゼンを見て、やっぱり堅いにゃーと笑いながらニャルサーナルは先程気付いたことを聞いてみることにした。

「それはそうと、さっきのラグとかいう探索者を追い詰めたやり方は、なんかセンみたいだったにゃ」

「あぁ、それはセン殿に予め仕込まれていましたので……」

「なるほどにゃー。だからあんなに陰険な感じだったのにゃ」

「陰険……」

「なんというか……あれにゃ。先に好き勝手言わせておきながら、最終的に一つも譲らずに全ての要求通すやり口……しかも逃げ道を塞いだ上でにゃ」

「……まぁ、そんな流れだったことは否定できませんが……私としては、ラグの性格を全部読み切ったセン殿が凄いと思います。私は殆ど渡された台本通りにやっただけですからね」

 センはラグについて詳しい事は何も知らない。
 ただ、何度か見かけたことがあり、後はルデルゼンから聞いた話や待遇などから、いくつかのパターンを考え対策を伝えていたに過ぎない。
 円満に別れたいと考えるルデルゼン側として想定される一番厄介なものは、こちらの言い分を聞かずルデルゼンを引き留めようとするパターンだったが、早々に金の話を持ち出してきたラグを見て、一切譲らず弱みを見せなければ問題ないというセンのアドバイスを信じこちらのペースに巻き込んでいったのだ。

「もしチームで交渉とか必要になったらルデルゼンの仕事だにゃー」

「いや、それは待ってください。今回はセン殿に指導してもらったからこそすんなりと話を終えることが出来ただけで……交渉事は得意ではありませんよ?」

「ニャルはもっと交渉とか得意じゃないし、ミナヅキは絶対ダメにゃ。となると……ルデルゼンがやるしかないにゃ」

 胸を張って言い切るニャルサーナルを見て、ルデルゼンは苦笑しながら頷く。

「少し、セン殿に鍛えてもらう必要があるかも知れませんね」

「ダンジョンの外だったらセンに交渉させるのが一番いいにゃ。したさきさんずんで相手を丸め込んでくれるにゃ。ん?くちさきさんすん?」

「口を裂くのは怖いですね……でもまぁ、クライアントであるセン殿に出てもらうのは些か良くない気もしますが……頼もしいのは確かですね」

「センはそのくらいしか役に立たないのにゃ。貧弱だからにゃ」

 そう言って椅子から立ち上がるニャルサーナル。

「さて、そろそろひ弱っ子のお迎えに行って来るにゃ。ルデルゼンは明日うちに来るのかにゃ?」

「そうですね。昼過ぎ頃に伺わせて貰います」

「じゃぁ、センに伝えておくにゃ」

「えぇ、よろしくお願いします」

 またにゃーと手を振って探索者ギルドから出て行くニャルサーナルを見送って、これからの探索は今までとは違った雰囲気になりそうだとルデルゼンは笑みを浮かべた。

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