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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第125話 二人目
しおりを挟む「面倒かけてごめんね、ハルカ」
「ううん、何とかなって良かったよ。多分これで、エンリケさんやハルキアとの関わりは断てたと思う」
センの召喚によって部屋に姿を現したハルカに、ナツキが深々と頭を下げる。
そんな二人の様子を見ながら、続けて発動した召喚魔法によって現れたニャルサーナルをセンは労った。
「ご苦労様、ニャル。今回は本当に助かった」
「にゃはは、大したことはしていないのにゃ。センが心配していた、貴族の監視ってのも無かったにゃ」
「そうか、それは良かった。余程ハルカの方には関心が無かったみたいだな。まぁ、ハルカがしっかりと実力を隠していてくれたおかげだが、おかげでこちらは動きやすくなった」
「センは色々と考えすぎだと思うにゃ」
少し呆れた様なため息をつくニャルサーナルに、センはかぶりを振って見せる。
「そんなことはない。俺が考えるだけで危険に対処できるのであれば、それに越した事は無い。それに俺の想定以上の事は絶対に起こり得る……そう考えておかないと、いざって時が来てから考え始めても遅いからな」
「それを考えすぎと言ってるのにゃ」
再びため息をつきながらニャルサーナルが笑う。
「でも、センが話した通りに色々進んでいくのはちょっと面白かったにゃ」
「ニャルやクリスフォード殿が手を貸してくれたおかげだ。本当に感謝している」
「にゃはは!今日の晩御飯は期待できそーにゃ!」
「期待していいと思うぞ。今日はお祝いだからな、大通りにある店を予約してある」
ハルカとナツキ、二人の合流記念にセンは腕を振るうつもりだった。
とはいえ、センの家では流石に手狭で、今回世話になったレイフェットやクリスフォードも呼ぶとなると流石に窮屈過ぎる。
なので、街にある食事処を貸し切りにさせてもらったのだ。
当然レイフェット達を呼んでアルフィンを呼ばないという選択肢はないし、色々と世話を掛けたライオネル商会の面々も招待していた。
「ほほー、奮発したにゃー。あそこは結構お高いお店なのにゃ」
「歓迎会と世話になった人達への感謝会でもあるからな。好きなだけ飲み食いしてくれ」
「楽しみにゃ!」
「それと、ニャル。今回はかなり世話になったからな、もう借金の件はチャラでいいぞ?」
「にゃ?」
センの言葉にニャルサーナルは首を傾げる。恐らく借金の事を完全に忘れていたのだろう。
「元々、窓をぶち破った借金の為に護衛になっていただろ?もう十分金額以上働いてくれたからな。というか、給金はしっかり渡す。ニャルの仕事は借金以上のものだったし、結構期待してくれていいぞ?ダンジョン探索の準備金としても十分な額を支払うつもりだ」
「にゃにゃ?」
センの絶賛を受けて、今度は反対向きに首を傾げる。
「センはもう護衛は要らないのかにゃ?」
「要るか要らないかで言えば要るが……」
「ならニャルがやるにゃ」
「いや、お前は探索者として、ダンジョンに挑むためにこの街に来たんだろ?護衛をしていたら、何時まで経っても自分の目的を果たせないだろ?」
「にゃはは!ダンジョンには行きたいにゃ!だから護衛の合間で行くのはダメかにゃ?」
軽い口調で言うニャルサーナルに、センは思案顔になる。
「両立するのは難しくないか?ダンジョンに行っている間、護衛の仕事は無理なわけだし……」
「この街にいる限り、そこまで護衛は必要じゃないと思うにゃ。この街の外に出たりする時とか……何かあった時の戦力として期待してくれればいいにゃ。センの予定に合わせてダンジョン攻略をすれば問題ないにゃ」
「いや……それは……護衛と呼べるのか……?」
ニャルサーナルの提案に首を傾げるセンだったが、畳み掛ける様にニャルサーナルは話を続ける。
「領主のおっさんの話では低階層は一日で攻略出来るらしいし、二十階層付近に行くにはどうしても仲間が必要にゃ。そういうのはすぐにどうこうなる物でもないし、時間をかけてじっくり仲間を探しつつ攻略していくにゃ。それに、ニャルがどこに居てもセンはシュンって出来るにゃ。急に危なくなった時は、この前みたいにシュンってしてくれたらいいのにゃ」
「そうは言うが……護衛と探索者、両立させるのは相当厳しいと思うぞ?確かに俺とニャルの予定を合わせることは出来るだろうが……俺のやることを考えれば、こちらを優先して貰わないと身動きが取れなくなる可能性もある。そうなった時、ニャルは辛いだろう?それに仲間にも迷惑が掛かる。俺は探索者の流儀は知らないが……命を預け合う仲間同士、信頼関係が何よりも大事なはずだ。俺の仕事を優先していては信頼関係も何もないだろう?それに危なくなった時に召喚しろとは言うが……ダンジョンにいるニャルを俺が召喚したことで、ダンジョンにいる仲間が窮地に陥る可能性は非常に高いと言えるだろ?」
ニャルサーナルの提案を一つ一つ無理だと潰していくセン。
「むぐぐ……それは確かにそうかもしれないけどにゃ……分かったにゃ。ダンジョンにいる時はシュンってするのは無しにゃ。それ以外は問題ないにゃ」
「……いや、問題ないと言うか、なんで俺の護衛に拘るんだ?護衛をしたところで別に特になるようなことがあるとも思えないのだが?」
どうしても護衛を続けたがっているニャルサーナルの態度にセンは首を傾げる。
「センの護衛だとご飯も寝床もタダにゃ」
「いや、無料じゃねぇよ。しっかり今までの生活費は報酬から引いておくからな」
「けち臭い男にゃ。ごちゃごちゃ細かい男はモテないにゃ」
プイっという擬音を口に出しながら、ニャルサーナルは視線を逸らし唇を尖らせる。
そんな姿をセンが何も言わず半眼になってじっと見つめ続けると、その圧力に耐えきれなくなったのか、ニャルサーナルはため息をつきながらセンに向き直り口を開いた。
「ご飯とか寝床とか弟子たちの事とかもあるけど……一番大きな理由は勘にゃ」
「……勘?」
「そうにゃ。ニャルはセンみたいに色々考えて、理屈っぽく答えを出すのは苦手にゃ。だから直感を大事にしているにゃ。その勘が言ってるにゃ……センの手伝いをした方が良いって」
「……」
勘と言われてしまい、センは何も言えなくなってしまう。
センは論理的な思考で行動を決めて行くが、勘というものを軽視していない。
多くの者は混同しがちだが、勘と当てずっぽうは違う。
勘とは、それまでの経験、得た情報、雰囲気、そう言った物を総合して感覚的に辿り着く答えの一つだとセンは考えていた。論理的に答えに辿り着くか、感覚的に答えに辿り着くかの違いでしかないと。
そして勘で辿り着いた答えに対し、後から論理的に説明をすることは可能だが、否定することは非常に困難であるという事も。
「センは……ニャルの力は必要じゃないかにゃ?」
そうセンに問いかけるニャルサーナルの表情は非常にすっきりしたもので、センは苦笑しながら正直に答える。
「いや、出来ればこれからも力を貸して欲しいと思っている」
「にゃはは!任せるにゃ!ニャルがさくさくっとセンの悩みを解決してやるにゃ!」
「俺の悩みは……結構でかいぞ?大丈夫か?」
センが皮肉気な口元を釣り上げるて言うと、おどけた様子でニャルサーナルは肩を竦めた。
「心配むよーにゃ。ニャルは超強いからにゃ、よわよわへぼへぼなセンを守ってやるにゃ」
ニャルの答えを聞いてセンは笑みを深める。
「……今度俺の目的を伝えよう。聞いたからには最後まで付き合ってもらうが……これを伝えるのはニャルで二人目だ」
「ほーそれは意外だったにゃ。一人目は領主のおっさんかにゃ?」
「正解だ」
センの肯定を聞き、おっさんの後かーとニャルサーナルは笑った。
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