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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第116話 最初の協力者
しおりを挟む「……お前は俺とこの街に何を求める?」
センの事を力強い瞳で見返しながら、レイフェットは言葉を続ける。
「戦力として……ではないよな?その女の言う災厄に対抗するのであれば、たかだか一領地……いや、一つの街の戦力なんか物の足しにもならないだろう?」
「……そうだな。俺が欲しいのは戦力としてのシアレンの街ではない。一勢力としてのシアレンの街だ」
「周辺国に戦争を仕掛け、勢力を拡大しろって事か?」
レイフェットの表情が険しい物になる。
「勢力を拡大して欲しいのは事実だが、出来れば戦争は避けて貰いたいな。人同士が戦っている所に魔物による横やりが入ったら一気に潰されるからな。集めた戦力を向ける先は魔物であって欲しい」
「勢力を拡大するのに戦争を仕掛けないのか?」
「あぁ。避けられない戦いがあることは理解しているが……戦争はやはり資源の無駄遣いだ。俺が求める勢力の拡大は……これだ」
センは指で輪っかを作ってみせる。
「……金か?」
このジェスチャーはこの世界でも通じるのかと、どうでもいい事を感心しながらセンは頷く。
「あぁ。外貨を稼ぎ、街を発展させて……周辺国にとって無視できない存在となって貰いたい」
「……いくら金を稼げたとしてもシアレンの街一つしか領地がないんだぞ?治める土地の広さはそのまま動員できる兵力に繋がる……寧ろ狙われる要因にしかならないだろ?」
「勿論防衛戦力は必要だ。金だけあっても力が伴わなければ奪われるだけだからな。だが、この街は守りやすいだろ?兵糧攻めも効かないし、守りに回ったら相当強いはずだ」
「守るだけじゃな……」
レイフェットは渋い顔をしながら言うがセンはかぶりを振る。
「この街にはダンジョンがある。経済活動は極端な事を言えば街中だけで完結している。その気になれば食糧だけじゃなく水もダンジョンから確保できるんだろ?」
「食料はともかく水は運び出すのがキツイな……水源である湖を取られたら不味いぞ?」
「水源は元から重要拠点だろ?守りは置いているんじゃないのか?」
「そりゃまぁ……異変があったらすぐに対応しないといけないからな。それにこの街以外から水源に向かう道はないし……大軍を送り込むのは難しいか」
「山の中だから火責めには弱いが……その辺は対策が必要だな。まぁ、燃やしてしまったら街も金も残らないから余程馬鹿じゃない限り燃やしたりはしないだろうが……戦争は合理性だけでは勝てないからな」
センはそう言ってため息をつく。
「食料の運搬も楽じゃないからな……確かに守っているだけで相手を退けさせることも可能か?だが、ラーリッシュならともかくハルキアが攻めて来た場合はそう簡単にはいかないぞ?戦力差があり過ぎる。一度や二度は守りきれても、侵攻が続けばいつかは破綻する」
「そうだな。シアレンの街一つだと間違いなくそうなる。周辺国と同盟を組んで対抗するという手もあるが……ハルキアは周辺国では敵なしだからな。同盟で牽制は出来ても抑止力にはなり得ない……対抗出来るとしたら帝国や獣王国だが、距離があり過ぎるし意味がない。実際に攻め込まれたら、いくら堅牢なシアレンでもレイフェットの言う通りいつかは飲み込まれる」
「駄目じゃないか」
レイフェットが軽い様子で白旗を上げるが、センは笑みを浮かべたまま話を続ける。
「シアレンの街の強みは、ダンジョンだけじゃない。俺……正確には召喚魔法使いがいることだ」
「……確かに召喚魔法は凄まじく便利だとは思うが……戦争でどう使うんだ?呼び出すことが出来るのは一人ずつだし、箱を使って数人を呼ぶことは出来るが、それでも精々十人くらいまでだろ?とても戦力の足しにはならないと思うが……」
「戦力の補充という意味では心もとないが……そんな風に使わなくても、もっといい方法がある」
そう言って、センは普段通りの笑みを浮かべながら、レイフェットに召喚魔法を用いた戦術を語る。
最初は感心するように話を聞いていたレイフェットだったが、次第に表情を歪めて行き、最終的に腕を組んだまま俯いてしまう。
ある程度語ったところで、センは動かなくなったレイフェットに問いかける。
「どうだ?ハルキアに攻められても勝てそうだろ?」
「……そりゃまぁ……勝つだろうよ。っていうか、そもそも戦争として成り立たねぇ……」
「勿論状況に応じて使い分けるがな。だがどれも有効な手だろ?」
「有効というか……俺はお前が暗殺されないか心配になってきた」
レイフェットが恐ろしい物を見るような目でセンを見る。
「俺は本当にそれが怖い。だから召喚魔法を使えることは必要最低限な相手にしか伝えていないし、絶対に漏らさない様に頼んでいる。俺なら間違いなく召喚魔法使いが敵方に居たら最優先で殺す」
「お前みたいなことを考える奴が……」
「俺が考え着く程度の事は相手も考え着く。俺は別に戦術や戦略に詳しいわけじゃないからな。本職の人間ならもっと色々有効な使い方を思いつくだろう」
「お前みたいな身も蓋もない考え方をする奴が、そこら中に居てたまるかよ……」
レイフェットの言葉にセンは肩を竦めて見せる。
「召喚魔法の事を知っているか否かってだけだ。レイフェットだって自分が召喚魔法使えたら色々使い方を考えるだろ?」
「そりゃそうかも知れねぇが……まぁいいか。とりあえず、シアレンが攻め込まれるようなことがあったら、お前が全力で手を貸してくれるって訳だな」
「協力を頼んでいる身だからな。可能な限り力は貸す……安全マージンは取らせてもらうが」
「まぁ、お前が捨て身でとはこっちも考えてないが……防衛に関してはそれでいいとして、どうやって金を稼ぐんだ?ライオネル商会を使うと言っても限度があるだろ?」
「街道整備が必要だな。同時に、街の拡張、法整備、探索者や商人等の誘致に支援。やることは山積みだな」
「……いきなり後悔しそうになったが、そうも言ってられねぇか。大雑把に言うと街を大きくしつつ、探索者を呼びこんで今以上にダンジョンで取れる素材を増やすってことだな?」
「あぁ。当面はライオネル商会を使えばいくらでも稼げる。というか、どんどんライオネル商会は支店を広げている所だからな。下手したらライオネル商会だけでこの街をどんどん発展させられるだろうな」
「……その後ろにはお前がいるんだよな?」
「物資の輸送を担っているだけだ。最終的には簡易化した召喚魔法を使える人材を配置したいと思っているしな。そうなってしまえば俺はノータッチだ」
(レイフェットとハルカは死ぬほど忙しくなる……まぁ、出来る限りサポートはするつもりだが)
センの仕事部屋にはこれからの計画……レイフェットやハルカ、ライオネルにやって貰いたい事を纏めてある。
それぞれへの指示という訳ではなく、センが考えた案をたたき台にこれから先の方針をそれぞれと話し合う、その為の準備をシアレンの街に来てからコツコツと進めていたのだ。
「……細かいところはさておき、この街、俺に求める大方針は分かった。周辺への影響力を高め……この辺りの小勢力の盟主にでもなればいいのか?」
「取っ掛かりはそんな感じだな。最終的には付近の大国と同盟……そこまではいかなくても色々と対等な条件で協定を結べるところまで行きたい」
「……どんな協定を?」
「出来れば不可侵と言いたい所だが……今の情勢じゃ無理だろうな。だから無理のない範囲でってところだな。魔物の脅威が顕在化していればもう少しやりようもあるが……その辺はまだ決めかねている。状況に応じて……といったところだな。理想を言えば、同盟を組み一丸となって魔物に対抗し、手を取り合って行きたいが……」
少し申し訳なさそうにセンが言うと、レイフェットが笑顔を見せる。
「そうか……流石にそこまでは読み切れないか。だが目指す地点が分かりやすいのはいいな。それに、この街の発展もあくまで魔物の襲撃が起きた際の対抗手段の一つってことだよな?」
「あぁ、平和っては力を蓄えるための期間でしかない物だというのは分かっているが、それを維持する価値のあるものだという事も理解している。俺が目指したいのはそれだ。二十年以内に起こると言われた災厄を防ぐことが最終目標じゃない。それを乗り越えた先もずっと続いていく世界、それをより過ごしやすいものにすることこそが俺の目標だ」
「……とんだ夢想家だ。もっと擦れた現実って奴が好きなタイプだと思っていたが」
レイフェットがそう言うと、センは肩を竦めて見せる。
「だが、手を組むなら理想を現実に落とし込もうと、手を打てる奴の方が頼もしいし面白い。セン。一つの街しか納めていない様な小勢力の領主でいいなら、手を組ませてもらうぜ」
笑みを浮かべながらレイフェットの差し出す手を、センは力強く握り返した。
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