召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第109話 アルフィンが

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 レイフェットが部屋に突入してきた時、トリス達の傍に居たニャルサーナルが一瞬で扉の近くにいたセンとラーニャの前へと飛び込んできた。

「っと……驚かせちまったか。すまねぇ」

 扉をあけ放ったポーズのまま、レイフェットが申し訳なさそうに謝る。

「俺一人ならともかく、子供達がいるのだからもう少し考えてくれ」

「おう……三人とも、本当にすまなかったな。それと猫の嬢ちゃんも悪かった」

「危うくぶっ飛ばすところだったにゃ。でもうっかりぶっ飛ばしても、このおっさんだったら問題ないよにゃ?」

 センの方を見ながら問いかけるニャルサーナルにセンは頷いてみる。

「まぁ、死ななかったら大丈夫じゃないか?元探索者で頑丈そうだから、首の一本や二本くらい折れても平気だろ」

「大丈夫なわけないだろ!探索者に夢見すぎだ!普通に死ぬわ!」

 レイフェットが恐ろしい物を見るような表情で、センとニャルサーナルを見ながら叫ぶ。

「とんでもないところに来ちまったな……いいか三人とも。こいつ等みたいになるなよ?碌な大人じゃないからな」

「お前に言われるのは甚だ心外だ。お前こそ手本にならない大人の代表みたいなものだろう?」

 奇しくも先程ニャルサーナルが言った台詞を今度はレイフェットが言うが、センは非常に嫌そうな表情になりながらレイフェットに言い返す。

「そうにゃ!センと一緒にされるのははなはだ心外にゃ!ん?はたはた?」

「だまれポンコツ共!俺は息子に尊敬される素晴らしい領主だぞ!頭が高い!」

 部屋に突然領主が乱入してきてから物の十数秒で大人たちが大人げなくぎゃいぎゃいと言い争う様を見て、ラーニャは渇いた笑い声を上げる。
 笑い声を上げたのはトリスとニコルも同じだったが、ラーニャ程緊張していたわけでは無い二人は普通に楽し気に笑っていた。

「ほらな?言った通りだろ?普段通りの変なおっさんだ。緊張する必要も、畏まる必要もないだろ?気楽に相手をしてやればいい」

「おう。友人とその家族を食事に誘っただけだ。マナーなんか気にせずに楽に過ごしてくれ。うちの息子も三人が来るのを楽しみにしていたからな。多分もうすぐここにくるんじゃないか?」

 センとレイフェットがのんびりした口調でラーニャに語り掛けると、一瞬肩に力の入ったラーニャだったが、一度深呼吸をして肩の力を抜いてからレイフェットに頭を下げる。

「お気遣いありがとうございます。それと、本日はお招きいただきありがとうございます」

「楽しんでいってくれ、ラーニャの嬢ちゃん」

 ラーニャの挨拶を受けたレイフェットがニカっと笑うと、ニコルとトリスもお礼を言う。

「しっかりと挨拶が出来て素晴らしいな!どこぞの大人共とはえらい違いだ!」

 そう言って笑うレイフェットの声に混ざり、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「寛いでいる所すまない。セン、ニコル、ラーニャ、トリス、それとニャル。入ってもいいだろうか?」

 扉の外からアルフィンの声が聞こえて来た為、センが入室を許可する。

「失礼する……あ、お父様もいらっしゃったのですね」

 丁寧に一礼をしながら部屋に入って来たアルフィンが、部屋の中に居たレイフェットを見て再び一礼する。

「どうした?アルフィン。食事の準備はまだ終わっていないだろ?」

「はい。飲み物の準備が出来たので持ってきました」

「……なるほど」

 アルフィンの言葉通り、アルフィンの後ろには使用人が茶器を乗せたカートを押してついて来ており、早速お茶の準備を始めていた。
 その様子を見ていたレイフェットがバツが悪そうに視線を逸らす。

「悪いなアルフィン、気を使わせて」

 センが満面の笑みを浮かべながらアルフィンに言うが、その言葉はレイフェットに向かっているように聞こえる。

「……?あぁ、気にしなくていい、このくらいは当然だ」

「折角用意してもらったんだ。皆、座ってお茶を貰うとしよう」

 視線を泳がせるレイフェットを尻目に、センは子供達に椅子に座るように促した。
 子供達とニャルサーナルが椅子に座ると、使用人が大人の前にお茶を子供達の前には果実水を並べる。

「お父様は座らないのですか?」

「お、おぉ、俺も貰おうか」

 そう言ってセンの向かい側にどかりと腰を下ろしたレイフェットは、微妙に所在なさげに視線を泳がせる。アルフィンの言う通り呼んだ客を持て成すのは当然の事ではある、それをほったらかして遊んでいたのが気まずいのだろうが……センはそんなことを気にしない。

「それで、レイフェットは何をしに来たんだ?」

「……そりゃ、アレだ。暇させるのも悪いだろ?食事の用意が出来るまでそんなに時間がかかるわけじゃないが、放置するのもな」

「……アルフィンが飲み物を用意してくれたから別に気にする必要は無いぞ?アルフィンが用意してくれたからな?」

 わざわざ二回言うセンにレイフェットが口元をひくつかせる。

「なんで繰り返したんだ?」

「いや、深い意味はないぞ?ところで今日はどうしたんだ?わざわざ改まって食事に招待したいってことで渡されたのだが……」

 そう言ってセンは懐に入れていた招待状を取り出す。
 これは昨日の朝、クリスフォードが訪ねて来て渡してくれたものだ。

「あぁ、アルフィンの勉強が上手くいっている事の礼と、センが提案してくれた冒険者ギルドの新人研修が始まった祝いだ」

「あぁ、この前言っていた件か。始まったんだな」

 センはお茶を飲みながら答えつつ、以前この話をした時はお茶ではなく酒を飲んでいたかと思い出す。

「少し時間はかかったがな。これが上手くいってくれれば、新人だけじゃなく全体の生存率も少しは高くなるかな?」

「少なくとも知識不足による危険は避けることが出来るはずだ」

 少しだけしみじみとした空気で言うレイフェットに、センは答える。

「なんの話にゃ?」

 そんな二人の会話に首を傾げるニャルサーナル。

「あぁ、探索者ギルドでな、新人探索者用の講習をやってみてはどうかって話を以前していたんだ」

「新人探索者用の講習ってなんですか?兄さん」

「俺も気になるな。探索者ギルドでやっているのか?」

 センの説明に、問いかけたニャルサーナルよりもニコルやアルフィンの方が食いつく。
 そんな二人の様子を見てレイフェットが笑みを浮かべながら答える。

「探索者ギルドに登録したら、ダンジョンの事や探索者の仕事について色々と勉強する期間を設けるって話だ。講師となるのは引退した探索者で、経験も豊富だからな。色々とためになる話を聞けるはずだ」

「そんなことを進めていたのですか?」

「あぁ、センの提案でな」

 アルフィンの問いにレイフェットは笑みを浮かべながら頷く。

「なるほどにゃー、確かに新人は無茶をして怪我することが多いからいい話だにゃ」

「おや?猫の嬢ちゃんは探索者なのか?」

 したり顔で頷くニャルサーナルに、レイフェットが以外そうな顔をする。

「うむ。この街のダンジョンはまだ行ってないけど、他の街のダンジョンは最下層まで攻略したことがあるにゃ」

「そりゃすげぇ。俺はこの街のダンジョンしか知らないが、その攻略したダンジョンは何階層まであったんだ?」

「十五階層にゃ。まぁ、有名な所だしおっさんも多分知っている所にゃ」

「十五階層……あー、獣王国のダンジョンか?」

「正解にゃ。あそこは簡単だから手始めに行くには丁度いいにゃ」

 そう言うニャルサーナルだったが、少し自慢げに胸を逸らしている。

「いやいや。確かに攻略者が多いとは聞いているが、それでも相応の実力が無ければ無理って話だ。若いのに大したもんだ」

 レイフェットの言葉に更にドヤ顔をセンに見せるニャルサーナル。因みにニコルとアルフィンはキラキラした目でニャルサーナルの事を見ている。

「それほどでもないけどにゃー!この街のダンジョンは十五階層どころじゃないって話だしにゃ」

「……そう言えば聞いたことが無かったな。この街のダンジョンは今何階層まで見つかっているんだ?」

「あぁ、それは……」

 レイフェットの言葉を遮るように部屋がノックされ、クリスフォードの声が聞こえて来た。

「旦那様、お食事の用意が出来ました」

「……話の続きは食べながらにするか」

 レイフェットの言葉に全員が頷いた。

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