召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第99話 m9(^Д^)

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「あー、酒が旨い!本当に旨い!おい!どうした、セン!?なんで飲まないんだ?好きなだけ飲んでいいんだぞ?」

(……凄まじく鬱陶しいな)

 センを罠に嵌めた事で機嫌の良さが上限を突破しているレイフェットが、非常にうざい感じで絡んでくる。

(あまりの鬱陶しさに召喚魔法でコップを回収して見せたくなるが……まぁ、今は調子に乗らせておくか)

 レイフェットの非常に上機嫌な笑い声が響く中、扉がノックされてクリスフォードが戻って来た。
 そのすぐ後ろにはアルフィンが付いて来ている。

「お父様、随分と楽しそうですが……どうされたのですか?」

「おぉ、アルフィンも来たのか。いや、何……大したことじゃないんだがな」

 流石に息子にセンを罠に嵌めてそれを勝ち誇っていたと言えるはずもなく、レイフェットが気まずげに言葉を濁す。

「?」

 いつになく歯切れの悪い父親の様子に首を傾げるアルフィンだったが、テーブルの上に置かれている器を見て先に用事を済ませておくかと考えた。

「お父様、少し失礼しますね」

「ん?」

 アルフィンはライオネルの傍から離れセンの傍に移動すると、その前に置かれていた逆さ向きに置かれていた器を徐に持ち上げた。

「え?」

 突然のアルフィンの行動にレイフェットが呆気に取られていると、センは持ち上げられた器の下から出てきた自分用の器を手に取った後アルフィンに話しかける。

「すまないな、アルフィン。わざわざ来てもらって」

「いや、これに一体何の意味があったんだよ……」

「すまん、特に意味はないんだ」

「また揶揄ったのか!?」

 アルフィンが折りたたまれた紙をセンに叩きつける様に渡し、センはそれを懐へとしまいながら苦笑する。

「いや、そうじゃない。まぁ、何と言うか……アルフィンが、ちゃんと俺の言う事を聞いていい子に勉強しているって所を少しだけ見せてやりたかったんだ」

「……本当かよ」

 少し顔を赤らめながら不満げにしているアルフィンの頭をセンは軽く撫でながら、悪かったと謝りつつ話を続ける。

「今日はニコルが休みで、朝からニャルに稽古をつけて貰っているんだが、アルフィンもどうだ?」

「え?いいのか?」

「あぁ、アルフィンと模擬戦をするのをニコルも楽しみにしているからな。良かったら相手をしてやってくれ」

 センの言葉にアルフィンが嬉しそうに頷く。
 以前した約束通り、センはアルフィンにラーニャ達三人を紹介しており、既に何度か遊んでいる。
 相変わらずトリスにはいい感じに遊ばれているアルフィンだったが、ニコルとは非常に仲が良く、一度ニャルサーナルの立ち合いの下、模擬戦をしたこともあった。
 年齢差もあり、身体能力はニコルに分があるのだが、領主の息子として武芸の教育を受けていたアルフィンはそのハンデを経験で埋め、素人であるセンの目から見ても二人の実力は伯仲しているように見えた。

「お父様!今からセンの家に遊びに行っても良いでしょうか?」

「……あ、あぁ。勿論構わないぞ?先方に失礼の無いようにな?」

 呆気にとられたまま固まっていたレイフェットが、アルフィンに話しかけられた事で再起動した。

「ありがとうございます!」

「アルフィン。俺はまだレイフェットと話があるから連れて行ってやることが出来ない。すまんな」

「そうか……分かった。クリスフォード、センの家まで送ってくれるか?」

「承知いたしました、お供いたします。旦那様、セン様、私はアルフィン様の送迎をさせて頂くので失礼いたします……セン様」

「はい?」

 座っている二人に向かって深く一礼してから、クリスフォードが最後にセンの名を呼びにっこりとほほ笑んだ後……。

「お見事です」

「ありがとうございます、クリスフォード殿」

 最後に小さく一礼をしてからクリスフォードがアルフィンを伴って退室する。
 その後ろ姿を見送った後、センは器に注がれている酒を口にした。

「……どうした?レイフェット。酒が進んでいない様だが……もしかして限界か?」

「……なんで……」

「ん?」

「なんでアルフィンが……なんでアルフィンが、いきなり被せていた器を持ち上げたんだよ!?」

 手に持った器をテーブルに叩きつけながら、レイフェットが歯を剥き出しにして吠える。

(先程までの笑顔が嘘の様な相貌だな……食い殺されそうだ)

 そんなことを思いつつ、センは軽口を止めない。

「そういうお年頃だったんじゃないか?」

「そんな年頃はねぇよ!」

「……あのくらいから子供は複雑になって来るからな」

 適当な事を言うセンをレイフェットは半眼で見つめた後、深くため息をつく。

「……アルフィンの顔に邪な物は無かった……アレは完全に言われたからやったって感じだ」

「……」

「誰の指示かなんて考えるまでもねぇ……だが、俺が分からないのはいつ指示を出したかってことだ」

「……」

 センは何も答えずに、ゆっくりと酒を飲んでいる。
 レイフェットも答えを聞きたいと言うよりも、疑問を口に出して一つ一つ確認していると言った感じだ。

「……少なくともアルフィンが部屋に来た後に、お前が指示を出している様子は無かった。アイコンタクトだけで分かる様な内容じゃない……それにアルフィンの動きに迷いは無かった。アレはもっと具体的に指示を出されていたからこその動きだ」

 レイフェットは目を瞑り、アルフィンが部屋に来てからの言動を一つ一つ思い出していく。

「……つまり、部屋に来る前にアルフィンは指示を受けていた可能性が高い……クリスフォードが裏切った……?いや、いくらアイツでも、他人のゲームに首を突っ込んだりする程無粋じゃない。となると……クリスフォードがアルフィンを呼びに行った時……か?」

 ブツブツと独り言を続けるレイフェットを尻目に、センは空っぽになった器をテーブルの上に置く。

「これで俺の勝ちだな。レイフェットはもう飲まないのか?」

「……気になってそれどころじゃねぇよ。どうしても辻褄が合わない……どうなっているんだ?」

「何の辻褄が合わないんだ?」

「アルフィンにどうやって俺の器を持ち上げさせたかが分からねぇ。お前が指示を出せたのは……クリスフォードに頼みごとをした時だろ?」

「そうだな……これをアルフィンに渡してもらったんだ」

 そう言ってセンは、先程アルフィンに叩きつける様にして渡された紙をテーブルの上に置く。
 レイフェットがその紙を手に取り広げてみると、中には簡単な指示が書かれていた。
 この部屋に来ること、テーブルの上に逆さまに置かれた器を持ち上げること、この紙をセンに返すこと。
 若干難しい言い回しで書かれたそれは、読み書きの勉強をしているアルフィンには丁度いい題材とも取れる。

「……やはり辻褄が合わない。お前がこの紙をクリスフォードに渡したのは……飲み始めて間もない頃。ゲームの話すら出ていなかったじゃないか」

「そうだな」

「それで何でこんな指示を出すことになるんだよ」

 コイツ、実は相手の心を読んでいるんじゃないか?
 そんな表情をしながらセンに問いかけるレイフェットを見て、センは肩を竦めて見せる。

「流石に心は読めないぞ?」

「読んでるじゃねぇか!」

「顔に出過ぎだ。今のは俺じゃなくても分かる」

「ちっ……それで、どういう絡繰りなんだよ?」

 大きく舌打ちをしたレイフェットが憮然とした表情でセンに問いかける。

「勝負をするかどうかも分からない……よしんばそれを予想していたとしても、ゲームの内容までは分からなかったはずだ。どうしてあの段階でゲームの内容、それに俺がお前の器を封じる方法まで分かったんだ?」

 レイフェットが酒の入った瓶を突き出しながら尋ねてきたので、センは空になった器を差し出しつつ口を開く。

「……お前の準備が良すぎたからな」

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