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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第90話 観察
しおりを挟む「申し訳ございません、他意はありませんよ。ナツキ様の様に希望をどんどん言っていただける方が私共といたしましては喜ばしいことですし、良ければハルカ様もと思った次第でございます」
「ふーん」
若干半眼になりながらナツキが唇を尖らせる。
「まぁ、よく喋る人だなぁと思ってはおりますが」
「ちょっと!」
センが肩をすくめながら言うとナツキが声を上げる。
「えー、アルクさんそんな見た目なのにそういうこと言うんだ……」
「そんな見た目と言われましても……このように仮面をつけておりますので……本当の所は分からないのでは?」
センがおどけたように言うとナツキが鼻を鳴らしながら言う。
「そりゃ、怪しさ満点って感じだけどさ。ライオネルさんは凄くいい人そうだし、そんな人が信頼して任せた人だからもっと真面目な感じの人かと!」
「ははっ、真面目な人は、仕事中にこんな怪しい仮面をつけたりはしませんよ?」
そう言って仮面を指で撫でるセンを見てナツキが笑う。
「それもそうね!ところで、そんな不真面目なアルクさんはどうしてそんな仮面を?」
「大した理由はありませんよ。私の顔は人様にお見せしても楽しい物ではありませんからね」
そう言ってマスクの目元を軽く触るセン。その動作に何か気付いた様子を見せたナツキが少し気まずそうに体を揺する。
思わせぶりな動作はしたが、セン自身何も嘘は言っていない。
「勿論……仮面の下はごく普通の顔立ちで、怪我等は一切ありませんよ?そもそも、見せて面白い顔なんてないでしょう?」
「ちょ!?なによそれ!拙いこと聞いちゃったと思ったじゃない!」
「おや?気を使わせてしまいましたか?どうしてそんな事を思ったのか皆目見当もつきませんが、どうもありがとうございます」
おどけた様子で頭を下げるセンを見てナツキが大声を上げる。
「こ、こいつ!ハルカ!こんな奴に遠慮なんていらわないわよ!いっぱい無理言って精々困らせてやりましょう!?」
「あ、う、うん。ふふっ」
二人のやり取りを見て初めて笑顔を見せたハルカが、少し肩の力を抜いた。
「出来ればお手柔らかにお願いします。期待に応えられないと、会頭の私に対する心証が悪くなりそうですし」
(姉と比べるとかなり警戒心が強いようだが……わざわざ俺にあんなメモを残してくれた人物だ。優しい心根なのは間違いないだろう。姉の方は物怖じしないタイプなのは昨日のやり取りで分かっていたが、こちらも悪い人間ではなさそうだな。敢えて悪く言えば、姉は考えたらずで妹は消極的……といったところだが、悪くないバランスだ)
センはおどけながらもその裏で二人の観察を続けている。
今の所悪くない評価をしているが、もう少し妹のハルカから言葉を引きずり出したいと考え、まずは姉であるナツキと気安い感じで話せるように動いた。
「それは良い事を聞いたわ!たっぷり困らせた後にライオネルさんに告げ口しておきましょう!」
「えっと……それは悪いような」
「いいのよ!どうする?エアコンとか探してもらう?」
「……エアコン、ですか?」
(魔道具であるかも知れんが……これに関してはライオネル殿に聞かないとわからんな)
「涼しかったり、暖かかったり……すんごい便利な物よ!」
「なるほど、全く分かりません」
センはそう言いながらハルカの方に視線を向けた。
視線を向けられたハルカは少し慌てながらもエアコンについて説明をする。
「なるほど、ハルカ様の説明は非常に分かりやすいですね」
(どことなくラーニャに似ているな。真面目で責任感が強く、でも気は弱い。まぁ、流石にこれだけのやり取りではまだ断言は出来ないがな)
「なんだかなー、どうしてみんなハルカばっかり褒めるかなー」
「明確な答えをお伝えしましょうか?」
「聞きたくないですー。って言うかアルクさん本当に商人なの?」
随分と砕けた様子でナツキがセンに問いかけて来る。
「どうでしょう?少なくとも私は怪しげな仮面をつけた商人なんて存在を見た事はありませんが」
「私も漫画くらいでしか見た事無いけどさ……」
「漫画……と言うのは何でしょうか?」
「あーえっとー」
苦笑いをしながら困ったようにハルカの方に視線を向けるナツキ。
(ナツキの方はさっきから色々と迂闊な発言が多いな……そんな発言のたびにハルカの方が心配そうな表情をしているが……中々苦労していそうだな)
「えっと……娯楽用の本……みたいなものです」
「娯楽用の本……あぁ、そういえば娯楽と言えば……」
(少なくともこの世界で小説の類すら見たことがないな。本は貴重だし……専門書というか指南書みたいなものが殆どだ。まぁ、それはどうでもいいか。それよりも、丁度いいから仕掛けるとしよう)
大体の人となりの観察を終えたセンは、話を進めることにする。
「ライオネル商会では最近玩具の販売を始めておりまして……こういった物なのですが」
センは懐から取り出したプレイカードの収められた箱を取り出し、テーブルの上に置く。
「あ、トランプじゃん!あーそっかー、トランプを売ってたのってライオネルさんのお店だったんだ。今日はお店の中を通らなかったから分からなかったよ!」
(これだけ大声でトランプを連呼していれば、見つけるのは簡単だっただろうな……道理であっさりと調べがついたわけだ)
ナツキの迂闊さに感謝しながらセンは首を傾げる?
「トランプ……ですか?こちらはプレイカードと言う商品でして……ご存知でしたか?」
「あぁ、そうそう、プレイカードでしたね。少し前に友達とこのお店に来た時に今流行ってるって教えて貰ったんですよ」
屈託のない笑みを浮かべながらナツキが話すのを見て、センも笑みを浮かべながら軽く頷く。
「なるほど、そうでしたか。では、わざわざお見せする必要は無かったかもしれませんね……」
そう言いながら、センがテーブルの上に置いたプレイカードを手に取ろうとしたところ、今まで自分から発言をすることのなかったハルカが声を上げる。
「あ、あの!アルクさん!少しお尋ねしたいことが!」
「はい?なんでしょうか?」
プレイカードに伸ばしていた手を引っ込めて、ハルカに向かって笑みを浮かべながら問いかけるセン。
(ナツキの方は想像以上に抜けていたが……ハルカの方はやはり反応してくれたな)
「その……プレイカードなのですが、ライオネル商会さんで製造されているのですか?」
「えぇ、そうですよ。今売りに出している玩具は全てライオネル商会で作っているものになります」
センがエミリとの契約でアイディアを渡した玩具、その中で現在販売が始まっているのはトランプ、リバーシ、ジェンガ、五目並べだ。
もちろん全ての玩具の名前を変更して販売している。
生産が全く追いついておらず、現在入手は困難を極めているとサリエナからセンは聞いていた。
(五目並べやリバーシはともかく、ジェンガなんか比較的量産しやすいと思うが……恐らく意図的に生産量を絞っているというのもあるのだろうな)
「その……可能であればでいいのですが……」
そこでハルカは言いづらそうにして言葉を切る。
(ふむ……思った以上に引っ込み思案みたいだな。一度はぐらかすか……それとも、ナツキの方に話を振るか……?)
「あぁ、ご入用でしたらお渡しすることは可能ですよ?」
「あ、いえ!そうではなくてですね……えっと……」
そう言ってハルカがちらりとナツキの方に視線を向ける。
妹の視線を受け、少しだけ首を傾げたナツキだったが、すぐに考えが伝わったのか、センの方を向き口を開いた。
「この、プレイカードってゲームを考えた人って誰ですか?」
(姉はド直球だな……まぁ、分かってはいたが)
「考えた人……ですか?」
センは仮面を指で撫でつつ問い返す。
「……ケンザキトオヤ、それか、トキトウハヤテって人じゃないですか?」
ナツキ、そしてハルカの真剣な視線を前にして、センは少しだけ考えるそぶりを見せた後、ゆっくりと口を開いた。
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