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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第80話 魔性の女(未完)
しおりを挟む「セン、この店は?」
「俺の知り合いがやっている店だ。そして今日の目的地でもある」
センはアルフィンを連れて街の大通りにあるエミリの店にやって来た。普段であれば人でごった返している店内は閑散とした様子を見せている。
「……随分とがらんとしているが、大丈夫なのか?客も商品も少ないみたいだが……」
「あぁ、大丈夫ではないが、大丈夫だ」
「意味が分からん」
「この店は人気があり過ぎてな……」
「この状況でか?」
アルフィンは店の外から中を覗き込む。
棚に商品は殆ど無く、店の中には客は一人しかいない。
店員は愛想の良い笑顔を浮かべているが……どう見ても子供だ。来ている服は品の良い物ではあるが、正直言ってアルフィンには子供がごっこ遊びをしているようにしか見えない。
「あぁ、人気があり過ぎて商品の入荷が間に合っていないんだ。商品入荷当日は店の外に人が溢れるくらい混雑するんだぞ?」
「へぇ……面白そうだな。今度ちゃんと商品がある時に来てみたいな」
「次の入荷はもうすぐだな。だが俺は付き合えないぞ?」
「なんでだよ?」
「あの人出には耐えられない。本当に凄い人数が押し寄せてくるからな?お前も転んだら死ぬぞ?」
「死人が出る程なのか!?」
「今のところは出ていない様だが……子供には危険だろうな。レイフェットに肩車でもして貰えばいいんじゃないか?」
「……してくれるかな?」
「あいつなら喜んでするだろ。頼んでみろよ」
「……うん」
(レイフェットの事が大好きで尊敬している割にどこか遠慮があるな。領主の息子として、らしくあろうとしているとかか?)
若干ソワソワした様子のアルフィンの頭を軽く撫でた後、そろそろ店に行くかと声を掛けるセン。
「セン様、いらっしゃいませ。今日はどうされたのですか?ラーニャさん達のお迎えにはまだ早いと思いますが……」
セン達が店内に入ると、近づいて来て可愛らしく小首を傾げたのはエミリ。
そんなエミリに挨拶をした後、センは店に来た目的を告げる。
「こんにちは、エミリさん。今日はラーニャ達の迎えではありません。エミリさんには申し訳ないのですが……ちょっと冷やかしといったところですかね?」
「まぁ、酷いですわ。商品がある時は来て下さらず、殆どなくなってから来られるだけでも意地悪だと思いますのに、その上冷やかしだなんて」
頬を膨らませたエミリが拗ねたように言うが、センは苦笑しながら謝る。
「すみません、店の前まではいつも来ているのですが、中々店の中に入るのが難しくて……」
「仕方ありませんわね……あら?ニコルさんと来られたのかと思っていましたが……そちらは?」
本日ニコルは仕事には来ておらず、普段通りニャルサーナルに稽古をつけて貰っているのだが、若干センの陰に隠れるようになっていたアルフィンの事をニコルだと思っていたようだ。
「この子はアルフィン。先日から私が家庭教師をしている子で、領主の息子です」
「失礼しました、ご挨拶が遅れて申し訳ありません、アルフィン様。私は先日よりこちらでお店を始めさせていただいた、ライオネル商会のエミリと申します」
「……」
エミリが綺麗な礼の形を取り、アルフィンへと挨拶をするが、それを受けたアルフィンは何の反応も示さずにぼーっとしている。
「……アルフィン?どうした?」
「……え?あ、なんだ?セン?」
「いや、こちらのエミリさんがお前に挨拶をしているのだが?」
「え?あ!失礼しました。私はシアレン領主レイフェットが長子アルフィン。どうぞよしなに」
センに指摘されたアルフィンは慌てて一歩前に出ると丁寧に一礼をする。
「ご丁寧にありがとうございます、アルフィン様」
「私の事はアルフィンとお呼びください。敬称は不要です」
(……おい、レイフェット。この子の何処に俺が礼儀作法を教える必要があるんだ?今までの家庭教師もしっかり教え込んでいるみたいじゃないか。勉強が苦手ってだけで、地頭はかなりいいみたいだな。まぁ、ゲームの飲み込みの早さから分かってはいたが)
アルフィンの受け答えを目の当たりにして感心すると共に驚きを覚えたセンが、優しい笑みを浮かべながらその後ろ姿を見ていると、エミリは二人の様子を見て小さく笑みを浮かべた後アルフィンに話しかける。
「ありがとうございます、アルフィン様。ですが申し訳ありません。私のお店に来て下さったお客様に敬称をつけない訳にはいきません」
「そ、そうか。いや、そうだな。すまない。だが、今度客としてではなく会った時は敬称を着けずにで呼んでくれると嬉しい」
「はい。承知いたしました。その時は……ふふっ、少し緊張してしまいますが、敬称をつけずにお呼びさせていただきます」
「あ、あぁ!楽しみにしている」
エミリが笑みを浮かべながらアルフィンの言葉を受け入れると、頬を赤らめたアルフィンが非常に嬉しそうにする。
(……すごいなエミリさん。一瞬でアルフィンの心を奪ったぞ……いや、そう言えばニコルも似たような感じだったか?エミリさんが年頃になったらあちこちから求婚されそうだな)
エミリに対していつもとは違う方向で感心というか戦慄していると、エミリから笑顔を向けられる。その様子に気付いたアルフィンも振り返りセンを見上げた。
「セン。ところでこの店で何をするんだ?」
「算術の勉強だ」
「こ、この店でか!?」
「そうだ。ここはエミリさんの店だからな、断りは入れたが、最終的になんか買って帰れよ?」
「俺がかよ!?い、いや、まぁ買うけど……ん?エミリさんの店?あぁ、エミリさんは従業員ではなく、家族がやっている店なのか」
「何を言っているんだ?……あ、お前、エミリさんの挨拶を、ちゃんと聞いていなかったな?」
「ば、馬鹿!そんな訳ないだろ!?なんてことを言うんだ!」
慌てたアルフィンがセンとエミリの間で綿綿と慌てる。
(エミリさんに見惚れていて、ちゃんと聞いていなかったのは間違いなさそうだな)
二人のやり取りをニコニコとしながら見ているエミリは何も言わない。
センは興奮するアルフィンの頭をぽんぽんと撫でた後、はっきりと告げる。
「ここはエミリさんの店だ。彼女の店であって、彼女の家族がやっている店じゃない」
「はぁ!?いやだって……えぇ?」
驚愕と共にエミリの方を見るアルフィンだったが、にっこりと笑みを浮かべているエミリは何も言わない。
「事実だ。まぁ、今はそれは関係ない。そろそろ始めるぞ」
「いや、待てよ!そんなさらっと流すなよ!今とんでもない話していただろ!?」
「世の中は広いからな。お前が想像できないようなことも起こり得るってことだ。お前とほぼ変わらない年齢の子が一つの店を任されていたりな」
「……確かに世の中が広いってのは理解しているつもりだが……これは流石に……」
「まぁ、エミリさんに関しては俺もいつも驚かされているがな」
「あら、全てセン様のおかげですわ。それに私の方こそセン様には驚かされてばかりです」
エミリが心外だと言いたげに、センに笑いかけながら言う。そんなエミリに肩をすくめてみせた後、センはアルフィンに金貨を一枚渡す。
「これで買い物をするんだ。但しお釣りで銀貨七枚もらえる様にな。買う商品は好きに選んでいいが、必ず三種類の商品を選ぶこと。銀貨何枚で金貨になるか分かるか?」
「それは分かる」
「良し、じゃぁ頑張って選べ。商品を選べば俺がそれを覚えておく。買うのはちゃんと指示通り商品を選べてからだ」
「分かった」
アルフィンに課題を出したセンは、エミリに向き直り軽く頭を下げる。
「そういう訳ですので、エミリさん、お邪魔させていただきますね」
「えぇ、勿論構いませんわ。アルフィン様、ごゆっくり見て行ってください」
「ありがとうございます、エミリさん……なぁ、セン。金貨一枚ってかなり高額じゃないか?」
顔を赤らめながらエミリにお礼を言ったアルフィンは、センに渡された金貨を見つつ少し眉を顰めながら問いかける。
ハルキアでもそうだったが、シアレンの街においても一般労働者が月に稼ぐことの出来る金額は金貨には届かない。アルフィンはその事までは知らないが、金貨一枚が大金であることは十分理解しているようだ。
「大丈夫だ。この店ならいくつか商品を買えばすぐにそのくらいになる」
「結構な高級店なんだな……」
「流石に高額商品は残りやすいからな。さぁ、頑張って選んでいけ。必要かどうかはこの際どうでもいいが……折角だから楽しんで探せよ?何に使うか分からない時は……」
そこで言葉を切って店内をセンが見渡した時、カウンターの奥から一人の少女が近づいて来た。
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