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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第77話 受諾
しおりを挟む「俺の子は結構遅くに出来た子なんだ」
「そうだったのか。そういえば奥方は……」
「……あー、少し前に病でな」
少しだけ寂しげな笑顔を見せるレイフェット。
「すまん」
「いや、息子の話をするにあたってこの話は避けて通れないからな。気にするな」
「……」
「俺の嫁は二人いたんだが、一人は息子を産んだ時というか……産後の肥立ちがあまり良くてな」
「……そうだったのか」
(二人……まぁ、領主ともなればそういう物なのか?)
少し疑問に思ったセンだったが、そのまま口は挟まずレイフェットの話を聞き続ける。
「俺達は元々探索者をやっていてな。俺と嫁二人、それともう二人の五人組でこの街のダンジョンに挑んでいた。自分で言うのもなんだが結構腕利きだったんだぜ?それでまぁ、色々あって娶る事になって……嫁の二人は俺よりもかなり若かったからな……先に逝くのは俺だと思っていたんだが、人生ってのは本当にわからねぇもんだな」
レイフェットはそう言って豪快に笑う。
「……そうだな。俺もそれは本当にそう思うよ」
(死んだはずが、別の世界で生きることになったりな……)
「まぁ、うちの事情はそんなもんだ。んで、息子なんだが……片親になったからと言って甘やかしたりはしていないつもりなんだが、どうもこう……やんちゃ坊主でな」
困ったような、少し嬉しそうな顔をしながら頭を掻くレイフェット。
(親子仲は良さそうな感じだな)
「遅くに出来た子と言っていたが、今いくつなんだ?」
「この前八つになったところだ」
「うちにいる一番下の子と同じくらいか……」
センはトリスの事を思い出しながら相槌を打つ。
「ほう、そうだったのか」
「まぁ、正確な年齢は……出自柄あまり分からないけどな。それで、なんで俺にわざわざ頼むんだ?領主様ともなればいい家庭教師くらいつけられるだろ?」
センの言葉にレイフェットの表情が苦い物に変わった。
「それがな……二人ほどつけた事はあるんだが……ダメだった」
「どういうことだ?教師としてあまり優秀では無かったと言う意味、ではないよな?」
センの問いかけにレイフェットは頷く。
「彼らの知識量は問題ない。だが、息子の方がじっとしていられないタイプというか……全く話を聞かないらしいんだ。俺もその話を聞いて叱ったりしているんだが……効果が無くてな……」
「なるほどな……」
(まぁ八歳くらいの男の子なら椅子に座ってジッとしているより、体を動かして遊ぶのが好きな子の方が多いだろう。この世界の子供が早熟なのは環境が日本のそれとは全然違うからなのだろうが……外敵の少ないこの街の領主の息子と言う環境は、余裕があるからな……レイフェットが甘やかしまくっているとは思えないが、この様子だと厳格な父親って感じでもなさそうだ)
「それで……少し面倒を見ちゃくれないか?」
「……いいのか?俺が教えたらひねくれ者になる可能性もあるぞ?」
「大丈夫だ。うちの息子は素直ないい子だからな」
「俺はその返事が不安で仕方ないよ」
(そもそも素直ないい子は家庭教師を二人も返り討ちにしねぇよ。とは言え……)
心の中でため息をつきながら、考えを巡らせる。
(レイフェットの家に来る理由が増えるのは悪くない。災厄に対抗するための最初の協力者として、俺はレイフェットが欲しい。付き合いはまだ短いが……こいつはきっと俺の力になってくれる。そういった話をするためにも、レイフェットの家にもっと食い込む必要があるし……この話は受けるべきだな)
「少し条件がある」
センのその言葉に、来た来たと言わんばかりの表情をしたレイフェットが頷く。
恐らく、センがここぞとばかりに貸しを作ろうとしていると思ったのだろう。実際その通りではあるが、センの言う条件はそう言った話では無かった。
「まず、勉強するように話はするが、それでも学習意欲の無い相手に教えるのは難しい。だから俺が許可するまで、その子に勉強の事を聞くのは止めてくれ」
「お、おう」
予想とは違い、勉強を教える上での条件を話し始めたセンにレイフェットは驚く。しかし、そんなレイフェットの様子は捨て置き、センは条件をどんどん出していく。
「最初の数回は、勉強を教える事は無い。それと屋敷の外に連れ出すことになるかも知れない。だから、その時はその子に気付かれない様に護衛を手配して欲しい」
「分かった」
センが一体何をしようとしているのか全く分からなかったが、レイフェットは二つ返事で頷く。
「暫くは頻繁に通うと思うが、俺の事は使用人にも話を通しておいてくれ。本格的に勉強を始めたら来る頻度は下がるが、それは予定通りだから心配いらない」
「……」
「そして俺が教える内容だが、共通語の読み書きと基礎的な算術だ。それ以上の専門的な事は他に雇ってくれ。ただし俺の授業と平行してやるのはダメだ。俺の教える範囲が終わってからにして欲しい。とは言ってもそんなに長い時間は駆けないから安心してくれ。半年もあれば俺の教える範囲は終わるはずだ」
「分かった。基礎的な算術というのは、今エミリ嬢の店で働いている三人くらいってことでいいか?」
「そうなる。今のあの子達と同等と思ってくれればいい。そして最後に、今日は顔を合わせない。明日、また来るからそこで顔合わせをしよう。だから今日の内に必ず、明日から家庭教師として俺が来るってことを伝えておいてくれ」
「……?分かった。そのようにしよう。だが……それに何の意味があるんだ?」
「これ自体には意味はないさ。だが明日の顔合わせで、お前の息子がどんな態度を取るかでどういう風に教えるかを考えるんだ。正直な反応が見たいから、観察されているとか伝えるなよ?」
そう言ってにやりと笑うセンは、とても家庭教師が浮かべて良い表情をしていなかったが、息子にとっていい経験になるだろうとレイフェットはすべての条件を受け入れる。
「とりあえずこんなところだ。もしかしたら他にも協力してもらう事が出て来るかも知れないが、それはまたその時だな」
「分かった。すまんな、恩に着る」
「気にするな。俺としてもいい経験になりそうだからな」
「経験?子供に教えるのがか?」
「あぁ、少し考えている事があってな……今日はその事を話そうと思っていたんだが……また今度にした方が良さそうだ。それより、息子さんの名前は教えてくれ」
「なんだよ、気になるじゃねぇか」
レイフェットが前のめりになり話を促してくるが、センは取り合わずに息子の名前を教えるように言う。
やがて渋々と言った様子で話を聞くことを諦めたレイフェットが、息子の名前を伝えた。
「俺の息子の名はアルフィンだ。因みに半獣人じゃなくて人族だぞ」
「へぇ、そうなのか」
「母親が人族だったからな。誰に似たのかやんちゃ坊主でな……」
(どう考えても父親だと思うが……まぁ、実際会うのを楽しみにしておくか)
こうしてセンは、家庭教師として雇われることになった。
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