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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第75話 戦闘訓練
しおりを挟む「にゃはは!いきなり頭を狙ってもダメなのにゃ!」
すっかりと元気になったニャルサーナルが、自分目掛けて振るわれた攻撃を手にした棒で打ち払う。
「うぐっ!」
「動きを止めたらダメにゃ。一つ一つの動きをおざなりにやってはダメダメにゃ。全ての動きは次の動きに繋げて考えるにゃ!」
体勢を崩した相手に向かって、言葉と共に棒を突き出し軽く突いて行くニャルサーナル。
「いたっ!いたたっ!」
あまり力の入っていない攻撃ではあるが、攻撃を受けている側からすれば結構痛く、思わずと言った感じで手にした武器を振り払うように振るう。
「そういうのはダメダメダメにゃ。力も気持ちも入っていない攻撃をするくらいなら、全力で逃げて体勢を立て直したほうがいいにゃ」
そう言ったニャルサーナルが振るわれた武器の軌道の更に内側に踏み込み、軽い感じで武器を持った相手の手を取り、足を引っ掛けて転ばせる。
「うわっ!?」
「おしまいにゃ」
倒れた相手を見下ろしながら、ニャルサーナルは持っていた棒で自分の肩を軽く叩く。
「ありがとうございました!」
倒れた相手……ニコルは転がされたにも拘らず、嬉しそうな笑顔でニャルサーナルにお礼を言う。
「うむ。ニコルは素直だし筋がいいにゃ。しっかり戦い方を学んだら、そこらの探索者なんてあっという間におねんねさせられるようになるにゃ。まぁ、師匠にはずっと勝てないけどにゃ!」
そう言って胸を張るニャルサーナルではあったが、確かに自慢げにするだけの実力は持っているようだ。
ニャルサーナルの体調が良くなり、大分動けるようになった頃、センは改めてニャルサーナルに護衛として雇って欲しいと頼まれていた。
世話をした数日で大体の人となりは掴めてはいたが、護衛となるとそれなりに荒事に対処できる能力が必要だ。
特にセンは、こと腕っぷしに置いては世界最弱である自負がある。その為戦う事が出来る人物を傍に置いておきたいと前々から考えていたが……レベルはともかくニャルサーナルが戦う事が出来る人物にはあまり見えなかった。
そこでサリエナに頼み、屋敷に勤める警備兵と模擬戦を行って貰うことにしたのだが……その結果、警備兵を一瞬で無力化。更には軽鎧を身に着けた警備兵四人に対して、木の棒だけであっさりと勝ってしまったのだ。
これにはセンだけではなく、その場にいた全員が驚いた。
警備兵のレベルは7から9。
シアレンの街の一般人と同じくらいではあるが、それでもストリクやハルキアの王都で見た一般兵と同じくらいのレベルだ。
勿論彼らは兵士のように毎日訓練に明け暮れているわけでは無いが、それでも一般人よりも体は鍛えているし武器の扱いにも慣れている。
そんな警備兵四人を同時に相手して圧倒してしまったニャルサーナルを見て、その場にいた全員が目を丸くして驚いても無理はないだろう。
「もう一回お願いします!」
「まだ早いにゃ。今の自分の動き、ニャルの動き……最初から最後までしっかり思い返して、自分なりに何処が悪かったか、何処が良かったかを考えるにゃ」
「は、はい!」
ニコルに訓示をしながら腕を組もうとして、手に持ったままの棒が身体に引っかかり、腕を組めずに悪戦苦闘するニャルサーナルをセンは仕事部屋の窓から見ていた。
(実力は申し分ない。警備兵と戦う姿を見て、ニコルが戦い方を教えて欲しいと頼み込んだ気持ちもよく分かる。素人から見ても分かりやすいくらいにニャルは強い。驚いたのは、あれだけ考え無しの行動をとる割に、教え方は丁寧だし理論的な指導の仕方をしている。ニコルは思考が先に立つタイプだし、あぁ言う教え方は効果的だろう)
普段の言動とはかけ離れたニャルサーナルの指導を見ながら、かなりいい拾い物をしたかもしれないとセンは思う。
(探索者としての実力はまだ分からないが……この様子なら結構期待できるんじゃないか?ルデルゼン殿が了承してくれたら、手合わせをしてもらうのもいいかもしれん。まぁルデルゼン殿はレベル17だから、レベルを信じるなら彼の方が強いはずだが……)
センはもう一度ニコルとニャルサーナルに意識を向けた。
おさらいが終わったのか、二人は再び武器を構え、先程と同じようにニコルから攻撃を仕掛ける。先程受けた叱責を早速動きに反映させたニコルは、大振りで自分よりも背の高いニャルサーナルの頭を狙うのを止めて、相手の足を狙って棒を振る。
足を狙われたニャルサーナルは、少しだけ笑みを浮かべると半歩だけ身を引いてニコルの攻撃を躱し、そのままニコルの肩を目掛けて袈裟懸けに棒を振り下ろした。
しかし、ニコルはその攻撃を読んでいたように、自分の攻撃が避けられると同時に身を投げ出し前転をしながらニャルサーナルの反撃を躱す。
ニャルサーナルは更に笑みを深めたが、前転で逃げたニコルにすぐに追いつくと、立ち上がろうとしているニコルの頭に軽く棒を振り下ろした。
「あう」
軽く置かれた程度の一撃ではあったが、勝負ありなのは間違いないだろう。ニコルはがっくりと肩を落とす。
「最初の動きは悪くなかったし、それに反撃を躱したのも良かったにゃ。でもよけ方が悪いにゃ、逃げるにしても背中を見せるのはダメにゃ。ぶっ飛ばしてくださいと言っているような物にゃ。でも色々考えたのは良かったにゃ。短いやり取りだったけど、かんそーせんをするのにゃ。ん?かんせーそん?」
(喋り出すと途端にダメだな……まぁ、ニコルの戦い方の先生としては申し分なさそうではあるか。とりあえず……ダンジョンを調べる為の一人目は確保出来そうだな。調査と言う意味では不安しかないが……それは今後引き込む奴に担当して貰えばいい)
センはルデルゼンからダンジョンの話を聞き、自分でダンジョンを探索して調べるのではなく、探索者を支援して色々と調べさせることを考えていた。
ダンジョンでの安全確保は相当難易度が高い。探索者を多く雇い入れても簡単にはいかないだろう。何より一階層にはいる事の出来る人数に上限があるのが厳しい。ルデルゼンの話では階層ごとに違いはあるそうだが、大体五十人前後が定員であることが多いらしい。
当然ダンジョンには他の探索者もいる為、五十人全員でセンを守ることは出来ない。だからこそ、センが出資して、ダンジョン攻略、調査チームを作る。
勿論、センもダンジョンに全く行かないというわけでは無いが、ダンジョンの探索は優秀なチームを作り、彼らに切り開いて貰い、ある程度の安全を確保してから調査に挑む……若しくは調査をしてもらい、センは金銭的なサポートと言う形がベストだと考えている。
(一応、召喚魔法を使った戦闘方法も考えてはいる……しかし、実践する日が来ないといいのだが……)
そんなことを考えながらも、ダンジョンで魔物との戦闘は経験しておくべきとも思っている。
いずれ来る災厄、魔物の襲来時に後方支援だけをしていればいいとは考えていない。
(無論それに越した事は無いが……自衛の手段が何もないと言うのは危険すぎる。世界中に魔物が溢れたら、召喚魔法で逃げると言っても限界があるしな……逃げた先に魔物がいたら一発アウト。俺の護衛にあまり戦力を割く訳にはいかないが……俺一人では戦闘も何もあったものではないし、護衛はやはり必要だ……戦闘においても俺はサポート役、攻めたり守ったりは他の奴らにしてもらうしかない。そしてそういう連携は……やはり練習が必要だな)
来るべき日に備え、色々と考えを巡らせるセンは、いずれダンジョンで戦闘訓練をしなければならないと考え気分が沈んで行くのを感じる。
窓の外から訓練を再開した二人の声、木の棒を打ち付け合う音を聞きながら憂鬱な気分を振り払い、今後の予定を考えるセンだった。
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