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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第73話 ごめんなさいにゃ
しおりを挟む「肉が食いたいにゃー、粥は飽きたにゃ」
「まだ二日目だ。明日は少し鶏肉を入れてやるが今日は我慢しろ」
「……この葉っぱ苦いにゃ」
「薬草だ。お前を診察してくれた人のお勧めだから文句を言わずに食え」
ぶちぶちと文句を言うニャルサーナルに、センはため息をつきながら食事を与える。
「あーあのお爺さんはいい人だったにゃ。じゃぁ、仕方ないにゃ。文句を言わずに食べるにゃ」
ハーケルの指示なら仕方ないと言って麦粥を口に運んでいく姿を見て、センは改めてハーケルの事を尊敬する。
(あの短い時間でここまでこの面倒な猫女を手懐けることが出来たのは、流石ハーケル殿といったところだな。何と言うか、物凄く安心すると言うか……頼ってしまいたくなる雰囲気というかお人柄というか)
暫くニャルサーナルが粥を冷ます為に息を吹きかける音だけが部屋に響いていたが、扉がノックされセンは意識をそちらに向ける。
「センさん。今大丈夫ですか?」
「あぁ、すぐに行く。ニャル、席を外すがしっかりと噛んでから食べろよ?」
「問題ないにゃ……熱くて一気に食べるのはどうせ無理にゃ」
(今後も煮えたぎるくらい熱い状態で持って来た方が良さそうだな)
よく噛んでゆっくりと食べさせる為に、熱々の料理を持って来ることを決めながらセンは扉に近づく。扉の前にはサリエナの派遣してくれた警備兵が控えておりニャルサーナルの監視をしているが、センは今の所彼女から悪意の様な物を感じてはいない。
交渉の為に相手の事をよく観察するようにしているセンから見て、ニャルサーナルは危険人物ではなさそうだった。
警備兵に軽く目礼した後、センは扉を開けて外に出る。そこにはラーニャだけではなくニコルとトリスもおり、若干不安そうにセンを見上げていた。
「どうした?」
「えっと……大丈夫ですか?」
「あぁ、問題はないよ。今はまだ食事中だから、それが終わったら紹介しよう。変な奴ではあるが、悪い奴ではなさそうだしな」
「分かりました……あの、センさんのご飯は……?」
「あぁ、そうだな。俺も食べるか……三人とももう食べ終わったんだろ?」
ニャルサーナルに食事を与えている間に先に三人には食事をしておくように伝えていたセンは、自分の食事をどうするか考えながら尋ねる。
「はい。お先に頂きました……それと、センさんの分は私が用意しておきました」
「お、それは助かる。ありがとうラーニャ」
「はい!」
センがラーニャの頭を撫でながらお礼を言うと、嬉しそうにラーニャが微笑む。
「行こう……兄様」
隣にいたトリスがセンの手を握ってリビングへと誘う。
テーブルについたセンはラーニャの用意してくれた食事をゆっくりと味わい、人心地着いた後、三人を伴ってニャルサーナルのいるゲストルームへと戻る。
部屋に入る直前、三人は少し緊張した様子であったが、センが笑いかけると少し肩の力を抜いた用だった。
「ニャル、食べ終わったか?」
「うむ、最初は苦かったけど食べ進めていくと意外と味わい深かったにゃ。料理が上手いのはいいことにゃ……ニャルの料理人になるかにゃ?」
「なるわけないだろ?そんなことより、お前が謝るべき子達を連れてきた」
そう言ってセンは一歩横に動き、後ろにいた三人をベッドに座っているニャルから見える様にする。
「にゃ?なんでニャルが謝るにゃ?」
「お前が昨日うちに飛び込んで来た時、この子達は食事をしようとしていたんだ。それを邪魔して、更に事情が分かるまでこの子達を不安にさせていた。お前が謝らずに誰が謝る」
センの説明を受け、納得したといった顔になったニャルは、何とか自力で体の向きを変え三人に正対する。
「昨日は迷惑をかけて本当にごめんなさいなのにゃ。君達の声は聞こえていたけど、どうしても我慢できなかったのにゃ。怖がらせて、ごめんなさいにゃ。ニャルの名前はニャルサーナル=シャルニャラにゃ。ニャルって呼んでくださいなのにゃ」
そう言って深々と頭を下げたニャルサーナルは、その体勢に堪えることが出来ずに前のめりに倒れてしまった。
センはすぐにニャルの事を助け起こし、支える。
(やはり悪い奴ではなさそうだな。ラーニャ達の方も安心したみたいだな)
「えっと、びっくりはしましたが……誰も怪我はしていませんし、謝っていただいたので私はもうニャルさんの事を許します」
「僕も気にしていません。ニャルさんのお陰で気持ちを引き締めることが出来て、目標を改めて考えることが出来たので、どちらかと言えば感謝しているくらいです」
ラーニャに続き、ニコルがぺこりと頭を下げる。
(……ニコルは昨日何かあったのか?特に俺には何も言って来ていないが……)
センが内心首を傾げていると、最後に残っていたトリスが口を開く。
「……耳を触らせてくれたら……許す」
「むう……耳かにゃ……まぁ、仕方ないのにゃ。えっと……」
ニャルサーナルが困った様子を見せたのでセンは三人を紹介する。
「今話しているのはトリス。そっちの二人はラーニャとニコルだ」
センの紹介を受け三人がそれぞれぺこりと頭を下げる。
「よろしくにゃ。それで……トリス、ニャルの耳を触るのは……今度でいいかにゃ?今日は……ちょっと、しんどくなってきたにゃ」
「分かった……楽しみにしとく」
トリスがそう言ったのを確認してから、センはニャルサーナルを元の体勢へと戻し寝かせる。
「すまんにゃ。ちょっとまだ……無理みたいにゃ」
「放り出したりはしないからゆっくり休め。もう少し体力が戻ったら色々聞きたいしな」
「分かったにゃ……でも、最後に一つ……」
「なんだ?」
「お前……誰にゃ……?」
聞き方は色々と問題があったが、聞かれたことで自己紹介をしていなかったことを思い出したセン。
「俺はセンだ」
「……」
センの名乗りが聞こえたのかどうか定かではないタイミングで、ニャルサーナルの寝息が聞こえてくる。
(限界だったようだな。少し無理をさせてしまったが……子供たちの不安が取れて良かった。警備兵がいるとはいえ、同じ屋根の下に得体のしれない人物がいるのは気が気じゃないだろうしな)
「寝たようだ……俺達は部屋を出よう」
センが小さな声で三人に声を掛けると、黙って頷いた三人は部屋の外に出て行く。
「優しそうな方でした」
「……耳が……可愛かった」
部屋を出てすぐ、ラーニャとトリスが少し笑みを浮かべながらニャルサーナルの印象を話す。
「でも、物凄く具合が悪そうでした。兄さん、ニャルさんに何があったのですか?」
「あぁ、その事は今から話そう。と言っても大した話じゃないから安心していい」
そう言ってセンは三人をリビングに連れて行き飲み物を用意する。
そんなに長い話ではないのだが、皆で話をする時は飲み物を用意することが習慣になっていた。
「さて、ニャルの事だが……まず初めに、あいつは悪い奴ではなさそうだが用心は必要だ。だから決して三人だけで彼女の所に行かない様に。必ず俺か、エミリさんの所から来てもらっている警備の方が一緒に居る時だけだ。今はまだ衰弱していて殆ど体を動かせないみたいだが、彼女は探索者らしいからな。武器は回収しているが、このことは約束してくれ」
「分かりました」
ラーニャの声に合わせ、ニコルとトリスも真剣な表情で頷く。
その様子を確認したセンは、昨日ニャルから聞いた話を三人に話始めた。
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