72 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第72話 どうやら大丈夫そうだ
しおりを挟む「センはご飯を作るのが上手いにゃ。こんな山奥に暮らしているのはもったいないにゃ」
「さっきも言ったがここは街外れだ。山奥には違いないかもしれないが」
「そうなのかにゃ?」
ニャルサーナルは何度かミルク粥をお替りしてようやく満足したらしく、ベッドの上で寛いでいる。
しかし、まだ体は衰弱しているようで上手く力が入っていなようにセンには見えた。
「因みに、ここはシアレンの街。おそらくお前が目指していたダンジョンの街だ」
「そうなのにゃ?流石ニャルにゃ、意識朦朧としながらもしっかり目的地に着いているなんて超凄いのにゃ」
「……死にかけているみたいだがな」
(面倒を見る必要は無いと思うが……夜が明けてからハーケル殿を呼びに行って診察してもらうか。放り出して野垂れ死んでいたら流石に気分が悪いしな)
「……そういえば上手く体が動かないにゃ。縛られているせいだと思っていたけど違ったかにゃ?」
「どのくらいの間食ってなかったのか知らないが、そのせいだろ」
「……意識したら……すんごい怠くなって来たにゃ……」
ニャルサーナルの瞼が落ちてきている。腹が膨れたこともあり、今度は眠気が襲って来ているらしい。
「休むといい」
「……こんな美少女が同じ家に寝てても……大丈夫かにゃ?……欲情して……襲い掛かってこないかにゃ?」
「絶対にないから安心しろ。サルを襲う趣味はない」
「体が……動く様になったら……ぶっころす……にゃ……」
最後までろくでもないことを言いながら眠りに就くニャルサーナル。
それを見届けた後、センは腰を上げた。
「すみません、どちらか御一人この部屋で彼女を見張っておいて貰えますか?もう御一方は私と一緒にサリエナ殿の所へ、少し遅くなりましたが、まだお休みになってはいないですかね?」
「奥様はまだ休まれていないかと。一足先に戻って馬車を回しましょうか?」
「いえ、歩いて向かいます。夜も遅いですし、少しでも早い方が良いでしょう」
「畏まりました。では私がご案内いたします。ここは頼む」
「了解」
ニャルサーナルの寝息が聞こえる中、小声で打ち合わせをしたセンは警備兵と共に急ぎエミリ邸へと向かい事情を説明した。
「……外傷もないし、特に病に侵されている感じもありませんね。栄養不足と極度の疲労と言った感じですが……結構こちらは酷い状態ですね。暫くは麦粥にいくつかの薬草足して食べさせると良いでしょう。薬草に関しては後で用意しておきますので昼頃に回収してください。それと……こちらを一日一本飲ませてあげて下さい。体力回復用のポーションです」
診察を終えたハーケルが、リビングにやって来てセンに診断結果を伝える。
昨夜事情をサリエナに説明し、暫くの間警備兵を家に派遣してもらう事を頼んだセンは、朝になるのを待ってストリクの街にハーケルを呼びに行った。
診断結果は前述の通りで、とりあえず大事無さそうという事が判明したのでハーケルをストリクに送った後、子供達も家に戻ることが出来るだろう。
「ありがとうございます、ハーケル殿。遠いところわざわざ来ていただき本当に感謝します」
「ふふっ、遠いと言っても移動に大した時間はかかっていませんよ?それにいつか来てみたかったシアレンの街に来られたのですから、私としては儲けものといった所です」
そう言っていつものように微笑むハーケルにセンは軽く頭を下げた。
「ハーケル殿はもう少しシアレンの街を見て回りますか?」
「そうしたいのは山々ですが……今日は衛兵詰所への納品があるので、長居は出来そうにありませんね」
「忙しい所申し訳ありません。また今度時間がある時に街を案内させて貰います」
「えぇ、その時を楽しみにしておきます」
その後いくつか言葉を交わした後、センはハーケルをストリクの街に送り返し、すぐに子供たちをエミリの店に迎えに行った。
昨夜のうちに問題ない事は伝えてあり、念の為ニャルサーナルが病気だった時の事を考えエミリ邸に一泊させてもらったのだが、今日も朝からエミリの店で働いている三人はエミリ邸からの方が出勤はしやすかった事だろう。
(うちからだと歩いて三十分くらいかかるからな。エミリさんの所からなら馬車で移動だろうし、そんなに時間はかからない筈だ)
センはゆっくりと街を歩いていく。朝早くという時間帯ではないが、昼と言うほどでもない。
(既に店は開いているだろうし、店が昨日みたいな状況であればとてもじゃないけど迎えに行くのは無理だな。というか、高確率で昨日と同じ状況だと思うが)
そんなことを考えながら、たっぷり一時間ほどかけてセンはエミリの店へとやって来た。しかし、案の定と言うか当然というか……エミリの店は大盛況でやはり通りに溢れるくらいの人だかりが出来ていた。
「今日も順風満帆と言った感じだが……ラーニャ達に会うのは無理だな。店に入れたとしても邪魔にしかならん。今日もどこかで時間を潰すか……」
ぼやきながら振り返ると、見覚えのある人物がこちらを見ていることに気付いた。
「おはようございます、センさん」
「クリス殿、おはようございます」
「良くお会いしますね。今日は……もしかしてあの店に?」
「えぇ、そのつもりだったのですが……あまりの人出に途方に暮れていた所でして」
センが眉尻を下げながら言うとクリスは朗らかに笑いながら口を開く。
「昨日も今日に負けず劣らずと言った感じでしたよ。他所から仕入れた商品を販売しているそうですね」
「……そのようですね。クリス殿はまだあの店には?」
「えぇ。まだ話に聞いただけです。興味はあるのですが、あの人出ですからね……老体では耐えられそうにありません」
そう言って笑うクリスではあったが、センから見てクリスの動きは非常にかくしゃくしていて、おそらくセンよりも肉体的な能力は上なのだろうと思わせる。
「人出が落ち着く前に店の商品が無くなってしまいそうですね」
「そうですなぁ。私も香辛料の類が欲しかったのですが……」
「なるほど……因みにどのような物ですか?」
「大陸中央の方でとれる植物を乾燥させた香辛料があるのですが、少し痺れるような辛みが特徴ですね。小さな丸い実を潰して粉にしたものです」
「痺れるような辛みですか……中々癖のありそうな感じですが、クリス殿は料理をされるのですか?」
「えぇ、辛い料理が好みでして……料理自体は下手の横好きと言った程度ですがね」
(下手の横好きとは言っているけど……なんか物凄く上手そうだよな……雰囲気的にだが。それにしても痺れるような辛みで乾燥させた実を潰したものか……山椒……いや、花椒みたいな感じか?)
「機会があったらクリス殿の料理を食べてみたいですね」
「本当に人様にお出し出来るようなものではありませんよ。以前食べて下さった人はもう二度と食べたくないとおっしゃっていましたしね、ほっほっほ」
「それは……相当辛かったのですか?」
「程よい辛さですよ」
(食べるのは止めておいた方が良さそうだ……辛い物好きの程よいは、普通に人間にとって致死量の可能性が否めない)
クリスの話を聞いたセンは、真っ赤に染まった激辛料理を頭に思い浮かべる。
「……因みにその香辛料の名前は何というのですか?」
「ミランという植物から作る香辛料で、確かそのままミランだったはずです」
「なるほど……もし入荷している様なら取り置きしてもらいましょうか。個人用の香辛料くらいなら何とかなると思います」
「おや?あの商店の方とお知り合いなのですか?」
センの提案にクリスが首を傾げるように尋ねる。
「えぇ、何人か知り合いが働いているので、そのくらいは融通してもらえるかと」
「そうでしたか。しかし、よろしいのでしょうか?」
「えぇ、取り置き程度なら大丈夫だと思いますよ」
「そうですか……ではお言葉に甘えてもいいでしょうか?」
「勿論です、私の名前で取り置いて貰っておきます。在庫があれば明日にでも受け取れるように頼んでおきますが、仕入れていない場合は申し訳ありません……」
「それはセンさんのせいではありませんからお気になさらず。っと、頼みごとをした直後で申し訳ありませんがそろそろ……」
クリスが申し訳なさそうにしながら頭を下げる。その姿を見て思いの外長く立ち話をしてしまったことにセンは気づいた。
「あぁ、すみません、引き留めてしまって。また機会があったらゆっくりとお話しさせてください」
「えぇ、楽しみにしておきます。それでは……」
クリスが通りの向こうへと去っていく姿を見送った後、センはエミリの店に視線を向け……先日と同じくため息をついた後時間を潰すために歩き去った。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
運命の魔法使い / トゥ・ルース戦記
天柳 辰水
ファンタジー
異世界《パラレルトゥ・ルース》に迷い混んだ中年おじさんと女子大生。現実世界とかけ離れた異世界から、現実世界へと戻るための手段を探すために、仲間と共に旅を始める。
しかし、その為にはこの世界で新たに名前を登録し、何かしらの仕事に就かなければいけないというルールが。おじさんは魔法使い見習いに、女子大生は僧侶に決まったが、魔法使いの師匠は幽霊となった大魔導士、僧侶の彼女は無所属と波乱が待ち受ける。
果たして、二人は現実世界へ無事に戻れるのか?
そんな彼らを戦いに引き込む闇の魔法使いが現れる・・・。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
冷酷魔法騎士と見習い学士
枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。
ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。
だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。
それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。
そんな姿を皆はどう感じるのか…。
そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。
※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。
画像の二次加工、保存はご遠慮ください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
魔帝戦記
愛山雄町
ファンタジー
魔帝。それは八人の魔を司る王、すなわち魔王を統べる至高の存在。
強靭な肉体、卓越した武術、他を圧倒する魔力、絶対的な防御力……神の祝福を受けた勇者以外に傷つけることはできず、人族からは最強の魔族として恐れられている。
派遣社員、真柄(まつか)嵐人(らんと)はその魔帝として、グレン大陸の中央に位置するグラント帝国の帝都に召喚された。
しかし、ラントに与えられた能力は歴代の魔帝が持っていた能力のごく一部、それも個人の戦闘力に全く関与しない“情報閲覧”と“自動翻訳”のみ。
あまりの弱さに部下の中にはあからさまに侮蔑する者もいる。
その頃、勇者を有する人族側も神の啓示を受け、“人類の敵”、魔帝を討つための軍を興していた。
チート能力もなく、日本人のごく平均的な肉体しか持たない彼は、自身の知識と魔帝の権威を最大限に利用し、生き残るために足掻くことを決意する。
しかし、帝国は個々の戦士の能力は高いものの、組織としての体を成していなかった。
危機的な状況に絶望しそうになるが、彼は前線で指揮を執ると宣言。そして、勇者率いる大軍勢に果敢にも挑んでいく……。
■■■
異世界転移物です。
配下の能力を上げることもできませんし、途中で能力が覚醒して最強に至ることもありません。最後まで自分の持っていた知識と能力だけで戦っていきます。
ヒロインはいますが、戦争と内政が主となる予定です。
お酒の話はちょっとだけ出てくる予定ですが、ドリーム・ライフほど酒に依存はしない予定です。(あくまで予定です)
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも公開しています。
■■■
2022.2.14 タイトル変更しました。
「魔帝戦記~常勝無敗の最弱皇帝(仮)~」→「魔帝戦記」
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
現代にモンスターが湧きましたが、予めレベル上げしていたので無双しますね。
えぬおー
ファンタジー
なんの取り柄もないおっさんが偶然拾ったネックレスのおかげで無双しちゃう
平 信之は、会社内で「MOBゆき」と陰口を言われるくらい取り柄もない窓際社員。人生はなんて面白くないのだろうと嘆いて帰路に着いている中、信之は異常な輝きを放つネックレスを拾う。そのネックレスは、経験値の間に行くことが出来る特殊なネックレスだった。
経験値の間に行けるようになった信之はどんどんレベルを上げ、無双し、知名度を上げていく。
もう、MOBゆきとは呼ばせないっ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる