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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第67話 ふらっと思案
しおりを挟むルデルゼンと別れたセンは、暫く街をブラブラして時間を潰した。
途中、オープンカフェでお茶を飲んでいたクリスと会ったのだが、少し会話をしただけで別れていた。
本当はもう少し雑談でもしたかったのだが、クリスはこれから仕事という事で時間が無いとのことだった。
(他に知り合いでもいれば良かったのだが……ライオネル商会の方々は間違いなく忙しいし……レイフェットは暇つぶしに尋ねるような相手じゃないしな……)
センは先日一緒に釣りに出掛けた犬耳の領主の事を思い出す。
(まぁ……本人は喜びそうな気もするが……本来そう簡単に会える相手じゃないからな)
普通はそう簡単に会えない相手ではあるが……突然家に遊びに来たりする相手でもあった。
その事実にセンは皮肉気に口元を歪ませた後、これからどうしたものかと考える。
(流石に店に戻るのはまだ早い……だが、この街での知り合いは皆忙しそうだ。ケリオスにでも会いに行くか?いや……都合よくケリオスが非番とも思えないし……夜勤明けだったりしたら申し訳ないしな。連絡手段が無いってのは本当に面倒だな)
センはため息をつきながら空を見上げる。
(連絡手段か……この世界に連れてこられた他の連中はどうしているのだろうか?あの女……何かしらの連絡手段を用意しておいてくれれば良かったものの……いや、あれに何か求めるだけ無駄か)
センに何かをするたびに慌てふためく女性の事を思い出し、センの中に仄かに怒りが生まれたが……すぐにかぶりを振って怒りを散らす。
そんな生産的ではない思考に費やすリソースはセンにはない。そんなことよりも今後の動きについて考えを巡らせた方がよっぽど生産的だろう。
(サリエナ殿の主導でハルキアの王都で俺が伝えた玩具の販売準備は着々と進んでいる。それにライオネル殿に依頼してここ一年以内に頭角を現した人物について調査をして貰っている。今の所、ハルキアには該当するような人物はいないとのことだが……もう少し時間があれば他の国の情報も集められるだろう。物流システムの範囲はこれからどんどん広がっていく……それに伴い情報を集める範囲も速度も加速する。そう遠くない内に送り込まれた連中を見つけることが出来るだろう。ちゃんと活動をしていればだが……派手に動いてくれているとこっちは楽で助かるんだがな)
センは子供たちの前ではほぼ見せることのない深いため息をつきながら、街の中を流れる水路を覗き込む。
先日レイフェットと釣りに行った川に比べれば、お世辞にもきれいな水とは言い難いが、どぶ川と言うほどでもない。そんな水路を見下ろしつつ考え事を続けるセンは物憂い気にも見えるが、その雰囲気は非常に険悪なものでもあった。
(シアレンの街にあるのは世界最大と言われているダンジョン。正直、誰か一人くらいはこの街で探索者をやっていると思っていたのだが……ルデルゼン殿にそれとなく聞いてみたが、何かしら目立った功績を上げた新人はいないってことだった。誰かしら調べに来ていると思ったのだが、当てが外れたな)
軽くため息をついたセンは水路から離れて再び歩き出す。
(ライオネル殿の話では、近年帝国が大人しくなった分大きな戦争は起こっていないらしいが、帝国が侵攻を止めた事で大陸中央がキナ臭くなって来たらしい。ハルキアも北部の方に軍を集めているとか……帝国が動き出す前に自国内を強化すればいいと思うのだが……他国から奪うって言うのがこの世界のスタンダードらしいな。だが戦争でいくら土地を得ようと、人を減らしてしまってはな……世界全体で見ればマイナスだ。殺さずにリソースを奪い合う方がよっぽど健全だな)
そこまで考えたセンは一人苦笑する。
傍から見れば相当怪しいが、幸い今センの事を見ている人物は付近には見当たらない。
(まぁ、非効率だからと言って避けられるような物でもないか。それに俺は別に戦争を止めたいわけでも反対する訳でもない。ただただ勿体ないってだけ……やがて来る災厄に対して、対抗するための戦力が削られてしまうことが腹立たしいだけだ。正直災厄を乗り越えてしまえば、俺に被害が出ない程度に好きにしてくれればいいと思う。まぁ、大半の一般人にとってはそんなものだろうけどな)
自分が良ければ後はどうでもいいという自分勝手な思考、ある意味非常に人間らしい考え方をしながらセンは大通りへと戻ってきた。
エミリの店まではまだ距離がある為もうしばらく歩く必要があるが、結構な時間をふらふらして過ごしたのでそろそろ店に入れるだろうと言う判断だ。
(レイフェットとこの前話が出来たのは良かった。治安の良さから統治はしっかりしているのは分かっていたが、基本的に束縛を嫌う探索者の街、しかも外界と隔絶された……とまでは言わないがそれに近い状況。あまり色々な政策を打つのは難しいかと思っていたが、レイフェットの様子を見る限りそういう訳でもなさそうだ。ダンジョンの調査とは別にレイフェットと繋がりを強化するのは悪くない……災厄についてレイフェットに相談出来るくらいになれば……)
情報網の構築、戦力の確保、魔物の調査……センが災厄に対抗するために成そうとしている事だ。最優先だった情報網の構築は順調に進んでいる今、戦力の確保……協力者の確保をセンは目指している。
(とはいえ、これは流石に一朝一夕にはいかないからな。ライオネル殿との契約の様に簡単に行く話ではない)
確かな手ごたえを感じつつ着実に事を進めていくセンだが、焦りが無いわけでは無い。
(五年以内に三十パーセント……条件がきつ過ぎるな。せめて五年は何も起きないという話であれば良かったのだが……)
ため息とともに顔を上げたセンの目の前にはエミリの店があった。
数時間前は店の外まで溢れていた客もどうやら落ち着いたようだが……それでも店の中はまだ人で溢れる寸前と言った様子だ。
(……今日はため息が多すぎるな)
「……参ったな」
センは店の中の様子を見て呟く。
流石に店の中だけあって秩序なくごった返していると言った感じではないが、流石にエミリ達とゆっくり会話をすると言うのは無理だろう。しかし、流石にもうふらふらとその辺を歩いて時間を潰すというのも限界だった。何故なら、センの足は既に棒の様で……これ以上歩くのは無理だった。
(だが……開店初日に挨拶に来ないというのはマズい。エミリさんにとっては初めての仕事だし……ラーニャ達も来て欲しそうにしていたからな……)
しかし、目の前の店の状況を見るに挨拶をするのは今日一日厳しそうである。
「あら?セン様?」
店の前で途方に暮れるセンは後ろから声を掛けられ振り返る。
「これは、サリエナ殿。外に出ていらしたのですね」
「えぇ。予想以上の客数ではありましたが、このくらいは何とかなるだろうと思いましたので外で見ていましたわ」
「なるほど……」
(中々スパルタなようだが……恐らくラーニャ達も巻き込まれているよな……?)
「大丈夫ですわ。中にはきちんと護衛となる人間も配置してありますから。余程の事が無い限りあの子達に危険はありませんわ」
センが一瞬ラーニャ達を心配したのを感じ取ったサリエナが、安全は確保しているとセンに笑いかける。
「なるほど……」
「しかし、ある程度の混雑は予想していましたが、驚きましたわ。用意しておいた在庫が数日中に無くなってしまいそうですもの」
サリエナが嬉しい悲鳴といった雰囲気で頬に手を当てながら言う。
「次の入荷は十日後ですね……持ちそうですか?」
「少し厳しいですわ……とは言え……」
「臨時便を出す分には私は構いませんが……」
「そうですわね……商品の準備に時間もかかりますし、何より王都で手に入れることが出来る物くらいしか仕入れるのは難しいですわね。いえ、贅沢なことを言っているのは重々承知しているのですが……」
「ははっ。ここまで飛ぶように売れる光景を見てしまえば仕方ないですよ」
センがそう言うとサリエナは目を輝かせる晴れやかな笑顔を見せる。相変わらずその笑顔は五十目前の女性とは思えない若々しいものだ。
「ライオネル殿と相談して一拠点の箱の数を増やすのもいいかもしれませんね。その際は少し箱の色を変える必要がありますが……」
「それは素晴らしい提案ですわ!今回、この店用に商品を大量に用意したつもりでしたが、この感じでは大店になった時の在庫を確保出来そうにありませんわ」
「では、近いうちにライオネル殿を交えて話をしましょう。王都の方でも何か要望があるかもしれませんしね」
センの提案を受けさらにご機嫌になったサリエナが力強く頷いた。
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