召喚魔法の正しいつかいかた

一片

文字の大きさ
上 下
61 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第61話 あーそーぼー

しおりを挟む


「おーい、センはおるかー?」

 ラーニャがリビングの掃除をしていると、誰かが家の扉の前で声を上げているのに気付いた。センは仕事部屋に篭り仕事をしていて、ニコルとラーニャはそれぞれ寝室の掃除をしているのでこの場にはいない。
 ラーニャは扉に作られた覗き窓から外にいる人物を確認してみたが、ラーニャの知っている人物ではない。しかし、センの名を呼んでいる事から知り合いだろうと思い少しだけ扉を開けて声を掛ける。

「はい、どちら様でしょうか?」

 扉の前に立っていた人物は顔をのぞかせたラーニャに少し驚いた様な表情を見せた後、笑顔を見せながら話しかける。

「おぉ、突然すまぬ。センはいるかな?出来れば呼んで来てもらいたいのだが……」



 センは応接室で突然現れた人物と向かい合って座っている。
 その人物はこれから農作業でもしそうな格好に、つばの広い帽子……麦わら帽子の様な物を被っていた。
 センは若干困惑しながらもその人物に声を掛ける。

「何しに来たんだ?レイフェット」

 声を掛けられた人物は晴れやかな笑顔を浮かべながら口を開く。

「遊ぼうぜ」

 シアレンの街の領主、レイフェットが夏休みの小学生みたいなことを言いだし、センは頭痛を堪えるかのように額に指を当てる。

「……持ってきた物を見れば想像は着いていたが……釣りに誘っているのか?」

「おう。嫌いか?」

「……あまり経験がないな」

 センは子供の頃、釣り漫画が流行った時に少しだけバスフィッシングをやったことを思い出したが、何も知らない子供がルアーを適当に持って釣りに行っても釣れるはずもなく、五回ほど釣りに行って二匹しか釣った事は無かった。
 因みに、五回目の釣りで糸が切れてルアーが遥か彼方に飛んで行ったのを機に、釣りは止めてしまっている。

「じゃぁ、教えてやる。行こうぜ」

 何故かセンを釣りに誘うレイフェット。
 そのレイフェットを前にセンは珍しく困惑していた。

(この街では……領主が一人で一般人の家に遊びに誘いに来るのは普通の事なのか?いや……流石にそんな訳ないよな……ならこいつの目的はなんだ?本気で遊びに誘って来ている……可能性が否定できないな)

 屈託なく笑うレイフェットを見ながら少しの間だけセンは考える。
 しかし、すぐに諦めてため息をついたセンは、レイフェットを半眼で見ながら口を開く。

「二人でか?」

「あぁ、まさかお前に子供がいるとは思っていなかったのでな。連れて行ってもいいが、竿の用意が無くてな……」

 失敗したと言って笑うレイフェットを見ながら、センはそういう事を聞いているんじゃないと思ったが、色々と面倒になり立ち上がる。

「あの子達を暇させるのも悪いし、今日は二人で行くか。いい場所を教えてくれるんだろ?子供たちは今度連れて行くとしよう」

「お?そうか?じゃぁ、行こうぜ。道具は全部用意してあるからセンは手ぶらでいいぞ?」

「分かった。なら少し出かけることを伝えてくるから先に出といてくれ」

「おう」

 そう言ってライオネルは応接室から出て行く、センはその後を追うようにリビングの方へ行くと掃除をしていたラーニャ達に声を掛けた。
 二階を掃除していた二人も下に降りてきたらしい。

「すまん、ラーニャ。少し出かけてくる。そんなに遅くならないと思うが、もし帰りが遅いようだったら夕飯は適当に食べておいてくれ」

「わかりました。いってらっしゃい!」

 三人に見送られながらセンは家の扉を開け、既に外で待っていたレイフェットに合流する。竿やタモ、籠等の道具を抱えたレイフェットは非常に機嫌が良さそうにセンの事を待っていた。

「荷物半分持とうか?」

「いや……センはちょっと荷物持ちとか苦手そうだからな。少し歩くし、身軽な方がいいだろう」

 片目を瞑りながらレイフェットがにやにやと笑みを浮かべる。

「……分かるのか?」

「体の動かし方がな。お前そこらの子供と喧嘩しても負けるんじゃないか?」

 レイフェットが歩き出しながら言うと、センも隣を歩きながら皮肉気に口を歪める。

「……荒事は苦手でな」

「はっはっは、苦手ってレベルじゃなさそうだけどな。まぁ、気にすんな。男は腕っぷしじゃねぇ。頼りになるかどうかだ」

「頼りにねぇ……」

「頼りがいのある男がモテるのは当然だ。頼りがいのある女がモテるのも自明の理だ。本当にモテる奴ってのはそういう奴らだ」

「そんなもんかね……」

 道から外れ、藪をかき分けながら進んでいくレイフェットの後を追うセン。

「俺は頼りがいがあるから男女問わずにモテる。まぁ、これから向かう所でモテる奴は、頼りがいよりテクニックがある奴だがな」

 そう言ってレイフェットは手首を振るようにクイっと動かした後、何故か指をグネグネと動かす。

「それには同意するが……その指の動きは余計だ。ところで何処に向かっているんだ?」

 藪を抜け、辺りは森の様に木に囲まれている。

「あぁ、今日は川だな。水源の方に行ってもいいんだが、川の方が近いからな」

「川か……そういえば、水源があるんだな?」

「いくらダンジョンに依存している街とは言え、水までは供給してくれないからな……いや、ダンジョンの中の水を外に引っ張ってくることが出来れば水源にもなるんだろうが……」

「なるほどな……しかし、山の中にしては水が豊富だと思っていたが……その水源ってのはなんなんだ?」

「湖だ。今から行く川もそこから流れて来ている」

「山の中に湖があるのか?」

「山と言っても、こっちの山は上半分が消し飛んでいるらしいからな。あ、詳しくは聞くなよ?俺も良く知らん。」

(聞こうとする前に釘を刺されたな。山の上半分が消し飛んだってどういうことだ?)

 センの行動を先読みしたレイフェットは一度振り返り、にやにやしながら足元に気をつけろと言い、坂をすべる様に降りていく。
 センはその後を追い、坂の途中にある木に掴まりながらゆっくりと降りていく。

(滑り落ちそうなんだが……他にルートはないのか?流石にあの三人を連れてくるのは厳しそうだな……)

 センが慎重に坂の下まで降りると、そこには幅が四メートルほどの川が流れていた。
 その傍でレイフェットが釣りの準備を始めている。

「子供を連れて来るには少し道が険しいな。他に来る方法はないのか?」

「遠回りになるが一応あるぞ?帰りはそっちから回ってみるか?」

「……そうだな。帰りはそっちで頼む」

(正直、あの坂を上る自信は無い……転げ落ちなかったことを褒めて貰いたいくらいだ)

 センは自分の後ろにある坂を見ないようにしながら心の中で呟く。

「ところでさっきの話なんだが……」

「いや、ほんと詳しくは知らねぇんだわ。とりあえず俺が知っているのは、ここは世間で言われているような山の中腹ってわけじゃない。何らかの原因で山の上部が吹き飛び、その窪地が湖となっている。隣の山と繋がっているような感じだから中腹だと思われているらしい。俺が知っているのはこのくらいだな」

「そうか……まぁ、山の不思議についてはいいか」

(ダンジョンと何か関係がありそうなら、その辺りも調べてみる必要があるな。とりあえず今日は他の話をするか)

「そっちの竿を適当に使ってくれ……どちらが多く釣れるか勝負するか?」

「初心者相手に勝負を挑むなよ……今日はそういうのは無しにしようぜ」

 そう言ってため息をついたセンは手近な岩をひっくり返してミミズを見つけると針に刺して竿を握る。

「ん?餌のつけ方は分かるのか?」

「まぁ、このくらいはな」

(ワームと同じつけ方で良かったのだろうか?昔一緒に釣りに行った友人に教えて貰ったつけ方だが……そう言えばこの竿ではキャスト出来ないな)

 竿の先に糸を括り付けただけの竿ではその場で糸を垂らすことしか出来ないだろう。センはどこに糸を垂らしたものかと辺りを見渡すが、魚の居そうな陰になっている部分が見当たらなかった。
 そんなセンの様子を尻目に、レイフェットは大きな岩に飛び乗り糸を垂らす。

(今垂直飛びで三メートルくらい飛んだか?この世界の人の運動能力を目の当たりにしたのは初めてだな。凄まじいものだ……今のは誰でも出来るレベルなのか?いい加減、ニコル達に頼んで運動能力を少し調べないといかんな。それにダンジョンの調査と……折角できたレイフェットとの繋がりももっと深めなければならないし……タスクが多すぎる)

 レイフェットの驚異的な身体能力を見たセンは、久しぶりにやらなければいけないことの多さにめまいを感じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

処理中です...