53 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第53話 食事風景
しおりを挟むエミリ達を王都に送った後、センは家に戻りラーニャと夕食を作っていた。
「料理にお酒を使うのですか?」
「あぁ、肉の臭みを消したり……後は肉が柔らかくなったりするんだ」
「えっと……私達が食べたら酔っぱらったりするんじゃ……」
「それは大丈夫だ。酔っぱらう成分は火を通したら飛んで行くからな。おっさんの所では使ってなかったのか?」
「先生は、肉の臭みを消す時は香草を使うのがいいと言っていました」
「なるほど……俺はその辺詳しくないからな……今度教えてくれ」
「はい!」
二人で楽しそうに料理をしている姿をリビングの方からニコルたちがじっと見ている。
対面式のキッチンはシステムキッチンと言うには憚られるが、スペースはかなり広く、いくつもの魔道具が調理器具としておかれていた。
(IHヒーターみたいな魔道具があるとはな。火を使わなくていいのは非常に助かるが……燃料費がかなり高い。一般家庭ではとてもじゃないが使えなさそうだ)
センは鍋を温めながら魔道具の便利さに感動すると共に、魔道具の起動方法を練習しておいて良かったと考える。
(最初のあの部屋に転がっていたランプを点けることが出来なかったからな……無事使うことが出来るようになって良かった……保有している魔力が少なくて魔道具すら使えないみたいなことになっていたらと思うとぞっとする)
生活の色々な部分に魔道具が使われているので、それが使えないとなると非常に生きにくくなってしまう。多少ならずもコストはかかるが、今のセンにとっては痛くも痒くもない金額だ。
センは焦げない様に鍋をかき混ぜながら、帰りがけに買った食材について考える。
(肉類はかなり安かった……魚は……かなり高かった。しかし、魚以外はストリクや王都に比べても値段は比較的安かった。しかも鮮度もいい……この山の中でどうやって食料を確保しているんだ?ざっと街を歩いた感じ畑もほとんど見かけなかったんだが……もしや、ダンジョンというのは野菜も取れるのか?)
そんなことを考えながら手を動かしていると料理はすぐに完成した。センが出来た料理を器に盛ると、ニコルとトリスが食卓へと並べていく。その様子を見ながらセンは調理器具を洗っていく。一人暮らしが長く自炊もしていたセンは、食べる前に使い終わった調理器具を全て洗っておく習慣が出来ていた。
今日の献立はホワイトシチューとサラダ、パン。そしてトリスのリクエストでタレ付きの焼き肉が大皿で置かれている。焼肉はレタスのような葉野菜でくるんで食べるようにしていた。
野菜をあまり好きではない子供たちが、少しでも自主的に野菜をとるように保護者はいつも頭を悩ませているのだ。
「兄さん、明日は出かけたりするのですか?」
「あぁ、夕方にはまたエミリさんの家に行かないといけない。それまでは家の事をしようと思っているが……今日何かが必要になったりしたか?」
昼間家の事を三人に任せていたセンが何か足りない物はないかと尋ねると、ニコルが思い出したように言う。
「薪を割る道具が必要です。まだ暖かいので暖炉は使いませんが……冬には必要だと思います」
「なるほど……斧か鉈かな?今度街で探してみよう」
今の季節は春から夏に向かう所と言った感じなので当面必要ないとニコルは言うが、準備はしておいた方が良いだろうと思いセンは頷く。
「……兄様。穴を掘る道具がいる」
「穴?なんで穴を?」
「ごみを捨てる」
「なるほど……」
(そうか、ゴミは地面に埋めるのか……土中で分解されない様なごみはどうしたらいいんだ?)
センがそんなことを考えている間にラーニャも意見を出す。
「お部屋の掃除をする道具ももう少し欲しいです。ボロ布がもうなくなってしまったので」
「分かった。やはりまだ色々必要な物が多いな。明日も皆で買い物に出るか……あ、明日じゃないけど、三日後に少し出かける用事があるんだ。その日は留守番を頼む」
「何処に、行くの?」
野菜でくるんだ焼肉を持ちながらトリスが尋ねてくる。
「サリエナさんの紹介でこの街の領主様に会いに行くんだ」
「……領主様?」
よく分からなかったらしいトリスが肉を頬張りつつ首を傾げる。
「この街で一番偉い人だな。これからこの街に住むからその挨拶にな」
当然ではあるが、街に住む程度で領主への挨拶は必要ない。センが領主に会うのはライオネル商会のアドバイザーとして、サリエナが領主に面白い人物がいると売り込みをかけたからだ。今回ライオネル商会がシアレンの街で事業を展開するのも、センのアドバイスがあってこそと言う話で領主には紹介されているのだ。
「行くのは昼過ぎからだから、そんなに遅くはならない筈だ。でも帰りが遅かったら夕食は適当に食べておいてくれていいからな」
「わかりました。えっと……お気をつけて」
「あぁ。まぁ、ただの挨拶だから心配ないさ」
少し不安げな様子のラーニャに笑いかけるとセンはシチューを口にする。
(やはりラーニャは権力者にあまりいい印象を持っていないようだな。まぁ……ラーニャの苦手な衛兵のさらに偉い人、って認識なんだろうが)
同じく衛兵に怯えていたニコルやトリスは……ラーニャとは違い普段通りの様子だ。
「明日はこのシチューを使ってグラタンにしたい所だが……オーブンがないな。石窯とか作って貰えるだろうか?」
「グラタンってなんですか?」
「正確には違うんだが、このシチューを少し味付けし直してとろみをつけた後にチーズとパン粉を塗してオーブンで焼くんだが……焼くための設備がなくてな」
「焼くなら……外でたき火でもしますか?」
ラーニャが首を傾げながら提案してくるがセンはかぶりを振る。
「多分直火はダメだと思う……少なくとも俺はその作り方はしたことがないしな。熱をじっくりと時間をかけて中まで浸透させていかないといけないんだが……すまん、俺も上手く説明が出来ない」
難しい表情で首を傾げているラーニャを見てセンは苦笑する。
「まぁ、今度誰かに聞いてみよう。しかし、石窯があったらピザも作りたい所だな……」
「センさんは色んな料理が作れるんですね」
「大した事ないさ。所詮素人料理、本格的に料理を勉強したいんだったら宿のおっさんの所に行くか……エミリさんの所の料理人に習うとかかな?」
「エミリさんの所の……」
「今度エミリさんに相談してみたらどうだ?」
センがそう言うとラーニャが少し考え込む。
(ラーニャが料理の事になると結構アクティブだからな。俺の知らない間におっさんや、ライオネル殿の家の料理人に習っていたみたいだし……そう言えば、今度ストリクに行った時におっさんに礼を言っておかないとな。料理を習っているなんて気づかなかったからな……お礼に調味料でも持って行くか)
ラーニャが考え込むのを見ながらセンは手早く食事を済ませて行った。
センの提案以降、ラーニャはずっと考え込んでいたが……誰よりも量を食べたのはやはりラーニャだった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
運命の魔法使い / トゥ・ルース戦記
天柳 辰水
ファンタジー
異世界《パラレルトゥ・ルース》に迷い混んだ中年おじさんと女子大生。現実世界とかけ離れた異世界から、現実世界へと戻るための手段を探すために、仲間と共に旅を始める。
しかし、その為にはこの世界で新たに名前を登録し、何かしらの仕事に就かなければいけないというルールが。おじさんは魔法使い見習いに、女子大生は僧侶に決まったが、魔法使いの師匠は幽霊となった大魔導士、僧侶の彼女は無所属と波乱が待ち受ける。
果たして、二人は現実世界へ無事に戻れるのか?
そんな彼らを戦いに引き込む闇の魔法使いが現れる・・・。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
冷酷魔法騎士と見習い学士
枝浬菰
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。
ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。
だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。
それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。
そんな姿を皆はどう感じるのか…。
そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。
※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。
画像の二次加工、保存はご遠慮ください。
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
魔帝戦記
愛山雄町
ファンタジー
魔帝。それは八人の魔を司る王、すなわち魔王を統べる至高の存在。
強靭な肉体、卓越した武術、他を圧倒する魔力、絶対的な防御力……神の祝福を受けた勇者以外に傷つけることはできず、人族からは最強の魔族として恐れられている。
派遣社員、真柄(まつか)嵐人(らんと)はその魔帝として、グレン大陸の中央に位置するグラント帝国の帝都に召喚された。
しかし、ラントに与えられた能力は歴代の魔帝が持っていた能力のごく一部、それも個人の戦闘力に全く関与しない“情報閲覧”と“自動翻訳”のみ。
あまりの弱さに部下の中にはあからさまに侮蔑する者もいる。
その頃、勇者を有する人族側も神の啓示を受け、“人類の敵”、魔帝を討つための軍を興していた。
チート能力もなく、日本人のごく平均的な肉体しか持たない彼は、自身の知識と魔帝の権威を最大限に利用し、生き残るために足掻くことを決意する。
しかし、帝国は個々の戦士の能力は高いものの、組織としての体を成していなかった。
危機的な状況に絶望しそうになるが、彼は前線で指揮を執ると宣言。そして、勇者率いる大軍勢に果敢にも挑んでいく……。
■■■
異世界転移物です。
配下の能力を上げることもできませんし、途中で能力が覚醒して最強に至ることもありません。最後まで自分の持っていた知識と能力だけで戦っていきます。
ヒロインはいますが、戦争と内政が主となる予定です。
お酒の話はちょっとだけ出てくる予定ですが、ドリーム・ライフほど酒に依存はしない予定です。(あくまで予定です)
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも公開しています。
■■■
2022.2.14 タイトル変更しました。
「魔帝戦記~常勝無敗の最弱皇帝(仮)~」→「魔帝戦記」
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる