召喚魔法の正しいつかいかた

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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第43話 豹変

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「素晴らしいですわ!セン様!本当に素晴らしいですわ!」

 興奮を抑えられない様子のサリエナが、目を輝かせながらセンを絶賛している。

(さっきまでとは随分と様子が違うな……)

 王都観光から戻ったセン達はライオネルにサリエナを紹介してもらった。
 センとしてもライオネルの共同経営者であるサリエナには、色々と説明しなければならないと思っていたので丁度良い。しかし、表面上は非常ににこやかで丁寧な対応をするサリエナではあったが、どことなくセンの事を疑っている節が見える。
 勿論センとしても、自分のうさん臭さは十分理解している。それ故、警戒されるのは当然の事で特に気にしてはいない。寧ろ、突然現れた若造に対し警戒を全くしないよりも、安心できる態度だったと言えた。
 そして、ライオネルの提案でサリエナともライオネルの時と同じ契約を交わし、サービスの内容を説明した所、サリエナは度々鋭い視線をライオネルに向けていた。
 勿論センに気付かれない様に、センがライオネルの方に顔を向けた時やお茶を飲む瞬間を狙っての事ではあったが……センはそれにばっちり気付いていた。
 ライオネルはライオネルで、サリエナのその視線を受けながら楽しそうな様子を崩さず、それがより一層サリエナの怒りを買っているのは間違いない。
 そして、一通りの説明が終わった後、満を持してセンの召喚魔法を実践してみせ……現在に至る。

「箱から出たら別の場所ですわ!ライオネルの言う事が本当ならここはストリクの街なのでしょう!?」

「そうですわ、お母様。ここは私が先日まで住んでいたストリクの街にある館です」

 大興奮のサリエナを微笑ましいと言った様子でエミリが見ている。

(浮かべている表情が親子逆のような気もするが……流石親子と言った感じだ、よく似ている。ライオネル殿の要素は、まったくエミリさんには引き継がれなかった感じは否めないが)

 色々と失礼なことを考えながらセンが二人を見ていると、部屋の様子や窓の外から見える街並みを確認していたサリエナがセンへと向き直る。
 因みに説明をしていた場にはエミリもしっかり同席しており、終始すまし顔をしていたのでエミリもライオネルと同罪だろう。センは、エミリも内心ニヤニヤしながらサリエナの事を見ていたと確信していた。

(それにしても……ライオネル殿の元ライバルと言う話だったからてっきり同年代だと思っていたのに、随分と若い奥さんだよな?俺の元の年齢より若いんじゃないか?)

 サリエナは非常に見た目が非常に若く、三十代前半くらいにしか見えない。しかし実年齢はライオネルと大差なく五十目前である。
 現代日本に比べ、化粧品やエイジングケアの技術に劣るこの世界の人間としては、化け物の類だろう。

「セン様!これは本当に素晴らしいお力ですわ!遠くの街に一瞬で移動できますのね!」

「えぇ。まぁ、これはついでみたいなものですが……王都に戻ってライオネル殿と事業内容の詳細について打ち合わせしますか?」

「勿論ですわ!ライオネルの言っていた事業計画を確認しなくては!セン様と契約を交わすまで絶対に見せないと言われていましたの」

 物凄くはしゃぐサリエナは少し口を尖らせながら言うが……王都でセンと話していた時とはかなり様子が違う。

(っていうか精神年齢が下がっているような……)

「お母様、少し落ち着いてください。セン様が引いておられますわ」

「あら、申し訳ありません。あまりの出来事に興奮してしまったようですわね。セン様、王都に戻るのも一瞬なのですか?」

 娘に指摘され、一気にクールダウンし別人のようにきりっとしたサリエナを見て、どちらかと言えばその姿に若干引いたセンだったが、そんなことはおくびにも出さず返事をする。

「えぇ。すぐに戻れます」

「では、お手数ですが、お願いしてもいいですか?ライオネルも含めて色々とお話しさせていただきたいのです」

 そう言って微笑むサリエナの笑顔はやはりエミリに似ている。

「お母様……私も参加させていただきたいですわ」

「そうね……セン様、エミリも打ち合わせに参加させてもよろしいでしょうか?絶対に邪魔にはならないとお約束いたします。この子は親のひいき目抜きにしても聡明な子で、お役に立てることもあると思います」

「勿論、私は構いませんよ。サリエナ殿のおっしゃる通りエミリさんの聡明さには疑う余地はありませんし……エミリさんのお話も是非お聞きしたい所です」

 そういってセンがエミリの方を見ると、やはりサリエナそっくりの笑顔でエミリが微笑んだ。



「……セン様の提供して下さるサービスを活用するなら、確かにこの配置がいいわね」

 王都に戻ったセン達はライオネルの書斎で打ち合わせをしていたが、既に事業計画を纏めていたライオネルの資料に従って進めていくことで決まった。
 今この部屋にはセンとライオネル、サリエナにエミリ……そしてラーニャ達三人も同席していた。
 エミリはともかく、ラーニャ達はここで行われている会話の内容など一切理解できていないだろうが、それでも真剣に話を聞いている。

「しかし……この利率は凄いですね」

「えぇ、セン殿のお陰ですな。輸送にかかるコストと危険の軽減だけではありません。何より地方の特産品を大量に輸送出来るのも大きいのです」

「珍しい生鮮食品や酒類は王都受けがいいでしょうね。後は調味料の類も……何より破損や商品を失うリスクが殆ど無いのが素晴らしいですわ」

「食品関係は鮮度もな」

 センはライオネルの事業計画と利益予想を確認させて貰っていた。最初は外様であるセンが見て良い資料ではないと遠慮していたのだが、ライオネル達に是非確認して貰いたいと押し切られて一緒に見ることになっていた。

(まぁ、こういった資料を見せてもらえるのは助かる。大まかな経済規模や各種税金に経費……それに色々な売れ筋商品。あの冊子とは比べ物にならない程、多くの情報が得られる……む、この調味料や食材は俺も欲しいな……)

 資料を見ながらセンが自分の欲しい商品に目をつけていると、同じく資料を見ていたエミリが口を開く。

「輸送にコストがかからなくなった分、販売価格を下げることはしないのですか?」

「エミリ、相場を荒らしてはいけない。値段を下げれば私達の商品は売れるだろう、それはつまり他の商人達は商品が売れなくなるということだ。その商人達が物を売ろうとすれば私達と同程度かそれ以上に値段を下げるしかない」

「……それは不可能ですわ。一時的な安売りならともかく、こちらは恒常的にコストを下げることで値段に反映させることが出来るのです。それに引き換え、他の商人達は入荷できる数もそう簡単に増やすことは出来ませんし、利益が減るだけで遠からずと言わずに破綻します」

 ライオネルの話にエミリは少し考えた後自分の考えを言う。エミリの言葉をライオネルは嬉しそうに、サリエナは目を瞑ったまま聞いている。

「セン様は、当面ライオネル商会以外にサービスの提供は行うつもりがないとおっしゃっていました。つまり、ライオネル商会と同じ方法を取ることが出来ない他の商人達と、価格競争になった場合……」

 そこまで言ったエミリが言葉を切って俯く。

「うん、その通りだ。そしてライバルが減るのは必ずしも利益に繋がるとは限らない。他の商人達はライバルであると同時に仲間でもある。持ちつ持たれつというのはとても大事だ」

(この世界では輸送量をそう簡単に増やすことは出来ないし、工場による大量生産も行われていない。供給と需要のバランスは常にカツカツだろう……他の商人が潰れてしまえば更に供給が下がってしまう。いくら大量輸送の目途が立ったとしても、ライオネル商会だけで支えることは不可能だ)

 センはライオネル達の言葉を聞きながら、この先ライオネル商会の規模を広げていくために必要な物を考える。

(物と資金、流通システムはある。後は人と土地だが……それは俺がどうこう言える問題じゃないな。そもそも土地はともかく、簡単に人と言っても管理職を育てるのはそんなにすぐにどうこう出来るような話じゃない)

 顎に手を当てつつ真剣な表情で何かを考えているエミリを見て、センは苦笑する。

(まぁ、ライオネル商会の後継者は頼もしい限りだが……)

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