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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第23話 サービスのご案内
しおりを挟む「セン殿、こちらライオネル商会会頭のライオネル殿です。ライオネル殿、こちらセン殿です」
ハーケルに紹介されてセンは軽く頭を下げながら挨拶をする。
「初めましてライオネル殿。センと申します。若輩者ではありますが、紹介してくださったハーケル殿の顔を曇らせない程度には自信があります。どうぞよしなに」
「これは、ハーケル殿に聞いていたよりも随分と勇ましい方のようだ。ですが若い方はそのくらい強気な方が面白いですな。私はライオネルです。一応商会の会頭をしていますが、元々行商をやっていたこともあり、自分で動き回る方が好きなタイプでしてな、セン殿とも面白い付き合いが出来ればと思っております」
誘拐事件から二日、センは先だってハーケルから話を受けていた商会の会頭との会合を行っていた。
相手はかなり大手の商会で、しかもそこの会頭ともなればそう簡単に会えるような相手ではない。当然そんな人物と会うのはそれなりに緊張が伴うものではある。
しかし、センは元の世界でそう言った相手……他社の上役と接する機会も多々あり対応自体は慣れているし、場を軽くするための冗談を交えるくらいの余裕はある。
そんなセンではあったが、現在内心の動揺を外に出さない様に苦心していた。
原因は当然、ライオネルにある。
正確にはライオネルの体躯だが。
年の頃は中年に差し掛かったという所、大手商会の会頭にしてはかなり若いように感じる。しかし、その佇まいは大手商会の会頭というには強烈過ぎる威圧感があった。
二メートル以上あるのではないかという身長に、センの倍はあるのではないかと錯覚するような肩幅。
ゆったりとした服に身を包んでいるにも拘らず、身体を少し動かすだけで筋肉の脈動のようなものを感じる肉厚。
そんな熊をも殺しそうな体をしていながらセンが見たレベルは6。
(ダメだ。レベルが全く意味のない事を証明している気がする。この人がニコルより弱いなんて信じられない……いや、落ち着け。レベルは保有している魔力量の目安だ。保有している魔力が全て身体能力の向上に使われるわけではない、あくまで目安だ)
そんなことを考えながらも、一点の曇りもない営業スマイルを浮かべるセンにライオネルは話しかける。
「セン殿は、品薄になりがちなポーションの材料を、大量にハーケル殿の所へ納品されているとか?」
「えぇ。採取関係は結構得意です」
「しかし傭兵、と言う訳ではないのですよね?」
「はい。戦闘関係はからっきしですので」
「ふむ、結構出来そうに見えるのですがね」
ライオネルが台詞と共にぐっと力を入れると、胸板が厚みを倍にしたかのように膨れ上がる。勿論気のせいではあるのだが、センにはそのくらいの動きに見えた。
(大手商会の会頭っていうから、ふくよかな体躯の人間を想像していたのだが……この人は何と言うか……どこぞの大将軍ですって言われても納得出来るような巨躯だな)
「いえ、恥ずかしながら、生まれてこの方争い事とは無縁でして。逃げるので精一杯ですよ」
「ふぅむ、そうなのですか。東の森に素材を取りに毎日の様に行き、森の奥深くから大量の素材を取ってくると聞いていたので相当な実力者だと思っていたのですが……その言葉は本心の様ですな」
「はい。出来れば一生荒事とは無縁でいたいと考えています」
「はっはっは!それは素晴らしい人生ですな!私も娘にはそんな一生を過ごしてもらいたいと思っておりますよ!」
「娘さんがいらっしゃるので?」
「えぇ、まだ十歳でしてな。目に入れても痛くないとはよく言いますが、私は目の代わりに入れて守りたいくらいですな」
「中々猟奇的な守り方ですね」
「はっはっは!そんな返し方をされたのは初めてですな!大体は愛想笑いをされてしまうのですが」
心底楽しそうに笑うライオネルを見てセンは笑みを深くする。
(この人とは宿のおっさんやケリオスとはまた違った感じで仲良く出来そうだな……まぁ、商談次第ではあるが)
商会の会頭というにはあまりにも豪快で、実直な言葉を使うライオネルにセンは好感を持つ。
勿論表裏が全くない人物だとは欠片も思っていないが……。
「ところでセン殿。私の商会にも、ハーケル殿の所と同じようにポーションの材料を下ろして頂けるのでしょうか?」
「慢性的に不足気味のようですし、必要でしたら納品するのも吝かではありませんが、私がライオネル殿に提供したいのは商品ではなくサービスです」
「サービスですか?」
「はい。直接利益が出るものではありませんが、純利益を上げる事には繋がると思います」
「ふむ……聞かせてもらってもいいですかな?」
センの言葉に興味を覚えたライオネルが身を乗り出す様にする。その様子を見ながらセンは一拍呼吸を置いた後口を開いた。
「ライオネル商会にとって、人件費と同等かそれ以上に経費が掛かっている事があると思います。あ、仕入れ値ではないですよ?」
「ふむ……維持、管理、土地、関税……あぁ、輸送費でしょうか?」
「はい。輸送費の削減、そして輸送にかかる時間の短縮、更に安全性の向上。私がライオネル殿に提供しようと考えているサービスはそれらをお約束するものです」
「確かにそれが叶えば売り上げは変わらずとも純利益は増えますが……」
難しい顔になったライオネルにセンは笑顔を見せる。
「勿論、全ての輸送をサポート出来ると言う話ではありません。私の身一つでの作業なので限界はあります。ただ、私がサポートする範囲において絶対の安全と時間の短縮をお約束します」
「先ほどにも増して相当な自信ですな。しかし輸送は非常に困難を伴う業務です、特に安全面でそこまで自信が持てるのは凄い事だと思いますが……」
いくら若者の自信を好意的に受け止められるライオネルとは言え、とりあえず任せてみようとなるようなものではない。
この世界では街の外における安全はほぼ皆無だと言っていい。
治安の悪化から生まれる野盗の類、街道だろうとお構いなしに現れる魔物。
そもそも治安を守るはずの兵士ですら街道で会えば碌な目にあわないことが多い。なので商品の輸送にはその規模に応じて護衛を雇い、その費用は当然輸送費に計上される。
当然それは最終的に末端の消費者へ価格として反映されるわけだが……。
「そうですよね。簡単には任せられる話ではないと思います。なのでとりあえず簡単にデモンストレーションをさせてもらおうと思います」
「デモンストレーション?」
「はい……ハーケル殿、本当に申し訳ないとは思うのですが、今日の分の納品を今させて貰ってもいいでしょうか?」
突然話を向けられたハーケルであったがそれを予想していた様で、センに向かってすぐに頷く。
「えぇ、勿論構いませんよ。私も興味がありますしね」
そう言って笑みを見せるハーケルに改めて礼を言ってから、センはライオネルに向き直る。
「今日の納品物ですが、見ての通りここには持って来ていません」
「そのようですな。セン殿の使っている運び屋が持って来るといったところですかな?しかし、その人物を見たところでそこまで信頼出来るとは思えませんが……」
そう口にするライオネルだが、センがここまで前置きをしながら見せたいものはそんな単純な物ではないと分かっているようで、先程までと違いどことなくワクワクした様子を見せている。
「では、信頼してもらえるように頑張りますね」
そう言いながらセンは召喚魔法を起動する。召喚されたのは一抱え程の大きさの革袋が一つ。
「っ!?もしや……これが!?」
「はい、ハーケル殿ご確認いただけますか?今日の納品物です」
テーブルの上に現れた革袋をハーケルへと手渡すセン。
受け取ったハーケルは革袋の中身を一つ一つ丁寧に、ライオネルに良く見えるような形でテーブルの上に並べていく。
「はい。問題ありません。重さは後で量りますが、品目は約束の通りです。ありがとうございますセン殿」
「せ、セン殿!こ……これは!?詳しく!詳しくお願いします!」
不動の巌のようだったライオネルが立ち上がりセンに向かって詰め寄っていく。
その迫力にセンが少し逃げてしまっても悪くはないだろう。
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