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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第21話 ひとまず安心
しおりを挟む「二人とも良く話してくれたな。助かった」
ラーニャ達から聞き取りを行っていたケリオスが立ち上がる。
二人の話を聞いている間ずっと膝をついていたケリオスだったがその動きに淀みはなく、センはよく体が痛くならない物だと妙な所を感心していた。
「あ……!」
丁度そのタイミングでニコルが勢いよく飛び起きた。
「「ニコル!」」
ラーニャとトリス、そしてセンが同時にニコルの名を呼ぶ。
呼ばれたニコルは自分の状況を理解した様で、一瞬顔を歪めたものの皆に笑顔を見せる。
「姉さん、トリス……無事でよかった」
(以前も思ったが、ニコルは本当に強いな)
意識を取り戻し、最初に二人の無事を喜ぶニコルを見てセンは心の底から感心する。
「ニコル、ありがとう。大丈夫?」
「ニコル、どこかおかしい所があったらすぐに言ってくれ。我慢する必要は無いからな?」
トリスとセンが気遣わしげにニコルの顔を覗き込みつつ声を掛ける。そんな二人の様子にニコルは目を丸くしていたが、試すように体を動かした後大丈夫そうだと言った。
その様子を見たケリオスは、起きて早々悪いけどと前置きしてからラーニャ達と同じように聞き取りをする。
殆どの話はラーニャ達と重複していたので基本的に短い時間で終わったのだが、唯一ニコルが刺された時の話だけは詳しく確認されていた。
「ありがとうニコル。それと、良くトリスを守ったな。だが、あまり危ない事はしないようにするんだぞ?お前がトリス達を心配するのと同じくらい、お前の事を心配する人間がいるのを忘れるなよ?」
「は、はい」
ケリオスに称賛と軽い注意を受けたニコルは素直に頷く。
そのままニコルは寝かされていたカウンターから降りると、ラーニャやトリスと話を始めた。
「セン、少しいいか?それとじーさん、少し奥を貸してくれ。」
「あぁ」
「構いませんよ」
その様子を見たケリオスがセンに声を掛け、カウンタ―の奥にある部屋へと向かう。センはハーケルに軽く頭を下げた後ケリオスの後を追う。
「すまんな、セン。あの子達を誘拐しようとした連中だが、恐らく最近活動を活発にしている連中の仕業だ」
「誘拐が多いのか?」
センが問いかけるとケリオスはかぶりを振る。
「いや、誘拐だけじゃない。色々とキナ臭く動いている連中でな。街の南の方を拠点にしているようだが……尻尾が掴めなくてな」
「……初めて会った時の魔物の件もそいつらの仕業と睨んでいるのか?」
ケリオスの苦々しい表情を見ながらセンは問いかける。
「あぁ、俺や隊の連中はそうだな。だが、どうも衛兵の中でそいつらに加担している連中がいるようでな……だから今回の件、少し利用させてもらう事になるが……」
「それは構わない。妙な連中がいなくなるに越した事は無いからな。ただの誘拐未遂の調査であれば俺達が逆恨みされる事は無いだろうしな」
「もし心配な様なら詰所の方で三人を預かるか?」
「いや、それはやめておいた方がいいかもな。あの子達はまだ兵士に苦手意識があるし、怯えている子達がいるとそっちはそっちでやりづらいだろう?」
ケリオスは思い当たる所があったのか顎を撫でながら眉を顰める。
「それに特別扱いをされていると狙われる可能性もあるしな」
「確かにそうかもしれんな……」
ため息をつきながらケリオスが言う。その様子を見てと言う訳ではないが、センは一つケリオスに頼みがあった事を思い出した。
「そうだ、ケリオス。捜査情報を漏らすのは拙いかもしれんが……今日あの子達に手を出した連中の目的が金以外……もしくは金目当てであったとしても誰かに依頼されてという事だったら教えて貰えないか?」
「……何か心当たりがあるのか?」
疑うように、というよりも心配するような様子を見せながらケリオスがセンに問う。
「心当たり……という程でもないんだが、俺のしがらみからあの子達に迷惑をかけた可能性を考えるとな……」
「……分かった。何か分かったら教えてやる」
センの言葉に頷いた後、ケリオスが少し思案気な表情へと変わる。
「セン……その対価というわけじゃないから無理なら断ってくれていいんだが、少し聞きたいことがある」
改まった様子のケリオスにセンは頷く。
「先程三人から聞いた話に明らかな矛盾というか問題があってな?」
(あぁ、ラーニャの事か)
矛盾と言われてセンはすぐに思い当たる。
「ラーニャって子のことだが……三人の話では逃げることが出来たのはトリスとニコルだけだ。その事は最初に聞いたんだが……ラーニャが助かった時の話がどうしてもあやふやでな。実際ここに居るのだからどうにかして逃げ出したのだろうが……本人がそれを頑なに話そうとしないんだ。隠す様なことでは無い筈なのにな」
センはラーニャ達に召喚魔法の事は口止めしてある。だから相手がセンの友人であっても言うに言えなかった。
順番に起こったことを話していった結果……ラーニャが助かった所を話す段階で固まってしまったのだろう。
(ラーニャ達がその辺りの話をしていた時、俺はハーケル殿と話をしていたからな……ラーニャ達に余計な心労を掛けてしまったな。後で謝っておくか)
「すまない、ケリオス。あの子達は俺との約束守ってくれていたんだ」
「あぁ、やっぱりそうだったか。その話を最初にした時、やらかしたって顔をした後物凄く落ち込んでたからな。こっちが気まずくなるくらい落ち込んでいたし、怒るなよ?」
「怒らないさ。寧ろ気を使わせて申し訳なかったと思っているくらいだ」
センがそう言うとケリオスが軽く笑う。普段あまり動じることなく飄々としているセンが、子供達の事を思いバツが悪そうにしているのが面白かったのだろう。
「センでも子供相手だと勝手が違うってことか。まぁ、ちゃんと面倒を見ているようで何よりだ。それでだ……ラーニャがどうやって助かったか聞いてもいいか?」
「……」
(さて、どうしたものか。ハーケル殿に対してもそうだが……情報を秘匿しておくことには勿論メリットはある。だが、ハーケル殿やケリオス相手に全てを秘匿しておく必要はないか……?特にハーケル殿には次の話もあることだし……ここで少し胸襟を開いて見せると言う意味でも、少しだけ情報を開示するか)
センは唯一の手札である召喚魔法の事をケリオス達に話すことに決める。
勿論その全てを話すわけでは無い。流石に十日程度の付き合いで全幅の信頼を置く様な事は出来ない。しかし、センは今後も召喚魔法を使って対外的にも動いていくつもりだ。その試金石として二人を使うことに決めたと言っても良い。
本人は打算的にそう決めたつもりではあるが……勿論、二人の事をそれなりに信頼しているからこそ、ここで試しておきたいという気持ちも強かったりする。
「ケリオス、その件についてだが、ハーケル殿にも一緒に話したいんだ。呼んでもいいか?」
「あぁ、俺は構わないぜ?」
「助かる」
ケリオスに断りを入れてからハーケルを部屋へと呼ぶ。
ついでと言っては何だが……店に子供達だけ残しておくのもさっきの今で不憫だろうと思い、ラーニャ達も呼んだ。
先日この部屋で商談をした時は感じなかったが、大柄でかつ鎧を着ているケリオスがいるせいで随分と部屋が狭く感じるセンだった。
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