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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第19話 襲われたトリス達
しおりを挟む「トリス!何があった!?」
「兄様!兄様!」
センが問いかけるも、トリスはセンを呼ぶだけで説明が出来ない。
(ダメだ、まずは俺が落ち着かないと)
センは背負われているニコルを抱き上げながら、トリスに優しく語り掛ける。
「すまない、トリス。ゆっくりでいいから聞かせてくれ。ニコルはどうしたんだ?」
センはニコルの身体を抱き上げた際、その服にべっとりと血が付いているのに気付き慌てそうになったのだが、トリスを不安にさせないように動揺を表に出さず、落ち着いた様子でトリスの言葉を待った。
幸いニコルからは新しい血は流れておらず、傷らしい傷も見当たらなかった。
(もしかしたらニコルの血じゃない……いや、違う、血で分かりづらいが服に穴が空いている。刺し傷か?それにラーニャが何故いない?)
「セン殿、その子を見せて頂けますか?少し様子がおかしい」
「ハーケル殿、すみません。よろしくお願いします」
近づいて来たハーケルにニコルの事を託すと、センは屈み未だ言葉を上手く出すことが出来ないトリスの頭を撫で、目線を合わせながら笑顔で語り掛ける。
「大丈夫だトリス。ハーケルさんがニコルの事は見てくれる。だからトリスは俺に話を聞かせてくれるか?」
センがそう言うと、目から涙が零れそうだったトリスは口元にぐっと力を入れた後、話を始めた。
「……買い物が終わって帰ってたら、知らない人達に囲まれたの。四人いた」
トリスはゆっくりと話し始めたが、センはその手が真っ白になるほど握りしめられている事に気付き、トリスの手を取り解すように手を揉みながら話を聞いた。
「トリス達は逃げようとしたんだけど捕まって……おねえちゃんが体当たりして、逃げてって……逃げたんだけどすぐにトリスが捕まって……ニコルが助けてくれたけど、その時にナイフが当たって、ニコルが倒れて……おねえちゃんが大きい声を出したら、その人達がおねえちゃんを連れて行っちゃったの。だから兄様に貰ったお薬をニコルに使ってからここに……」
話している内に感情が溢れて来たのか、トリスの目に再び涙が溜まっていく。そんな彼女をセンは抱き寄せながら頭を撫でる。
「頑張ったなトリス。ありがとう。ニコルをここまで連れて来てくれて。もう大丈夫だ、ラーニャは俺が助けるからな」
「セン殿、すぐにケリオスの所に。この子達の事は私に任せて下さい。ニコル君ももう大丈夫なので、ラーニャさんの為に早く」
「いえ、ハーケル殿。今からケリオスの所に行っていたのでは遅すぎます。相手の狙いは分かりませんが、最速でラーニャを助ける必要があります」
「それは勿論その通りですが……しかし」
衛兵に頼る以上に素早く救出する手段はないと続けようとしたハーケルに、トリスを抱いて立ち上がったセンは顔を向ける。
「すみません、時間がないので……ハーケル殿。出来ればこのことは秘密にしてくれると助かります」
「一体何を……っ!?」
ハーケルの言葉を最後まで聞かずセンは召喚魔法を発動させる。
問題なく魔法の効果は発揮され、すぐにラーニャが呼び出された。
呼び出されたラーニャは突然一変した光景に一瞬驚きを見せたものの、何度か召喚魔法を身に受けていることもありすぐに状況を察する。
「……センさん!」
センの姿を見つけたラーニャがセンに飛びついてくる。既にトリスを抱き上げていて余裕のないセンはラーニャを受け止めきれずに転びそうになったが、根性で一歩後ろに下がるだけで耐えてみせた。
「おねえちゃん!」
抱き上げていたトリスを下ろすと、センに抱き着いているラーニャにトリスがしがみつく様に抱き着いた。
「トリス!無事でよかった!」
センに抱き着くのを止めたラーニャが今度はトリスの事を抱きしめる。
そんな二人の姿をほっとした様子で見るセンだったが、あざが出来ているラーニャの頬に気付き表情が硬くなる。しかし抱き合っている二人の様子に表情を緩めるとハーケルの方へと移動する。
「せ、セン殿?今のは一体……?」
「……私の奥の手です」
目を丸くして固まっていたハーケルが近づいて来たセンに問いかけるが、センはそう返す。
「すみません、ハーケル殿。ニコルはどうでしょうか?」
「え、えぇ。先程も言いましたがニコル君はもう大丈夫です。傷自体はポーションで塞がっていましたが、その刃物に毒が塗られていたようです」
「毒ですか……」
顔を歪めながらカウンターに寝かされているニコルを見るセン。もう問題ないと言われても毒と言われてはそう安心出来ることではないだろう。
「軽い麻痺毒でもう解毒は済んでいます。目が覚めれば何の問題もなく動けますよ」
「そうですか……ありがとうございます。その、不躾ではありますが、お代のほうは……?」
「セン殿にはお世話になっていますからね。解毒のポーションくらい無料で構いませんよ」
「感謝いたします、ハーケル殿。それと……申し訳ないのですが、少しの間三人をお願いしてもいいでしょうか?ケリオスの所に行って、この子達をこんな目に合わせた人間を捕まえてもらおうと思います」
「えぇ、構いませんよ。それなりに荒事にも慣れていますので、この子達の事はお任せください」
「よろしくお願いします」
ハーケルに頭を下げるセン。
センが見たハーケルのレベルは7、ケリオスとの関係を見るに元々は軍の関係者かもしれないとセンは予想していた。
「ラーニャ、トリス。俺は少し出て来るがここで待っていてくれ。すぐに戻ってくる」
「せ、センさん……」
不安な様子を見せるラーニャの頭を軽く撫でたセンは笑顔を向ける。
「すまないな、ラーニャ。まだ不安だとは思うが、ハーケルさんと一緒にニコルの事を看てやってくれ。怪我はもう治っているし、眠っているだけだが……ラーニャが傍に居れば安心するだろう。勿論、トリスもな」
そう言って二人の頭を撫でたセンは二人をカウンターに寝かされているニコルの所へ連れて行く。
「それと、ラーニャこれを飲んでおきなさい」
センは持っていたカバンから下級ポーションを取り出しラーニャへと渡す。
ポーションを受け取ったものの、それを使うことにためらいを見せていたラーニャだったが、センにじっと見つめられ諦めてポーションを飲んだ。
ポーションの効果は凄まじく、あっという間にラーニャの頬にあった青あざが消え、そのほかの細かい傷も全て治った。
ラーニャの傷が治ったことを確認したセンは満足気に頷くと二人の頭を撫でる。
「ニコルの事よろしく頼むな」
「はい、分かりました」
「……わかった」
二人は寝ているニコルの姿を見たからか、不安の色を消してしっかりと頷く。
そんな二人の事をもう一度撫でたセンはハーケルに一度頭を下げ、足早に店から出る。
(なぜ三人が狙われた?トリスは知らない相手だと言っていた……怨恨とかそう言う感じではない。そもそも他人に恨まれるような奴等ではないしな)
センは厄介事を避けるため三人に服を仕立てさせたが、目立たぬようにそこまでお金はかけていない。
あくまで、道行く子供が着ているレベルの物に合わせている。
(買い物をする時も最低限のお金しか渡していないし、金を持っているとも思われていない筈だ)
本当は小遣いを与え、自分で物を買わせて経済観念を育てたかったセンだったが……周りの様子を見る限り、子供が買い食いをしている様子はなく、下働きといった様子の子供がお使いをしているところくらいしか見た事が無かった。
(ただ単に子供を攫って売り飛ばすって可能性もあるが……それだったらもう少し攫っても問題無さそうな相手を狙うよな?)
この街にいる浮浪児は少なくない。
攫って売り飛ばすなら、保護者もいない彼らの方が楽だし、足もつきにくいだろう。
(身代金目当てなら、もう少し身なりのいい子供の方がいいだろう……やはり、あの子達自身に攫われる理由は無さそうだ)
ハーケルの店から衛兵の詰所まではそこまで遠くはない。
センは小走りにならない程度に急ぎながらラーニャ達が狙われた理由を考える。
(あの子達に理由がないなら……誘拐された原因は、俺にあるか?)
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