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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第12話 飛び込み兵士
しおりを挟む「ケリオス、慌ただしいですね。入用なのはなんでしょう?」
店に飛び込んできた鎧姿の男の名前を呼んだ老店主は、事情も聴かずに必要な薬を訪ねる。
センはカウンターの前を開けるべく、少し脇へと移動した。
「中級ポーションを出せるだけ、やけど用の軟膏も頼む!」
カウンターへと詰め寄るように近づいた男が捲し立てる様に老店主に言う。
センはその姿を盗み見ていたが、着ている鎧は所々破損しており、あちこちに怪我が見えた。
(レベルは10……老店主の様子を見る限り危険人物では無さそうだが……この鎧は巡回していた兵と同じ物か?)
不躾にならない程度に男の様子を観察していたが血の匂いを感じて、そうとは分からない程度に顔を顰めた。
「中級ポーションは四本しかない、やけど用の軟膏は壺であるから持って行くと良い。それとケリオス、もう少し近くに来なさい」
薬を用意しながら男、ケリオスを呼ぶ老店主。
いぶかしげな顔をしながらケリオスがカウンターに身を乗り出す様にすると、老店主は目を瞑りケリオスに手を翳した。
次の瞬間、淡く白い光がケリオスを包み、いくつかあった傷が完全ではない物の消えていた。
「すべて治すと色々問題がありますし、後は軍の方でしっかりと治してもらってください。中級ポーションは数が少ないから重傷者を優先し、足りないようなら作っておきますので、明日の朝また取りに来てください」
(先程の白い光は回復魔法か?しかし、薬を使わせずに魔法で治してしまっては商売あがったりなのでは?)
「助かった、じーさん。多分明日も来ることになると思う」
「随分と大事の様のですね。分かりました、出来る限り急いで作ります。丁度材料の入荷があったので中級と下級をある程度揃えておきますね」
そう言って老店主はセンの方に笑顔を向けながら、薬の詰まった箱をカウンターにおいた。
それに釣られたケリオスもセンの方を一度見るが、瓶がかちゃりと音を立てた事でやるべきことを思い出したように箱を抱え店から出ていく。
「すまん。代金は後で請求してくれ!慌ただしくて悪いがこれにて失礼する!」
随分と慌てていたようだが、それでも最低限の礼儀を見せてケリオスは店を後にする。
「申し訳ありません、割り込ませてしまい」
若干苦笑するようにしながらセンに対して謝る老店主に、センはかぶりを振る。
「いえ、緊急事態のようでしたし、お気になさらないで下さい」
センはいつもの笑みを浮かべながら老店主に言う。
「ですが、緊急の仕事の様ですし……先程の話は少し待った方が良さそうですね」
「そうですね……これから急ぎ薬の調合を始めなければなりませんし……ですが、良ければ明日の朝また店に来てもらえますか?一覧として用意するのは難しいですが、話をしながら必要素材について詰めていきませんか?」
老店主の提案にセンは渡りに船とばかりに喜色を浮かべる。
「それは、私としてもありがたい話です。では明日朝、また伺わせていただきたいと思います」
「えぇ、お待ちしています」
「はい、よろしくお願いします……それと、遅くなりましたが、私はセンと申します。まだこの街に不慣れなので、その辺りも色々と御教示頂ければ幸いです」
「なるほど、そうでした。私はこの店の店主、ハーケルと申します。見ての通り歳を重ねておりますれば、顔は広いほうなので色々と相談に乗ることも出来ましょう。」
「その時は是非、お力をお借りさせていただきたいと思います。それではまた明日」
センは予想以上の成果に本心からの笑みを浮かべつつ店を後にする。
そんなセンを見送ったハーケルは、早速センから買い取った緑白石を使いポーション作りを始めた。
(予想以上の収入に次の商談も出来そうだ。金貨四枚……銀貨にすれば四百枚……なるべく治安のいい場所に拠点を移したい所だが……どこかに宿でも取るか?)
センが思わぬ収入に今後の動きを決めかねていると、外で待たせていた三人が路地から飛び出してきた。
「センさん!おかえりなさい!あの……大丈夫でしたか?」
「ん?何がだ?」
ラーニャの気遣わしげな様子にセンは首を傾げる。
「えっと、先程兵士が店の中に飛び込んだので……」
「あぁ、店に用事があっただけだったからな。問題はなかったよ」
そう言って笑みを見せるセンを見て安心した様子を見せるラーニャ。いや、安心したのはラーニャ以外の二人も同様だったようだ。
三人にとって街を守るはずの衛兵の存在は恐怖であった。何もせずとも犯罪者の如く扱われ、すれ違っただけでも暴力を振るわれることも少なくなかったのだ。
そんな恐怖の対象ともいえる兵士が、センのいる店に慌てた様子で飛び込んだ時……ラーニャは店に向かって駆けだそうとしたのだが、それはニコルによって止められた。
ニコル本人も不安ではあったが、兵士のいるところに姉を向かわせるわけにはいかず、センなら絶対に大丈夫だと必死で説得したのだ。
「さて、じゃぁとりあえず飯にするか。とりあえず、あの屋台に行くか」
センが歩き出すと三人は後に続く。
(流石に四人で横並びになるのはまずいが、一人くらいは横を歩いてくれれば話を出来るんだがな……)
センはそんなことを考えながら肩越しに三人に話しかける。
「ラーニャ達は、今日はどうだった?」
「えっと……いつも通りでした。あ、でも危ない目に合わなかったから良かったかな?」
「……お腹がいっぱいだったから、いつもよりがんばった」
「はい、センさんのお陰です」
「そうか、それは良かった。まぁ、飯に関しては正当な報酬だ、遠慮なく食ってくれ。今日も色々と話をしたいからな、よろしく頼むよ」
そう言ってセンが肩越しに笑顔を見せると、ラーニャはじっとセンの顔を見つめ、ニコルは笑顔で頷き、トリスは感情の薄い表情ながらも嬉しそうな雰囲気を見せた。
その様子を見たセンは前を向いて屋台を目指す。
(なんかラーニャの様子がおかしい気がするが……何かあったのか?三人にはこれから色々と協力して貰いたい……今夜にでも話を持ち掛けてみようと思ったが……少し様子を見た方が良いか?)
センはそのまま後ろを振り返ることなく歩き続け、三人も話すことなく後ろをついて歩く。
因みに、センは気づいていないが、三人がこのように通りを歩けているのはセンと一緒にいるからだ。本来であれば大通りを三人の様な子供達が歩けば必ずそれを害する者が現れる。
センという存在が三人を守っているのだ。
例え、その保護者が後ろにいる三人よりも遥かに弱く、この世界最弱の存在だとしても……見た目……そして年齢というのは大事である。三人はセンの下僕、もしくは奴隷として見られることで安全を確保出来ていると言う訳だ。
「おっさん、まだやってるか?」
お目当ての屋台に辿り着いたセンは屋台を覗き込みながら声を掛ける。
「おう、これからが書き入れ時よ!ん?確か、昼前にきたにーちゃんだったか?薬は買えたかい?」
「お陰様でな。それで礼も兼ねてこうしてまた食べに来たってわけだ」
「おいおい、礼と言いながらうまいもの食べに来ただけだろ?いい思いしかしてねぇじゃねぇか!」
快活な様子で笑う屋台の主人に対しセンも声を出して笑う。
後ろの三人はあまり屋台に近づかずに、しかしセンとあまり離れるのも危険なため、目立たない様に道の脇に控えている。
「確かにそうだな。まぁ、俺一人と言う訳じゃない。数人分を頼むんだからそれなりに売り上げに貢献できるだろ?」
「まぁ、沢山買って行ってくれるなら文句はないがな。それで何本だ?」
「とりあえず、十本くれるか?隣に置いてあるテーブルはつかっていいんだろ?そこで食わせてくれ」
「そりゃ構わねぇが、連れは何処にいるんだ?」
屋台の主人が辺りをきょろきょろと見渡すが、それらしい人物を見つけられないようでセンに問いかける。
「ん?あぁ、そこにいるだろ?そこの三人だ」
「あん?」
センが指し示す先には体を縮こまらせるようにしている三人がいた。
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