21 / 31
第21話
しおりを挟む
食事を終えて部屋に戻り、のんびり話していたら、もう夜中になっていた。
せっかくだから温泉に入って寝ようということになり、温泉へと向かう。
温泉に入るのなんて数年ぶりだ。
レイネとネミリに関しては、数年どころの話じゃないんだろうけど。
「それじゃ、またここに集合な」
俺は男湯へ、2人は女湯へと入っていく。
脱衣所に行ってみると、今は誰も入っていないようだった。
ラッキーなことに貸切風呂だ。
お湯を全身にかけまわして汗などを流してから、ゆっくりと温泉に足を入れる。
少し熱めだけど、個人的にはこれくらいが好みだな。
「ふぁぁ~」
何も意図せずとも声が出てしまう。
それくらい気分が良い。
美味しいものも食べられているし、今回の休暇は今のところ100点なんじゃないだろうか。
あ、レイネの酒乱があったか。まあ、些細な問題だ。
「お、外にも風呂があるのか」
入ってきた扉とは別に、外へと続く扉がある。
やはりそこにも、誰も入っていないみたいだ。
「よいしょっと」
夜で気温が下がっている分、お湯の中から出ると少し寒い。
体が濡れているから余計にだ。
早く風呂につかりたい。
「お~!」
扉を開けて外に出た瞬間、俺は歓声を上げてしまった。
満天の星空だ。
大小明暗さまざまな無数の星が瞬いている。
「うはぁ~」
室内よりもさらに熱めのお湯につかり、星空を見上げる。
もうこれだけで、女の子を盗賊から守りに行った時のネミリのごときスピードで疲れが飛んでいく気がした。
本当に速かったよな、あの時のネミリは。
そのあとの白虎レイネもなかなかだったけど。
「グレン、いるのー?」
柵を隔てた向こう側、女湯の方の外風呂から声がした。
「ネミリか?」
「うん。レイネもいるよ」
「すごい星空だな」
「ほんと!めっちゃきれい!」
「疲れが飛んでいきますね」
俺は首までつかって星空を眺める。
ふと、一筋の光があっという間に空を駆け抜けていった。
「ご主人様、今の流れ星ご覧になりましたか?」
「見たよ。きれいだったな」
「え!?流れ星!?見逃したぁ」
「チュウ」
「残念だったな。まあ、また流れるかもしれ……」
……チュウ?
今、確かにチュウって高めの鳴き声がしたような。
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「ネズミの鳴き声がした」
「まさか例の召喚獣でしょうか?失礼します」
「は?し、失礼しますっておい!」
影が素早く柵を乗り越えてくる。
慌てて各部を隠して目を覆うと、ニャーと声がした。
「ご主人様、私は猫になっていますので目を開けていただいて大丈夫です」
「びっくりした……良かった……。いや、良くはねえよ。俺が裸だよ」
「そのまま隠しておいていただけるとありがたいです。それでネズミは?」
「いや、声がしただけで姿は見えてないんだよな」
「なるほど、分かりました」
レイネは外風呂をあちこち調べていく。
俺はずっといろいろ隠し続ける。
そういえば、ネミリは静かだな。
「ネミリは?」
「多分、寝てると思います」
「大丈夫なのか?風呂で寝るのは危ないって聞くぞ」
「ご安心ください。水中では能力こそ落ちますが、数時間くらい潜っていたところで何ともありませんから」
「え、何、えら呼吸でもしてんのか?」
「いえ、ただ息を止めていられるだけです」
「……さすがだな」
えら呼吸できるとしたら、それはそれで驚くけれど。
ネミリは話しながらしばらく探し回っていたが、何も見つからなかったようだ。
唐突に、俺は常々気になっていたことを聞く。
「なあ」
「何でしょうか」
「今、2人って幸せか?」
「急ですね。私は幸せですよ。ネミリも幸せだと思います。どうしてですか?」
「何か、自由に好きなように生きてる獣人がこの街にはたくさんいるからさ。2人はそういうの見て、どう思うんだろうって」
「ふふっ、ご主人様は優しいですね」
「そうか?」
「私たちは、召喚獣としてご主人様と一緒にいられて幸せですよ。だって、私たちのことを第一に考えてくださるじゃないですか。この街の獣人、例えば料理店で働いている子だって、誰か上司の元で働いているんです。私たちにとってご主人様は、理想の上司でありパートナーですから」
「そっか。なら良いんだけど」
「私たち、結構楽しんでいるんですよ?思いっきり……とまではさすがに言わないですけど、ちゃんとご主人様について戦えるのなんて、ほとんど始めてみたいなものですから」
「思いっきりではないのな」
「それはもう、ご主人様のデバフが強すぎるので」
「強すぎるのはお互い様だよ。ふぅ~、聞きたかったのはそれだけ」
「そうでしたか。では失礼します」
レイネはぴょんと柵を飛び越えて、女湯へと消えていった。
そろそろのぼせてきたな。
出るとするか。
最後にもう一度だけ星空を眺める。
また、流れ星が夜空を切り裂いていった。
――俺らの冒険者生活、無事に上手く行きますように。
そんなことを、心の中で願うのだった。
せっかくだから温泉に入って寝ようということになり、温泉へと向かう。
温泉に入るのなんて数年ぶりだ。
レイネとネミリに関しては、数年どころの話じゃないんだろうけど。
「それじゃ、またここに集合な」
俺は男湯へ、2人は女湯へと入っていく。
脱衣所に行ってみると、今は誰も入っていないようだった。
ラッキーなことに貸切風呂だ。
お湯を全身にかけまわして汗などを流してから、ゆっくりと温泉に足を入れる。
少し熱めだけど、個人的にはこれくらいが好みだな。
「ふぁぁ~」
何も意図せずとも声が出てしまう。
それくらい気分が良い。
美味しいものも食べられているし、今回の休暇は今のところ100点なんじゃないだろうか。
あ、レイネの酒乱があったか。まあ、些細な問題だ。
「お、外にも風呂があるのか」
入ってきた扉とは別に、外へと続く扉がある。
やはりそこにも、誰も入っていないみたいだ。
「よいしょっと」
夜で気温が下がっている分、お湯の中から出ると少し寒い。
体が濡れているから余計にだ。
早く風呂につかりたい。
「お~!」
扉を開けて外に出た瞬間、俺は歓声を上げてしまった。
満天の星空だ。
大小明暗さまざまな無数の星が瞬いている。
「うはぁ~」
室内よりもさらに熱めのお湯につかり、星空を見上げる。
もうこれだけで、女の子を盗賊から守りに行った時のネミリのごときスピードで疲れが飛んでいく気がした。
本当に速かったよな、あの時のネミリは。
そのあとの白虎レイネもなかなかだったけど。
「グレン、いるのー?」
柵を隔てた向こう側、女湯の方の外風呂から声がした。
「ネミリか?」
「うん。レイネもいるよ」
「すごい星空だな」
「ほんと!めっちゃきれい!」
「疲れが飛んでいきますね」
俺は首までつかって星空を眺める。
ふと、一筋の光があっという間に空を駆け抜けていった。
「ご主人様、今の流れ星ご覧になりましたか?」
「見たよ。きれいだったな」
「え!?流れ星!?見逃したぁ」
「チュウ」
「残念だったな。まあ、また流れるかもしれ……」
……チュウ?
今、確かにチュウって高めの鳴き声がしたような。
「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「ネズミの鳴き声がした」
「まさか例の召喚獣でしょうか?失礼します」
「は?し、失礼しますっておい!」
影が素早く柵を乗り越えてくる。
慌てて各部を隠して目を覆うと、ニャーと声がした。
「ご主人様、私は猫になっていますので目を開けていただいて大丈夫です」
「びっくりした……良かった……。いや、良くはねえよ。俺が裸だよ」
「そのまま隠しておいていただけるとありがたいです。それでネズミは?」
「いや、声がしただけで姿は見えてないんだよな」
「なるほど、分かりました」
レイネは外風呂をあちこち調べていく。
俺はずっといろいろ隠し続ける。
そういえば、ネミリは静かだな。
「ネミリは?」
「多分、寝てると思います」
「大丈夫なのか?風呂で寝るのは危ないって聞くぞ」
「ご安心ください。水中では能力こそ落ちますが、数時間くらい潜っていたところで何ともありませんから」
「え、何、えら呼吸でもしてんのか?」
「いえ、ただ息を止めていられるだけです」
「……さすがだな」
えら呼吸できるとしたら、それはそれで驚くけれど。
ネミリは話しながらしばらく探し回っていたが、何も見つからなかったようだ。
唐突に、俺は常々気になっていたことを聞く。
「なあ」
「何でしょうか」
「今、2人って幸せか?」
「急ですね。私は幸せですよ。ネミリも幸せだと思います。どうしてですか?」
「何か、自由に好きなように生きてる獣人がこの街にはたくさんいるからさ。2人はそういうの見て、どう思うんだろうって」
「ふふっ、ご主人様は優しいですね」
「そうか?」
「私たちは、召喚獣としてご主人様と一緒にいられて幸せですよ。だって、私たちのことを第一に考えてくださるじゃないですか。この街の獣人、例えば料理店で働いている子だって、誰か上司の元で働いているんです。私たちにとってご主人様は、理想の上司でありパートナーですから」
「そっか。なら良いんだけど」
「私たち、結構楽しんでいるんですよ?思いっきり……とまではさすがに言わないですけど、ちゃんとご主人様について戦えるのなんて、ほとんど始めてみたいなものですから」
「思いっきりではないのな」
「それはもう、ご主人様のデバフが強すぎるので」
「強すぎるのはお互い様だよ。ふぅ~、聞きたかったのはそれだけ」
「そうでしたか。では失礼します」
レイネはぴょんと柵を飛び越えて、女湯へと消えていった。
そろそろのぼせてきたな。
出るとするか。
最後にもう一度だけ星空を眺める。
また、流れ星が夜空を切り裂いていった。
――俺らの冒険者生活、無事に上手く行きますように。
そんなことを、心の中で願うのだった。
0
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる